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平行線の恋

覚悟(1)

 ←掛け違う想い →覚悟(2)


「よう」
顔をあげて神栖を確認すると聖の口元に苦笑いが漏れた。
普通にスーツを着て歩いているだけで周りの人が神栖を盗み見ているのがわかる。どんなに遠くにいてもこの人ならすぐにわかるだろう。
すらりとした肢体、離れて見てもきちんと鍛えたしなやかな筋肉が全身についているのがわかるきれいな歩き方が人の目を引き付ける。
「こんばんは」
「今日は、すっぽかさなかったな」
片目をつむって冗談めかして言う仕草も堂に入っている。
「約束ですから」
少しむっとして答えるのに、朗らかに笑われてしまう。
先日、何故メール入れてもすっぽかしたとしつこく問われて、困った聖は、『直前に言われてもいろいろ予定があるんだから無理』と答えた。そのとき、神栖は『そりゃもっとも』と言った。
そのせいか、昨日の夜に珍しくメールでなく携帯電話が鳴った。
「明日、夕方から空いているか」
神栖だった。前置きもなく予定だけ聞かれ、一瞬とまどい言葉につまり
「……特に予定はないけど」
つい本当のことを言ってしまう。
「明日、久しぶりに飯でもどうだ。ちょっといい店見つけたんだ。スーツ着用の店だから、正装して来い」
「夕食に誘ってるの、命令してるの」
何故この人は、こうも偉そうなんだとちょっと憤慨しながら返した答えに、苦笑いの顔が浮かぶような声で
「当然、お願いしているんだが」
と返ってきた。
「お願いしている態度とは思えないけど、いいよ。何時?」
やっぱり断るべきだったか。笑っている神栖を睨みながら、聖は思い出していた昨日の約束時のことを頭から振り切った。
「ここ、先月オープンしたばかりで結構評判がいいんだ」
神栖は上機嫌で聖を店内へと誘った。
席の間隔が広く、採光を考えて設計された店内は、明るく開放的な空間になっていた。
テーブルクロスも淡い色調で整えられ、ひどく居心地のいい店内は、評判が高いだけあって、すでに満席だった。予約だけで埋まるのかもしれない。
一番奥の角席に案内されて席につくと、ワインが運ばれてくる。
店員のワインの説明を聞き流しながら、聖は神栖を見つめた。店員の話に耳を貸している神栖は、本当に絵になる。
グラスを握る手も指が長くてきれいだ。ワイングラスにつけた薄い唇も晒された喉もどこをとっても大人の艶を纏って、見つめるだけで鼓動が早くなる。自分みたいな若造とつきあう必要なんてどこにもないんじゃないだろうか。
神栖の気まぐれがいつ果てるかと思うだけで指先から冷たくなってくる。
前菜が運ばれてきて、慌てて視線を神栖から外すと聖は食事を始めた。
「試験はいつだっけ」
話を振られて、聖は肉を切っていたナイフとフォークを休めて、顔を上げた。
「え?ああ。あとひと月くらい」
神栖と聖は年齢が離れているし、社長と学生で立場も異なっている。それでも話が途切れないのは、神栖の話題の振り方がうまいからだ。
「懐かしいな。結構きついんだよな。国家試験っていうのは」
ワイングラスを傾けながら、思い出したように神栖が眉を顰めた。
「大学3年で通ったくせに。それも一回で」
「2回は受けたくなかったんだ。嫌だろ。2年も試験勉強するなんて。ゾッとする」
赤ワインの入ったグラスを弄ぶ指を見つめながら、聖は神栖の口調に笑う。
「それで受かってしまうんだからいいよ」
フォークで皿の上の切った肉を刺して、口に運ぶ。
「あ。これ、おいしい」
温かくて柔らかい食感に聖は微笑んだ。
「気に入ったのなら嬉しいよ」
神栖の目元が笑んで、口調が柔らかくなる。
