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「天空国の守護者」
トレジャ編

黒い天使(3)

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逃げるように食堂を後にし、キリスエールはアルタイルの処に向かった。このままだと、守護者じゃなくルイスに押し倒されそうだったからだ。
心配してくれるのはわかるけど、男に触られても気持ちが悪かっただけだし。
アルタイルを厩から引っ張り出し、手綱を引くと森に向かって歩いていく。この間の散策で奥に湖があるのを見つけたのだ。
森の中に細く続く道を歩いて行く。この森にも鳥が巣を作っているようで、あちこちから、雛の声がする。見上げるが、濃い緑の葉に邪魔されてわからなかった。空が葉の間からのぞくのをぼんやり見つめた。青い紙に葉を貼りつけたように空と葉の境界線がくっきりと見えて、ああ、もう春じゃないんだと思う。
隣を行くアルタイルもかぽかぽと蹄の音をさせている。警戒するものもないのか、頭もたれ気味で、なんだかゆっくりだ。
自然の音を拾いながら、かなりの距離を歩くと、いきなり森が切れて、視界が広くなった。
「ああ。すごい」
目の前に広がる水の青さに溜息が洩れる。どこまでも広がる青い鏡のようだ。空と対をなす双鏡。右手は森が湖と接しており、水面すれすれに生えている木が水に映り込んでいた。
湖なのに向こう岸が見えない。澄んだ青い湖はひっそりと静かだった。
アルタイルの手綱から手を離し、ふらふらと吸い寄せられるように水辺に寄って水中を覗いた。透明度が高いのか底まで良く見える。かなり奥まで底が見渡せるが、生き物の気配はなかった。あまりに澄み過ぎていて魚が住めないのかもしれない。
顔をあげて、周りを見渡す。アルタイルは森の切れ目で草を食んでいた。
「遠くへ行っちゃだめだよ」
声をかけるとぶるると鼻を鳴らして返事をするアルタイルにキリスエールは目を細めた。
視界の隅に砂に埋もれるように大きな流木が見え、そこへ歩み寄ると腰をおろす。
さざ波ひとつない水面を見つめ、右ひざを抱えた。
『ぼくたちはそのためにいるんだから』
ルイスの言葉が耳の奥に響き、キリスエールは大きく息を吐いた。喉にひっかかったものを吐き出すように。ここではキリスエールに仕事はない。守護者の訪れを待って、彼らの望みをかなえるのがここにいる人間の仕事だ。しかし、キリスエールはそれをしたくないし、またされることもなかった。
ここには全く必要のない人間。それでも故郷にかえることは許されない。
寂しさと痛みが胸の底に満ちてきて、キリスエールは唇を噛みしめた。立てた片膝に額を押しつける。
要らない人間だと思うことは、存在そのものを生きていることを否定されているようで息をするのさえ辛い。
守護者の慰みモノになってしまえば楽になるんだろうか。
引き寄せた膝を強く抱きしめて、キリスエールはかたく目を閉じる。
「キリスエール」
耳をくすぐるような低く甘い声が聞こえた。
「キリスエール」
さらにはっきりと心地のいい声で名を呼ばれて、沈んでいたもの思いから引き戻されたキリスエールは目を開き、顔をあげた。
「え?」
そのまま動きを止める。瞬きも忘れて、目の前を凝視した。見ていてさえも見えているものが信じられない。
目の前には黒い天使が立っていた。嬉しそうな笑みを口元に浮かべている。
長い黒髪を括って後ろにたらし、白いシャツに黒いズボンといういたってシンプルな格好だ。
「……タミル様」
掠れた声で名を呼ぶ。
「覚えてたか」
ほっとしたように言われて、あなたを忘れる人はいないだろうにと思う。
「もう、お加減は大丈夫なのですか」
ずっと訊きたかったことが口をついた。
目が覚めたらあっという間に飛び立ってしまった黒い天使をキリスエールはずっと気にしていた。怪我は治っただろうか。傷は残らなかっただろうか。答えの返らない問いを何度も投げた。
大丈夫だと思い、まだ、伏せっているのかとも思っていた。
見上げたタミルはひどく元気そうだ。顔色もいいし、すっきりと立つ姿も病人には見えない。髪も艶やかさを増し、瞳には力がある。
キリスエールは安堵のため息をついた。
「お前のおかげで命拾いしたよ。そういう、お前は少し痩せたみたいだな」
頬に手を添えられ、その温かさに泣きたくなる。
トレジャに来てから、キリスエールは頬が少しこけた。慣れない生活にも守護者に怯えるのにも疲れ、気分は塞ぎがちで、食欲も以前よりない。
頬を片手で包んだまま親指で撫でられて、キリスエールは瞳を閉じる。
「俺を助けたせいで、ここに送られたって聞いた」
タミルの言葉にキリスエールは首を横に振った。
そのはずみにタミルの手が頬から離れる。
「タミル様のせいじゃありません。タミル様は何もしていない。ずっと意識がなかったですし」
俯いて返事をすると砂利を踏む音がして、タミルが横に腰を下ろす気配がした。
頭に置かれた手が髪をそっと撫で、そのまま引き寄せられた。額がタミルの鎖骨にあたる。
「元気がないな」
頭をタミルに預けたまま、小さく頭を振って否定する。
「そんなことありません」
「そうは見えない」
髪にタミルの息を感じた。声がとても近くで聞こえる。
額から伝わってくる体温がキリスエールの心を脆くし、心の中で溢れそうになっていた思いが、口をついた。
「俺……俺はここでは無用の人間なんです」
