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平行線の恋

失墜

 ←奈落 →答えのない迷路

駅から神栖のマンションまでの通い慣れた道を聖は歩いていく。この2週間一度も通わなかった道にゆっくりと歩を進めた。秋の夕方の空気がまだ夏の熱気の名残をとどめながらゆったりと流れる。
気持ちの整理もつかないまま、2週間は過ぎ去った。いまだに答えは出ないが、今はとにかく神栖に会いたかった。会って何が変わるかわからないが、自分の中で回り続ける疑問符には決着がつくだろう。

神栖と別れてゆっくり身体を休めて頭が冷えると胸の痛みも消えた。考えなければ時間は何事もなかったように普通にすぎていく。神栖のことを想わない日は、痛みの代わりに穴があいたような空虚な感覚を持て余し、神栖のことを想う夜は、抜けない棘が胸のどこかに刺さって傷が疼く。
神栖はよほど聖の体調が心配だったのだろうか、頻繁にメールを入れてきた。大抵は海外の食事が口に合わないだのくだらない話だったが、必ず、大丈夫かの文字が入っていた。
聖はかなりそっけなく元気だ、過保護すぎると繰り返し返信した。
仕事はかなりタイトなスケジュールらしく、メールの時刻は現地時間で決まって真夜中だった。疲れているだろうに気を配ってくれる神栖の優しさが嬉しいと思う反面、あの青年を見つめた冷やかな視線を思い出し、いつか神栖が自分に飽きて、あの視線が自分に向けられることになるだろうと怯えた。
横になったふとした瞬間に神栖があの美麗な青年を腕に抱くイメージがよぎり、聖を苦しめる。眠れない夜が続いた。
いっそ神栖ごと全てなかったことにできたらと思い、すでに、神栖のいない生活に想像がつかないことに愕然とする。
それでも朝が来て、普通の日常は容赦なく回ってくる。授業に出てバイトしてと何かしている間は余計なことを考えている暇がなく、聖にとってはそちらの方がありがたかった。できるだけ何かに没頭するようにした。身体が疲れて、精神も疲れているのに、それでも深く眠れない一人の長い夜が、聖を傷つけ痛めつけた。
そして、昨日。受け取った神栖からのメールには、明日、飛行機が成田に着く時間と早くおまえに会いたいと綴られていた。
聖は返信ができなかった。会おうと言われても行きたくない、もう傷つきたくない思いが強く、前のように誰にも興味を持たずに、強い想いを切り離したいと願っていた。そして、会いに行くつもりもなかった。
それでもこの道を歩いているのは、つい2時間ほど前、電話があったからだ。
「聖。ただいま」
神栖はいつもの低いが良く通る声で、いきなり言った。
「神栖さん?」
「ああ。今、成田に降りたから、いまからすぐに帰る。俺の部屋で待ち合わせないか」
空港のざわめきが神栖の後ろから聞こえる。
「今日は……」
断りの言葉を口にする前に
「会いたいんだ」
神栖の台詞で遮られた。聖に何も言わせないように、次の言葉を続ける。
「荷物を置いたら飯に行こう。いい加減、白い米が食いたい。事前にお願いしておいたよな、俺?」
約束は前の日までに取りつけると、前に聖が要求したことを強調する。約束を律儀に守ってくれようとする神栖の心遣いに嬉しくなると同時に、断る口実をもたたれたことに苦笑する。
「……わかった……」
掠れそうになる声で、それだけ答えた。ほかに何も言えない。
「じゃあ、3時間くらい後に俺の部屋で。荷物が多くて外で待ち合わせができそうにないんだ」
荷物って出る時は送ってしまったからと手ぶらだったのに、帰りは持ってかえるのか。
変なことに気づいて不思議に思ったが、電話の向こうで神栖がいつも冗談を言う時の片目を瞑った粋な仕草をしているのではないかと思って、ちょっと微笑った。