神栖は飲むときはほとんど食べない。ワインとちょっとしたつまみだけ楽しんで、あとはワイン片手に聖が食べるのを見ているのが常だった。聖は酒は飲めるが、あまり強くない。
神栖をそれを知っているので、無理に酒を勧めてくることもなく、聖は食べる方に専念していた。
「さっきのヒラメもおいしかったし。けっこう凝っているな。ここの料理」
「おまえ、料理はしない割には舌が肥えてる」
くつくつ笑われて、聖はすこしムッとする。
「いいんだよ。本当においしいんだから」
料理できないのは本当のことなので反論しようがない。
「それはよかった」
にっこり微笑む神栖に胸がドキッと高鳴る。この人、いつも微笑っている気がすると思いながら、この顔をずっと見ていたいと思っている自分にまた驚いた。
俺はどうしてしまったんだろう。
神栖と知り合って何度も自問した問いが浮かんでくる。
他人が気になって仕方がないことなど過去には一度もなかった。気付けば特定の人を思っていることも、会いたいと切望することもなかった。
なのに、神栖さんだけが違う。今日だって誘われてすごくうれしかったことを思い出す。
深く考えるとまた思考の波にのまれそうで、聖は無理やり浮かんできた考えから目をそらした。自分がエゴの塊のような気がしながら、神栖の言葉に相槌を返した。
「ちょっとトイレ行ってくる」
食後のコーヒーの後、聖は席を立った。「ああ」という声を背中で聞き、化粧室へと向かった。
手を洗いながら化粧室の鏡で顔を自分の顔を見る。食前に飲んだワインで少し顔が赤いことを確認し、少し残念だと思う。神栖はあれだけ飲んでも全く変わらないのだから相当アルコールには強い。自分も、もう少し飲めれば、酒にも付き合えるのにと考え、聖はどうかしていると思う。
他人と自分を較べるなんてありえない現象だったはずだ。
神栖と出会ってから、今までに起こりえなかった、経験のないことばかりが続いている。
冷静になったほうがいい。
鏡の中の自分い言い聞かせ、もう一度手を冷水で洗って、聖は席へ戻った。
神栖はすでに席を立っていた。会計も済ませて聖を待っていたらしいが、その横に誰かがいる。何か話しかけられているが、神栖は無表情できついともいえる視線を相手に向けていて、怖いとも思えるような雰囲気を醸し出していた。
こんな神栖さんは見たことがない。
声を掛けていいか、たっぷり悩んでいると、神栖のほうが聖に気付いた。
「聖、行くぞ」
聖の方を見た神栖の視線はいつも通り穏やかで、先ほどの無表情が嘘のようだ。
「知り合い?」
聞いていいものかわからず、声が小さくなる。
「仕事のな」
店から出るなり煙草に火をつけて歩き出す神栖を聖は慌てて追った。
それ以上は聞けずに、黙って後から付いていく。
ただの仕事の人。そういう雰囲気じゃなかったけど。ほとんど知らない他人みたいな。嫌ってる、いや、感情自体がないような。
とりとめない考えが頭をめぐって、なんとなく会話もないまま、最寄駅に辿り着く。
釈然としないまま、聖は一礼した。
「じゃあ、ごちそうさまでした。また……」
「もう少し飲みたい。つきあえ」
聖の言葉を遮って、神栖は軽い口調で駅の向こうを指さす。
確かに神栖のマンションはこのすぐそばで、歩いても5分とかからないだろう。しかし、この時間にこの人の部屋に行くってことは、
飲むだけじゃすまないよな……。
思って、その考えに聖はビクリと身体を震わせた。
俺、何考えて……。
神栖は特になんの気負いもないまま、優しい顔で聖を見つめている。本当に飲みに誘っているみたいに。
時間にしたら1分にも満たないだろう時間、聖は葛藤し、そして、
「頼んでるの、命令しているの」
と訊いた。昨日の会話を思い出したのだろう。神栖はくすくす笑って、
