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煉獄の恋

第6章 すれ違いの金曜日(2)

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夜も10時を過ぎると飲むだけの客が増えてくる。店内にジャズのリズムが満ちて、照明が少し落とされた。
一人で飲む客もいれば、カップルで微笑み合っている客もいる。聖はこの時間が一番好きだった。慌ただしくもなく、落ち着いた時間が流れている気がするからだ。
「高郡、フロアはいいから、岸のアシストに入ってくれる?」
フロアでテーブルを拭いていると、客を案内した店長から戻り際に声をかけられた。
「はい」
笑顔で返事をして、やりかけのテーブルだけ拭きあげた。
「よし」
背を伸ばして、カウンターに戻ろうとすると、きぃっと蝶番の音がしてエントランスの木製の扉が開く気配がした。
そちらに身体を向き直らせて、聖は頭を下げた。
「いらっしゃいませ」
「こんばんは。カウンター空いているかしら」
涼やかな女性の声に顔を上げると、扉の前に黒のワンピースに同色のジャケットを羽織った女性が立っているのが見えた。長い髪を背に流し、色の白いやけに唇がセクシーな感じの人だ。
「はい。ご案内しま……」
女性に微笑みかけて、聖は口元を凍らせた。女性のすぐ後ろに背の高い男性が立っている。仕立てのよいスーツに長いコートを羽織った男性は、同性から見ても憧憬に値するほどの容姿だ。だが、いまは、その切れ長の瞳が驚きに見開いて、そのまま固まっていた。
……神栖さん。なんで?
聖もまた、驚愕に身体をこわばらせたまま女性の後ろに立つ神栖を見つめる。
「聖……」
低く名を呼ばれて、聖は、はっと我に返った。
スーツに身を包み、一歩下がったところから女性をエスコートしている神栖は、ため息が出るくらい決まっている。
その自然な様子に聖は身体の脇に垂らした拳をギュッと握った。動きがぎくしゃくとして、自分がひどく動揺していることに内心舌打ちした。
「あら、知り合い?」
二人の顔を交互に見ながら、女性が指を顎にかけて首をかしげた。そんな様子すら艶っぽくて聖は奥歯をぐっとかみしめる。
「いえ、お人違いかと」
一瞬にして無表情の仮面の下に動揺を押し隠し、聖は即座に告げた。声がひどく冷たく響く。神栖が怪訝そうな顔をするのからあからさまに目をそらし、聖はすっと腰を折った。
「こちらへどうぞ。ご案内します」
そのまま神栖と視線を合わせずに、二人をカウンターに案内する。二人がついてきていることを背中からの気配で感じる。心臓が拍動を大きくし、それなのに手足の先が冷えた。
「段差がありますから、お気を付け下さい」
聖は無意識にセリフを口に乗せている。全てが頭を素通りしているのに、マニュアル通りに動く身体がおかしい。だが、接客は完璧で、とても相手が知り合いとはだれも思わなかっただろう。聖も知らない他人を案内しているつもりだった。
二人が席に着くと、聖はそのままカウンターの端にいる岸の隣へと移動した。
「カウンターに二名様。あとをよろしく。できることはアシストするから」
「ああ、ありがとう」
聖に向かって微笑むと、岸はカウンターの中を移動し、神栖たちの前に立った。
「いらっしゃいませ」
きちっと頭を下げて、岸が二人に挨拶をし、目の前にコースターを差し出す。
聖はカウンターの隅でそれを目にしていた。だが、視界に紗がかかっているようで現実味がない。まるで映画でも見ているような気分で、肩を寄せ合って座る男女を見る。
「モルトをダブルで」
「私は、ジントニックを」
「かしこまりました」
岸は再度、きれいな姿勢で一礼すると、準備に入る。グラスに氷を入れ、ウィスキーを注ぐ。ジントニックもグラスに用意し、マドラーでかき混ぜて、二人の前に差し出した。
その間も女性の右に座った神栖は、女性の話に相槌を打ちながらも女性越しに聖の方に視線を送ってくる。それに耐えられず、聖は岸の準備から目を離し、神栖に背をむけるようにグラスを所定の位置に片づけ始めた。
