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「天空国の守護者」
トレジャ編

落ちてきた黒天使

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春の風が優しく頬を撫でる。気持ちの良い朝、キリスエールは領内の見回りも兼ねて、馬で出かけた。森に入り、馬の手綱を引きながら澄んだ空気の中をのんびりと歩く。
キリスエールはパラドース王国の一地方の領主の息子だ。柔らかな栗色の髪、すっと通った鼻筋で大きな瞳のキリスエールは綺麗で可愛らしい顔立ちをしていた。少し丸みのある顔のせいで幼く見られがちだが、今年17歳になる。この国では16歳で成人を迎えるため、れっきとした成人男性だが、容姿が災いし、周りが子供扱いするのを気にしていた。
つい先週、そろそろ仕事を手伝ってもらおうかと父である領主に告げられ、この春から領内の見回りを始めていた。農作物のできや領民の生活、豊かな恵みを約束してくれる森の様子などを見回って報告するのが仕事だった。何百年も平和の続くこの国ならではの光景だ。長い平和は国を豊かにし、人々も満ち足りて暮らしていた。領主の息子が護衛の一人もつけずに出かけられるのもそのせいだ。キリスエールは小道を歩きながら、森の様子を観察する。
今年も森は問題がなさそうだ。
新緑が芽吹き、木々は柔らかな緑で覆われている。木の根元には、小さな花が咲き乱れていた。枝の間にリスの影が動くのが見えた。
「春だね」
傍らの馬に話しかけながら、歩みを進める。
木漏れ日がきらきらと鹿毛の馬の毛並みに散った。とてものどかな春の日。
鳥の鳴き声が枝を渡るのが、聞こえる。
鳥たちも巣作りに余念がないのだろう。自然が織りなす音を聞くともなしに聞きながら、キリスエールは、ゆっくりと歩いた。傍らの馬もゆったりと足を進めている。
ざっざざざざざざ
「風?」
木々の葉が何かでこすれる音が突然響き渡り、キリスエールは顔をあげた。
鳥が一斉に飛び立つ羽音がそれに続く。それを視認し、さらに森の奥へと視線を投げる。
「違う。あっちだ」
音に向かって走り出した。音はまだ続いている。
小道を全力で走る。音の方向から、道を逸れて、木々の間に走り込む。進路を塞ぐ木をよけ、下生の草を蹴散らしながら、キリスエールは走る。
目線少し上から誰かが落ちてくるのが葉の間から見えた。慌ててそちらに方向を変える。黒い長髪、浅黒い肌、そして背には黒い翼が見えた気がした。
太めの木を回りこむと背の高い男性がうつぶせに横たわっているのが見えた。長い黒いマントが背をゆっくり覆っていく。
駆け寄って、その脇に膝をついた。
「大丈夫ですかっ!どうしたんです」
声をかけるも男には意識がなかった。足にも腕にもいくつもの裂傷があり、二の腕からは出血しているのかシャツが真っ赤に染まっていた。
キリスエールは手の指を舐めて、男の口元にかざす。微かに風を感じる。息をしていた。
「生きている。手当てしないと」
屋敷に連れ帰ろうかと考え、この近くに休息用の小屋があることを思い出す。あそこなら、寝室から厨房から浴室まで整っている。
そっちの方が近いし、騒ぎにならないだろうと判断し、キリスエールは男の腕をとると肩と背に男が乗るようにして担ぎあげた。
「重っ・・」
身長はあるにもかかわらず、細身の青年だったが大の男だ。担ぎあげるとその重さが肩にずしりとかかった。
肩に担ぎ、半ば引きずるように歩く。来た時の倍以上の時間をかけて小道に戻ると、道から外れて森の奥には入れなかった馬が困ったようにそこにたたずみ主人を待っていた。近づくと鼻面をキリスエールに押し付ける。
それにキリスエールは微笑みかけた。
「アルタイル、怪我人なんだ。ちょっとだけ身をかがめて」
馬は主人の要求をちゃんと汲んだ。足を折って、背を下げる。キリスエールは、馬の背に男を下ろし、両手を突っ張って男の身体を馬の背に押しあげた。身体が乗ったのが重みでわかったのか、馬は身を起こした。