「当然お願いしているんだが」
と返された。その答えににやりと微笑って、聖は、神栖の方へ足を踏み出した。


部屋に戻ると神栖は、ジャケットとネクタイだけ外し、キッチンで酒の肴の用意を始めた。
この人、こういうところやけにまめなんだよな。
そう思いながら、聖も堅苦しいので、ジャケットとタイだけ外して、ソファの背に掛け、並んだソファの一つに腰を下ろす。手伝ってもいいのだが、この手のことはほとんどしたことがなくやっても邪魔になることがわかっている。実は、以前、手を出そうとして、あまりの不器用さに神栖にあきれられ、あっちで座ってろと言われたのだ。
神栖の部屋は、広々としたリビングにキッチンが対面式で続いており、聖の場所からでも神栖が、手を動かしているのが見えた。白い大理石のカウンターに皿を並べている神栖の動きを聖は視線で追う。たぶん見惚れていたんだろう。何をしていても絵になる神栖をだまってじっと見つめていた。
「聖」
「え、な、何?」
はっと我に返って、気恥ずかしさに聖は背筋を伸ばした。ぶしつけな視線だっただろうか。それこそ動きの一つも見落とさないように見ていただろうから。
「何、飲む?ビール?」
特に何かを気にしている風でもなく、神栖はさらりと飲み物を訊いてくる。
「えっ、それなら、ビールで」
神栖は、一つ頷くと、ビールと自分用のロックグラスと氷を運んでくるとビールを聖に手渡す。
さらに、簡単なサラダとチーズを盛った皿を運んで、ソファ前のテーブルに並べ、ウィスキーの瓶をミニバーから持ってくる。
聖の隣にどかっと腰掛けて、ロックグラスに氷を放り込み、ウィスキーを注ぐ。
「神栖さんっていつも強い酒ばかり飲んでる。煙草も多いし」
「そう?聖は、ビールくらいしか飲まないな。今度、酒の飲み方も教えてやるよ」
「いい。付き合いだったらビール飲めれば困らない」
アルコールに耐性がないこともよくわかっているので、ビールは無難な飲み物だ。一応、酒だがアルコール度数は高くない。
「洒落たバーで女口説くのにビールじゃ締まらない」
片目を瞑って、グラス傾けて神栖は冗談を言う。
その姿は男から見ても恰好が良く、一瞬、傾けたビール缶の陰から見惚れてしまった。
「口説かなくても寄ってくるくらいだからいい」
気恥ずかしさを隠すように憎まれ口をたたいて、缶をテーブルに置き、神栖はと見ると瞳が真っ向から合った。
一瞬見つめあって、神栖の顔が近付いてくる。唇同士が触れ合うと、後ろの髪に大きな手を差し込んで、さらに深く強く口づける。舌を絡みとられ、口腔内を舌で舐め上げられて、吐息が熱くなる。かすかにウイスキーの芳香が感じられた。
いつもならすでに腕を突っ張って抵抗しているところだが、聖はなされるがままになっていた。そのままソファに押し倒されても、抗議の声はなしだ。
覚悟を決めたからついてきた。部屋で飲みたいと言われて、きっとそういう意味だろうと分かっていて、やってきた。今夜は、神栖さんといたかったから、この人が身体が欲しいと言うならそれでもいい。
なんの抵抗もなくキスを受け入れている聖に、神栖は眉をあげた。
どことなく神栖が不機嫌な気がして、聖は閉じていた目を開けた。神栖は重ねた唇を首筋に沿ってずらし、耳元まで舐め上げ、ワイシャツの裾から手を差し入れる。
ざわざわと肌を渡る期待に声が上がった。
「――あぁ……」
吐息を漏らし、聖の腰がかすかに浮く。少し乱雑に身体に手を這わせながら、神栖が耳に唇を寄せた。舌で耳の中を舐めあげる。
「あぁ……やっ……」
「何して欲しいか、言ってみな」
低い声が響いた。
「え?」
何を言われたかわからず、聖は神栖を見た。
「どこを触って欲しい?どうして欲しい?抱いてって言ってみな」
