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空の月を恋う

4-1

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「おはよ。若槻せんせ」
病院の更衣室で自分のロッカーから白衣を出して、ふわりと羽織った黎二に声がかかる。しかし、声で誰かがわかった黎二は振り向きもせず、ロッカーを閉めて更衣室を出た。
「おはようって言ってんだけど」
廊下に出て歩く黎二の横に並んだ男を黎二は睨み返した。
「ああ。おはよう」
「よくできました。まったく挨拶は基本だよ」
黎二と同じくらい背が高く、緑の手術着の上から白衣を羽織った男、峰庸介は、睨みつける黎二に片目を瞑って見せた。黎二はひどく嫌な顔をした。
「おまえだから無視したのに」
「なにそれ。ひどいな、若槻せんせ」
傷ついてみせる庸介に黎二は踵を返す。
「で、なにか用か?昨日の検体の病理診断結果なら、今日の午前中にはそっちに報告するが」
慌てて横に並んで歩き出した庸介に黎二は訊く。
「それも待ってるけどさ……。そろそろ転科しないかなって思って」
どういう意味だと黎二は横を歩く男に視線を投げた。
「外科、人手足りてないんだよ。お前に来て貰えたらいいなと……」
「断る」
即座に切って捨てて、黎二は足を速めた。
「非常勤でも、だめならバイトでもいい。お前、夜勤ないだろう。いいじゃないか」
「嫌だ」
きっぱり断られて、庸介は鼻白んだが、それでもこんなことでめげるならすでに黎二となんて縁を切っているだろう。
「そんなに病理がいいのか」
「べつにそういうわけでもない」
「じゃあ。どこならいいわけ」
「病理か法医」
黎二の答えに溜息が返る。
「それってどっちも臨床じゃないだろうが。組織片か死体解剖……。生きた患者を診てこその医者だろう」
「そんなことないだろう。組織や細胞を見るには知識と経験がいる。検査の診断が下せなければ、治療方針が立てられない。病理医がいなかったら困るだろう」
実際その通りだ。病理医は検査のために切りとった臓器の切片や採取した細胞を顕微鏡で見て、診断をする医者だ。患者と接することはほとんどない。医者のための医者と呼ばれる所以だ。
「そうだけど。この人間嫌いが。どうしてこんなのが医者やってんだか……」
「命は尊んでるぞ」
「人間嫌いは否定しないんだな」
庸介の言葉に黎二は肯定も否定も返さない。
「病理だって暇じゃない。なり手も少ないしな」
「そうだけど、夜勤にたまに入るくらいならいいんじゃないか。お前の技術を眠らせておくのは、病院にとっても損失だと思う。そうだ。外科手術の手伝いでもいいぞ。それなら意識のある人間に会わないし……」
言い募っても一向に乗ってこない黎二に庸介の声がだんだん小さくなる。
「よく言うよ。最近は施術の前にインフォームド・コンセントが必要だろう?」
手術の前に患者とその家族に十分な説明を行い、患者と医者の双方で治療方法に合意を得ることをインフォームド・コンセントと言う。患者も自分がされる医療行為について十分に知り、合意して初めて治療がなされることが必要なのだ。
「それもダメなのか」
頷かないが否とも言わない黎二に肯定の意を感じたのだろう、庸介はがっくりと肩を落とした。
「峰先生。また、口説いてんですか、若槻先生を」
後ろから追いすがるように声が聞こえ、二人の医師は歩みを止めた。振り返るとやけに小柄な白衣姿の男がニコニコと立っていた。
「病理が転科するなら内科でしょう」
「なんでそうなるんだ、遠江先生」
庸介は嫌な顔をする。実年齢より若く見えそうな遠江芳史は、顔をしかめた庸介をさわやかな笑顔で見返す。これが彼一流の嫌がらせだ。
「うちも人手足りてないんですよね。ついでに、内科でも若槻先生の腕は必要ですし」
嫌がらせされているのがわかったのか庸介はさらに苦い顔をして、遠江を見返した。
「内科はもっと患者と接するだろうが」
「若槻先生は臨床もしてましたよね。それも内科で三年くらい。留学行く前でしたっけ?」
だから、主張権は自分にあると遠江は胸を張る。
黎二はそれには答えない。二人はよく知っていることだからだ。黎二は医師免許を取った後、大学院に残り、最後の一年はハーバードメディカルスクールに留学し博士号を取った。学生だったから収入がない。だから、内科でもアルバイトをしていた。そこで臨床は向いていないと悟ったわけだが、そんなことを言うのもバカバカしい。
「そんなの昔の話だろう。すでに、四年も前じゃないか」
ふふんと勝ち誇ったように微笑む遠江を庸介はにらむ。その場で、一歩も引かず睨みあう二人から視線を外すと黎二はさっさと歩きだす。
「ちょっと待って下さいよ」
「待てって、黎二」
それを慌てて二人が追う。
「うるさい」
足を速めて、黎二は病理の部屋へと急ぐ。
「同期の仲だろう。ちょっとくらい助けてくれても罰はあたらないって」
庸介はなんとか食い下がる。一人医師が抜けて、外科は本当に人手が足らないのだから必死だ。
「断る」
「しつこいと嫌われますよ、峰先生」
「なんだと」
黎二を追い掛けながら、庸介と遠江は掛け合いをしながらついて行く。
三人は、医大時代からの同期だ。腐れ縁というのか、卒業後も同じ病院に配属されていた。成績抜群で、実技も秀で、大学時代、他の追従を許さなかった黎二だが、極度の人間嫌いという悪癖を持つ。そのため、友人と呼べる人種はこの二人だけだ。
病理教室の前まで来ると黎二はくるりと後ろの二人を振り返る。
「どこまでついてくるんだ。外来が始まる時間だ」
冷たく告げた黎二の声と庸介の胸のPHSが鳴ったのが同時だった。庸介が舌打ちをする。
「考えておけよ、黎二。この話しはまた後だ」
そう捨て置いて、二人が慌てて外来へと歩き去るのを黎二は見送った。

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