「おいで、あっちの小屋に運ぶから」
手綱をとって歩き出す。アルタイルはそれに素直に従った。10分も歩くことなく、休憩用の建屋にたどり着く。白い石壁に青い屋根の大きな建物が、森の中に開かれた広場に建っていた。
「ちょっと待ってて」
アルタイルに言いおいて、キリスエールは玄関に向かう。
そろそろここを使うことになるからと本日の見回り場所の候補に入れておいたため、鍵を持ってきたのが幸いした。鍵を解除し、両開きの扉をあける。冬の間、閉ざしていた建物は、少し埃の匂いがしたが、使えないことはない。入り口広間を抜けて、左手にある部屋に入ると、真っ先に窓に歩み寄り鎧戸を開け、風と日の光を入れる。暗かった室内はあっという間に太陽の光に包まれた。カバーのかかったソファセットが窓を向いて置かれ、窓の右手側の壁には暖炉が切ってある。それらは素通りして、キリスエールはさらに奥の部屋に入るとその部屋の全ての窓を開けて、部屋の入り口側の壁につけておいてあるベッドのカバーを外した。
そのまま踵を返し、外に戻る。
「アルタイル。降ろすから、少し背を下げて」
心得たとばかりにアルタイルは身をかがめた。青年の腕をとり、アルタイルの背に横たわる青年を肩に担ぎなおす。建物の中へと入り、奥の寝室のベッドに横たえる。
うっすらと汗ばんだ額を腕で拭った。
うつ伏せにベッドに横たわった青年はピクリとも動かない。
手当のために、背を覆うマントを外す。マントの下から銀色の甲冑が現れる。
「守護者(ガーディアン)だ」
あまりの衝撃に思ったことが口を衝いて出た。
この国で軍装を纏うものは守護者だけ。
パラドース王国は守護者に守られた国だ。そのために長い平和を囲っている。
守護者は、あらゆる敵からこの国を守る。古に交わされた契約の通りに。しかし、ほとんどの国民が守護者を目にすることはない。彼らはこの国を囲む山々よりもはるかに高いところに住み、民のところに降りてくることはないからだ。他国や最大の敵であるクアールが攻めてきたらそれを戦いで撃退するために守護者がいると知識として持っていても、実際に闘いの現場を見ることも被害を受けることもないために、守護者そのものが幻想だと思っている民は少なくない。
甲冑も苦労したもののなんとか取り払い、さらにその下に着ていた絹のシャツも脱がすと褐色の肌が現れた。筋肉で覆われた引き締まった身体には細かい傷がついていた。キリスエールは傷の様子を確かめる。
腕の傷が一番ひどい。あとは、かすり傷だ。
守護者にも薬草が効くといいのだけれど。
傷を湿らせた布できれいに拭い、貯蔵してある傷用の薬草を持ってくるとキリスエールは煎じて布に浸し、その布を傷にあて細く切った布でずれないように巻きつけて留めた。
他の細かい傷も薬草を煎じた液を浸した布で洗い清める。
一通り手当てをすると掛布を掛けた。額に手をあてると少し熱があるようだった。
顔にかかった長い髪を指で梳いてどけると髪に血がついている。そっと髪をどけると頭にも傷がある。
血はすでに止まって乾いていたが、こちらの傷も浅いものではなかった。
なにがあったのだろう。
傷を洗い、同じように薬を浸した布をあて、こちらも細く切った布でぐるぐる巻きにして留める。
額には水を浸して絞った布を置いた。
そこまでの作業をこなして、キリスエールは眠っている青年を見た。
面長の顔に通った鼻筋、褐色の肌を長い黒髪が縁取っている。長いまつげが、頬に影を落とし、痛みのせいか苦しげに眉を寄せていた。
その表情に胸が塞ぐ思いがする。
これでゆっくり眠れれば、よくなるだろうか。傷口を洗った薬草には鎮痛効果もあったはずだから、痛みも少しは和らぐと思うが。
キリスエールはベッドの横に椅子を持ってくるとそこに腰を下ろした。
守護者……。
キリスエールは、男を見つめながら、自分の知識を辿る。
次期領主として、民と土地を守り育てるのが仕事とキリスエールは小さいころから教育されてきた。国の成り立ちや国法。薬草学や医学をはじめ、森の生態から狩りの仕方まで。そして、民の間では幻想とすら思われている守護者のこともキリスエールは学んでいた。