耳元で繰り返される言葉の意味を理解して、聖の頬に朱が走った。睦言というには、命令の色が強い。声に苛立ちと嘲りが隠れていた。さすがにそれくらいは色事に疎い聖でもわかる。
怒りが腹の底から湧いてきて、体温が上がった。瞳を怒らせて、聖は神栖を睨み付けた。
「……っざけんな!」
決して怒鳴ってはいないが怒りに満ちた低い声で聖が叫び、腕で神栖を押しのけようと暴れる。腕を突っ張り身体を突き放し、足もばたつかせて、身体の上の男を追い落とそうとする。もう、触ってほしくなかった。怒りが体中を吹き荒れて、おかしくなってしまいそうだ。
「どけよ。触るなっ!」
めちゃくちゃに手足を振り回す。神栖が身体を起こすのにすかさず、起き上がるとソファのひじ掛けまで身体を下げた。
「聖……」
「なんで……なんで……そんなこと……」
怒っているのに目尻にたまる涙に聖は唇をかみしめた。哀しいわけではない。とにかく、何もかもが悔しい。自分の覚悟なんて、神栖に取ってみたら、踏みにじるだけのものなのだ。
聖の頭に伸ばされた神栖の手を聖の腕がたたき落とした。乾いた音が響く。
「あんた俺をなんだと思っているんだ!なんで俺を貶める!……何故……」
泣くものかと歯を食いしばっても、自尊心に対して受けた衝撃の大きさに堪え切れずに涙がこぼれた。
「……聖……。貶めてない。おまえが、あまりに素直で、俺が手を伸ばしても抵抗もない。だから、また代償とか借りを返すとか考えて身体を許す気になったんだと思ったら……」
「なんだよ、それ。なんの借り?何の代償?訳が分からない」
きつい瞳で睨みつける。涙に濡れて瞳の表面がきらりと光った。
「部屋に誘っただろ。飲みにって言ったけど。それってそういう意味だろ。いままでのあなたの行動からしたら……」
驚きに目を見開く神栖を睨みつけ、聖は両足を身体の下から引き、床に下ろす。さらにきつい瞳で睨みつける。
「承諾した時に決めたんだ、覚悟。何を考えているんだよ。俺がどんな思いでいるかも知らないで勝手なこと言って」
そのまま立ち上がり、
「帰る」
と吐き捨てるように言葉を叩きつけ、聖は扉に向かって歩き出した。
「待てよ、聖」
すぐさま追いつかれ、後ろから手首を掴まれた。
「放せよ!」
取り戻そうと腕を引くが強く掴まれ逆に引かれた。そのまま引きずられる。
「痛っ……放せよ、放せって」
抗議の声にも耳を貸さず、神栖はそのまま無言で聖を引きずっていく。バスルームに通じる扉を開き、バスルームまで来ると聖をシャワーの下に突き飛ばし、いきなりシャワーの栓を開いた。
勢いよく頭上からお湯が降り注ぐ。
「何するんだよ」
髪の毛から滴がつたい、シャツが身体に張り付いて肌が透けて見える。驚く間もなく壁と神栖に身体を挟まれ、身動きが取れなくなった。神栖から逃れようと挙げた腕を取られ、逆の手で顎を上向けられるとあっという間に唇を唇で覆われていた。
「……っん……や……」
声も出せないほど深く口づけられて息もできない。お湯は相変わらず頭上から降り注いで、瞳も開けていられない。
息をも奪うキスは、身体の力も奪って聖の抵抗を許さない。
「覚悟きめたんだろう?」
顎を強く捉えられたまま神栖は挑むように聖に告げた。
「それに全身水浸しだし、もう帰れない」
聖は、ぎりっと唇を噛んだ。
やることがむちゃくちゃだ。このばか。あなたが俺の覚悟を踏みつけにしたんじゃないか。
睨みつけることしかできずに唇を噛みしめる。強く噛みしめすぎて、鉄の味がする。
聖の唇からつたった血をぺろりと舐めて、神栖はくすりと微笑った。
「向こうで飲んでるから、シャワー浴びてこい。覚悟のほどは後でじっくり見せてもらおう」
そのまま神栖は背中を向けると、バスルームから出ていった。
