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空の月を恋う

4-2

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「こんばんは」
クロスロードに入ると広夢は、先に店に入っていた河野と前川にぺこりと頭を下げた。
「加瀬くん」
「広夢」
床をモップで拭いていた店長の前川はモップを置いて、広夢に歩み寄る。厨房へ食材を運ぶ途中だった河野もそれを床に放ると駆け寄った。
「大丈夫なのか、広夢」
まだ、頬にも痣が残っていて、ガーゼを外せずにいるので、見るからに痛々しく見える。
「大丈夫ですよ。見目が悪くて外せないだけです」
ぽんと頭に手を乗せられて河野に覗きこまれて、広夢は苦笑する。
「まったく、いくら常連がからまれてたからって、その場に乱入するか?普通」
「本当ですよ。お客さんを助けたいって加瀬くんの気持ちも大事でしょうが……」
店長の前川も心配そうな顔だ。
広夢は苦笑を返すしかない。昨日、店長に謝りの電話をかけたら、事の顛末を事細かに訊かれて全部白状させられた。その時のことを思い出すと冷や汗が出る。店長の声は優しかったけど、有無を言わせなかった。
黎二からは怪我をしたから、送っていくと連絡があっただけで詳細はなにも聞いていないというのもその時に聞いた。
「まあ、あの人なら加瀬くんがいきり立つのもわかりますけどね」
「で、常連ってどの常連?」
いっぺんに発言されて答えようがない。黙っていると店長が河野の質問に答える。
「あれ、河野さんは見たことないんですか。やたらと整った顔の美人ですよ。毎週火曜日にくるお客さんですよね」
「え?美人?そんなの来てたか?」
広夢は大きく溜息をついた。店長はこんなところで店を出しているだけあって、ゲイだ。だが、黎二を指して美人ってのは違う気がする。そんな簡単な単語で表現して欲しくなかった。あんな人、他にいないんだから。
そうだとも違うとも言わずに憮然としている広夢に眼鏡の奥から悪戯っぽい光の瞳を瞬かせ、店長は面白そうに笑った。
「加瀬くんは見惚れっぱなしでしたよね」
「はあ?」
間抜けた広夢の反応に、眼鏡の向こうの瞳を柔らげ、前川はさらに笑んだ。
「て、店長。な、何言っちゃってるんですか。なんで、俺が……」
慌てる広夢に前川はふふふと笑った。
この人には何もかも見透かされている気がする。この細めた瞳に、俺の心なんて丸見えなのかもしれないと、時々怖くなる。だけど、肯定するわけにもいかない。
わたわたしていると、店長は形のいい唇をつり上げる。
「かわいいですね、加瀬くんは」
「店長っ!」
広夢の叫びに河野も笑う。
「まあ、大事なくてよかった。ホントに心配したんだぜ」
頭をぐりぐり撫でながら、河野がほっとした声音で言った。
「河野さん……痛いって」
「わりいわりい」
河野はぱっと手を離した。広夢はぐちゃぐちゃにされた髪を手で撫でつける。
「もう。せっかくきちんとしてきたのに……」
乱れてしまったので、一度括っていた髪ゴムを引き抜いて、結びなおす。
「昨日はお休みだったから、ゆっくりできたんで、本当に今日は調子いいんです」
昨日は定休日で仕事がなかった。一日ベッドで転がって過ごした。痛みもひどかったが、気持ちの落ち込みはそれの比ではなかった。それでも、ずっとベッドで温かい掛け布に包まってまどろんでいた。変な夢ばかりたくさん見たけれど、身体の方はちゃんと休みがとれたらしい。
「だけど、その顔じゃ、フロアには立てないね」
店長が困ったように言う。
「お客さんが心配するし。喧嘩したのもまるわかりだし」
「じゃあ。広夢、裏を手伝え。今日は木曜だし、そう混み合う日でもないし、たしか、バイトも入ってたよな、店長?」
「そうですね。裏方のバイトをフロアにまわして、カウンターの方はちょっとつらいでしょうが、手が足りないってことはないと思います。加瀬くんは今日は裏方でお願いします」
穏やかに店長は微笑んだ。
「はい」
カウンターに入れないのは寂しいが、立ち仕事でないのはありがたい。まだ、鳩尾は痛みがひどく、身体をずっと起こしているのは辛い。黎二にもらった痛み止めが効いているうちはいいのだが、切れてくると腹に力を入れるたびにずくんと血流にあわせて、鈍い痛みが続くのだ。
「よし。久しぶりだな、広夢が裏方やるの。よろしくな」
河野は嬉しそうに笑い、また、髪をぐしゃぐしゃかき回す。
「だから、痛いってば、河野さん」
上目で睨んで抗議しても河野はどこ吹く風だ。
「じゃあ、仕込みを始めるか。手伝え、広夢」
上機嫌に言うと河野は、放り出した荷物を持ち上げて、厨房へと向かった。それを広夢は追った。前川は二人を笑んで見ながら、手を振った。
厨房の調理台に材料をならべて、河野は腰に手をあてた。
「よし。やるか」
「今日のメニューは?」
河野はその日の仕込みに合わせて料理を決める。だから、クロスロードには決まったメニューがない。河野のとなりに立ちながら、広夢は河野に尋ねた。
「そうだな。とりあえず、活きのいい白身の魚が手に入ったから、カルパッチョ。タラの芽をてんぷらに。地鳥をからっと焼く。ソースはオレンジで作ろうかな。後は……」
