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「山神の花嫁_昔話」
ひと夏の恋

ひと夏の恋(3)

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水辺まではすぐだった。大きな岩が並ぶ川底はそう深くはなく、泉のふくらはぎを覆うくらいだ。神域で誰もいないし、一緒にいるのは狐の黄金だけ。水浴びも兼ねていたから、泉は襦袢姿だ。
水はかなり冷たかった。足をつけているだけなのに、水辺から上がる風までが涼しく心地よい。黄金が言うには地下水がここからさらに上流の岩からしみだしていて、それが流れているのだとか。
「奥にいくと流れが急に早くなるから気を付けて」
岸に佇む黄金の声に泉は頷いた。
泉が立つ辺りは水量は多いが、ちょうど川が蛇行している弧に当たるためか、流れが緩やかだ。
「黄金は来ないの?」
眩しそうに泉を細めた瞳で見ている黄金に声をかけると、黄金が嬉しそうに笑う。
「そうだね」
言いながらも黄金はその場を動かない。
人の姿の黄金に見つめられると、ちょっと恥ずかしい気がするが、ちょっとした仕草だとか、笑い方なんかが、狐のころと変わらない黄金に短時間で、泉はすっかり慣れてしまった。狐の姿でも人の姿でも黄金は黄金だ。宮でも泉が井戸水で身体を拭っているのを黄金は隣で座ってみていたこともあって、肌をさらすのに、泉はあまり抵抗がなかった。
「黄金……?」
じっと泉の身体を見つめて動かない黄金に泉は首を傾げる。遊ぼうと言ったのは黄金のはずだ。
「そうだね。遊ぼう」
黄金も着物を脱ぎ捨てるとざぶざぶと水に入ってくる。野山を駆けまわっているからか、肌はきれいに焼けて、張りのある筋肉に覆われていた。
均整のとれた体だと思っていると黄金がいきなり水を蹴りあげた。
「つめたっ」
思い切り水をかぶってしまい、泉は顔を手で拭った。
「こがねー」
「くっ。はははっ……」
ずぶ濡れの泉を見て、黄金が身を折って笑っている。濡れ鼠だったのが面白かったらしい。
泉も負けじと手で水を掬って、黄金めがけて投げ上げる。きらきらと日の光を反射して、黄金に向かって水が落ちる。
「冷てっ」
笑っていた黄金の背に水が勢いよくかかり、首を竦めるのを見て、泉も笑う。
いきなり水の掛け合いが始まった。汗をかいた肌に冷たい水は心地よく、二人で笑いながら、水を掛け合う。
「これでどうだ」
大きくかきあげられた水を泉が避けると、黄金はますますムキになった。
「泉、逃げるな」
「やだよ」
ひらひらと舞うように逃げる泉に向かって、黄金が水を浴びせる。たわいのない遊びだったが、二人ともなんだか夢中になってしまった。
あまりに夢中で逃げ回っていたせいか、泉はつい川の奥に足を踏み入れ、流れの速さに足をとられた。
「泉、危ないっ」
慌てて寄った黄金に腰を支えられ、ぐっと抱き寄せられる。
「大丈夫?」
「う、うん。ありがとう」
後ろを振り返って、岩の転がる水面を見て、ひっくり返っていたらと思い、泉はぞっとした。
「泉。もう、怖くない」
身体が震えていたのか、さらに腕の中に抱き込まれて、気付けば黄金の胸にすっかり抱きしめられていた。
背も泉より高く、肩幅も一回り大きい。触れた肌は、散々、水に触れていたからかお互い冷たい。
「おいで」
身じろぐと黄金は泉の腰を支えながら、流れの緩やかなところに移動し、それから手を引いた。岸に上がって、平たいテーブルのような岩の上に座るように促され、泉はおとなしく従った。横に黄金も腰を下ろし、そっと泉の膝に手をかける。よく、狐の姿の黄金がやっていた動作だ。
