スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←神無月(8) →旅路
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ

もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png はじめに
もくじ  3kaku_s_L.png リンク集
もくじ  3kaku_s_L.png Novel lists
もくじ  3kaku_s_L.png 奇跡の刻
もくじ  3kaku_s_L.png 平行線の恋
もくじ  3kaku_s_L.png 煉獄の恋
総もくじ  3kaku_s_L.png 天空国の守護者
総もくじ  3kaku_s_L.png 巡る季節と恋の順番
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
総もくじ  3kaku_s_L.png 山神の花嫁_昔話
もくじ  3kaku_s_L.png 告白の向こうへ
もくじ  3kaku_s_L.png 空の月を恋う
総もくじ  3kaku_s_L.png おまけ番外編ショート
もくじ  3kaku_s_L.png 遠回りの片恋
もくじ  3kaku_s_L.png 腕の中の迷い猫
総もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い闇の化身
  • 【神無月(8)】へ
  • 【旅路】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「山神の花嫁_昔話」
神無月

エピローグ

 ←神無月(8) →旅路
湯呑を盆に乗せ、泉は廊下を行く。
その口元に微笑みをたたえて。
廊下に盆を置き、からりと襖をあける。
「翡翠様、お茶をお持ちしました」
「ああ。ありがとう」
自室で書物を読んでいた翡翠は顔を上げ、眩しそうに瞳を眇めた。
「お前もこっちに来い」
呼ばれて、泉は翡翠に茶を渡すと翡翠の隣に座る。
「違う」
膝を叩いて、翡翠がにっと笑った。
「翡翠様……」
泉は頬から耳から首筋まで真っ赤になって翡翠を睨む。
「嫌?」
ふるふる首を横に振るといきなり腰を攫われ、あっという間に膝の上に座らさせられた。
「いい匂いがする」
背中から抱き締められて、首筋に顔を埋めて、翡翠が呟く。
「……翡翠様」
顔を上に向けて、翡翠を見ようとするが、首筋をべろりと舐められて、泉は身を硬くした。
「……あっ……翡翠様……だめ……」
「甘いな、泉は」
首筋を吸いながら翡翠が呟く。
「翡翠様っ!」
身体を逃そうと暴れる泉を軽々、抑えつけて、翡翠はきつく泉を抱き締めた。
「やっぱりお前がいい」
泉は黙って、翡翠の腕に手を添えた。
心地よい沈黙が二人の間を流れ、お互いの体温を感じる。この温もりだけが真実だと思う。
側に翡翠がいる時は。
「翡翠様」
そっと泉は翡翠の名を呼ぶ。ぐっと腰を抱く腕に力がこもり、言葉の続きを促された。
「人型を話せるようにできませんか?」
翡翠は驚いたように頭を上げて、後ろから泉をまじまじと見つめた。
「なんで?」
「この宮は……一人では寂しいから」
「俺がいるだろう」
甘く囁かれて、泉は翡翠の琥珀色の瞳をぼおっと見つめた。
「そうですけど。お留守の時は寂しくて」
泉の唇を軽く啄ばんで、翡翠は苦く笑った。
「まったく。お前には参るな。こんな時にはもっと他に言うことがあるだろうに」
「え?」
「普通は抱いて欲しいって言うんだ」
驚愕に瞳を瞠って、泉はその姿勢のままかたまった。そんな泉に翡翠は笑いだす。
抱き締めながら、くつくつと喉で笑われ、泉は首筋まで真っ赤になりながら、翡翠を睨む。
その仕草がさらに笑いを誘ったのか翡翠は肩を震わせて笑っている。
「翡翠様」
「……すまん、すまん」
まだ、くっくっと笑っている翡翠は、目尻に涙を浮かべながら、泉を見つめた。
「そんなに笑わなくたって……」
「だから、すまなかった」
謝りながら、翡翠はまだ笑っている。
「泉の願いは聞いてやりたいが、人型は今のままだ」
いきなり笑いを収めて、翡翠は泉を抱き締めながら呟いた。
「どうして?」
身を捩って翡翠を見ようとするが、さらに抱きこまれ、すっぽりと翡翠の胸に抱かれてしまう。翡翠が泉の耳に唇をつけた。
「言の葉(ことのは)は降り積もると心になるから」
低く囁くように言われた言葉は泉にはわからない。
「どういう意味ですか?」
「わからないならそれでいい」
髪に口づけを落とされる。
このままだとまたごまかされて、結局何もわからないと泉は身を捩って翡翠の腕を抜け出した。
「泉……?」
「嫌です。翡翠様は私に何も教えて下さらない。他の神様のことも。私のことも」
「お前の?」
「私はすでに人間の範疇から外れていると。竜胆様が……」
翡翠の両腕に両手をかけて、泉は翡翠を見上げた。
翡翠は軽く舌打ちをする。瞳に苛立ちがよぎった。
「あの馬鹿。余計なことを……」
忌々しそうに翡翠は呟いた。縋るように翡翠を見つめると翡翠は真剣な顔で泉を見つめ返す。
「知ることが必ずしも幸せとは限らない。お前の感覚が人界に縛られているうちはなおさらだ」
自覚したら辛かったんじゃないのかと翡翠は泉に告げる。
泉は瞳を伏せた。そうかもしれない。翡翠の側にいられれば、人間でなくても全然構わないのだが、確かに、そんな感情も少しはある。
「他の奴らのことは……どうせ、ほとんど交流もないからな。話すことなどあまりない。青の主だけは例外なんだ。あいつは山向こうの湖の主だからな」
近い。
山暮らしの泉も知っている。ひと山越えた向こうに広がる広大な湖。真ん中に島があって、赤い鳥居が見えていた。
「水神様だったんですね」
「そうだ」
すっと腕が伸ばされ、腰を捉えるとぐっと前に引かれた。あっという間に翡翠の胸元に取りこまれる。
「泉は俺のことはよく知っているだろう」
翡翠の胸に頬を当てて、一瞬、動作を止めた泉は、ゆっくり顔を上げて、翡翠を見る。翡翠も泉を見つめていた。
確かに、翡翠のことは知っている。結構、食べ物の好みがうるさいとか、こうやってすぐに甘えてくることとか、時折拗ねると可愛いとか。
きっと他の誰も知らないことを泉は知っている。
「それでいいだろう?」
泉の心の声を読んだように、翡翠が呟く。ゆっくりと翡翠の顔が近付いてくる。日に焼けた滑らかな褐色の肌と琥珀色の瞳が視界に広がるのを泉は見つめていた。唇に唇が触れたと感じた途端、首の角度を変えられ、深く口づけられた。
泉はそっと瞳を閉じる。
そして――
そっと口を開く。翡翠の舌があっという間に泉の口腔内に滑り込み、舌を絡みとられた。
熱い口付けに酔いながら、泉は思う。
それでいいと。
翡翠様のことだけ、誰も知らない翡翠様のことを私だけが知っていればそれでいい。
「翡翠様……」
唇が名残惜しそうに離れて、泉は吐息とともに名を呼んだ。
「なんだ?」
言葉とともに熱い息吹を感じて、泉は大好きな琥珀色の瞳を見つめる。
「抱いて……私を喰らって……」
「敵わないな」
吐息の届く距離で翡翠が笑う。
「やっぱり、お前には敵わない」
甘い囁きは、口内に溶けた。

