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「山神の花嫁_昔話」
ひと夏の恋

ひと夏の恋(4)

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「さて」
翡翠の言葉に、じっと空を見上げていた泉は肩を揺らした。
二人になってみて初めて、泉はまだ問題が何も解決していなかったことを知る。翡翠の態度を独占欲だと誤解して腹を立て、そのうえ、責任を持てと言われた黄金には、最後までいたらなかったものの、体中を舐めたてられたことを思い出したから。
「翡翠さま」
声が掠れて、泉は翡翠が見られない。自分の浅はかさが招いた結果に身が震えた。
いまならわかる。獣の掟は弱肉強食で、強いものがその群れの頂点に立つ。それが守られなければ秩序が保てない。翡翠は黄金にイジワルしていたわけではなく、きちんと序列を諭していたのだ。
だが、自分は……?
自分も牡であるのに、黄金に下に見られ、そして乱暴された。わかっていなかったとはいえ、恥ずかしく、また、その身を誰にも触れさせないという翡翠との約束も守れずに泉は身の置き所がない。
「泉」
低い声が耳をうち、翡翠が泉の腕をとって自分の方に引き寄せた。すっぽりと抱きしめられて、泉は戸惑い慌てる。
「獣臭いな」
翡翠の言葉に泉は身体を縮こまらせ、身じろいで翡翠の腕から逃れようとした。
「離して。もう、もう、私は……」
翡翠さまのものではなくなってしまった、続く言葉を泉は涙でのみこむ。哀しくて、胸が張り裂けそうだった。自分の浅はかさが招いたとはいえ、この上は、翡翠の側にいられない。べつの男にその身に触れられたのは事実だ。
謝って済む問題ではない。
「泉」
だが、あらがう泉をさらに腕の力を強めて抱き寄せた翡翠は、そのまま宙に身を浮かせた。
「翡翠さま」
「おとなしくしていろ。落ちたくないだろう?」
慌てる泉に、翡翠はそう告げるとさらに高度を上げ、滑空する。腰を抱く腕は痛いほどで、翡翠の苦悩が伝わってくるようだった。
翡翠は森の深くへと進んでいく。泉にはここがどこだかはさっぱりわからないが、宮に帰るのではなさそうであることだけはなんとなくわかった。辺りは夕暮に沈み始めている。
暗くなってしまうのに、と泉は思う。
だが、怒っているだろう翡翠に何を問うのもためらわれて、泉は翡翠の着物の襟をつかんで、さらに近くに身を寄せた。
これが最後になるかもしれない。そう思うだけで、心の底から震えが走った。
しばらく無言で翡翠は空を飛び、すっと岩場の一角に降り立った。
泉も一度は地面を踏みしめたが、あっという間に膝裏に腕を入れられて、横抱きに抱えなおされる。
「翡翠さま」
問うても返事はなく、泉は血の上った頬をそっと翡翠の胸にもたれかけた。
日の落ちた山中は真っ暗だ。
泉の目には闇は深く、目の前にあるはずの翡翠の貌さえも見えないのに、翡翠には特に苦にならないらしい。
すたすたと岩の裂け目に入っていく。入口から、いくらか入るといきなり視界が開け、ぼうっと柔らかな光が見えた。
泉は声もなくその情景を見つめる。岩の洞窟の中だというのに、ひどく天井が高く壁で囲まれた空間はずっと奥まで続いていて、その周りの壁が、うすぼんやりと輝いている。そして、足元は満々と水が湛えられていた。
「地底湖?」
「いや、よく見ろ。湯気が立っているだろう?」
翡翠の声が聞こえて、泉はじっと目を凝らす。薄闇にも目が慣れて、確かに水面から湯気がひっきりなしに上がっているのが見える。洞窟の中も湿気っぽく、熱気に満ちている。