やっぱり黄金だと思っていると黄金の顔が近づいて、唇をぺろりとなめられた。
「こ、こがね……」
泉は慌てて身を引く。これも黄金が良くしていたことだが、いくら相手が狐でもその姿が人で、その上、唇を舐められては驚くなと言う方が無理だ。
「泉?どうした?」
「え、えっと。ちょっと驚いて。それに、その姿でそれはその……」
なんと説明していいかわからずに泉はしどろもどろに答えながら身を引いた。
「いつもはそんなこと言わないのに」
口をとがらす黄金はそれでも泉の膝から手を下ろすことなく、身体を寄せてくる。さらに背後に身を避けると身体を起こしていられなくなり、泉は岩の上に仰向けに転がった。
黄金は、そのまま身体を乗り上げてくる。
「ちょっと黄金」
泉は身を捩り、そこから逃れようとするが、肩を腕で押さえられ、足に膝で乗り上げられて、身動きが取れない。
「重いんだから、どいて。黄金はもう子供じゃないんだから」
「そうだよ」
まっすぐに泉の瞳を見つめて、黄金は嬉しそうに笑う。
「やっと大きくなった。もう自分の群れも作れる。でも、泉がいい」
言いながら、黄金は顔を泉の首筋に埋めて、舌で舐めあげる。
「こ……こがね?」
いつもと様子の違う黄金に戸惑う。黄金は泉の頬を手を顎を舐めては親愛の情を示すのが常だが、のしかかられた重さも伸ばした舌が触れる感覚もいつもと違う。
「いやだ」
泉は黄金を押し返す。触れた黄金の肌は熱く、泉を見つめる瞳もその熱に浮かされているように濡れている。
「なんで?」
「なんでって……。離して、いやだ、黄金。そろそろ日も暮れる。宮に帰らなければ」
情欲を湛えている視線から顔を背けて、泉は黄金の下で暴れた。子供じゃないと言ったのは自分だが、それはこういう意味ではなかった。だいたい、泉は黄金を狐の子以外の目で見たことがないのだ。
「あんな風に苛められているのに、あそこに帰りたいの?」
だが、黄金の言葉に泉はぎくりと身をすくませた。黄金を泉は見つめる。
「俺の入れない部屋で、いつも泉は主様に苛められてた。いやだって言っても主様は泉を泣かせてた」
黄金の言葉が、翡翠が泉を喰らっていることを指していることに、泉は身を縮めた。部屋の外で、黄金が聞いていたことに思い至る。
「違う」
そう違うのだ。大体、泉は嫌がってなどいなかった。翡翠の熱に溺れて、自分が何を口走っていたかも覚えていないが、言葉は感情と等しくない。
「違うの?じゃあ、そうされるのが好きなのかな?」
いいながら、黄金は泉の首筋に歯を立てる。
「やめっ」
痛みに泉は背をしならせ、涙をにじませ、黄金の身体から逃れるために暴れだす。もう、黄金の目的は明らかだ。腹に当たる硬いものからも、黄金が泉と契る気なのは明白だった。
「離して、黄金。おまえは私の主じゃない。黄金は子狐で……」
「やっぱり狐の方がいいんだ。それだと話ができないんだけど、俺もそっちのほうがやりやすい。それにね、これからは俺が泉の主だ。だって主様が追ってこないだろう?」
そうだった。あんな風に宮から連れだされたのに、翡翠は現れない。石も持っているのだから居場所がわからないはずもなし、そのうえ、翡翠なら宮から連れ出された時点で、黄金をとめられたんじゃないだろうか。
「何をした?」
翡翠に何をしたか問うのとのしかかった黄金の姿が狐に戻ったのが同時だった。答えをもらえなかったばかりか、大きな舌で、べろりと喉を撫でられて、泉は震える。
こののしかかった獣はなんだろう?どうして?