あっけなく突き放されて聖は顔を片手で覆った。後ろ手に壁を殴りつける。
一体、なんだって言うんだ。俺はどうしたら……。俺はあんたにとって一体何……。
怒っていいのか泣いていいのかわからない感情が胸の内に湧き上がり、涙もでないまま、聖は片手で瞳を覆っていた。


「覚悟か」
呟いて目線の高さに挙げたグラスを見る。からりと氷がグラスの中で音を立て、琥珀色の液体が揺れた。
聖を部屋に連れてきたのは、本当にもう少し一緒に飲みたかったからだ。下心がなかったかと言われれば、それは嘘だが、もう少し話をしたかったし、別れがたかった。だが、二人きりになって聖の顔を見つめて、瞳があった途端、理性などどこかへ行ってしまった。
しかし、キスをしても、肌に触れても抵抗されないのは予想外だったから、ついその理由を邪推してしまった。過去にあったように、何かの代償じゃないのかとか、今夜の食事のお礼を身体で払うとか……。
脳裏を横切ったばかばかしい考えに苦笑したが、聖は妙なところが律儀で、そんなことありえないと切り捨てることができない。考えているうちに、「代償で身体を差し出す」という理由にだんだん腹が立ってきた。
身体を重ねたいのは俺だけなのかと思えば、荒んで意地の悪い気分になった。
それでつい少しいじめてみたくなり、「抱いてと言え」と唆した。
『承諾した時に決めたんだ、覚悟』
聖の告げた言葉が耳のなかでリフレインする。
それはあまりにも意外で、嬉しくて、愛しくて、可愛くて、あのまま手を離して返してしまうなんてできなかった。帰したくなくて、バスルームに放り込んで、頭からびしょびしょにしたが、濡れた聖を見ていたら、あのまま無理やり押し倒してしまいたい衝動が湧いてきて、神栖は必死で抑えた。
あのままやってしまったら、聖の気持ちを踏みにじるだけではなく、結局いつも通り神栖が強姦して終わりだ。切れた理性もそのくらいの分別は持っていた。
いままで相手の意思を無視してまで抱いたことなどなかった。
口説いて、その気にさせて、拒まれたことなど一度もない。あったとしても何度も囁いて、駆け引きをしかけ、結局、相手が堕ちてくるのを待てばよかった。
聖相手だと待てない。何故……?飢えた10代のガキみたいに、自分の欲望を押し通してしまうのは、何故……?
グラス越しの景色は、歪んで見える。まるで自分の心のように。
いざ手に入りそうになるとありえない不安に囚われる。これはまやかしなのではないかと心のどこかで声がする。聖の気持ちが見えないから。
からりとグラスの中の氷が回転する。いつまでそうしていたのか、グラスの中の琥珀色の液体は、すっかり色が淡くなる。
溜息を一つついたところで、バスルームに通じる扉が開く音がした。
グラスを置き、神栖はすっと立ち上がりキッチンへ行くと冷蔵庫から冷えたビールを取り出した。そのまま後ろ手に扉を閉め、タオルで髪を拭っている聖に近寄ると「ほら」と手渡す。
「やっぱり少し大きいな」
濡らした服の代わりにと置いておいた服は聖には大きかったようだ。肩が落ちるだぼついたシャツを着た聖は、いつもより幼く見えた。
可愛いなと神栖は思う。聖が何をしても愛しさと可愛さしか心に到来しない。まだ、怒っているのだろう聖は自分を睨んでいた。そこまで傷つけたのかと、困ったような苦笑いしているような複雑な表情で聖を見つめ、神栖は手を伸ばすと濡れた聖の頭にぽんと手を置く。
「悪かった」
そう言うだけで精いっぱいだった。聖の返事は怖くて待てずに、神栖はそのまま横を通り過ぎバスルームへと向う。愛しさと不安が胸中を渦巻いて、足元が揺れる気がした。
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