「洞窟内に温泉が湧いている。周りの壁はヒカリゴケで覆われているから、夜でも明るい」
端的な翡翠の説明通り、壁で光る無数の苔は緑色の光を投げかけ、水面にも反射してひどく幻想的だ。ついでに温泉からは花のような香りが立ち上り、熱気と香気で頭の芯がくらくらしそうだった。
翡翠は泉を抱えたまま、その温泉に足を踏み入れる。つぷんと沈んだ足がいきなり見えなくなって、泉はうろたえる。
「翡翠さま、ここ大丈夫なんでしょうか」
「ああ」
水面を見ながら翡翠が口元に笑みを刻んだ。泉の狼狽えぶりが面白かったらしい。
「ここは濁り湯だからな。すこしぬるぬるするが、身体に害はないから心配するな」
泉を抱えたまま翡翠は温泉に身を沈め、同時に泉の身体も湯に沈んだ。翡翠は泉の足を離してくれたので、ゆっくりと足が地面につく。
温めの温度が肌に染みわたって、じんと身体が温まる。首までつかれば、花の香気がますます濃くなり、うっとりするほど気持ちが良かった。
「この香りは?」
「何らかの樹木の根からでも樹脂が溶けだしているのだろう」
泉の腰を抱き直し、やはり肩までゆったりと温泉に身を浸す翡翠が目を細め、泉を抱き寄せた腕に力を込めた。
「翡翠さま」
背中がぴったりと翡翠の胸に触れ合って、泉は恥ずかしさに頬を染めた。
「身体を洗ってやる」
いつの間に手にしていたのか、へちまを乾燥させた海綿で、身体の表面を擦られて、泉はあえない声を上げた。
「あ、やっ」
「くすぐったいか?」
泉の胸に咲いたちいさなふたつの突起の周りもそっとざらついた海綿で撫でられて、刺激に泉は身を震わせる。
「翡翠さま、何を……」
「洗ってやっているだけだ。体中舐められたのだろう?」
首筋に鼻を近づけてくんと匂いをかいで、翡翠が問う。泉はその言葉に酷く傷ついて、唇をかみしめた。
「切れるから噛むな」
指で唇をたどられて、さらに唇の間から指をさしこまれて、泉は小さく口を開けざる得ない。
「でも……」
「すまん。言い方が悪かった。おまえを貶める気ではない。怒りがないかといえば嘘になるが、それでも泉は悪くない」
海綿で身体を撫でながら、翡翠が囁く。
「悪くない……?」
そんなはずはないと続けようとして、泉は翡翠の指で舌を挟まれ、それ以上言葉を重ねられない。
「泉は悪くない」
翡翠は言葉を繰り返す。
「俺がおまえを守りきれなかっただけだ。本当にすまない」
翡翠に頭を下げられて、泉はさらに狼狽えた。
「そんな、翡翠さま。翡翠さまは何もしていない。全ては力での階級を理解していなかった私の浅慮がいけないのです」
「泉は俺のものだ。そうだろう?」
それには異論がなく、泉は頷く。
「自分のものを守るのは俺の務めだ。それをむざむざ、あの狐にしてやられた上に、泉に怖い思いをさせた」
自分は守ってもらうものではないと思う泉は、翡翠の言葉に同意ができない。だが、翡翠が本心からそう思っていて、泉に頭を下げているのは事実で、泉は困った顔をした。
翡翠が悪いわけはないし、自分の身は自分で守れなければいけないのだが、翡翠の気持ちも嬉しくて、泉は身体の向きを変えると腕を伸ばして翡翠をぎゅっと抱きしめた。
「泉」
耳元で名を呼ばれて、泉はさらに抱きしめる腕に力を込める。
「もういらなくはないのですか」
小さく囁いた声は震えていた。頷かれたらどうしようと思うが、それでも問わずにはいられない。
「いらなくなることなんてない」
腰をさらわれて強く抱き寄せられた。
「あの狐に泉が言った言葉、うれしかった。おまえが俺を好きだと言ってくれる気持ちが嬉しかった」