あのかわいい黄金と同じとは思えずに、泉は狼狽した。
四肢で身体を押さえつけたまま、黄金は泉の身体をなめまわす。まだ、湿った黄金の毛皮が肌を擦るたび、水滴を散らす。気持ちの悪さに泉は体中に力を入れる。
「いや、やめっ」
身体を捩ってなんとか、うつぶせになると腰の上をぐっと前肢で押さえつけられ、むき出しの双丘を舐められる。
乱された襦袢はすでに、岩の上にはだけられ、白い裸体が狐の足の下でくねる。
足の間に鼻先を入れられて、二つの果実から後蕾まで舌先で舐められた。
「いやあっ。翡翠さまっ!」
翡翠以外誰にも許したことのない肌を大きなざらざらした舌でいいように嬲られて、泉は、叫んだ。背を腹の脇をそして、蕾を黄金の舌が撫でる。
「やめて、黄金。お願い、離して」
何度も懇願するのに、興奮したような荒い息遣いが聞こえるだけで、黄金は止める気配がない。そればかりか、泉が嫌がれば嫌がるほど、我を忘れているようだ。
「翡翠さま」
怖くて、嫌悪がせりあがって、何度も翡翠の名を呼ぶ。近くに脱いで畳んだ着物があるはずで、そこに入っている石がこの声を拾ってくれると泉は叫んだ。
だが、翡翠は現れない。
やはり、黄金が何かをしたのだ。翡翠は無事だろうか。
泉は涙でかすむ目で、川面をにらんで、腕でも這うように前に逃げようとする。その途端に、黄金に鼻づらでぐっと足の間を押されて、泉は体勢を崩して、慌てて膝を立て、前に動いた。まるで四足の動物のように、手足を岩について前に逃げようとする。その背に黄金が前肢を乗せ、後ろ脚で立ち上がるとぐっと体重をかけた。支えきれずに前身が崩れた。
尻だけを高く上げる格好に、泉は背を震わせた。双丘の間に硬くて熱く張りつめたものを感じて、蒼白になる。
逃げるつもりが、逆に黄金にいいようにされていて、このままでは、黄金のつがいにされてしまう。
ぞっと肝が冷えた。翡翠以外に身を開かれるなんて絶対に嫌だった。この身体も心もすべて翡翠のもので、それ以外に望みなんてないのだから。
ぐっと尻に力を込めて、侵入を拒む。
怖くて怖くて翡翠の真名を口にしそうになり、前に真名を口にしたせいで起きた被害を思い出し、泉は両手で口をふさいだ。
どうしよう。翡翠はきっとほかのものに身体を開いた泉を許さない。
『連れて帰る責任はとれるのか?その覚悟はあるのか?』
黄金を宮に連れて帰るときに訊かれた言葉を思い出す。
責任にはこれも含まれるのだろう。黄金が自分をつがいに望んでいるなんて全く思わなかったが、それすらも考えなければいけなかったのだ。
「ごめんなさい。翡翠さま」
すすり泣く泉を宥めるように項を黄金が舐める。あまりにがちがちに身体に力が入って、挿らないのだろう。尻の間で、黄金の雄が滑る。
「もう、やめて。黄金……」
背を項を舐められても泉は、抵抗をやめない。腕が擦れても膝がすりむいても泉は身体を前に這わせ、やっと腰を落とした。うつぶせに岩に寝そべりながらなおも前に進もうと手を伸ばす。
それでも黄金は許してはくれなかった。足の間に鼻づらを突っ込んで、腰を上げろとせっつく。
泉は目を閉じて、首を横に振った。
瞼の裏に、泉の行方を案じる翡翠と銀王が浮かんでくる。銀王は名を呼べば、いつなりと空を駆けると約束してくれた。そしてその言葉はたがえられたことがない。泉が銀王の名を口にしたのは、そのせいだった。一緒にいるだろう翡翠にも届くようにと。
銀王の名を泉は呼んだ。声なき声は千里を走った。

「泉」
「大丈夫か」
ひらりと舞い降りた銀王とその後ろに緑の髪を風に纏った翡翠が見えた。
「翡翠さま」
泉はどっと涙をあふれさせる。
「どういうことだ」
泉の背を踏みつけた黄金を翡翠がぎろりと睨む。銀王も牙をむき出して唸り声を上げた。
くっと頭を擡げた黄金は、泉の上から後ろに跳び退ると、空中で一回転する。
金の髪がくるりと宙で弧を描き、黄金が人の姿をとった。
「嫁取りの邪魔をするな」
切れ長の目を吊り上げて、黄金が低く告げる。
「嫁取り?泉は俺のものだ。それを横から掠め取るのを嫁取りとは言わん」
翡翠は泉の腕をとるとぐっと引き上げ、強く抱き寄せる。その温かさに泉はひどく安堵した。
「翡翠さま」
掠れた声に、翡翠の泉を抱きしめる腕に力がこもった。
