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空の月を恋う

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厨房からフロアに出てきた広夢は、カウンター席に座っている彼を認めて、目を瞠った。
先週の告白から一週間が経っていた。もう来ないと思っていた。いきなりバーテンダーが告白するような店、気持ち悪くて来ないだろうと。
動きにつられたように、彼は広夢に視線を流したものの表情一つ変えずに、酒の用意をする店長に視線を戻す。広夢も彼の視線を追うように店長の前川を見る。すらりとした姿勢、均整の取れた身体、優しげな顔に縁なしの眼鏡がよく似合っている。
広夢は視線を彼に戻す。彼の目線の先は店長の手だ。
まさか、店長に気があるなんて、と思って否定する。この一年、彼がそんなそぶりを見せたことはない。店長を見つめていることもそうあることではない。ただ、手持ちぶさたなんだろう。それでも、彼が見つめる全てのものが気になる。店長の作業を横目に広夢は視線がどうしても彼に戻るのを止められない。
彼はもう広夢を見ない。避けられているとかそういうわけでもなく、彼はいつも自分の接客担当しか視界に入れていないようで、今夜は店長が彼の注文を受けているからそういうものなのだろう。それでも、あんなことがあったあとだというのに、という思いが湧いては消えた。
やっぱり、ただの冗談と思われたか。それとも、まったく相手にされてない?
どちらにしろ、ふられたんだと思う。告白なんてなかったかのように、彼は平然としている。もしも、意識しているなら、なにかリアクションがあってもいいだろう。嫌ならもう来ないはずだ。なぜあんな告白したのかいまだに自分でもわからないが、口から出た言葉は二度と取り消せない。
俺ってバカだと、広夢は何度も思ったことを繰り返す。もう彼に会うこともかなわないと思ってどれだけ落ち込んだことか。
この一週間、夢でも離れて行く後ろ姿が出てきて、広夢は泣きながら追いかけた。それでも遠ざかる背に手が届かない。目が覚めると睫毛が乾いた涙でくっついてぱりぱりと音を立てた。今朝もそうだった。
グラスを拭く手を止めずに広夢は顔をあげる。目の前の彼は、いつものようにグラスを傾けている。
そっと広夢は溜息をついた。磨いていたグラスを光にかざす。雑念が多いせいか、なかなかきれいにならずに、水の乾いた曇りが斑についていた。場所を確認し、視界の隅に彼を捉えながら、また拭き始める。
自分の瞳の端に映る彼を意識しながら、やっぱり好きだと思った。グラスにつける薄い唇、長くて節ばった指、そこから肩までつながる腕のライン、時折、瞳を過る暗い翳さえこの思いを損なうものではない。
気持ちは通じなかったけど、この好きだという想いは消えない。いつかあの瞳が自分を見ることを夢想したけど、それはやっぱり夢だった。だから、こんなに胸の奥が痛くて辛い。諦められない。
……だけど……見てるだけなら……。
グラスを拭きながら、彼に視線を走らせる。静かな横顔にどくんと鼓動が高鳴った。
ここに通うのをやめたわけではなさそうだ。それなら、また、こうやって彼がグラスを傾けているのを見られるのならば、それだけで十分だと広夢は、グラスをごしごしとこする。辛いし哀しいが、それでも目の前に好きな人がいる。この想いだけは自分のものだと、広夢は灯りにグラスをかざす。今度こそ、グラスは曇り一つなくなっていた。
彼は今夜も二杯飲んで、店を出た。その背に「ありがとうございました」と告げる。ほうっと溜息が洩れたのに緊張していたことを知る。扉の向こうに消えていく背を痛む胸とそれに反するような妙な安堵を持って見送った。
「おつかれ、広夢」
閉まった扉を見つめっぱなしだった広夢は、カウンターから前川に声を掛けられて、はっと我に返って、かるく手を上げた。彼が最後の客だった。
客のいなくなったフロアを見渡して、広夢は閉店の準備を始める。外に出してある看板の電源を切り、店に引き込んだ。レジでは店長が今日の売り上げを計算していた。
広夢は全ての机を拭き、グラスを定位置に片づけ、カクテルを作るのに使ったメジャーカップやマドラーなどを洗ってこれも片づけた。厨房をのぞくと、つまみを作っているシェフの河野がゴミを纏めていた。
「あ、それ、俺が捨ててきますよ」
「おう。頼む」
生ゴミと缶ゴミの大きな袋を受け取って、二つを両手で持ち上げる。
「重っ」
河野が笑う。広夢より頭一つでかい河野は長い髪をうしろで無造作に括り、髭の剃り残しが目立つやや四角い顔を崩して笑った。見かけこそおっさんだが、広夢がこの店に入った時から、なにかと構ってくれる世話好きだ。料理の腕も逸品で、この人のつまみを食べたくて店にくる常連もいるくらいだ。
「あいかわらず、もやしだな、広夢」
「ゴミが多すぎなんですって。これでも腕立てとかしてんですから」
身体がひょろいことを気にして、広夢は毎日、腕立てや腹筋を欠かさない。しかし、筋肉がつきにくい体質なのか、太い腕や足にはなかなかならない。
べつにマッチョになりたいわけでもないけど。もう少し、男らしいと良いのにとは思う。腕も足も細長く、胴周りも華奢な感じが否めない。背も百六十五センチと高くないから余計に頼りなく見える。