「翡翠さま」
「もうすべて忘れてしまえ。隅から隅まで俺が清めてやる。そして、泉、おまえを喰らう」
痛いほど抱きしめられて、骨がきしみ、それでも翡翠の強い想いが嬉しくて、泉は翡翠にさらに身を摺り寄せた。
「喰らってください。どこもかしこも溶けてしまえばいい。翡翠さまのものでいられるなら……ずっとおそばに」
抱きしめたまま翡翠は泉を岸辺に乗りあげさせ、持っていた海綿で泉を洗い立てる。不思議な温泉の湯は海綿でこすると泡が立ち、花の香りが辺りに強く薫った。
片手で身体を泡立て、もう片手は泉の身体を隅々までなぞる。
「はぁっ……あっ……ぁぁっん」
背を腰の脇を大腿部の付け根を撫でられて、泉は都度、喘ぐ。洞窟内の壁に泉の上げた嬌声が反射して、残響を呼び、泉の羞恥を煽った。
まだ、なにもされていないのに艶めいてくる声が嫌で、泉は自分の指をかみしめる。
翡翠の手が双丘とその狭間を撫で上げると泉は、背をしならせた。
「やぁっ……」
後蕾を指が行き来し、背は頭を左右に振った。ぱさぱさと長い髪が濡れた音を立てた。
泡が身体を滑っても感じて、泉はおかしくなってしまいそうだ。
黄金に身体を舐められても怖かっただけなのに、相手が翡翠なら指先が触れただけでも息が上がった。
絶妙の力加減で、翡翠は泉の後蕾をつつき、空いた手で、くちくちと泉の胸の突起をもんだ。
「いやっ……だめ……」
すでに尖ってしまっている胸の突起は、翡翠の指で弄られて、身体の奥底がじんと熱を持つ。
「洗っているだけだ。それなのに、感じているのか?」
低く艶めいた声で耳元で囁かれて、泉はかっと頬を赤く染めた。ただの睦言なのはわかっている。たまに翡翠は事の最中に泉が身の置き所のなくなるような言葉を告げる。泉が恥ずかしがるから言うのもわかっているが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。
いやいやと頭を振ると、耳元でくすりと翡翠が笑う。
「やっぱり慣れないんだな」
嬉しそうに翡翠は泉の胸をさらに弄る。
「翡翠……っ痛」
じれったい感覚にじっとしていられず、泉は身体を前に逃がした。温泉の岩に膝がしらが当たって泉は痛みにうめいた。黄金から逃げようとして岩に擦られ傷がついたのだろう。
翡翠が手を離し、泉の膝に手をあてた。
「すりむいているな。湯はしみなかったのか?」
湯はしみないが、触れられると鋭い痛みが脳を叩く。
「触らないで」
手の平で傷の具合を見ていた翡翠が眉を顰めた。
「腕も見せてみろ」
身体を起こされて、温泉の岸辺に座らされて、翡翠に腕をとられた。肘も前にずった時に切ったのだろう。あっちこちに擦過傷があった。
「よくやった。つらかっただろうに」
怪我をして褒められるのもおかしいが、翡翠が泉のとった行動を察したのだと思うと胸があつくなった。
「ちょっとじっとしていろ」
翡翠はそういうと泉の肘の傷に唇をつけた。
「ひ、翡翠さま」
すっかり身体に火がついてしまっている泉は、そんな些細なことにも反応してひくんと肌を波立たせる。
触れるか触れないかの距離で、丁寧に翡翠が泉の傷口に口づけた。両の腕、そして膝がしらも。
うやうやしく翡翠に口づけられて、泉は頬を赤く染めて、顔をそらす。恥ずかしくて見ていられなかた。
「よし」
傷口を再度確認して、翡翠は満足げに告げた。
「とりあえず傷口の周りの気を活性化してみたが、どうだ?まだ痛むか?」
翡翠の甘やかな口づけのせいか、痛みはすっかり和らいでいて、泉は首を横に振った。
