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「山神の花嫁_昔話」
冬の月影

冬の月影(8)

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泉はむくりと身体を起こした。
横では翡翠が安らかな寝息を立てている。
疲れているからと口づけを拒絶した泉に、寒いから抱き締めていてやると翡翠は背中から泉を抱き締めて眠った。
翡翠様は優しい。
この腕を独り占めしていてはいけなかったのに。
泉は立ちあがるとそっと部屋を抜け出し、回廊へと向かった。宮の作りはスケールこそ違ってもどこも似たようなものだ。
にもかかわらず、竜胆の屋敷では回廊から見えた屋根。泉は翡翠の屋敷で見た覚えがなかった。
足早に回廊に立って目を凝らす。
回廊の屋根の奥にいままで気がつきもしなかった建物の屋根が見えた。
泉は溜息をつく。
いままで意識しなかったから見えなかったのだろうか。
泉はその建物の方へと足を向けた。屋敷のことは全て知っていると思っていたのに。
数が多くて維持が大変と塞がれた客間だって、時折、カバーを外して掃除するのは泉の仕事だ。
回廊を巡って、主殿の奥へと向かう。主殿の裏手に廊下が伸びているのが見えた。月明かりでぼうっと光っている。
こんなところに廊下が。どうしていままで気がつかなかったんだろう。
泉は足を踏み出した。ぎしりと床板が軋みを上げた。
つきあたりの扉まで来て、泉は立ち止る。大きな細工の見事な扉だ。
扉の取っ手は銅製で、誰も手入れをしていないはずなのに、月明かりにきらきら光っていた。
主以外は立ち入り禁止の建物。
翡翠様の後宮……。
こくりと生唾を飲み込んで泉は取っ手に手を伸ばす。
ゆっくりためらいがちに泉は手を前へと差し出す。あと数センチで取っ手に触れるところで、いきなり身体を後方に引かれた。
腰に強い圧迫を感じる。
「何をしているんだ。泉」
泉は顔にかかった髪をかきあげ、ゆっくり声の方を振り仰いだ。
見なくたって、声の主はわかっていたけれど……。
「……翡翠様……」
腰に片腕を回して、背後から泉は翡翠に抱きかかえられていた。
「眠っていらっしゃったんじゃ……」
「何をしていると訊いている」
鋭い翡翠の瞳に泉は身を竦ませた。
翡翠の怒りを感じて、泉はやはりと思う。ここは、主以外に立ち入ってはならぬ場所。そして、泉が知ってはいけないこと。
「山の宮にもあったんですね」
消え入りそうな声で泉は言葉を返した。翡翠の片眉が何のことだと上がった。
「どういう意味だ、泉」
泉は身体を捩って、翡翠の腕の中から抜けだした。距離を取って翡翠を見上げる。
こんなにきれいで優しい神様を独り占めしてはいけなかったんだ。
泉の瞳が哀しみで揺れた。
「私は今までなんにも知らないで……」
「ちょっと待て。泉。話が見えない。一体、お前は夜中にここで何をしているんだ」
困惑した翡翠から泉は視線を剥がす。これ以上見つめていると何を口走るかわからない。
「今まで、こんな建物があるなんて、知りませんでした。それに、主殿でそれも翡翠様の部屋で眠るのが普通でないだなんて……」
瞳を伏せたまま泉は言った。翡翠が大きな溜息を落とすのが聞こえる。
呆れられた。
泉は身が凍るような思いがした。
何も言わずに翡翠が一歩足を踏み出す。
泉は後ろに一歩逃げた。
もう一歩、翡翠が出る。
泉は同じだけ下がる。
「泉、それは誰が言ったんだ。俺の部屋でお前が寝てはいけない理はないと思うが」
諦めたようにその場に立ち止まり、翡翠が泉を見つめているのを感じた。強い視線が肌に刺さるようだ。
「耀華様に。後宮を知らないと告げたら、耀華様が呆れられて。あなたの住んでいる宮だと。違うのかと問われて……」
泉は昼間のことを思い出して、言葉を紡ぐ。
あまりの無知さ加減に恥ずかしくていたたまれない。
昼間、竜胆様の屋敷で見かけた建物の屋根。それを耀華は後宮だと告げた。
竜胆が契約した、いってしまえば愛人の住む館だと。竜胆のお気に入りは後宮に部屋を与えられ、竜胆は気まぐれに好きなところへ通うのだ。
もちろん、耀華もそこに部屋があり、今は一番、竜胆の訪いがあるが、それが今後どうなるかはわからないと耀華は言った。
「緑の主様は違うの?泉様は後宮にお住まいなんでしょう?」
耀華の問いに泉は首を横に振った。
「そんな宮は知りません。私はいつも翡翠様と伴に」
泉の言葉に耀華は瞳を見開いた。ありえないと声に出さずに呟くのが見えた。
「そう。泉様は主殿で寝泊まりされていらっしゃるのね」
ため息交じりに呟かれ、それは普通でないのだと泉は感じとった。宮の主の寵愛を受けた者は後宮で暮らし、主が訪れるのを待つのが普通だと。
話はそこで終わったが、泉の心にその事実がのしかかる。
翡翠の宮にはそんな建物はなかった。泉の知る限りは。
だが、この7年、翡翠はずっと泉の傍らにあったのだ。後宮があるとすれば、泉は翡翠の後宮への訪れを阻んで、翡翠を独り占めしていたことになる。
愛人がたくさん住むという後宮。
そこの人たちはさぞかし、寂しい思いをしているだろう。
誰にも翡翠を渡したくはなかったが、翡翠は神様なのだ。泉ごときが独り占めしていいわけない。
そんなことを今まで知らなかったなんて……。
泉は瞳を伏せて、唇を噛みしめた。


目の前で打ちひしがれてしまった泉を見て、翡翠は片手で顔を覆った。
青の主のお気に入りが一人でないと知って泉が怒ってくれれば嬉しいと竜胆は言ったが、まさか、竜胆を怒るわけでも呆れる訳でもなく、こっちに飛び火してくるとは思わなかった。
耀華、もうちょっとうまくやってくれ。
心の中で、黒髪の美女に囁きかけ、翡翠は大きく息を吐いた。確かに気にしなければこの廊下も建物も見えないように術を掛けたのは翡翠だ。
ここはもう用のない建物。泉が入ることはないと思っていたから。
「泉」
声をかけると細い肩がびくりと震えた。
「私は……翡翠様を……」
か細い声が聞こえる。
「独り占めにしてはいけなかったのに……」
泉の言葉に翡翠はまた大きく溜息をついた。
他に手を出した相手がいるのかと他にも愛人がいるのだと、そのことを怒っているのだと思っていた翡翠は、泉の言葉に、そんなことを考えていたのかと呆れた。
この7年、大事にこの腕で守ってきたのに、どこをどうするとそういう考えに行きつくんだろう。
一歩下がった控え目な性格なのは百も承知だが、時々、実は泉は俺を好きじゃないのではないかと思える。
この間、白の君に妬いたとは思えない言葉だ。
「泉」
声を掛けて、足を踏み出す。泉が一歩また下がった。気にせずに泉に近づく。同じだけ下がった泉の背が後宮の扉にあたった。
もう逃げ場はない。
翡翠は腕を伸ばした。泉は両腕を自分の前に持ち上げ交差する。
その手首を翡翠はひっつかんだ。そのままぐっと前に引く。泉の身体が倒れ込み、その身を翡翠は軽々と受け止めた。
「……翡翠様」
「一緒に来い」
「え?ひ、翡翠様!」
泉の叫びを無視し、掴んだ腕も離さずに、翡翠は後宮の扉を開いた。
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