「ゴミが多いってことは売上もあがってるんだからな」
広夢のセリフにまた河野は笑って、煙草を口に咥えた。
「そうですけど。あ、河野さん、ここは禁煙です。吸うなら外でお願いします」
フィルターを噛みつぶしながら、河野が嫌な顔をした。
「少しくらい大目に見てくれてもいいだろうが……」
ぶつぶつ呟く河野に笑いながら背を向けて広夢は歩き始めた。後ろから河野がついてくる気配がした。
「じゃ、ちょっと行ってきます」
裏口のドアの外の壁にもたれて、煙草を吸い始めた河野に声をかけて、広夢は左に向かって歩き出す。
「おおう、行って来い」
河野の返事を背中で聞き、広夢はゴミ袋を抱えると歩き出した。ゴミは、最近ルールが変わって地域の飲食店のごみ箱に分けて捨てることになっている。ゴミ捨て場は店から離れていて、広夢は道の突きあたりを右に曲がり、すぐに左に曲がって、ビルに挟まれた路地へと入った。ゴミ袋の重みにだんだん腕が痺れてくるのを感じながら、目線の先に見えるゴミ捨て場に足を進める。ゴミ捨て場の更に奥に大通りの灯りが見えた。
「ふざけんなっ!」
路地の奥から怒鳴り声が聞こえた。
ちらりと声のする方に視線を投げて、広夢は呆れた顔をする。酔っ払いの喧嘩だ。ここいらで、深夜ともなるとささいな喧嘩は日常茶飯事だ。大通りの車の音が大きすぎて、こういう小さな道の音は表には響きにくい。そのせいか、大抵、喧嘩は、路地の中で起こる。
巻き込まれたくないと広夢は「クロスロード」と書いてあるゴミの柵に手に持っていたゴミ袋をさっさと投げ込み、その場を早く後にしようと踵を返した。
「ぶっ殺されたいのか」
ますます物騒な言葉に広夢はついそちらを向いてしまった。ひどそうなら警察を呼んだ方がいいかもしれない。視線の先には、四つの人影が見えたが、逆光になって顔はよくわからない。だが、ひときわ背の高い男性の前を弧を描くように三人の男が取り囲んでいた。
あれは……!
思った瞬間に広夢は、駆け出していた。顔が見えたわけでもないのに、どうして走り出したのか広夢にもわからない。ただ、確信した。
あれは彼だと。
百メートルの距離を一気に駆け抜けて、もめている彼らが近づく。
やっぱりそうだ。
チンピラ風の男に囲まれているというのに、自然体でそこに立っていたのは、まぎれもなく先ほど店を出た彼だった。
「なめやがって……」
相対している男が拳を握って、彼に向って動くのを広夢は見た。
「危ないっ」
とっさにそのまま間に割って入る。頬骨が、がんと鈍い音を響かせて、ひどい衝撃が走り、目がちかちかした。後ろに飛ばされて、地面に身体が投げ出される。その場にいた男たちがざわめくのが聞こえた。
「だれだ、こいつ」
いきなり現れた広夢に戸惑う男たちの上げた声が痛みと殴られた時の衝撃で、わんわんと鳴っている頭に響く。地面に手をつき、ぐっと両足に力を入れて立ちあがるが、ふらりと足元がよろけた。
「うるさい。この人に手を出すな」
腹に力を込めて、前方の男に向かって叫ぶ。
「指一本触れてみろ。許さねえからな」
前に立つ男を睨みつけた。その場の空気が一瞬にして怒りの気配に包まれる。
「なんだとう、小僧」
「なんでもいい。まとめてやっちまえ」
男たちがいきりたち、一人が、拳を握って腰を落とすと前方に向かって足を踏み出した。広夢も腹に力を入れて、腰を落とす。
と、後ろで苛立たしげな舌打ちが聞こえた。
「え?」
自分の横を誰かがすり抜け、空気が動き、広夢の顔の脇の髪がふわりと舞った。あっと思った時には、広夢の前に迫ってきていた男の頬に拳を沈めていた。肉がぶつかる音が響き、男は後方に吹っ飛び、壁にあたって落ちる。
彼の人が広夢に背を向けて、目の前に立っていた。
「下がってろ」
いらついた声が聞こえた途端、彼はくるりと身体を反転し、左から突進してきた男の腹を右足で蹴りあげた。靴底が男の腹に消える。
「げっ」
苦しそうな呻き声をあげて、男がしゃがみこむ。それに一瞥もくれずに彼は足を下ろすと膝を曲げて頭の位置を下げた。
「こ、このやろう」
右から殴りかかった最後の一人の拳を躱す。膝の屈伸によって舞った彼の髪を男の拳が掠め、彼は拳をやり過ごしざま身体を起こすとその反動で相手の顎を殴りあげた。
あっという間だった。三人が地面に沈むまで、一分ほどだったろう。広夢は何もできないまま、彼の動きを見つめていただけ。
息一つ乱さず、彼がこちらに歩み寄ってくる。うっとしそうに前髪をかきあげる仕草すらぞくぞくするほど色っぽい。光が後ろからあたって、身体の輪郭をぼかす。それがオーラのように見えて、目を眇めた広夢の視界の隅で何かが動いた。近づいてくる。
考える間もなく、身体が動いた。自分に向かって歩み寄ってくる彼の方へ駆け出し、広夢は彼を背でかばい腕を広げた。
「うっ……ぐっ……」
肋骨の下に熱く灼けるような衝撃が走り、息が詰まった。口を大きく開けて喘ぐが、息ができなかった。目の前に火花がとび、視界が黒く染まっていく。前のめりに身体が倒れた。
二の腕を誰かが掴み、かろうじて地面に崩れ落ちずに済む。しかし、それが広夢の最後の記憶だった。
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