自分たちの代わりに危険に身をさらし、盾となってこの国を守る。
だが、その反面、定期的に人間を贄として喰らう存在。
「そんなに恐ろしいものには見えない……」
キリスエールは男を見つめ続けた。
日がだんだんと移動して、部屋に差しこむ光が長くなった。どのくらいそうしていただろう。部屋を抜ける風の温度も下がり始めたころ、キリスエールは大きく息を吐いた。
視界にとらえた男の胸がゆっくりと上下し、呼吸がずいぶん落ちついている。苦しげだった表情も幾分和らいで見えた。
急変することはなさそうだとキリスエールは立ち上がり、窓を閉め、部屋を出た。
そのまま建物をぬけて、アルタイルのもとに戻った。アルタイルは玄関の側にある木の根元で草を食んでいた。
「ごめんね、アルタイル。ほったらかしにして」
首を抱いて、撫でてやると、大丈夫というようにアルタイルは鼻を鳴らした。
馬小屋までアルタイルを引き、布で全身を拭ってやる。水と飼葉を桶に入れて与えた。
「リンゴを持ってくるよ。頑張ってくれたからね」
にこりと微笑んだキリスエールの顔に甘えたようにアルタイルは鼻を押しつけた。
「くすぐったいよ。アルタイル」
くすくす笑い、鼻面を撫ででやると気持ち良さそうにアルタイルは目を細めた。
「あの人、目をさましたら何か食べた方がいいよね」
独り言をつぶやいて、厨房へ確認に行った。

青年は全く意識が戻らなかった。その間もキリスエールは湿布を取りかえ、身体を拭き、看病を続けた。
時折、瞳を開けるが意識は無く、うわごとを繰り返す。
3日目になる今日もキリスエールは薬草の湿布を取りかえていた。
全部済ませて、抱きかかえた身体をそっとベッドに横たえる。
ふと、青年の瞳が開く。抱きかかえたままだったから、瞳が近くて、キリスエールはドキリとする。しかし、焦点が合っていない。
意識があるわけじゃないんだ。
そう思った瞬間、ベッドに横たえた青年の腕が上がり、いきなり抱き締められた。背に彼の腕の熱さを感じる。
「セ……」
呟く声が聞こえ、頭の芯がくらりと揺らぐ。
「わあ」
声をあげると、腕は力なくベッドに落ちる。驚いて身体を離し、息を整えた。
「びっくりした。寝ぼけてたのかな」
落ちた手を掛布の中に入れ、顔を見る。すっかり見慣れてしまった整った顔。ちゃんと瞳を開けたらどんなに綺麗だろうとキリスエールは思う。
深かった腕の傷も頭の傷もすでに出血はなく、ふさがりつつある。熱もずいぶん下がった。
あとは意識が戻るだけなのだ。
溜息を一つついて、キリスエールは部屋を出る。
水を汲みに行く。井戸は裏庭にあった。まずは、アルタイルのために水を汲む。
それを持って厩に行くとアルタイルが気づき、嬉しそうに鼻を鳴らす。
「アルタイル。出してあげられなくてごめんね」
水を置き、鼻を撫でる。
「あの人、まだ目が覚めないんだ。怪我の具合は良さそうなのに。守護者でも薬草が効いて良かったけど」
慰めるようにアルタイルはキリスエールを舐めた。
「くすぐったいよ」
首を撫ででやる。嬉しそうにアルタイルは鼻を鳴らした。
「行かなきゃ。水を汲んでいたんだった。また後で来るよ」
ポンポンと鼻面を叩いて、井戸へと戻る。
また水を汲み、口が細くなった水差しに水を入れ替える。
それを持って病人のもとへと向かった。

部屋に入りベッドに歩み寄る。水差しをテーブルに置き、男の身体を起こそうと腕を伸ばした。
「ひゅっ……」
キリスエールは息を飲んだ。
いきなり下から伸びてきた手にその腕を掴まれていた。眠っていたと思われた人が腕を掴んだ反動を利用して身体を起こした。
「ここは……どこだ」
掠れた声で問う。痛むのか逆の手は頭を押さえていた。
驚いてキリスエールは声も出ない。その顔がゆっくり上がって、キリスエールの驚いた瞳を見つめ返した。
闇夜を思い出させる黒い瞳が見つめていた。強い光が瞳の中で瞬き、心なしかキリスエールを睨んでいる。
「ここはどこだ」
先ほどよりはっきりと問われた。