「わかった」
もう一度答えて電話を切る。
今から行くと、約束より少し早い時間についてしまうが、待ち合わせが部屋なら、あそこで勉強でもしてればすぐだからと家を出た。
早く神栖の顔を見たいと焦る気持ちと、このまま回れ右をして走りかえってしまいたい気持ちが聖の中でせめぎ合って、歩く速度が自然とゆっくりになる。
それでも歩みを進めれば目的地には辿りついてしまう。
マンションの前までたどり着き、ひとつ大きくため息をついて、玄関ホールに入った。すると、珍しいことに人影が3つあった。このマンションの住人は働いている人が多いため、金曜日の夕方に玄関ホールで3人もの人に会うことなど滅多にない。つい、姿を確認し、聖はそのままその場で停止した。
あの人だ。
色素の薄い髪をかき上げ、冷たい笑みで聖をみやったのは、2週間前に駐車場で見たあの青年だった。日本人にしては白い肌、薄茶色の髪、明るいところで見るとまさに息をのむ程に綺麗な青年は、ハーフのように見えた。
「やっぱり、一緒に帰ってきたんだ」
青年は唇をほころばせるなりそう言った。
「輝を待ってたんだけど気が変わった。あんたでいいや。ちょっとつきあってよ」
青年は自分の要求だけ口にする。何を言われているか聖にはまったく理解ができない。わかったのは、この人が神栖さんを待ち伏せしていたということだけ。
答える必要もなかったので、そのまま横を通り過ぎようとするとその前に立ちふさがれた。
「どいてくれませんか」
かなりムッとして、聖は言葉だけは丁寧に、かなり強い語気で言った。青年は、綺麗な唇を歪めて聖を嗤った。
聖はくるりと踵を返す。馬鹿にした嗤いに腹の中が怒りで熱くなるが、こんなところでもめるのは愚かしい。
しかし、退路は別の人影で塞がれていた。残りの2人がにやにや聖を見ている。明らかに荒んだ雰囲気を醸し出している2人は、性質の悪そうな人間だ。
「こいつ、連れて行っちゃってよ」
命令しなれた様子で青年は、2人に命ずる。2人は聖の方へ近付いてくる。
くそう。
なんとか突破口をと2人に向かって突進するが、あっさり一人に腕を掴まれた。
「離せよ」
なんとか腕を取り返そうともがく聖の後ろにもう一人が回り込むと、聖の口を布を持った手で塞いだ。
クロロホルム……。
香りで認識した時にはすでに吸いこんでしまったあとで、くらりと視界が回ってあっという間に腕を掴んでいた男に担ぎあげられる。
意識が朦朧として、身体に力が入らず、そのままマンション前に停められていた車の後部座席に放り込まれ、すぐに車が走り出したことが最後の記憶だった。


「目が覚めたみたいだよ」
頭上から声が降ってきて、聖は目を開けた。地面に横たわっていて埃っぽい匂いが鼻をついた。
ここはどこだ。頭が痛い。
状況認識がまるでできないが、痛む頭を押さえようと挙げた手を引き寄せようとして、聖は目を見張った。
腕は頭上で組まれて、なにか紐のようなもので纏められているらしく、手の自由が利かない。身体を起こそうと足を引くが、少し手前に引き寄せられただけで動かせない。頭を少し持ち上げて足を見ると両の足首にコードのようなものが巻きつけられ、足の先にある机の左右の足にそれぞれつなげられていた。その机にあの青年が座って聖を見下ろしている。
「いい恰好だね」
くすくすと青年が嗤う。その後ろに先ほどの男の一人がいて、青年の後ろの首筋に唇をあてているのが見えた。
もう一人は聖の横に膝をついて聖のシャツに手をかけると左右に一気に引き裂いた。秋の夕方の冷えた空気が肌を薙ぐ。
「なあ、カイト。こいつ印ひとつないぜ」
「ふーん、可愛がってもらってないんだ」
聖の身体を眺めまわした男にカイトと呼ばれた綺麗な青年は、勝ち誇ったように答える。
「仕事貰ったらそれっきりなのかな。かわいそうにね。慰めてあげなよ。二人でさ」