「泉を返せ。もう、泉は俺の嫁だ」
高らかに宣言する黄金の声に、泉は身体を震わせ、それでも違うと首を横に振る。
「泉、水の中にいろ」
頭上から翡翠の低く押し殺した声がした。
「銀王、頼むぞ」
「まかせろ」
翡翠にとんと身体を押されて、泉は岩から水の中に落ちる。なんとか足裏で着地したものの川底の石に足をとられてよろけたところを銀王が身体を寄せて助けてくれる。
「翡翠さま」
手を伸ばすが、翡翠はふわりと宙を飛び、黄金の前に降り立った。
「泉は水から出るな。俺から離れてはいけない」
肩に手をかけて、銀王が泉を引き留める。
「で、でも……」
岸では翡翠と黄金が向かい合って睨み合っている。
「宮でもずいぶん、小癪なことをしてくれた。目くらましを三方位に散らして、追う俺の目をごまかすとは、確かに、ずいぶん力をつけたようだが、泉を手放す気はない」
「いいよ。それなら力づくでも泉をもらう」
黄金の身体が金色の光を纏う。翡翠もまた、緑に光りはじめる。
「ど、どうして。銀王さま、止めてください。翡翠さまと黄金が争うなんて、だめです」
泉は後ろを振り返り、銀王を仰ぐと震える声で告げる。
「それは無理だ。強いものが主となる。それが掟。二人が泉を欲する以上、強弱を決めるのは必須」
「そ、そんな」
自然の掟は弱肉強食。群れの主は、強いものが務める。
確かにその通りだが、翡翠は神様で、そんなことをする必要はないんじゃないだろうか。
「見ていろ。主は強い」
泉は気が気ではない。その間にも二人の纏う光は強さをまし、同時に地面を蹴った。
緑と金色の光が交差した。
激しい爆発音に続き、二人が地面に降り立つ。
「やるな」
振り向きざま地面を蹴って、翡翠が黄金に突進する。黄金は腰を低くして迎え撃つ。翡翠の拳が黄金に向かい、黄金はそれを避けて足を蹴りあげる。
空気をも拳が動かし、二人の間を嵐のごとく風が巻き上がった。
「くっ」
翡翠の拳が黄金の腹に入り、黄金が身を折った。そこを翡翠は蹴り上げるが、黄金は呻きながらも横に身体を倒して、地面を転がり、また起き上がる。
黄金の蹴りを翡翠が腕で受け止め流し、トンボを切った黄金が地面を蹴って身体ごと翡翠にぶつかる。
その速度は人間の比ではなく、泉の目には緑と金色の光の残像しか残らない。
「翡翠さま……」
拳を強く握って、泉は食い入るように争う二人を見つめた。心配でどうにかなりそうだ。
誰にも傷ついてほしくない。そう思うのに、泉の瞳は緑の光を追い続け、光が後ろに下がると息を止める。
「いやだ……翡翠……さま」
飛び出していきそうな身体を銀王が前足で押さえるが、泉の足は止まらない。
「落ち着け、泉。主なら大丈夫だ。落ち着け」
銀王の諭す声も聞こえず、泉は川から出ようと足を進めた。翡翠が傷ついたらと思うといてもたってもいられなかったのだ。
背後からちっと舌打ちの音がして、泉は後ろから二本の腕で羽交い絞めにされる。太い腕と強い力で泉は身動きがかなわない。
「銀王さま……?」
風に銀の長い髪が舞い上がり、視界をきらきらと染めた。
泉の意識が背後にむかったのと鈍い音が響くのが同時だった。
黄金の足と翡翠の腕がものすごい勢いでぶつかり合い、一瞬動きが止まったあと、二人は後ろへ飛び退る。
「翡翠さまっ!」
地面に膝をついた翡翠を見て、泉が叫ぶ。
翡翠は肩で息をしている。頬が切れたのか、赤い血が滲んでいた。
「俺の勝ちだ。泉はもらう」
足を踏ん張って地面に立っていた黄金が勝ち誇ったように宣言する。その目は血走り、体中、傷だらけだった。
ふらりと翡翠が立ち上がった。
「ちょっと力量を見誤ったな。この程度でも行けると思ったんだが」
低くあざ笑うように翡翠が金色の瞳をらんらんと輝かせた。
「何言って……。負け惜しみかよ」
対する黄金も翡翠を睨み付ける。
「お前が傷つくと泉が泣くから、手心を加えたが」
拳で翡翠は頬をぐっと拭った。
「俺に血を流させた代償、高くつくぞ」
翡翠を中心に風が渦を巻きはじめる。木々が唸りを上げ、葉をまき散らす。翡翠が、右腕をすっと横にあげ、手にひらを軽く握りこんだ。まばゆいばかりの緑の光が翡翠の右手からほとばしる。