目を向ければ、傷口はすでに、ふさがっていて、うっすらと跡があるかないかの状態になっている。
治してしまわれたのだと泉は思う。翡翠の神としての力だ。
「ありがとうございます。もう痛くない」
さすがの翡翠の万能ぶりに泉はうっとりと翡翠を見上げた。こんな治療のための接触でも泉の身体に灯った欲望の火が煽られた。
お湯に身体を入れると泉はそっと手を伸ばす。翡翠の欲望が手のひらに触れ、お湯よりも熱く感じるそれに泉は目を細めた。
「翡翠さま」
泉は翡翠自身を手にするとゆっくりと擦りあげる。
ぬるぬるするお湯が滑りをよくして、泉の手が翡翠自身をさらに固く大きくする。
翡翠が目を細めるのを感じているのだと嬉しくなって、両手でつかんで上下に擦った。
「あっ……やあっ……」
される一方なのは嫌だったのか、翡翠が手を伸ばして泉の足の間から双丘のはざまに指を滑らせた。翡翠の腕が挟まって足が閉じられず、ぬめる湯の力を借りて、翡翠が泉の後蕾を柔々と押した。
翡翠を掴んだ手に力が入らなくなり、泉は首を横に振る。
「触ったら、だめです」
「なんでだ?いいだろう?」
そうささやく翡翠の声はどこか嬉々としていて、泉は恨めしげに下から翡翠をねめつけた。
「そんな表情してもだめだ。嫌がっているように見えないともう何度も教えたはずだ」
翡翠の指が蕾をこじ開けて、中に入ってきて泉は身体を固くした。
「あ……ん」
すぐに力を抜いたが、中で翡翠の指が蠢くともうじっとしていられなかった。腰が揺れ始める。
「翡翠さ……ま、だ、め」
両手で握った翡翠がどくんと脈打ち、嵩を増し、だが、泉は力が入らずただ持っているだけだ。
指を二本根元まで差し入れられて、中でくっと折り曲げられると膝が崩れた。
「おっと」
「やぁ」
指を差し込んだまま尻を支えられて、さらに翡翠の指が奥をついて、泉は倒れこむように翡翠の胸に顔を寄せ、そのまま抱きとめられる。
くにくにと指を動かされて、泉はさらに翡翠に身を摺り寄せる。
腰から下が湯に溶けて行ってしまいそうだ。身体の温度が上がって頭がぼおっとしてくる。
ぐったりと翡翠に凭れてしまった泉を抱えて翡翠はざばりと湯から出た。
まだ、身体の中に入ったままの翡翠の指が湯にいた時より感じられて、泉は背をしならせる。
「ああ。もう……翡翠さま……」
まだ、泉自身に触れられてもいないのに、泉の前は硬く張りつめ、しとどに蜜をこぼしていた。
ばらばらに動く指にどうしようもなく翻弄されているが、それでも焦燥感を覚えた。
「やっ……はやく。翡翠さま」
翡翠を感じたかった。皮膚でも体内でも翡翠を感じたい。
「あんまり煽るな」
苦く笑う声がして、翡翠が泉から指を抜き、岩壁に寄り掛かるようにどっかと腰を下ろした。
「翡翠さま……?」
手を離されて、心細くて、泉は泣きそうな声を上げる。
「来い」
翡翠に手を差し出され、その手をぐっとつかんだ。身体を前に引かれ、気付けば座った翡翠の上に座らされている。
ぎゅっと抱きしめられて、ほっとすると翡翠の顔が近づいて、唇をふさがれた。
熱い舌がするりと泉の歯列を割って、口内をたどり始める。
「んっ」
奥の方まで舌でつつかれて、小さく呻くと口端からあふれた唾液が零れ落ちる。
翡翠はさらに口を大きく開けて、さらに口づけを深くした。
翡翠の舌が口内を蹂躙し、また頭の中がぼおっとしてくるころに、翡翠は腰に回していた腕に力を入れ、少し身体を持ち上げさせた。泉は翡翠のすることに逆らわず、いわれるがまま腰を上げて、熱くてぬるついたものが双丘を割った途端に腰を下ろさせられた。