2人の男にそう告げる。
状況についていけずに無言だった聖にもカイトが何をする気なのかがわかって身体を固くする。
「俺はカイトの方がいい」
カイトの後ろで首筋に口付け、両手でカイトを後ろから抱きしめた男は顔も上げずに答える。
「僕はあとでゆっくりあげるよ。でも、こうやってみると普通のやつだよね。輝はこれのどこがいいのかな」
男の手からするりと身体を抜き、聖の足の間にしゃがむとカイトは、
「僕が試すってのもありかな」
いうなり自分の唇をぺろりと舐めた。聖はその顔をみてゾッとする。聖の感覚や常識にはない人種だとはっきりと認識した。
「輝のものなら壊して、汚したいね。それをみたらどんな顔をするだろう」
カイトはまたくすくす嗤った。
狂っている……。
聖は顔をそむけた。床のほこりが頬にざらりとあたる。
「これ、聖の携帯だよね」
名前を呼ばれて、驚きとともにカイトを見る。手に聖の携帯電話が握られていた。
「これは輝の番号。助けてって言ってみる?」
聖は手足を振り回して暴れだした。取り返さないと逃げないとこの狂った綺麗な獣から。
暴れても繋がれた手足に紐が食い込むだけで何もできない。
「聖からの電話なら出るよね、輝」
呼び出した番号を発信し、髪をさらりとかきあげて、カイトは聖の電話を耳に充てる。その仕草だけでも妖しいほどの退廃的な色香が漂って、聖はさらにゾッとする。
カイトは聖の横にいる男に顎をしゃくって見せた。命令実行の合図のように。
横にいた男は聖のはだけた肌に手を乗せ、肌の感触を楽しむように手を滑らせた。
気持ちが悪い。
肌をなでられる感触に聖は身をすくませた。神栖に触られた時に感じる背筋をかけ上がる快さとは正反対な嫌悪感が湧き上がる。
「触るな!!やめろっ!」
怒鳴るが男は躊躇もしない。顔を寄せ肌に唇をつける。
「嫌だ。離せ!触るな!」
叫ぶ聖の向こうで、カイトが嬉しそうな声を上げた。
「こんにちは。輝。あっ、切らないで。そうだよ。これは聖の携帯電話」
カイトがくすくす笑う。
「よく聞こえないな。後ろがね、うるさいんだよ。輝にもきこえる?」
カイトは耳から電話を離すと聖が叫んでいる方に受信部を向ける。
傍らにいる男に肌を触られ、敏感なところを舐められて、聖は受話器が向けられていることにも気付かず、嫌だ、触るなと叫ぶ。
「ほらね、聞こえた?声色が変わったね。ふーん、やっぱり大事なんだ」
いらいらした声でカイトは答える。
「じゃあ、今すぐ僕のところに来てよ。場所は前に撮影でつかった廃倉庫っていえばわかる?じゃあね」
カイトは神栖の返事も待たずに電話を切った。
そのまま電話を机に放るなり、何とか逃れようと暴れている聖を不機嫌な様子で睨みつけた。
「ただのガキなのに、なんで僕じゃなくてこいつなんだろう。おかしくない?輝は連絡しても無視だし、家にもいないし、輝をおびき出すだけの餌にしたら面白いなと思ったんだけど、ここまで、過敏な反応されるとね。ちょっと興ざめ」
イラついた様子で口にして、カイトは聖を睨み付ける。
「でも、いいか。輝の大事なものなら汚したい。僕たちに穢されたと知ったら輝は何て言うかな?」
ぞっとするほど妖艶な声で、カイトが口にしたセリフに聖はカイトを見た。睨み付けられている瞳に狂ったような光が踊っていた。
「2人で可愛がってやって。痕もたくさんつけて、おまえたちので、汚してよ。でも、イかしても、挿れちゃっても駄目だよ」
鈴をころがすような声で、カイトは、おもちゃの取り扱いを説明するかのように命令する。
「最後は、輝に見てもらわないとね」
残酷に告げられた台詞に聖はカイトをにらみかえす。
どうして、こんな。狂っているとしか思えない。本当にカイトは神栖さんが好きなんだろうか。
