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「山神の花嫁_昔話」
昔話_出会い編

花嫁

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村はずれ、潔斎の宮にある沐浴所に、選ばれた花嫁は有った。
背を覆うほどの長い黒髪、すっきりとした立ち姿のその人はたった一人、沐浴のため浴槽の側に歩みよる。禊の水は山からの恵みだ。湧き出た水をそのまま使っている。お付きの老婆が一人、その人の背を押した。
促され、白い薄手の襦袢のまま花嫁はその身を水へと浸す。もう夏も近いこのころであれば、水に入っても気持ちが良いはずだが、今年は、まだまだ肌寒く、冷たい水にぎゅっと身体に力が入る。花嫁の肌理の細かい肌に鳥肌が立った。
身体が水に慣れるまで、花嫁はそっと水中にその身を浸していた。身にまとった白い襦袢が水のうごきに合わせて揺らめいた。背に流れる黒髪も水面に広がって生きているかのようにゆらゆらと揺れる。言葉もなく、花嫁は、しばらく水の中でじっとしていた。
浴槽の側に控える老婆が頷き、それを見て、花嫁はしずしずと水から上がった。
『沐浴中は口をきいてはなりませぬ』
儀式の前の説明を思い出し、きゅっと唇を横に引いて、花嫁は老婆の座す洗い場へと足を進めた。
寒さを覚えて、腕で自分の身を抱いた。肌に襦袢が張り付いて、気持ちが悪い。濡れた布を透かして、白い肌が透けて見えた。ほかの者の目があれば、美しいながらどこか淫靡だと思ったかもしれない。
老婆が立ち上がり、襦袢を剥いで、身体を洗ってくれた。それこそ身体中を白い布でくまなく擦られる。穢れがあってはならない。確か、儀式の前にそう告げられたことも思いだす。身体中を布で洗いあげられ、新しい襦袢を着せかけられて、花嫁は、再度、水に身を沈める。擦られた肌に冷たい水が微かにしみた。
小さくつきそうになったため息をのみこみ、水面に視線を落として、喉に力を込める。祝いの儀式だ。喜びこそすれ、憂鬱に思ってはいけない。ただ、なされるがまま、あるがままを受け入れる。
花嫁は思考を振り払うように瞳を閉じて、水の感触を確かめた。水は下から湧き上がり、身体の線をたどって流れていく。ここに穢れはない。
また、老婆が首を縦にふった。上がってこいということだろう。
水から上がると、身体を乾いた布で拭われ、最後に香油を身体にすりこまれた。長い黒髪はくしけずられ、こちらも香油で艶を出す。
ほうっと老婆が溜息をもらした。
輝くような肌は抜けるように白く、まるで絹のように滑らかだ。その背に広がる黒髪は緑がかり、どこまでもまっすぐでまるで月のない闇夜のごとし。今年の花嫁は過去に例がないほどの美しさだ。
お籠りのための白い着物を着せられ、潔斎の部屋に通された。
「お疲れさまでございました。ここで明日の夜明けまでお休みください」
老婆に告げられ、花嫁は頷いた。小さな部屋を見渡せば、潔斎の部屋には柔らかい布団以外何もなかった。
明日の夜には命がない。身の上を儚んで、花嫁がその身を傷つけないようにとの配慮だろう。
「緊張でお休みになれないようでしたら、眠り香を焚きましょうか」
老婆の優しい言葉に、過去、あまりに泣きじゃくる娘がいたのだと花嫁は想像し、静かに布団に座すと首を横に振った。
祈りの形に手を組んで、祈りをささげる。祈りは届くだろうか。望みはたったひとつだ。
その気丈で美しい姿は老婆に涙を誘わずにはいられなかったのだろう。
「おやすみなさいませ」
そっと着物の袖で涙を拭うと頭を下げ、老婆は部屋を辞した。
花嫁は祈り続ける。
『この村を、みんなをどうか救って』
そして夜明けも間近な頃、祈り続けた花嫁の身体は、ゆらりゆらりと揺れ、そのまま倒れ込んだ。口元には笑みとそして穏やかな寝息。祭りの朝までは幾許もなく、それでも花嫁はつかの間の平和な眠りに身をゆだねた。