「あぁぁっ」
身体の奥まで串刺しにされて、泉は口づけを解いて背を反らせる。
翡翠自身が泉の中を強引に押し開いた。
「あぁっ……やあ……翡翠……さ……あぁっ」
みっちりと隘路を埋められて、泉の内壁が悦びに身を震わせる。
「泉。いい声で啼け」
奥まで入りきると、腰を回されて泉は嬌声を上げた。意識はどんどん白くなり、もう、体内に埋められた翡翠の熱さしか感じられなくなる。
「あっ……あぁ……んっ……あぁ…」
口からは喘ぎと甘い声しか上がらず、泉も翡翠に合わせて腰を振った。
「泉」
名を呼んで、翡翠は目の前でゆれていたのだろう泉の胸の突起を口に含んだ。
「あぁぁっ」
いやいやと頭を振っても当然、翡翠は口を離さない。強く吸っては、舌でつぶして、さらに軽く歯を立てられると、泉は身体を捩って啼くしかできない。
腰を抱いた翡翠の腕が、泉を上下に揺らして、泉の内壁を自身で擦り始めると泉はもうまともな思考は残らない。
遠くで泉の名を呼び続ける翡翠の甘い声を聞きながら、泉は蠢く内壁で翡翠を締め上げた。
「あぁっ……もう……やっ……ああっ……」
何度も揺らされて、落とされて、意味のない喘ぎをただ上げて、泉は啼き続け、身体の奥からせりあがる欲望を解放した。
「なにがあろうが、おまえは俺のものだ」
白くなった思考の向こうから、翡翠のくぐもった声が聞こえ、身体の奥に熱を感じて、泉は口の端をあげて、微笑んだ。


熱気を含んだ風が肌を撫でるのにも構わずに、泉はゆっくり団扇を動かしながら、庭の緑を縁側に座ってながめていた。
もう、夕方だというのに、この湿気と温度はなんだろうと思いながら、とりとめのないことを考えている。
あまりにも残暑が厳しくて、その上、意識がぼうっとして、自分が何を考えているのかもよくわからない。
視界の端を動くものが掠めたなと認識した途端、ふわりと目の前に音もなく、銀王が舞い降りた。
「泉、大丈夫か?」
顔を見るなり、挨拶も抜きで苦笑され、泉は団扇を仰ぐ手をとめて、赤くなる。
「昨夜は相当、緑の主に可愛がられたようだ。主はまだお怒りか?」
泉があまりに疲れて見えたのか、普段そういうことを言わない銀王に指摘され、泉はさらに頬に朱を上らせた。
翡翠が泉を連れて行った温泉は、翡翠の隠れ家の一つで、翡翠が用意したらしい乾草の上に布を敷いただけの布団で、銀王の言葉通り、泉は朝の気配がするまで、翡翠に体中を愛撫され、泉が意識を無くしてしまうまで、貪られた。
久方ぶりの翡翠の無茶に泉の腰から下は力が入らないし、体中が痛い。
「翡翠さまは最初から怒っておられなかった」
恥ずかしかったが、立ち上がる気力もなくて、泉は最後に問われたことにだけ律儀に答えを返した。
「そうなのか?」
首を傾げる銀王に、泉は頷く。守れなくてすまなかったと何度も謝った翡翠を思い出す。翡翠が怒っていたのは泉にではなく、自分に対してだったのだろう。
だが、それを銀王に説明する必要はないだろうと泉はただ、「はい」と返事をした。
銀王もそれ以上は何も言わない。
泉は銀王と宮の庭をぼんやり眺める。こうやって、縁側に座っているとあの茂みから黄金が顔を出して、嬉しそうに尾を振っていたことを思い出す。
「黄金は……」
口にすると銀王が鼻づらに皺を寄せて嫌そうな顔をする。
まだ、目をさまさないのだろうかと泉は心配になるが銀王が口を開くまで泉は待った。二人の間を風が吹きぬける。
「元気ですよ」
