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空の月を恋う

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鼓動が早くなり、体温が上がる。ひどく気分が舞いあがっていた。
バーカウンターの中で机を拭きながら、この店のバーテンダーである加瀬広夢は目線を上げると、カウンターの一番端の席でグラスを傾ける男性の大きな手をうっとりと眺めた。
趣味のいい音楽と居心地のよさを売りにしたバー『クロスロード』は新宿の繁華街から少し外れたところにある。ゲイが集う界隈であり、この店の客は圧倒的に男性が多い。彼らは憩いと癒しを求めて、毎夜、ここで喉と心を潤していく。
店はそう広くはない。四人がけのテーブルが四つとカウンターがあるだけの店内は、電気ではなく、アルコールを燃やすランプが壁に掛けられ、淡い光に満ちていた。ウッドベースがよく響く煉瓦の壁に、炎が揺れるたびに客の影が踊る。中世の城の様な幻想的な景観だ。
「マティーニを」
注文の声にはたと我に返った広夢は視線を戻し、目の前の年配の男性客に柔らかな微笑みを返した。
また、見惚れていたと大きく波打った鼓動と共に思いながら、広夢はシェーカーに分量を量った酒を入れると、蓋をして雑念を払うように背筋をぴんと伸ばした。身体の左側でシェーカーを上下に動かす。黒のベストにズボン、白いシャツにえんじ色のネクタイという服装が細身の身体にフィットし、手にした銀のシェーカーがランプの光を反射した。
用意したグラスにシェーカーの中身を注ぎ入れ、オリーブを落として、コースターの上にグラスを置くと客の前に滑らす。自分を見つめる男性客ににこりと微笑みを返すと小作りの顔でひときわ目立つ大きな目が柔らかく弧を描いた。
カウンターを移動して、広夢は大きく息を一つ吐き、流しの横に置かれたグラスを洗い始める。肩まで伸ばして後ろで纏めた茶色の髪にランプの炎が映り込んで、時折、金色に光る。ジャズのリズムに満たされた店内に、水音と音楽が響き、それらが耳の底で混ざり合い、広夢はそっと目線をあげた。
バーカウンターの端、今、広夢の目の前に座っている男にまた視線を走らせる。目を向けずにはいられないその男に。
男は物静かにグラスを傾けて、店内に流れるジャズに耳を澄ませている。黄金率というものが存在するのなら、まさに目の前の男性を指すのだと広夢は思う。長めの不揃いな黒髪に切れ長の目、灰褐色の瞳が嵌った目は若干、三白眼だが、彼の容姿を損なうものではない。全てのパーツのバランスが絶妙だった。誰もが見惚れるだろう容姿をもつ男はゆっくりとグラスに口をつける。嚥下するとともに喉が上下した。
彼を見ると感嘆の溜息しか出ない。琥珀色の液体の入ったグラスを傾けているだけなのに、目の前の男は誰しもが目を奪われるほどの容姿に男らしい艶を放っている。
笑ってくれないかな。彼が微笑んだらどんなにいいだろう。
目の前の彼をちらりと盗み見ながら、広夢はいつも思うことをくり返した。カウンターでグラスを傾ける彼は、瞳にいつも翳を抱えている。この嘘みたいにきれいでどことなく孤独な彼を一目見るなり広夢は惹かれ、目が離せなくなった。
二十四歳になる今まで、一目惚れなんておとぎ話だろうと思っていた。相手のこと何も知らないのにどうやったら好きになるんだと。だが、初めて彼の姿が目に映った時に、心臓は破裂するかと思うくらい胸を叩き、彼以外のものは視界から消えた。あの日、自分がその後どうしたか実はいまだに思い出せない。ふらふらと家に帰って、溜息ばかりついていた気もする。ただ、彼の顔が瞼から離れず、カウンターで杯を傾ける姿を何度も思い出した。全てに現実味がなく、足元が浮いているようで心もとなかった。
それ以来、彼は夢にまで出てくる。夢では自分を優しく見つめて笑うのだ。実際には、笑ったところなんて見たこともないのに。
火曜日になると彼は現れて、バーカウンターで二杯だけウイスキーを飲んで帰る。それは今まで一度も違えられたことがない。毎週、ここでグラスを傾ける彼に対するこの切実なる気持ちをどうしていいかもわからず、広夢はただここに通ってくる彼を見つめ続けた。
気付かれないようにその姿を目で追う。ドキドキする鼓動を持て余しながらも、見つめているだけで幸せだった。会話があればいいのにと思ってはいたが、完璧なまでの容姿は全てを拒絶しているようで、声をかけるのをためらわせた。彼は注文以外では口を開かない。だから、広夢は一年間、大きくて節ばった指でグラスを持ち上げ、ゆっくりと酒を楽しむ彼をただただ見つめていた。それで良かったはずだったのに、魔が差したのかもしれない、今夜は。