夜明けの気配とともに再びやってきた老婆の手によって、花嫁は仕度をはじめた。
丁寧に髪をくしけずられ、襦袢の上に白い絹の振袖、さらに銀糸でおめでたい模様を刺繍された白い打掛を羽織るとずしりと重かった。
綺麗に整えられた花嫁を前からも後ろからも確認した老婆が長い溜息をついた。
ぬば珠の髪は結いあげられ、角隠しをかぶせられ、白い花嫁装束がさらに白い肌に映える。星が散るような黒い瞳は伏せられた睫毛の下で瞬いている。
「お美しい」
感嘆の声に花嫁はつと目を上げた。老婆が痛ましげに眉を顰めた。目に哀しみの色が揺れ、花嫁は幸せそうには見えなかった。老婆は見ていられなかったのか、そっと目を伏せた。
付添いの者も儀式もなく、花嫁は老婆とともに潔斎の宮を出る。周りの景色に瞳を向け、花嫁は、細く形の整った眉尻を下げる。瞳の哀しみの光が強くなった。
土の道の周りに広がる畑は、乾いて白っぽく、ところどころに雑草が生えている。例年であれば、水が張られ、田植えが終わって、青々と繁った鮮やかな黄緑色の葉が、風にたなびいて命の息吹を感じられる頃であるのに、今年は、水すら張られていない。
また、春になっても初夏を迎えても、日差しは弱々しく、気温も上がらない日が続いていた。
白っちゃけた土が淡い光に照らされているだけだ。畑の中ほどに点在する家々はひっそりと静まり返り、朝餉の仕度の時間であるにも関わらず、煙突からの煙もほとんど見られない。まるで、すでに廃村のようなありさまだ。
「こちらです」
老婆の声に我に返り、差し示された先を見れば、一頭のロバがつながれていた。
本来ならきらびやかな輿がひかれ、花嫁をお披露目するため輿が村中を練り歩き、誰からも祝福を受けて、その周りを華やかに着飾った村人がついて歩くのが通例だが、今回は、その輿すら用意する者も無い。促されるまま花嫁はロバに横乗りし、老婆に手綱を引かれたロバで、本宮まで移動した。道にも畑にも人の気配はない。物憂げに花嫁は視線を手元にうつし、こらえきれずに小さなため息をついた。
本宮は村の中心の神社にあり、そこまでは村の中央を抜ける道が一本。どこまで行っても景色は禊の宮周辺と変わらない。手入れのされていない田畑が広がり、命の息吹は何も感じられなかった。ガーガーと鳴く声に頭を上げれば、カラスが葉がまばらに茂った木にとまり、声を上げていた。巣作りの時期なのに、餌にもありつけずに苛立っているのだろう。
それを目で追って、花嫁は膝に置いた手をギュッと握った。
「もう、村は滅んでしまったのでしょうか?」
花嫁のうつろな声にロバを引く老婆は、首を横に振った。
「それなら、あなたがここに呼ばれるはずはありますまい」
「そうですね」
道を行きながら、辺りを見回して、再度、花嫁は溜息をついた。
固く閉ざされた門戸からは中の住人がどうなっているかは覗えない。しかし、この荒れ果てた村が機能しているとはとても思えなかった。

本宮につくと顔色の悪い神官が入り口で待っていた。老婆の手を借りて、ロバから降り、入り口に立った花嫁を神官が痛ましげに見て、一礼する。そして、花嫁の頭の上で榊を振り、寿ぎの祝詞を唱え始めた。
『天地に来ゆらかすは、さゆらかす。神わがも神こそは、来ね聞こゆ来ゆらかす……』
内容は神聖で明るいのに、死出の旅にでる最期の手向けに聞こえる。
『……すぎゆきて、そらにかかれる八重雲も……』
村でも声がいいと評判だった若い神官の朗々と響くはずの声は時折掠れ、咳込みに中断された。儀式にのっとって、頭を垂れながら、花嫁は時折、心配げな視線を神官に送った。倒れてしまうのではないかと不安になり、ふと顔を上げると、榊をさらに振り上げて、神官は大丈夫だと首を横に振る。咳き込んでも、ふらついても神官は最後まで祝詞を唱え、榊を振り、花嫁を祝福し続けた。しゃらんと榊が音を立て、一度大きく振られると葉がふるんと揺れ、そして停止した。神官は深々と頭下げる。
「本宮を抜け、奥の宮へとお進みください」
頷きを一つ返すと、神官はさらに頭を下げた。それに頭を下げ返し、花嫁が宮の階(きざはし)に足を掛けた途端、神官、がくりと膝をついて肩で息をする。駆け寄って支えたい欲求をぐっと押さえ、痛みに耐えるように目を細めて、花嫁はもう一度、頭を下げた。
老婆に先導されながら、長い回廊を巡り、幾つかの部屋を抜け、庭へと降りた。
庭の向こうに細い上り道が見え、その先に小さな庵が建っていた。小さいが造りの立派な庵だった。花嫁はその庵まで、歩いて上がって行く。
中に入ると玄関の先にある部屋に入る。反対側にも襖が見えて、もう一部屋あるのだと知る。
「ここでお支度を」
そういわれて、老婆の手助けを得て、豪華な花嫁衣装を脱ぎ、また襦袢姿になる。結いあげた髪を下ろし、くしけずると結っていたのが嘘のように、なめらかで黒い流れが背まで落ちた。
寝巻となる白い着物をはおり、帯を締めると花嫁は畳の上に座って、両手をついた。その前に老婆も座って深々と頭を下げた。
「この度は、婚礼調いまして、おめでとうございます。ここより先はお一人で行かれなければなりません」
「ここまで、ありがとうございました。帰路、お気をつけて」
花嫁も頭を下げる。かすかに声が震えた。ここを出るときには、もう誰もわからなくなっているだろう。老婆がうっすらと涙した。
「村のためとはいえ、お恨みなさいますな」
袖で涙を拭う老婆に、花嫁はゆっくり首を横に振った。
「誰も恨んだりしておりません。これが運命(さだめ)なのでしょう」
その言葉に老婆はその場に泣き崩れた。その手をとって、花嫁は哀しそうな表情(かお)で微笑んだ。
「さあ、お気を確かに。私なら大丈夫ですから。もう、行って下さい。陽が暮れてからでは遅すぎますから」
そう、山神の降りるときに、出歩いていてはいけないのだ。山神と出くわしたら、その者は魂までも消滅する。老婆の身を心配する花嫁の手を額におし抱きながら、老婆は涙した。そして、名残惜しそうに立ち上がる。
「お達者で」
こんな時に言う言葉でないことは老婆も知っていた。それでも言わずにいられなかったのだろう。
「あなたも」
花嫁は、奥の宮から去って行く老婆に深々と頭を下げた。肩口から長い黒髪が床へさらりと一房こぼれた。
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