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煉獄の恋

第6章 すれ違いの金曜日(5)

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朝の光がカーテン越しに、部屋に満ちていた。
背の痛みにふっと意識が浮上して、聖は目を開けた。ここはと思って、リビングの床で眠ってしまったんだと気付く。
のろのろと身体を起こしながら、どうしてこんなところで寝たんだっけと首を傾げると、一気に昨夜の記憶がよみがえる。
きゅっと絞られるように胸が痛んだ。昨夜より酷くなっている気がして、右手でシャツの胸の辺りを握った。シャツに皺が寄る。唇を噛んでうつむくと、頭上から岸の声がした。
「おはよう、聖。先に洗面所借りた」
ふっと顔を上げると日の光の中、微笑む岸が見える。
「あ、おはよう」
反射的にあいさつを返して、岸の目を見た途端、昨日、抱き寄せられたことを思い出す。あまつさえ、あったかくてそのまま眠ってしまったことも。
かっと顔が頬も耳も熱を持った。あまりの衝撃に混乱して、岸に縋ってしまった甘い気持ちが恥ずかしい。暖を取っただけだとわかっていても、無性に照れた。
「お茶入れようか」
岸は挙動不審だろう聖にはまるで気が付かないように、キッチンへと向かう。
「お茶?朝は珈琲だろう」
慌てて岸を追う。
「えー。寒いし」
やかんを火にかけながら、岸が笑う。論理もへったくれもないセリフに聖は呆れた。
二人でテーブルでお茶を啜る。岸はまた、エアコンの吹き出し口の下に陣取って、両手で湯呑を抱えていた。
まるで、昨夜から時間が動いていないかのようだ。
だが、聖の世界は昨夜で一変してしまった。自分が神栖にとって一番ではなかったという事実は、聖に重くのしかかっていた。できるなら認めたくないが、本当のことだ。甘い言葉に乗せられてその気になっていた自分がバカだっただけ。だから、この胸に巣くう胸の痛みと、腹の底を渦巻く嫌な気分は、自分でなんとかするしかない類の問題だ。
「土日のバイトは?」
岸の言葉にふっと我に返って、聖は岸に視線を向けた。何を聞かれているか頭にしみこむまで時間がかかる。
なんだか、全然頭が働かない。きっと寝不足のせいだろうと聖は目をこすった。
「何?」
「だから、バイト。今日明日も行くのかって?」
困った顔した岸に聖は頭を横に振った。
「土日は、レポート」
「うげ、忘れてた」
眉間に皺よせて、天井を仰いだ岸に聖は笑う。
「間に合うのか?」
「無理かも。聖、一緒にやってくんない?」
そうだなという返事は喉に絡んで出てこなかった。唇を結んで、聖はただ岸を見た。ずきずきと胸の痛みがひどくなる。鼓動を感じるたびに、強く引き絞られて、聖は大きく息を吐き出した。
「レポートの前にもう一眠りしたほうがいいかも」
ことんと岸が湯呑をテーブルに置いた。心配そうな顔に聖は首を傾げる。
「寝不足って顔だ。顔色も悪い。もしかして、俺、風邪ひかせた?」
だったら、ごめんとすまなそうに身体を小さくした岸に聖は再度頭を横に振った。
「風邪はひいてない。たぶん、寝不足だと思う。今週、レポートだの宿題だので、夜中過ぎた日が多いからさ」
できるだけいつもの通りに微笑む。顔の前に一枚仮面をつけているような気分だった。
「そうだな。ゆっくり寝たほうがいい」
のろのろと岸が立ち上がった。名残惜しそうに、ためらうように支度をして、玄関へと向かった。
「じゃあな、聖。また月曜日に大学で」
玄関の扉の前で、コートの襟もとに首をすくめて埋めながら、岸が小さく手を振った。
「ああ、また。ありがとな」
何事もなかったかのように聖はいつもの表情をはりつける。
「……聖。あのさ……」
「何?」
「熱出たりとか、しんどくて飯食えないとかあったら、いつでも呼んで」
心配げな岸に聖は面食らった顔をして、それから笑う。
「風邪でもないし、具合もわるくないから、心配するなよ。ただの寝不足なんだから」
「そうか?」
じっと聖をみて、何度か岸は眼鏡の奥の目を瞬いた。右腕がかすかに上がるように見えたが、拳を握りこむと、ひどく躊躇しているように聖に背をむけた。
「じゃあ、また、月曜な」
笑って手を振り、岸が振りかえしたのにさらに微笑んで、聖はドアを閉めた。ドアが閉じると笑みは綺麗に顔から消え、かちりと鍵をかけるとそのままドアに背を預けた。立っているのがつらくて、ずるずると背をドアに擦りながら座り込む。
「最悪……」
ドアに頭を凭れさせて、ぽつりとこぼした自分の呟きさえ自身を傷つける。空中に視線を飛ばして、そういえば、前にもこんなことがあったとふっと笑う。
そう、神栖の過去を見たと思った時だ。彼が過去に付き合った男を目撃した時。そして、その人間に向ける神栖のひどく醒めた瞳に、いつか飽きられたらこの瞳が自分に向くのかと恐怖に慄いた。
実際は元彼でもなんでもなかったのだが、神栖は男女問わずにモテる。きっと今後も神栖と付き合ったことのある人間を見かけることがないとはいえない。もしもそんな風に神栖の過去を垣間見るたび、自分は酷く辛い想いをするだろうとその時も思った。だけど、それでも良いと思ったから、いままであの人の側にいた。
しかし、今回は過去ではない。そして、自分は恋人でもなかった。
もう忘れてしまえと声がする。今ならまだ引き返せる。死ぬほど辛いだろうが、今まで見ないふりして押し殺してきた形にならない想いを神栖に告げていない今なら、何もかもなかったことにしてしまえるだろう。
聖は自分の膝を身体の方に引き寄せるとその上に額をつけ、きつく目を瞑った。目尻からあふれた涙が頬を伝った。
もう終わりにしよう。もともと交わってはいけない道だったのだから。
昨夜、寝る前の考えがよみがえり、再度、聖は心を決める。
喉の奥がぐっと鳴った。それでも溢れる涙は止められなかった。
「今だけ、今だけだから」
自分に言い聞かせるように呟いて、聖はそのままの姿勢で泣き続けた。
泣いて全てが忘れられるなら、この痛みが軽くなるならと願いを込めて。
涙が膝頭を濡らしていくのをぼんやり感じながら、聖はいまだけはと泣くことを自分に許した。