銀王ではない声が銀王の後ろから聞こえ、泉はそちら視線を向ける。すっきりと短い髪、細く切れ長な目を銀の眼鏡で隠した洋装の男性が立っていた。黒っぽい上着とズボン、それに白いシャツできちっとネクタイを締めている男は、かっちりしているのに、どこか冷たそうな印象を受ける。
「見た目は派手でしたけど、致命傷はありませんでしたから、すぐに元気になります」
「あなたは?」
泉が問うのと銀王が唸り声を上げるのが同時だった。
「何しに来た」
「相変わらずうるさいですね、眷属を傷つけられて私が黙っているとでも?」
剣呑な銀王の声に、さらに温度の低い男の声がかぶって、泉はどうしようかと二人を交互に見た。飛び掛かりそうな銀王の名を泉は呼んだ。
銀王は嫌なものを見る目で、男を睨み、それでも唸るのをやめた。
「ですが、今回は特別です。緑の主の想い人に手をだそうとした黄金がいけない。怖い思いをさせてしまいましたね」
縁側近くまですっと近寄って、泉を上から見おろし、男はうっすらと笑った。泉は首を横に振る。
「黄金は元気なんですね」
「ええ。まだ、寝てましたけどね」
真顔で言われ、冗談か本気か泉はかなり迷った。そのせいか、曖昧に微笑むだけにとどめる。
「黄金はただの狐ではなかったんですね」
「そうですね。聖獣でしたね。神格化とも言いますが、」
「あなたもですか?」
この宮に入れるのは神様だけだから、当然目の前の人も神様なのだろうが、男が最近、村の側の石でできた道で見かける人と同じ格好をしていて、にわかには信じられない。
「ええ。設楽の森の主です」
「しっぽがたくさんある怖いやつさ」
設楽の主が余計な口をきくなと銀王を睨み、その眼力に銀王が肩を竦める。
「黄金も人の形に変わってました。そうしないと話ができないって。神格化すれば人の姿をとれるのですか?」
そういえば、翡翠のもとに向かおうとした泉を羽交い絞めにした銀王の腕は狼のものではなかったと泉は思い出す。そして、視界の隅を舞った銀色の光も。
「ええ、姿を変えるのはさして難しくありませんからね。そこの狼にもできることです」
狐の言うことに、銀王は背を震わせた。
「うう。人の姿は好かん。毛皮がなくて心許ないからな」
嫌そうに鼻づらに皺を寄せた銀王に、泉はくすくすと笑った。あまりに本気で嫌そうだったからだ。
ひとしきり笑って、泉は狐神を見つめた。翡翠に客なら、取り次がなければならないと思ったからだ。
「どういったご用件でしょう」
「黄金に頼まれごとをされましてね」
さらに前に一歩足を進めると、狐神は懐に手をいれ、何やら取り出すとすっと泉の前に手を出した。
「それは……」
翡翠がくれた玉の入ったお守り袋だった。黄金が持ってきてくれて、河原においてきてしまったものだ。
「こっちが本物だそうです。あなたがこれがないと外出しないだろうと、袋だけ使って、石はすりかえたんだそうですよ」
泉ははっと目を見開いた。何度名を呼んでも、それより、屋敷から離れても翡翠が迎えに来なかった理由はこれだったのだ。
差し出されたものを受け取ろうと手を伸ばすと設楽の主が石ごと泉の手を握った。
「信じやすいのも考え物だと思いませんか。神格化したものが善ではないとは学ばなかった?」
ぐっと手前に身体を引かれるより、泉は腰を抱かれて、後ろにひかれる方が一瞬早かった。
「何をしに来た?」
剣呑な翡翠の声が耳元でし、目の前の設楽の主が肩を竦めるのが見えた。
「忘れ物を届けに」
「ふざけるな。あの狐は二度とここには出入り禁止だし、お前は招いていない」
腕にすっぽり背中から泉を抱きしめて、低く怒りを含んだ声で翡翠が告げる。
「早く去れ。泉にも近づくな」
あまりの言いざまに泉は驚いて肩越しに翡翠を振り返る。翡翠は琥珀の瞳を光らせて、設楽の主を睨んでいる。