いざ口にだすと心で思っていたより、胸を締めつける。自分の言葉で傷つくなんてどうかしているが、要らない人間だと耳で聞くとそれが真実なんだと思い知らされた。
「なんで、そう思う」
「ここがどんな場所だかご存じでしょう。守護者のために僕らはここにいる。でも、僕は守護者にほとんど会っていない。金と銀の天使様とあなただけ」
思ったより大きな声が出た。心が震えて、気持ちが高ぶって、タミルが悪いわけではないのにあたってしまう。
「金と銀の天使?」
タミルの声が訝しげに響いた。
一緒にいたからてっきり友達なのかと思って口にしたがまずかったかと口を手で覆い、キリスエールは勢いよく身体を離した。見上げたタミルは眉を寄せている。
「えっと、あの……」
「セインとレイラース?」
どう取り繕っていいかわからずに、おろおろしていると名前を出されて、キリスエールは視線を彷徨わせる。嘘をつくわけにもいかずに、仕方なく首を縦に振った。
「あいつら何しに?」
問われても答えられない。俯いたまま動かないキリスエールをタミルが見つめている気配がした。だが、何も言えない。
「何かされたのか?」
それには首を横に振る。レイラースにはキスをされたけど、それも何故だかよくわからない。セインはもっと不可解だった。
「そうか」
なぜだか、ほっとした声音だった。
「いつからトレジャにいるんだ?」
前にも同じ質問をされたと思い返す。あれは、セインだったか。
「ひと月です」
タミルは驚いた顔をした。
やっぱり異常なことなのだとキリスエールは俯いて唇を噛む。
ぐっと両肩を両手で掴まれた。
「俺たちは人間の気配が見える。気配は人によって違うから、個人の特定も可能だ。お前に会えたのもお前の気配を探ってきたからだが。お前の気配は、ここにいる誰よりも強くて、目立っていた」
だから、守護者は気に行った者のところに降り立って、好きにするのかとキリスエールは思った。
また、沈んでしまったキリスエールをタミルは抱き締めた。
「俺がお前を買うよ。これからずっと」
何を言われたか、わからずキリスエールはきょとんとし、それからその意味に気づく。おかしさが湧いてきてキリスエールは笑いだした。乾いた笑い声が喉を震わせる。
「キリスエール……?」
戸惑った声が触れた身体から聞こえた。
「タミル様。俺たちは身を売っているのではないので、買う必要はない。喰らうのは守護者の自由です。俺たちに拒む権利はない」
笑いながら涙が出た。タミルは他の守護者からキリスエールを守ろうと言っているのだ。
「そうなのか。毎晩ここに来れば、他の守護者に会わずに済むのか?俺のために側にいたらそれがお前の仕事にならないか」
タミルの言葉が胸に落ちる。ここにいる意味を与えてくれようとしているのを感じて、さらに心が痛んだ。
タミル様は優しい。こんな俺を力づけようとしてくれる。
タミルの胸を手で押して、身体を少し離すと涙で濡れた瞳をあげる。
「ありがとうございます。お気持ちだけ受け取っておきます」
心遣いは嬉しかったが、同じ守護者が毎晩など通って来れないことはわかっていた。
「俺なら大丈夫ですから」
他の守護者には今でも会わない。守護者にされることを思うと息が止まりそうに怖い。
帰りたい、故郷に。でも、帰れない。
心の葛藤は全て押し殺して、キリスエールは笑おうとする。口元が歪んでうまく笑えない。
キリスエールの瞳を黙ってタミルは見る。その瞳に映る自分はなんとも滑稽な顔をしていた。
「わかった」
はっきりとタミルは言った。
なにがわかったのだろう。変な奴だと思ったんだろうか。
視線を合わせていられなくて、目を伏せた。頭にタミルの手の重さを感じ、手のひらを頭の上にぽんと置かれたのだと思った。
「自分の身は自分で守れ」
キリスエールははじかれた様に顔をあげた。瞳を大きく見開く。口が開き、でも言葉にできない。
「何か出来るか?弓とか剣とか」
夢中で首を横に振る。そんなことできっこないという意味を込めた。
「剣とナイフの使い方を教えてやる。それで身を守るんだ」
否定したのに、できないと言ったのに、タミルはもう一度、言った。身を守れと。
その言葉にキリスエールは振りづけた頭を止め、タミルで視線を止めると儚げに笑った。
消えそうな微笑み。
こんな表情は生まれてからしたことがない。いままでは、楽しければ笑い、怒り、単純な感情だけでよかった。トレジャに来て、それだけで済まなくなった。
守護者に逆らうな。それがここの掟。守護者から身を守ることはできない。
しかし、守護者に武器をとれ、身を守れと言われた場合、どうすればいいのだろう。
「次来るときには、練習用の剣を持ってこよう」
タミルはそう言って、口端をあげた。尖った犬歯が唇の端から見えたその顔が、いたずらを思いついた子供のようだ。
そうか。身を守れないことぐらいタミル様にもわかっているんだ。
タミルの笑みにキリスエールは気付く。これはタミルなりの慰めなんだと。
自嘲の笑みが深くなる。
「お前は俺の命の恩人だ。なんでも言ってくれ、お前の望みは俺がかなえるから」
身をかがめて、タミルはキリスエールと目線を合わせた。
「だから笑っていてくれ」
どきりとキリスエールの心音が高まった。深い黒い瞳に見つめてこんなことを言われるとどうしていいかわからない。
「……タミル様」
呟くと抱き締められた。
キリスエールより高めの体温が心地よい。包み込むように抱き締められて、キリスエールは瞳を閉じた。
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