思考はそこで途切れる。いきなり前を寛げられ、乱暴に男が聖を掴むと扱きだす。他人に触られ、気持ちが悪くて聖は背をのけぞらす。
カイトはまた机に腰掛けると2人の男が聖を好きにするのを眺めている。
気持ちが悪い。
「触るなっ」
叫ぶが聖を弄る手は止まらない。感触は気色が悪いだけで何も感じない。身体を丸めて逃れようとしても、手足の自由を奪う縛めがきつく肌に食い込んだ。
眉根を寄せ、ただ酷い感触に耐えているだけの聖を何の感情もこもらない瞳で見ていたカイトは、机からするりと降りた。
「感じないの?つまらないよ。こういうのは楽しまないと」
腕で片方の男をどけると、カイトは白い手を聖の胸の突起につっと這わした。
きめの細かい指の感触にビクリと身体が震える。指先で転がされ、爪先でつつかれ、聖の腰が上がる。吐息が漏れそうになるのを唇を噛んで堪える。
「いいでしょう?こういうのうまいんだ。これも仕事だからね」
カイトの台詞は聖にはまったく異国の言葉だ。何をいいたいのか何を言っているのかわからない。
それでも、カイトに触られると身体の奥で眠っていた何かが揺り起こされて肌がざわめく。
「輝は、こうやって触るの」
カイトは切なげに瞳を曇らした。しかし、聖は与えられる感覚に翻弄されて気付かない。
「淫乱だね。腰が動いているよ」
聖は左右に頭を振った。感じているなんて絶対認めない。それでも、さっきまで嫌悪以外感じなかったのに聖自身が昂ぶって勃っていくのがわかった。
それにカイトの白く長い指が絡んで握られる。
「―あぁ―」
堪えていた声が喉から滑り出る。
「いやだ、触らないでくれ……、はなせ……」
抗議はするがさっきまでの強さにならない。身体の奥がじんわりと熱を持ち始め、解放をまっている。
「ふうん、雰囲気が変わった。」
カイトは聖を口に含んだ。舌が絡んでは、舐め上げ、離れる。あまりのことに聖は身をよじって暴れるが力が入らない。どんどん追いつめられて、昂ぶりはあっという間に極限までたどり着く。
「だめだよ」
根元をきつく止められて、聖は切なげに眉を寄せた。
「この落差がいいのかな。普段は普通なのに、こうなるとかなり淫靡だよ」
カイトは聖から離れた。ここまで身体に火が付いてしまえば、あとは誰が触っても同じだ。一度火がついた身体を鎮めるには登りつめるしかない。
聖を触っていたもう一人の男が、聖の喘ぐ姿にさらに攻めることに決めたらしい。
机に座ると聖の乱れる姿を眺める。もう一人の男はカイトのそばによるとカイトを抱きしめ、首筋に顔を埋める。
「だめ、あっちが先」
「おれは、おまえがいい」
男は離れずにカイトのシャツの胸元をくつろげる。
「しょうがないな。輝が来るまでだよ」
触られてもあまり感じてなさそうに、カイトは男のさせたいようにさせておいた。
その足元で、いやだと吐息とともに繰り返す聖を冷やかに見つめる。
「ふうん、そうやって身体で買ったの?」
のしかかられた男にいいように嬲られる聖にカイトは問いかけるが、聖には何のことかさっぱりわからない。
「何を……言って……はぁ……」
言葉にするも息が切れる。早くイってしまいたいのに、それがかなわない。心臓だけが血液を送り出していて、まるで走っているようだ。
「どう思う?僕には触れないんだよ」
誰に問いかけているのかわからないセリフをカイトは紡ぐ。
「目が腐っているとしか思えない。こんなにいいのにな」
カイトを後ろから抱きしめ、好きにしている男が囁く。
「……ふふ……宗人(むねと)……そうだよね……」
頭を後ろに反らせ、カイトは大きく息を吐く。茶色の髪がさらりと音を立てる。白い喉が輝いているようだ。聖にも見る余裕があったら、その淫靡な昏い美しさに息をのんだかもしれない。
「やだっ……離せっ」
暴れる声にも力が入らない。