「ノマリ領の森の中です」
我に返ったキリスエールはゆっくりと問いに答える。目線で先を促された。
「怪我をして、森で倒れていたんです。ずっと意識がなくて……」
「どのくらい経っている」
睨みつけられたまま訊かれた。
「今日で3日になります」
瞳が驚いたように見開かれ、男はいきなり咳き込んだ。腕が離された。
「水、飲みます?いま、ちょうど持って来たところなんです」
水差しを差し出す。しかし、咳き込みながらも男はキリスエールの差しだした水差しを遠ざける。
「ただの水です。裏の井戸で汲んだばかりの」
咳は止まない。しかし、男は水差しを受け取らない。
「何かするなら、もうとっくにしてます。3日も意識がなかったんですから」
叱るように叫んで、頑として水差しを差し出すと咳こみながらも飲み口を咥えたので軽く傾ける。喉を鳴らして男は水を呑み込んだ。
「大丈夫ですか」
心配そうにのぞき込み、背をさすってやる。
「ああ」
短く返事をし、息を整える。その間もキリスエールは背をさすっていた。
「お前一人か」
「はい」
「名前は」
「キリスエールといいます」
そう言って出来る限り優しく笑う。男を安心させてやりたかった。目が覚めたら見知らぬ場所で、さぞびっくりしたのだろうとキリスエールは思う。敵意がないことを示したくて、黙って静かな瞳で男を見つめる。
キリスエールの笑顔に男はひどく驚いた顔をした。そしてほっと一つ息を吐き、
「そうか。悪かったな。世話掛けて」
と呟いた。ここが安全な場所と認識したのだろう。その顔から先ほど見せたきつい表情が消えている。
キリスエールは首を横に振った。
「意識が戻ってよかった。なにか召し上がりますか。食べられそうならですけど」
その問いにも「ああ」と答え、男はまじまじとキリスエールを見つめる。
男にじっと見つめられたキリスエールは榛色の瞳を何度か不思議そうに瞬いた。
先ほどよりずっと柔らかい光が男の黒い瞳に浮かんでいる。睨まれないのは嬉しいが、その瞳に見つめられていると心拍が上がってくる。
「なにか?」
その問いに我に返って、じっと見つめていたのがばつが悪く感じたのか、男は再度ベッドに倒れ込む。
「寝ててくださっていいですから。ちょっと食べられる物を用意してきます」
そう言って、キリスエールは部屋を出て行く。
ドアを閉めてそれに寄りかかり、キリスエールは大きくため息をついた。闇夜の瞳にじっと見つめられて、心臓がどきどきと鼓動を早くしている。
開いた瞳は想像していたより鋭利で、目を閉じているときはただ綺麗な顔だったのが、男の色彩を帯びて迫力があった。強い光を帯びた瞳が自分の瞳を射ぬくだけで、恐れにも似た感情が湧きあがってくる。
守護者なんだ、やっぱり。
早鐘のように打つ鼓動が鎮まるのをまって、厨房へと足を運ぶ。今日こそはと朝に仕込んでおいた野菜のスープを皿に盛って、再度、病人の寝室へと向かった。
扉をノックし、返事を待たずに扉をあける。
男は身体を起こし、ベッドの枕に上体を預けた形で座っていた。褐色の肌に巻かれた布が痛々しい。
「寝てなかったんですか」
「何か羽織るものがあったらくれ」
スープがのった盆を横のテーブルに置き、キリスエールは用意しておいた絹のシャツを手渡す。
それを肩からふわりと掛けて、男は袖を通した。その仕草一つも流れるように無駄がなく、キリスエールはつい見惚れてしまう。
「いい匂いだな」
掛けられた言葉に我に返り、キリスエールは慌てて盆を差し出した。
「熱いので気を付けてください」
受け取った盆を膝に乗せ、差し出されたスプーンでスープを掬うと男は口へと運ぶ。
食べられるのだろうかと固唾を飲んで見守っていると、あっけなく飲み下し、その後も黙々と皿を空にした。キリスエールはその様子にほっと息を吐いた。
「ありがとう。うまかったよ」
盆ごと皿を返される。
「いえ、えっと……」
名前がわからなくて不便だなとキリスエールは思う。
「タミル」
「え?」
「俺の名前はタミルだ」
まるで、心の中を見透かされたように男は自分の名前を口にした。