相変わらず凄いと思いながら、広夢は河野の言うことをメモる。あとで、変わることもあるが、書いておかないとメニューが表示できないからだ。
「野菜は?」
「アスパラが手に入ったんだ。それもホワイトアスパラだ。これとコーンであっさりサラダにしよう。うまいぞ。広夢は?なにか食べたいものあるか?」
河野はいきなり広夢の意見を求める。
「え?ああ。そうですね。うーん……」
急に言われても困るなあと思いながら、広夢は自分の食べたいものを思い浮かべる。
「今日は割と洋風なメニューですよね。うーん。自分的には煮ものとか食べたいかも。春だし、タケノコとか」
河野はいきなり胸を張った。
「ふふん。任せろ。若竹煮、できるぞ。タケノコも買ったからな」
「ホントですか。いいなあ。若竹煮。好きなんですよね。かつお節をたくさん乗せたやつ」
褒めたら横から手が伸びて広夢の肩をぐっと抱きよせられて、また頭を撫でられた。
「お前にも味見させてやる。楽しみにしてろ」
ぐりぐりと撫でられて、広夢はまた悲鳴をあげた。
「だから、痛いんですってば」
満面の笑みを浮かべた河野はやめるつもりはないらしく、さらにぐりぐり撫でられた。
「広夢はかわいいなあ」
さっき、店長にも言われたことをここでも繰り返されて、広夢は上目使いに河野を睨んだ。
「そういうこと言われても……」
腕で河野を押しやって、何とか腕から抜けだす。肩を抱く手も強くて、苦しい。いっつもこうやって、河野は広夢にじゃれる。おっさんぽく見えるが、河野はまだ三十半ばだ。見る人が見れば、それなりに味のある容姿をしている。太ってもいないし、どちらかというと鍛えた身体をしていて、全部きちんとひげをそって、髪を短く切りそろえたら、カッコいいんじゃないかと思う。痛みに潤んだ涙目で河野を睨みつけると広夢は腰に手を当てた。
「河野さん、遊んでないで、仕込みしちゃいましょうよ」
「わかった。わかった」
にやにや笑って、河野は流しの水の栓を捻った。蛇口から勢いよく水が出て、河野はシンクに買ってきた野菜を入れる。水でそれらを丁寧に洗いだす。
「広夢はジャガイモの皮むきと千切りを頼むな」
ジャガイモをじゃぶじゃぶ洗って、大きなボールに山盛りにして手渡された。
「わかりました」
受け取って、ボールを調理台の隅に置くと、ごみ袋と椅子を引っ張って戻り、置いた椅子に腰を下ろす。小さいナイフとジャガイモを取り上げると慣れた手つきで皮をむく。
芽をナイフの刃の付け根で取り、剥き終わったものは水に放していく。河野はタケノコを大鍋で皮ごと煮、魚のうろこをとり、地鳥に下ごしらえを施す。
しばらく、二人は無言で作業を続けた。ナイフの音と時折水音だけが厨房に響く。
思考を止めて、広夢は作業に集中する。そうしないと目の前に黎二の冷たい瞳がちらついて、落ちつかない気分になる。週に一回、店で彼を見ることを楽しみにしていたころは、彼の飲んでいる姿を時折思い出しては幸せな気分でいられたのに、彼の一端を垣間見た時から、心はあの日の彼で一杯で、何をしていても気を抜くと自分を冷たく見下ろした顔や嘲るような笑みを思い出す。自虐趣味はないはずだが、思い出すたびに傷ついてる自分は滑稽だ。
「終わりっと」
立ち上がって、広夢は腰の後ろに手をやって、身体を伸ばした。あまりやると傷が痛むので、ゆっくり伸ばす。
「河野さん、千切りでしたよね」
「んあ?」
出刃包丁で、魚の頭を叩き落とした河野が顔をあげた。
「何?」
「ジャガイモ、千切りですよね?」
「ああ。そうそう。それをエビの衣にするから、細かめにな」
「了解」
まな板を取りだしてジャガイモを乗せ、今度はナイフではなく包丁を手にとってスライスしていく。全部をスライスしてから、重ねて千切りにしようと作業を進める。また、包丁の音だけが厨房を埋めた。
「広夢」
厨房の一番奥にある大型の冷蔵庫の扉の開閉音が聞こえたと思ったら、河野が広夢を呼んだ。
「なんですか?」
「惚れてんの?」
話が全く見えずに、広夢は包丁を握ったまま河野で目線を止めて瞬いた。
河野は自分の頭に手をやって、後頭部を擦った。
「だからさ。さっき店長が言ってたけど、常連さんだっけ、見惚れてたって」
広夢から目をそらして、河野が尋ねる。
「え?」
「だから、惚れてんのかなって」
こっちを向いた河野の瞳は真剣でまっすぐだ。言葉の意味が浸透すると顔に血が上った。
「な、何を……い、言ってるんです、河野さん」
慌てふためいて叫ぶが、これでは肯定したも同じだ。広夢は視線を手元に落とす。折り重なったジャガイモのスライスが幾重にも見えた。
「……そうか」
静かに河野はそう言った。
「まあ、いいんだけどさ。そうか、広夢がね」
しみじみと呟いて、河野は背中を向けた。オーブンまで歩いていき、腰をかがめる。オーブンに火を入れるんだとそれを見ながらぼんやり思った。
河野さんは何が言いたかったんだろう……?
思ったが口には出せずに、広夢は手元に視線を落した。ジャガイモを重ね、包丁を握りなおすとリズミカルに上下させる。トントンとまな板を叩く音が厨房を満たした。
「今度どういう奴か見てみるか」
河野の呟きが耳を打ったが、まな板を包丁が叩く音にまぎれて、広夢は意味を取りそこなった。

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