「カイト。そろそろいいだろう?」
聖に挑んだまま問いかける男にカイトが視線を投げた。
「たまんねえ」
胸の突起を舌先で転がしながら男が呟く。
「やぁっ……」
聖はせっぱつまった声を上げた。このままだと本当にこののしかかっている男に好きにされてしまう。高められた身体は恐怖にも感じるらしく、聖のいうことをきかない。
「そうだね。どうしようか……はあっ……宗人……いい……」
カイトの甘い声を爆音が遮った。
けたたましいエンジン音とタイヤが路面を切り裂く音が、倉庫の天井にこだまし、聖とカイトの艶めかしい喘ぎ声を引き裂いた。
廃工場のシャッターがひしゃげて破け、そこから銀の車のフロントがのぞいて停まる。
そこにいた全員が耳を聾する音の方を向く。左の扉が蹴開けられ、ふらりと長身の影が現れた。
「派手なご到着だね。輝」
後ろにいた男を腕の一振りで退けると、カイトは髪をかきあげて、にっこり微笑んだ。まるで遅刻してきた恋人を迎えるような華やかな笑み。はだけたシャツの間から白い肌がのぞき、えも言われぬほど妖しい美しさを誇示する。
「でも、騒ぎになると困るのは、輝の方だよ」
神栖はカイトに一瞥もくれず視線を走らせ、聖を探す。
「神栖さん!」
聖が神栖の姿を認め叫ぶ。神栖の視線は男にのしかかられたまま、ほとんど裸同然の姿の聖を探し当てた。
ただでさえ剣呑な神栖の背にさらに怒りが増した。腹の底が焼けつくような怒りと苛立ちが神栖を襲う。
「どういうつもりだ」
低く、冷たい声でカイトに応じると、神栖はカイトを睨みつける。視線で射殺せるなら凝らしてやりたかった。
「さてね、こっちへ来てよ、輝。会いたかった」
片手をすっと神栖の方に差し出す。まるで女王に謁見を許された騎士にするように。神栖はその様子を冷ややかな怒りを湛えた瞳で、ただ、カイトを睨みつける。
「どういうつもりだと訊いている」
「この場で命令が有効なのは、僕だけだと思わない?」
カイトはちらりと聖に視線を流し、そしてまた神栖を見る。その視線の先の聖が神栖を見つめているのを感じ、聖がされていることに思い至るとぎりりと歯をくいしばり、唸り声すら立て、神栖はカイトに歩を進めた。
「手を取って。挨拶は大事だよ。そうは思わない?」
神栖はきつい視線でカイトを睨むと手を取った。怒りで手が震える。早く聖に駆け寄って抱きしめてやりたかった。こんなことに巻き込むとは。
「そのまま僕を抱いて」
薄く笑みを刷いて、カイトは妖艶な瞳で神栖を見た。神栖は腹の底の怒りをそのままに、言われるがままカイトを抱き寄せた。
カイトを抱きしめた神栖から聖が目を逸らすのが視界の隅で見えた。
「どうした?こっち見ろよ。俺が可愛がってやるからさ」
聖を弄っていた男の声に、神栖は奥歯をかみしめる。この腕の中のいまいましい青年をなんとかして、聖をこの手に取り戻さなければ。
「ああ……いいよ、輝」
首筋に唇をあてられ、軽く頭を後ろに逸らして、カイトは熱い吐息をもらした。
「激しく抱いてよ。あなたを忘れられなくなるくらい」
首筋を這う神栖の唇が噛みしめた歯のせいで震えているのをわかっているだろうに、カイトは甘く囁く。
身体にまわした腕でさえ、怒りに震えている。それでもカイトは恍惚とした表情を浮かべた。
「どうしてあいつを巻き込んだ」
神栖はカイトの肌に触れながら訊く。
「こんな普通な男のどこがいいの。ヨーロッパの新作コレクション、こんな子に横取りされたなんてね」
カイトは神栖のシャツのボタンをあっという間に外し、鍛え上げられた筋肉にそって掌を這わせた。
「身体で買ったんだろう。なんで僕じゃだめなんだ。いつだってあなたならよかったのに」
カイトの肩に手をかけ、神栖は身体を引きはがした。
「おまえは何か勘違いをしている」