「おやおや、ずいぶん嫌われたものですね」
睨まれようが凄まれようがまったく動じない設楽の主が「仕方ありませんね」と言いながら、一歩後ろ脚をひくと、妙に甲高い音が響いた。音楽のようにも聞こえる。
上着の内側から小さな箱を引っ張り出すと設楽がそれを耳に宛てると音が鳴りやむ。
「ああ。私だ。ああ、その件は保留にしておけ。あと1時間もすれば社に戻る。ああ。わかった」
箱に向かって話しかける設楽の主を泉は奇妙な目で見つめ、首を傾げる。
「おや、携帯電話もご存じない?」
あまりにじっと見つめていたのか、設楽の主が苦笑を返す。
「ほっとけ、泉。こいつは、はるか昔から、都に住んで、人間と一緒にいろいろ悪だくみをしているんだ。いまも、巨大な石がそびえたつ都で暗躍している」
「暗躍とは穏やかではありませんね。人間の文明はすごいですよ。力を使わなくても高速で長距離を移動できる。遠く離れた人とも顔を合わせて会話もできる。ほんとうにおもしろい生き物です」
泉は空を飛ぶ飛行機と呼ばれる鉄の塊や、石の道路を走る自動車を思い浮かべる。この神様は、人のつくった機械を自在に使いこなしているのだ。
「うるさい。用がすんだらさっさと帰れ。俺たちに人間の機械は関係ないし、関わる気もない」
声を荒らげた翡翠の腕にそっと泉は触れた。こんなに怒っている翡翠を見るのは珍しい。どんな神様がきても不機嫌になることはあっても、めったに怒ることなんてないのに。
「あいかわらず時が止まっているようですね。ま、私には関係ありませんがね。今日のところはこれで失礼しましょう。それでは、泉、またお会いしましょう」
優雅に一礼した設楽の主の姿がふっと掻き消えた。
「もう二度と来るな」
誰もいない空間に翡翠は吐き捨てた。いつの間にやら銀王も姿を消している。翡翠がいれば十分とさっさと逃げたのかもしれない。
すごく苦手そうだったし…
泉はそっと身を反転させると腕を伸ばして翡翠の頬に触れた。
「翡翠さま」
もう、気を静めてくださいとの願いを込めて、やわらかく翡翠の頬に手を当てると翡翠が手のひらに頬を摺り寄せる。
「泉」
「そろそろ夕餉の支度をしましょう。暑いので、のど越しがいいものが食べたいですね。山芋なんてどうですか?」
翡翠の言うとおり、この山の生活に人間の機械は必要ない。食べる分だけを自分で作って、料理して、それで十分。翡翠と二人、望むものはそれだけだ。
じっと泉を見つめて、言葉を返さない翡翠に泉は首を傾げる。
「翡翠さま?」
「そうだな。でも、その前に泉が喰いたい」
そっと耳朶を揺らした甘やかな声に泉はかっと頬を赤らめた。
「翡翠さまっ」
耳をくすぐった低い声に昨夜のことを身体が思い出して、ぞくりと背が震えたが、身体のだるさが勝って、泉はふるふると頭を振ると翡翠の腕から逃げ出した。
「泉っ」
「もう、無理です」
台所に向かって歩く泉の肩を翡翠が抱いて、「じゃあ、夜中ならいいか」と無邪気に尋ね、泉は肩の手をはじいて、軽く翡翠を睨む。
「今夜はしません」
泉の言葉に翡翠がくつくつと笑った。泉はそれにもむっとして、台所を目指して、踵を返した。
愛おしい日常が戻ってくる。
こうして、翡翠と笑いあえれば、それだけで十分幸せ。
夏は翡翠が忙しくて、なかなか一緒に山を歩けなかったが、秋桜は翡翠と見に行こうと泉は密かに決心して、翡翠にわからないよう、そっと微笑んだ。



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