世の理に反するような力が翡翠の周りでうねり、世界を緑に染めていく。
「泉、目を閉じろ」
低く命ずる声は、神聖で、それでありながら、甘く響いた。泉は翡翠の命に従い、素直に瞼を閉じた。
その上から、銀王の手の温かさを感じる。
かっと閉じた瞼の裏にさえ突き刺さる光に、風が移動する轟音、そして地面が抉れてはじけ飛ぶ。
「ぎゃん」
獣が高く鳴く声が響き、世界は静寂を取り戻した。
泉には何が起こったかまるで分らない。ただ、目から銀王の手が離れて、瞼を上げていいのだと認識する。
そっと開いた瞳に映ったのは、体中に血のにじむ傷を負って地面に転がる黄金と目を閉じる前と同じ場所に立つ翡翠。
「翡翠……さま」
声をかけると翡翠がこちらを振り返る。泉はそのまま、まろぶように翡翠に向かって足を運んだ。銀王も今度は引き留めなかった。
「翡翠さま」
水を蹴ちらして、川から上がり、泉は翡翠の胸に飛びこんだ。
「ご無事ですか?お怪我は?」
泉の身体を抱きとめて、翡翠に背を撫でられ、泉は安堵の息をこぼす。
争いの間中、泉の意識は翡翠の上にあった。心配で、心配で、泉は翡翠だけを見つめていた。腕にかきいだいた身体は安心するほど頑強で、翡翠の無事を身体で感じた。
ほっと息をつくと、先ほど見た黄金に思い至り、泉は身体を捩って後ろを見た。
「黄金」
翡翠の腕から抜け出して、泉は黄金の傍らに膝をつく。
「こがね」
獣形に戻ってしまった黄金の瞼がひくりと動き、泉はさらに大きな声で名を呼んだ。
ひくひくと動いた瞼が持ち上がって、黄金が目を開いて、「くうん」と小さな声で鳴いた。
「黄金……」
「泉……。俺、負けちゃったのか。かっこ悪いな」
狐の姿なのに、今は黄金の言葉が分かった。肩に銀王の前足の重みを感じて、ああ、銀王さまの力だと思う。
泉はそっと手を伸ばして、黄金の頭をそっと指で撫でた。
「泉、好きだよ」
こぼれた言葉に、泉は首を横に振る。
「嬉しいけど、ごめん。私は翡翠さまのものだから、黄金にはあげられないんだ。黄金が勝ってもあげられない……」
「泉……どうしてっ……」
叫んで、黄金は激しくむせた。
「黄金」
あわてて背を撫でると、黄金は涙で潤んだ目で泉を睨む。
「ごめん」
小さく謝って、泉は自分の胸を両手で押さえる。
「私のこの場所には翡翠さましかいないから。何があっても翡翠さまが好きだから」
小さく呟いた泉はそれでもまっすぐに黄金の目を見返した。
これだけは譲れない想い。誰であっても何であっても翡翠に変わるものは泉には存在しない。翡翠がいなければ、翡翠のものでいられないなら、自分も儚く消えてしまいたいとすら思っている。
「じゃあ、じゃあ、なんで、俺に優しくするんだ」
さらに目つきを険しくした黄金に泉はうつむいた。
「それは……」
「いい加減にしろ、ちびすけ」
肩口で銀王が牙をむく。
「泉は助けたお前を見捨てられなかっただけだ。大事にされて、育ててもらって、それ以上に何を望む」
「銀王さま」
泉は首を横に振って、銀王の言葉をとめ、それからそっと黄金の頭を撫でた。
「黄金。ごめん。でも、私は君が好きだったよ」
黄金がくっと喉を鳴らし、瞳を閉じた。目尻から落ちた滴が毛皮を濡らして、地面に染みた。
「もういいだろう」
いままで黙ってみていた翡翠が、泉の後ろに立ち静かに告げる。
「翡翠さま」
「銀王、そいつの眷属には話をつけてある。悪いが、そこまで送ってやってくれ」
銀王は、翡翠の言葉を耳にするなり、鼻の頭に皺を寄せた。ひどく嫌そうに、翡翠を見、それから、黄金を見る。
「緑の主。俺があいつを苦手にしているのを知っているだろうに」
「お互い様だ。話だけはつけてあるし、このままここに置いておくわけにもいくまい」
さらに嫌そうな顔になって、牙をむき出して銀王は低く唸り、それでも仕方がないと思ったのか、黄金に近づいた。黄金は気力を使い果たしたのか、ぐったりと横たわったまま動かない。
銀王は大きな口で黄金を傷つけないように、そっと口にくわえ、そのまま無言で空高く駆け上がった。
泉も翡翠もその姿が暮れゆく雲間に、遠く消えるまで、視線をそらさなかった。
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