その名前をキリスエールは口の中で反芻する。
「それより、俺がひっくり返っている間、誰か訪ねてこなかったか」
「いいえ。タミル様」
敬称をつけるとタミルは軽く片眉をあげた。
「そうか。俺が身に着けていたものは」
「それは、ここに」
綺麗に畳んだシャツとマントと甲冑が部屋の棚の上に並べられていた。
「剣は」
「それは身につけていらっしゃいませんでした」
その答えにタミルは明らかに落胆したように溜息をついた。
「そうか……」
がっかりした様子にキリスエールは胸を塞がれる。
空気がきんと音を放った。
溜息をかき消すように耳鳴りがし、耳の奥が音で痛い。キリスエールは耳を塞いだ。
いきなり室内に金と銀の光が満ちる。まばゆい光が交差し、キリスエールは目を開けていられない。
刺すような光りが徐々に消え、耳なりが止んでくると、やっと瞳を開け、何度か瞬く。
「ここにいたのか」
「ずいぶん探したんだぞ」
いきなり2人分の声がし、キリスエールはベッドの脇に二人の青年が立っているのを認識した。
「悪い。さっき目が覚めたんだ。ずっと意識がなかったらしい」
ベッドから応えが返るのを肩越しに聞こえた。
何度もキリスエールは目を瞬いた。現れた人達には背に翼がある。一人は豪華な金色の巻き毛が白い肌を縁取っており、その背にある翼も金色。左右の瞳の色が異なっていた、赤と緑だ。もう一人は背を覆うほどの銀色のストレートな髪、白い肌で紫色の瞳をしている。こちらの翼は純白だ。
二人とも純銀の甲冑を身にまとい、腰には剣を佩いていた。
守護者だ。二人も。
銀の天使がキリスエールに気付いた。
「これは?」
まるで物をさすように問いかけられた。
「キリスエール。俺を助けてくれた」
タミルの返事に銀の天使はふうんと答え、キリスエールに近づいた。
「森で倒れてらっしゃったので……それで……」
紫の瞳で見つめられ、言葉がまともにでない。
その瞳からは感情はうかがい知れない。
戸惑いでもこの世のものとも思われない美しい容姿のせいでもなく、恐れがキリスエールを支配していた。
怖い……。
後ずさりそうになるのを懸命に押さえる。
「それは、悪かったね。私たちが連れ帰るからこのことはもう忘れ……」
言いかけて、銀の天使はキリスエールにその優美な手を伸ばし、長く細い指で顎を掬った。息が触れるくらいの距離に顔を近づけられて、身体が震えた。
紫の瞳が榛色の瞳の奥を覗いている。
「そういうことか」
呟いて、瞳を合わせる。
「私はセイン。困ったことが生じたら名前を呼ぶがいい。あれの不始末は私の責任だから」
何を言われているかキリスエールにはわからない。
この壮絶に綺麗な天使がセインという名だということ以外は。
セインは手を離した。
「ほら、帰るぞ。さっさと支度しろ」
振り向きタミルに向かって命じるように言う。
タミルはベッドから降り、甲冑のもとへ歩き出す。我に返ったキリスエールは先に棚に行き、タミルの持ち物を取り上げると差し出した。
「お手伝いします、タミル様」
キリスエールが名前を呼んだ途端、金の天使は苦い顔をした。
人間が守護者の名を呼ぶのを厭うているようだ。
その表情を視界の隅にとらえ、キリスエールはタミルの着替えを手伝い、マントをはおらせるとすぐにタミルから離れた。
人と守護者は相まみえてはいけないものだから。
離れて、キリスエールはタミルをそっと見た。
長い黒髪が背を覆い、褐色の肌と相まって、黒い天使も溜息が出るくらい綺麗だった。
一瞬ののちその背に黒い翼が現れる。
やっぱり見間違えじゃなかった。
「世話になったな。キリスエール」
にっこりとタミルに微笑みかけられ、それにキリスエールも笑い返す。
柔らかく優しい笑みにキリスエールの心臓がトクンと跳ねた。キリスエールは、それに驚き大きく瞬きをした。
その一瞬の間に3人の姿はあとかたもなく消えていた。
寝乱れたベッドと空の器がなければ、全てが夢であったかのように。
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