泉の甘い喘ぎが、初冬の空気を震わせる。
翡翠様の熱い腕が何もかも忘れさせてくれるだろう
―― 一人の哀しみも寂しさも。
翡翠様と一緒にいられれば他に何もいらない。
ずっとお側に……。


神無月……。
神無しの月。
宮の主の神が帰宮すると、外では冷たい冬将軍の足音がする。
さきぶれの風と共に――


  完
関連記事


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ

総もくじ 3kaku_s_L.png 天空国の守護者
総もくじ 3kaku_s_L.png 巡る季節と恋の順番
総もくじ 3kaku_s_L.png 山神の花嫁_昔話
総もくじ 3kaku_s_L.png おまけ番外編ショート
総もくじ 3kaku_s_L.png 蒼い闇の化身
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png はじめに
もくじ  3kaku_s_L.png リンク集
もくじ  3kaku_s_L.png Novel lists
もくじ  3kaku_s_L.png 奇跡の刻
もくじ  3kaku_s_L.png 平行線の恋
もくじ  3kaku_s_L.png 煉獄の恋
総もくじ  3kaku_s_L.png 天空国の守護者
総もくじ  3kaku_s_L.png 巡る季節と恋の順番
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
総もくじ  3kaku_s_L.png 山神の花嫁_昔話
もくじ  3kaku_s_L.png 告白の向こうへ
もくじ  3kaku_s_L.png 空の月を恋う
総もくじ  3kaku_s_L.png おまけ番外編ショート
もくじ  3kaku_s_L.png 遠回りの片恋
もくじ  3kaku_s_L.png 腕の中の迷い猫
総もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い闇の化身
  • 【神無月(8)】へ
  • 【旅路】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【神無月(8)】へ
  • 【旅路】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。