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「山神の花嫁_昔話」
神無月

神無月(3)

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竜胆は手のかからない客だった。良く出入りしているというのも嘘ではないらしく、勝手に書庫から好きな書物を出してきては、客間で読書をしているか、庭を散策していたりする。
さすがに警戒して、2日くらいは泉も竜胆にくっついて歩いていたのだが、竜胆の言葉に嘘がなさそうだということがわかって、いまではすっかりほったらかしだ。泉にもやらなければいけないことがある。
今日も天気がいいからか、庭を散策する竜胆の姿が、泉が掃除をするここからでも見えた。
着物はどこからとりだすのだか、泉が用意したものではなく、竜胆は自分のものを着ていた。いつも一分の隙もない男ぶりだ。神職装束が良く似合っていた。
髪も瞳も黒く見慣れた色で、泉にとっては違和感がない。ここの主人、翡翠は緑の髪に琥珀の瞳と人在らざる色彩で、もうさすがに慣れたが、最初はやはり珍しかった。育ったところでは黒眼黒髪が当たり前だった泉にとっては、黒い色彩は身近に感じる。
庭箒片手に泉は時折、目にする竜胆を見るともなしに見つめていた。じっと黒曜石の瞳で竜胆を追う。久しぶりに人型以外のものが側にいるのが単純に嬉しかった。
孤独で押しつぶされそうな不安から泉は救われていた。