怒りを押し殺した声でカイトに告げる。
「聖はモデルじゃないし、俺の仕事には全く関係ない。今回のコレクションにも同行していない」
「ふうん、でもあなた僕には触れなかった。輝にはたくさんお相手がいるのに。僕はその一人でもよかったし、誘ったと思うけど」
神栖に艶っぽい視線を流された。どこまでが冗談でどこまでが本気だかいつでも全く掴めない。
「モデルとは寝ない。ビジネスとプライベートは混合しない主義だ。今回のコレクションに採用されなかった理由は、イメージじゃなかったからだ」
神栖はモデルだったらあまり聞きたくないだろう理由をずばりと口にした。
「ふうん」
カイトは冷やかに嗤った。
「じゃあ、モデルは断ったんだから、今度は抱いてくれるの?もう、拒む理由はないだろう」
神栖の首に手を回し、耳もとに唇を寄せる。
「僕を拒みきったのは、唯一、あなただけだ、輝」
甘く神栖にだけ聞こえる声で囁く。神栖はふっと笑った。この女王様は自分に靡かなかった男が気に入らないのだと分かったからだ。恋愛はただのゲームだったあの頃の自分と同じ。だが、今は。神栖にはかけがえのないものがある。
「半年前だったら乗ってやってもいいゲームだったがな」
腰に左手を回し身体を引き寄せる。
「おまえは手をだしちゃいけないものに手を触れた」
右腕を後ろに引くと神栖はカイトの鳩尾に拳を埋めた。カイトの身体が瞬時に崩れ落ち、神栖は手を離した。
「カイト!」
宗人と呼ばれた男が駆け寄る。崩れ落ちたカイトをまたぎ越え、神栖は駆け寄った男に向かうと胸倉つかみそのままの勢いで殴りつける。体重を乗せた攻撃に後ろに宗人が吹き飛ぶ。
「このやろう」
聖をいたぶっていた男が立ち上がると突っ込んでくるのを身体を返す反動で蹴りあげた。
これも仰向けに数メートルぶっ飛んだ。それを追って走り、男の腹を思い切り踏みつける。
「げっ」
そのまま気絶した男を一瞥もせずに、
「殺されないだけましだと思え」
そう告げると踵を返した。気絶したカイトを抱き起した宗人に向き直る。宗人はカイトをかばうように抱きしめ、神栖を睨んだ。しかし、向かってくる気配はない。
神栖は興味を失ったように視線を外すと聖のもとへ歩み寄った。
「くるす……さん」
足音に聖は神栖の名を呼ぶ。しかし、視線が合わせられないのか、横を向いていた。
半分むしりとられたシャツ。乱された着衣。腕は頭の上に上げられ、ネクタイで手首から肘まで縛られ、足には倉庫に転がっていたのだろう電気のコードを巻かれ、その先は足もとの机の脚に繋がれていた。殴られた様子はないが、胸のあちこちに紅い痣が散っている。
聖の受けた屈辱を想い神栖は拳を握りしめた。きつく。爪が掌に食い込んで切れてもさらに握りしめる。怒りで、叫びだしそうになるのを歯を食いしばって堪える。慰めの言葉など掛けようもない。何を言っても聖には届かないだろう。自分の無力さ加減に腹がたつ。神栖は聖の脇にしゃがむと無言で、足首のコードをはずし、両手の縛めを解いた。
「聖、帰ろう」
声をかけても聖からは返事がない。聖は瞳を閉じていた。視線を合わせたくないのだろう。
自分のジャケットを脱いで、ふわりと聖に掛けると、聖を抱えあげ、車に向かう。腕の中の聖はぐったりと身体を預けている。それすら、哀れで神栖は聖を抱く腕に力を込めた。
「カイトに伝えろ。二度と俺の前に現れるな。次はないと」
背中をむけたまま神栖は宗人に告げ、聖を車に乗せると自身も乗り込んだ。倉庫にエンジン音が響かせ、ひしゃげたシャッターから車をバックで引き抜く。一刻も早くこの場から聖を連れ出したかった。
速度などお構いなしに、神栖はマンションに向けて車を走らせた。
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