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「山神の花嫁_昔話」
昔話_出会い編

エピローグ

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「今年は畑の実りが見事だ」
雲一つない青空を背に、空に浮かぶ翡翠の腕に抱かれ、感嘆の声を聞きながら、泉は村を見下ろした。畑は青々と葉が茂り、白や黄色の花をつけているものもある。きらきらと日の光にきらめく水の張られた水田は、丈こそ短いが緑の葉が風にそよがれて揺れていた。
水を溶かしこんだ青い空に鮮やかな緑がまぶしかった。
土地は美しく、初夏のさわやかな風が心地よい。だが、空に浮いている状況は翡翠とともにいて五年たった今でも心細い。翡翠の首筋にぎゅっと抱きつく。翡翠が泉を見て、抱く腕に力を込めた。
「出て行った村人も戻ってきたようですね」
見知った顔があるのを嬉しく思い、泉は微笑む。村は人の笑顔と子供の声で溢れていた。
疫病は去り、残った人はそれこそ死に物狂いで村を再興した。村には山の息吹が満ち、土も水も草までもが生き生きとした色を見せる。
「後悔していないか、泉」
復興した村に自分がいられないことを悔やんでいないかと翡翠は問う。
「いいえ。もともと村の一員に私は入っていなかった。気付いていなかっただけで、私は一人でした」
泉は翡翠を見つめる。
「でも、今は翡翠様がいます。自分が孤独であることも知らなかった私に、温かい腕をくださった」
慈愛にみちた瞳で泉は翡翠を見つめ、翡翠もまた情愛のこもった眼差しを返す。
「私の気持ちはご存じでしょう?」
そう泉が告げる。初めは村を救いたいだけだった。だが、救われたのは村だけではなかった。孤独の意味を知らなかった泉をそこから掬いあげ、安心していいのだと、ずっと側にいるからと、温かい心をくれた。贄として花嫁になったのに、気付けば、翡翠が誰よりも大切になっていた。今は、翡翠さえいれば、ほかに何もいらないとすら思っている。
「そうだな。わかっているつもりだ。お前が素直に私を求めるようになったくらいには」
泉の告白に、悪戯っぽい視線を返し、翡翠は笑う。
「翡翠様」
怒ったように睨みつけた泉に、翡翠が声をたてて笑った。
「ほら、祭りの準備が始まったようだ」
下界を見下ろして、翡翠が言う。
「もう、祭りは必要ないと庄屋さんに告げたのに」
輿を用意したり、宮を掃除して飾りつけたり、村人は忙しく祭りの仕度をしている。
「いいじゃないか。これから、祭りはただの行事になる。お前がいればもう贄は必要ないしな」
「翡翠様。今までも贄は食われることもあれば、連れ去られることもありましたけど、それはどうして?」
泉はずっと疑問に思っていて、訊けなかったことを祭りにかこつけて聞いてみる気になった。
「ああ。契約に必要な贄は二十年に一度だった。食ろうた花嫁はその年にあたっていた。あとは連れて帰ったり、一晩語り明かしただけという花嫁もいたぞ」
全部を食い殺していたわけではないと翡翠は言う。
泉が翡翠の世界に行って驚いたことに、翡翠は一人だった。山を司る宮にたった一人で住んでいて、孤独の影が宮を覆っていた。年に一度、神様の会合があって、その時だけ、仲間と顔を合わせるのだという。それまでは、宮で独りで過ごす。何百年もそうやって暮らしてきた。だから、差し出された花嫁は、気に入れば連れ帰っていたと翡翠は話してくれた。神様といえど、翡翠もまた寂しかったのだろう。しかも、数いた花嫁は翡翠にもその世界にもなじめず、みな早くにいなくなってしまった。
『俺はおまえにあやまらないといけないかもしれない』
ある晩、散々、喰われたあとで、翡翠は後悔の滲んだ声を出した。
どういう意味だと泉が見つめ返すと、ばつが悪そうに笑って、泉の髪を撫でる。
『世界に独り取り残されるのを怖がっていたおまえを結局、俺の寂しさと勝手で、人の世界から引きはがし、結局、こんな寂しい場所に一人連れてきてしまった』
翡翠の言葉に泉は目を瞠り、腕を伸ばして翡翠に抱きつく。
『一人じゃない。翡翠様がいます。一つと一つを合わせると二つになりますけど、離れていたら、やっぱり別のもので、独りと同じ。でも、こうやって寄り添っていれば、一つになれる。私の世界は翡翠様のおられるところになりました』
『泉……』
ぎゅっと抱きしめられた熱い腕と胸を打つ鼓動に泉は、独りの怖さはもうどこにもないと思った。翡翠がいれば、そこが世界。そして神様の翡翠は、自分を置いて絶対にいなくならない。
泉は胸が満たされて、ふっと唇をほころばせる。
「泉?」
怪訝そうな翡翠の声に、はたと目の前の翡翠に視線を戻す。
「え。ああ、贄は、全部、連れ帰っていたんじゃないんですね」
幸せな思い出に浸っていたのが恥ずかしくて、泉はぶっきらぼうに言葉を返す。
「なんだ、妬いたのか」
「違います」
それにはじけるように翡翠が笑い、泉は恨めしげに翡翠を睨む。
「食ったのは二十年に一度だけだ、それも契約のためだな。連れて帰ったのも数人だ。他は手もつけてないし、つけても置いて行った。どうして、全部ってことになっているんだろうな」
まったく悪びれずに翡翠は言う。
「なんで全部じゃないんです?」
泉の素朴な疑問に、翡翠は泉の腰を右腕の上に抱えなおした。
「俺にも好みがあるってことだ」
抱えられると泉が翡翠を見下ろすようになり、泉は驚いた目で翡翠を見た。翡翠が愛おしげに泉を見つめた。泉を映した琥珀の瞳が、おまえを愛していると語る。泉の頬が朱に色づいた。
「口づけを、泉」
請われるがまま、泉は身をかがめて、翡翠の唇に自身の唇を重ねる。風に泉のくせのない黒髪が散った。うっとりと瞳を閉じて、泉は翡翠との口づけに酔う。
「もう、おまえだけいればいい。帰ろう。俺たちの世界へ」
ぎゅうと抱き締められて、泉もしがみついた腕に力を込めた。
孤独を重ねた二人は誰よりも相手を求めている。
「ええ。翡翠様。私にもあなただけ……」
囁くような泉の声が風に攫われ、語尾が消えた。すべて喰らって欲しいと告げた声は届いただろうか。
「泉……おまえは……」
抱きしめる腕に力を込めながら、翡翠が声をたてて笑う。一陣の初夏の風が柔らかく二人を包み、二人の姿は風に溶けて消えた。

――永遠(とわ)にあなたの側に。


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