「竜胆様のところのご家来は人形じゃないんですか?」
食事の世話だけは泉は人型に任せず、自分の手でやった。
さすがにお客人を完全にほったらかすことは泉にはできなかったのだ。
「ああ。人界から連れてきた者もいるし、下級の精霊や見習いもいるよ」
竜胆は泉の問いにはめんどくさがらずにきちんと答えをくれる。
泉は竜胆の答えに目を丸くした。神は宮に一人で暮らすのが普通だと思っていたから。
「じゃあ、賑やかなんですね」
「そうだね、少なくともここよりはね」
廊下を行き来する人形に目をやって、竜胆はひっそりと笑った。
「緑のは身の回りのことをしてくれるものを雇わないからね」
泉も廊下に視線を送って、頷いた。
「何故なんです?寂しいでしょう」
それには笑って答えず、竜胆は泉をひたと見つめた。
「泉は寂しい?」
まっすぐに見つめられ、問われて泉は胸がどきりと痛むのを感じた。
考えないようにしていた。
ここ何日かは竜胆がいて、かなり気が紛れていたし。
それでも……寂しい……。
泉は頷いた。瞳を伏せて。長い睫毛がふさりと頬に影を落とす。
早く翡翠に会いたい。でも、まだ帰ってくる予定まで5日もある。
「こっちへおいで」
竜胆はじぶんの横の床をとんとんと叩いた。酒杯を膳に置き、泉を見つめる。
泉は言われるまま竜胆の横に移動し、座った。
竜胆の口元が満足げに上がる。
泉の肩に竜胆の腕が回り、更に近くに引き寄せられ、背が竜胆の方を向くように身体の向きを変えられた。気付けば、後ろから抱えられるように竜胆の腕の中に泉はいた。
「竜胆様……」
別に抱き締められているわけではない。ただ、背中側に竜胆がいて、両腕が自分のからだを囲んでいるだけ。
それでも泉は鼓動が跳ね上がる。
首を上げて後ろを見上げると自分を見下ろす竜胆と瞳が合う。
切れ長な黒い瞳が自分を見つめていて、泉は身の置き所がなかった。
「泉」
涼やかな声で名前を呼ばれ、泉はわれ知らず身体を震わせた。
距離が近すぎる。
「これをご覧」
見つめたまま竜胆は泉を瞳で促す。
顔を前に向けて視線を巡らすと、泉の身体の前に回った竜胆の手のひらの上に大きな水晶玉が乗っている。言われるまま、泉はそれをまじまじと見つめた。
「きれいですね」
透明で完全な球体のその珠は、蝋燭の灯りをうけて、ぼんやりと橙色に見える。
「緑のが何をしているか知りたくないか?」
耳元で囁かれ、吐息が外耳にあたって泉の背をぞくりと何かが駆けあがる。身体を離さなければと思うのだが、竜胆の言葉に泉は動けなかった。
「翡翠様に会えるのですか?」
水晶玉をじっと見つめて、泉は尋ねる。
「会えはしないが、緑のが何をしているかを見ることはできる。これは遠見の水晶だから。見たい?」
誘惑に泉は勝てなかった。ずっと翡翠に会いたくて、姿が見たくて、声が聞きたいと願っていた。毎年のことだとわかっていても、この宮で一人で過ごすひと月は耐えがたいほどに孤独だった。
「珠に両手をあてて……そう。そして念じるんだ。見たいものを強くね」
促されるまま両手で挟むように珠を持って、泉は珠の中を覗き込む。
強く想う。
翡翠に会いたい。今すぐに。
翡翠様に。
水晶の中がまるで水が入っているかのようにゆらゆらと揺らめいて、透明だった珠の内部が青く染まる。そこに人の姿が映し出された。
「翡翠様」
映った姿に泉は声を上げる。
ゆらゆらと翡翠の姿が揺らめいた。
「ダメだよ。泉。気を逸らしては。じっと思わないときちんと映らない」
外耳に竜胆の唇が当たった。
しかし、泉には気にならない。手の中の映像にだけ神経を集中させる。
深い緑の神職装束の翡翠が見えた。今日は髪も結い上げ、冠りまでしている。あまりの男ぶりに泉は食い入るように翡翠を見つめる。
翡翠は誰かと話しをしていた。酒杯を上げているのかもしれない。
「おや、隣にいるのは白の君だ」
泉の顔の横から水晶を眺めて、竜胆が告げる。
翡翠の隣に、結いあげた髪に何本もの豪奢な髪飾りをさした美しい女性が見えた。浅黄色の着物を着こなし、翡翠に酒杯を渡している。
翡翠は笑っていた。屈託のない顔で、隣の美女に向かって。
何かを話しているようだが、音声までは届かない。
翡翠は腕を伸ばし、白の君の肩を抱き寄せた。白の君がはにかんだように微笑んで、翡翠の腕にしなだれかかる。
「翡翠様」
あまりの映像に泉は水晶の持つ手が震えた。泉の声が聞こえる訳もないが、翡翠は白の君から手を離す。白の君も身体を起こした。それでも二人の距離は近い。
二人は親密そうに何かを話している。
泉は眩暈がした。会議に出向いたはずの翡翠がよもや酒席で女性と戯れていようとは。
寂しいのは私だけ。
見たくない……。
翡翠が誰か違う人とあんなに嬉しそうに笑っているのなんか見たくないのに、泉は翡翠から視線を剥がせない。
久しぶりに目にする翡翠は相変わらず、端正で野性味にあふれている。緑色の髪も悪戯っぽく瞬く琥珀の瞳も、唇から時折のぞく長い犬歯も、ここで送り出した時のままだ。
泉の瞳が熱くなった。
涙がにじんでくる。
ずっと会いたいと姿を見たいと望んだ人が手の中にいるというのに、触れられないもどかしさが、その瞳が自分を映さない哀しみが心に満ちて、潤む瞳が止められない。
瞬くと翡翠の姿が涙で滲んだ。
眦を誰かの舌で辿られた。
驚いてそちらに視線を移すと竜胆がじっと泉を見つめていた。
「泣かないで、泉」
真顔で告げられ、目から溢れた涙をまた舌で掬われた。
そのまま優しく抱き締められる。
久しぶりの他人の体温に心が震える。
寂しくて寂しくて、本当にここにいて欲しい人は遠い空の下だ。
泉は頭をのけ反らせ、竜胆の胸にもたせ掛けた。上を向いていないと次から次へと涙が落ちて、止まらなくなりそうだった。
「泉」
竜胆が泉の名を囁き、更に抱き締める。首筋に竜胆の吐息が触れた。
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