どうしていいかわからなかった。神栖と女性の距離が近いことも、彼女が涼やかに笑うのも気に障る。体の内側をざらざらしたもので撫でられている気がする。
だが、内心の動揺も苛立ちも見せたくなかった。どうしてこんな気持ちになるのかも自分でわからないのに、神栖が自分以外の誰かと二人の時間を過ごすことに憤っているなんて認めたくない。
聖は、送られてくる視線にはことごとく気づかないふりをした。本当は身体が震えて、うるさいくらいに心臓が脈を打っていたのに。
『なぜ?あれは誰?』という言葉だけがぐるぐると頭の中を回っている。
サーブが終わったのだろう岸はカウンターの隅で台を拭いている聖の側まで戻ってきた。
「聖、氷割ってくれるか」
耳に唇を寄せて囁かれた岸の頼みに、小さく頷きを返す。冷凍庫から塊の氷を出し掌に乗せると、流しに置いたボールの上で、アイスピックで聖は氷を割り始めた。氷の冷たさを感じないほど、手先が冷えている。周りから目を背けるように聖は氷だけを睨み付け、がつがつとアイスピックを氷にあてた。氷の透明な表面に傷が走り、白く濁る。
氷を割らなければ、きれいに丸く。角を落して、グラスのサイズに……。
心で唱えながら、聖は必死に集中した。そうでもしないと神栖が気になって、二人がどんな話をしているのか知りたくてどうにかなりそうだ。カウンターの端は、二人から離れているので話の中身は聞こえてこないが、時折笑い合っている声だけが聖のもとに届いた。
「あれ、神栖輝だろう」
隣に立った岸がグラスを拭きながら告げた言葉に、聖は肩をひくんと震わせた。唐突に跳ねた鼓動に顔をしかめて、聖は岸を下から見上げた。
なんで知っているんだと瞳で問う。
「夏に俺たちの大学で講演したよな。覚えてる?」
つと視線を氷に戻し、聖はアイスピックを氷に当てる。是とも非とも答えない。答えたくなかった。
「たしか、俺たちの先輩だったよな。さすがに青年実業家ともなると連れも良い女だな」
暢気な感想を述べながら、ちらりと二人の方に視線を流した岸につられて、聖も気になって、そちらを見た。神栖の隣に座ってグラスを傾けている女性はスタイルが良く、確かに美人だ。
キャリア系で自信に満ちた女性で、大人の魅力が内からにじみ出ていて、あの女性に迫られたら男ならだれでもなびいてしまいそうな気がする。
何の話をしているのだろう。女性はすこぶる機嫌がよさそうに見えた。
聖はできるだけ二人を見ずに、下を向いて氷を割り続ける。かすかに手が震えているのに内心舌打ちした。動揺しているなんて認めたくない。
なかなか割れない氷に苛つきがまして、聖は少し強めに氷をアイスピックの先で突き刺した。
あっと思った時には遅かった。するりとアイスピックが氷の表面を滑り、聖の指をかする。
「っ痛…」
「おい、聖」
指の先からまるく血の珠が滲み出て、横で岸がぎょっとした声を上げた。
「あっ」
聖は呆然と自分の指先を見ていた。見る見る間に血があふれて、指の脇に垂れた。その手首を岸が掴み上げ、そのまま指を口に含んだ。
「ちょっ……岸……」
いきなりなことに、聖は驚いた顔を岸に向け、その後、険のある小声で名を呼ぶ。
「血が氷に落ちるだろう」
どうってことない顔で、岸は聖の指の血を舐め取った。行動は突飛すぎるが、言うことには一理あると、聖は口を噤んだが、何も舐めなくてもと思わずにはいられない。岸を強く睨むと肩を竦めた岸が口から聖の指を離し、聖の背を手で押した。
「奥で手当てしよう」
促されるままスタッフルームへと足を向けた。神栖が視界から消えると少しほっとする。指はずきずきと痛みを訴えているが、それすら痛いほど打つ鼓動を紛らわすには都合がいいとすら思う。
「くすっ」
岸の小さな笑い声が聞こえて、聖は訝しげに岸を見上げた。岸は肩越しに後ろを見て、口元に皮肉気な笑みを浮かべている。
「岸?」
怪訝に思って、視線の先を追いかけようとすると、岸はぱっとこちらに向き直った。体で聖の視界を遮った岸は聖と目が合うとにっこり微笑んだ。
「なんでもない。ほら手当てしないと」
くるりと体の向きをかえられ、背を押されて、釈然としないまま聖は、岸と奥のスタッフルームに入った。
「岸。さっきの……」