先ほどマティーニを出した常連客が席を立ち、会計を済ませた。
「うまい酒をありがとう。またくるよ、加瀬くん」
ひらひらと手を振り、客が出て行くと店の中はまた、ジャズの音だけが支配する。ウッドベースのリズムが店内を渡る。
カウンターに広夢は戻り、洗いものの続きを始める。カウンターの中に今夜は広夢一人だ。店長は店舗の会合だとかで、さっき出かけて行った。ランプの影が揺れるフロアには広夢と広夢の思い人の二人だけが残された。こんな夜は初めてだ。いつになく鼓動が早いが、それを表に出さないように必死に抑える。
アルトサックスの旋律が流れる中、広夢は杯を傾ける彼を視界の端に置きながらグラスを拭く。時折、汚れが落ちたかの確認のためグラスを光にかざしながら、グラスを通して彼を見た。長い前髪の下、彼の瞳がグラスの氷が溶けて傾くのを眺めている。
広夢の一番幸せな時間。
「もう一杯もらえるか」
低音の甘い声が広夢の耳をくすぐり、広夢は「はい」と返事をし、飲み終わったグラスを下げた。氷の入った容器を冷凍庫から出し、大きい塊の氷を取ると、アイスピックで砕く。がつがつと角を落とし、グラスに入る大きさに丸く形を整えていく。できた氷をグラスに落とし、上からウイスキーを注いで、マドラーでかき回した。
「どうぞ」
グラスをコースターに乗せ、すっと差し出す。
「あっ」
相手が手を出したのが早かったのか、自分が手を離すのが遅かったのか、彼の指に自分の指先が触れた。思ったより冷たい感触にぞくりと背が震えた。
「す……」
すみませんと言おうと思った。本当はそう言うつもりだった。だが、口をついたのは
「……好き……」
震える声が自分の耳を打つ。
「……好きなんです」
広夢はバーカウンターに手をついたまま動きを止めた。店内に流れる曲が、やけに耳に響く。リズムを刻むドラムの音が広夢の鼓動と同期した。
今なんて……言った?
ガンガンと耳鳴りがし、やってしまったことの重さにこのまま座り込んでしまいたい。頬が熱くなるのを感じたが、恥ずかしいより後悔に襲われる。
「いえ……ちが……だから」
口にする言葉は意味をなさない。
見遣った相手は心もち瞳を見開いている以外、表向きは冷静に見えた。広夢の言葉にきっと呆れているんだろう。
俯いて、唇を噛んだ。カウンターについた両手が縁から滑り落ち、広夢は拳を握った。肩が小刻みに震えた。
長い沈黙が落ちる。店内を音楽だけが静かに横切っていく。そっと広夢は彼を伺い見た。
彼は何事もなくグラスを持ち上げ、琥珀色の液体を口にふくんだ。
どうしていいかわからない。このまま背を向けて、走って逃げてしまいたい。
鼓動はどくどくと強く打って痛いほどで、居たたまれなさと恥ずかしさに頬を染めて広夢は俯いたまま立ちつくした。
広夢はひどく混乱していた。指に触れた彼の体温が心の均衡を破ったとしか思えない。こめかみが痛んで、眩暈がした。仕事中だと痛む頭の片隅で思った。
ひどくのろのろと流しにもどり、汚れたグラスを手に取った。もう、彼を見られなかった。スポンジでグラスを洗い始めると瞳が濡れてくる。
終わりだ……。
彼は広夢の告白をまったく気にした風もなかった。かすかに驚いて呆れただけだ。
頬に上った熱も痛いほど胸を打つ鼓動も収まらないまま、広夢は一年間の片想いが終わったことを悟った。滲みそうになる涙を懸命に堪える。鼻の奥がつんと傷んだ。
カウンターの椅子が音を立て、男が席を立ったのに気付く。鞄を持つのを見て、慌ててレジへと向かった。広夢は瞳が上げられずにレジを打つ。これが最後になるだろうと思いながら。
「名前……」
男の口から発せられた言葉に肩が震えた。
「名前はなんていうんだ……加瀬……?」
「え?」
顔をあげて相手を見る。
「なぜ、俺の名前……」?
相手の視線が自分の胸元に向いていることに気付き、ああ、ネームプレートだとぼんやり思った。店員は客に名前がわかるよう胸にネームプレートをつけている。金の板にローマ字で『KASE』と入っていたはずだ。
「広夢。広い夢とかいて広夢です」
「そう」
レジに打ち出された金額を財布から取り出すと、男は呟く。受け取った現金は、ぴったりの金額で、広夢はレシートを差し出す。
「ありがとうございました」
男はそれを受け取り、踵を返す。
「じゃあ、また」
なんで、名前なんてきいたんだろう。これに意味はあるんだろうか。
「ありがとうございました」
木の扉を押し開き、出て行く背中を広夢は瞬きもせずに見送った。心の真ん中にぽっかりと穴が開いたような心地だった。
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