部屋に差し込む日差しが弱くなり、カーテンがほのかに赤く染まり始める。
涙はずいぶん前に止まったが動く気になれずに、玄関先に座り込んで聖はいつまでも膝を抱えていた。同じ姿勢をとり続けたために関節が痛むのか、それとも薄れない胸の痛みか判然としないまま、聖は目を閉じる。
思い立ったら即、行動する神栖が、しびれをきらして衝動的に自分を迎えにくるかもしれない。いま、自分が背を預けている扉が力任せに叩かれて、開いた扉から神栖が現れるかもという怖れにも似た期待は果たされることがなかった。
全てなかったことに。もとに戻せばすむこと。
何度も繰り返した言葉に、できないという声が返る。
これが失恋なのか。
そう思うが、果たして恋だったかも定かでないと苦く嗤った。
どうとも言えない関係だった。出会って半年、しかし、会えたのは数えられるほど。
身体だけの関係ともいえるかもと思い、また昏くわらった。
お前も楽しんだだろう。
自分の中から聞こえる声に、そうだなと思った。確かに溺れるほど楽しんだ。身体を求めあうことが、あんなに良かったことはいままでない。
それだけだったんだ。
さらに聞こえる声にそうだなと再度答えた。
「もう全部やめよう」
快楽を追及していただけと、神栖はそれを教えただけだと聖は胸の中で呟いて、ふらりと立ちあがった。足は痺れて、節々がきしきしと音を立てた。
部屋に入って、周りを見渡すと、投げ出したままの携帯電話が見えた。
テーブルに近づいて、携帯電話に手を伸ばし、指先が触れるとまるで熱いものにでも触ったように手を引っ込めた。
「たかが電話だ」
自分のとった弱気の行動が許せなくて、聖は怒ったように呟くと携帯を持ち上げ、電源を入れる。
学生にとって外界とのつながりを保証する電話は手放せない。だいたい電話をしてくるのは神栖だけではないのだから、このままにはしておけない。
入っている4件の留守電を聞かずに消去し、神栖からのメールも開かず全て消した。
神栖の携帯番号を着信拒否に設定する。
そして、電話の着信を無音にする。
もう、来たらすぐに見なければいけないメールも出なければいけない電話もないから。
これだけで神栖との連絡手段は全て途絶える。簡単なことだ。
それだけの絆だったということ。
電話を鞄に戻し、聖はぐっと身体を伸ばした。すでに夕方に近い空をカーテン越しに睨み付ける。
心を覆う殻を作らなければいけない。最初から。
もう誰にも中に踏み込まれないように、頑丈で、厚い殻を自分の周りに張り巡らせるのだ。透明な卵にくるまれて、安心を得るために。
大きく息を吐き出し、聖は足元の鞄から、ノートと資料を取り出した。隣の部屋から、さらに辞書と何冊かの本をとってきて、テーブルに着く。
レポートの期限は月曜の朝だ。あと1日ちょっと。
ノートを開くと聖は、向こうを見通すように強く、本を見つめた。
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