「え?なんでもないって言ったろう?それより大丈夫か。血がすごい出てるけど」
岸の言葉に聖は手を見る。ずきずきと心臓の拍動とともにうずく傷口からは真っ赤な血が流れていた。岸はぶつぶつ言いながらロッカーから救急箱を取り出した。
「大丈夫だけど、血が止まらない。ティッシュくれ」
掌を上にし、血が垂れないように逆の手で受けるようにしながら頼むと、救急箱を手にした岸が聖の手首を取る。
「派手にやったな」
左右に手首を傾けて、傷の具合を見る。指の腹がざっくり切れていて、あとからあとから血があふれ、聖が手を動かすとそれに合わせて聖の指を血がつたった。
わずかに眉をひそめて、岸は聖の指を自身の口に含んだ。
「だから、やめろって。そうやって濡らすから止まらないんだ」
聖の文句にも岸は指をくわえながら、にっこり笑う。
「血が床に落ちるよりいいだろう。それに、ティッシュだと毛羽が傷に着く」
指をくわえたまま救急箱を開けて、岸は消毒薬と綿とガーゼと包帯を取り出した。
「大げさだよ。絆創膏でいいんじゃ……」
「この血の量だと駄目だろう。すこしきつめに巻いておくから、30分後に一回緩めて」
脱脂綿に消毒薬を含ませ、口から指を抜き取ると脱脂綿でそっと傷の周りを拭き上げられて、聖は眉を寄せた。
「っ痛」
傷に消毒薬がしみる。だが、岸は頓着せずに傷にガーゼを当て、きつめに包帯を巻いた。
「結構、きついよ。指先が白くなる」
「このくらいにしておかないと血が止まらないんだ。心臓より高く手を上げとけよ」
言われるがままに指先を心臓より高めに固定するが、まるで指先に心臓があるかのようにずきんずきん痛む。
「岸って、こういうの得意なのか」
「弓道部、出身だからな。得意というか慣れてる。まあ、だけどほんと気をつけろよ。アイスピックも刃物なんだからさ」
「ああ」
相槌を打って、聖は俯き、唇を噛んだ。
傷よりも胸が痛い。この心臓を鷲掴みにされているような、かき回されているような痛みが辛い。
神栖さん……。仕事じゃなかったのか。仕事で会えないって……。じゃあ、あの女性(ひと)は誰?
何度も頭を巡った疑問。
考えては駄目だ。いままでどうしていたんだっけ。感情を押し殺すのは慣れているだろう。
怪我をしていない方の手を強く握りしめた。
考えるな。心を覆えばいい。ふたをして、凍らせて、そしてそちらを見ない。
「聖、大丈夫か。痛む?」
心配そうな岸の声が上からふってきて、聖はのろのろと顔を上げると口端を上げて微笑んだ。
「いや、あ、うん、痛いけど、大丈夫」
岸が痛ましげな表情をするから、顔色が悪いのかもしれないと思う。そんなに痛そうに見えるだろうか。
「でも、その傷じゃ水仕事は無理だな。もう上がる時間までそうないし、店長にきいてくる」
「あ、岸……」
引き留める間もなく岸は店に戻ってしまい、追うこともできずに、しんとしたスタッフルームの椅子で聖は呆然と座ったままだ。
「なんで……」
一人になってしまうと、考えないと思ってもよけいにいろいろな思いが押し寄せてきそうになり、慌てて聖は目を閉じた。
考えては駄目だ。考えては。
それだけを呪文のように頭の中で繰り返す。椅子に悄然と座ったままうつむいて、聖は何も考えるなと自分に言い聞かせる。
「聖、帰っていいって」
どのくらいそうしていたんだろう。短いような気もするし、ひどく長かったような気がする。不意に聞こえてきた岸の声に聖は我に返った。声のほうに顔を反射的に顔を上げる。
「岸……」
「大丈夫か?顔色が悪いぞ。血に酔った?」
聖は小さく頷く。
「送って行くよ」
肩に手を置かれて、優しくかけられた声に聖はあわてて岸を見る。
「でも、お前まだ上がる時間じゃなかっただろう」
「お前を一人で帰せないだろう。店長も心配してた。送って来いっていうのは店長命令。それにさ、包帯ももう一回は変えないと駄目だろうし。ほら、いこうぜ」
岸に腕をとられて、聖は立ち上がった。足元が定まらずにおぼつかない気がする。
「気にするなよ。お互い様だしさ」
屈託なく笑う岸の表情に助けられ、聖はありがとうと小さく頭を下げた。
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