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空の月を恋う

5-1

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「よう。若槻先生」
食堂で豚カツを口に運んでいると、庸介に声をかけられた。黎二は顔を上げる。
「月曜からお疲れっぽいな」
断りもなく黎二の横の席にさっさと腰を下ろすと庸介は黎二の顔を下から伺った。
「そんなことない」
冷たく拒絶しても庸介はへこたれた風もない。
「何年、付き合ってると思ってる?疲れているって顔してるぞ」
それには黎二は言葉を返さなかった。疲れているわけはない。確かに寝たのは遅かったが、それはいつものことだ。だが、珍しく引っかかっていることがある。昨夜の広夢の言動の意味が黎二にはさっぱりわからないのだ。
会いたかったと言われ、なんだかやけに腹が立った。自分にそういうことを言ってくる人間は大抵、黎二の身体目当てだ。男も女も関係ない。媚を売って尻尾を振る様を見せる時、他人(ひと)は、自分を求めていた。それも外見だけ、地位とか金とか、見栄えの良い容姿とかだ。
親ですらそうだった。欲しいのは出来のいい手のかからない息子。だから、これまで生きてきて、望まれるままそれを提供してきた。
だから、そんなに抱いて欲しいならと広夢にも手を伸ばしたのに、全力で拒絶された。
この間、喧嘩に割り込んできたのもそれが理由だろうと見返りが欲しかったのだろうと踏んでいたのに、「好きだから」と告げられ、その論理も黎二には理解できない。
「おーい。黎二。無視するなよ」
言葉を流したのに、庸介は珍しく絡んでくる。そんなにいつもと違うだろうか。
「うるさい。別に疲れてないし、何でもない」
「ならいいけどさ」
納得はしていないようだが、黎二が突き放した時には何を言っても無駄だということは庸介ならよくわかっている。それ以上は追及して来なかった。ただ、何となしに心配そうな目で自分を見ただけだ。それすらも気付かなかった振りをして、黎二は箸を口に運ぶ。
食堂のざわめきだけが聞こえた。
最後の一切れを口に入れたところで、黎二はふと庸介に用事があったことを思い出す。
「ああ。そうだ。ちょうどいい。夕方時間取れるか?」
箸を置いて尋ねると庸介はちょっと考えるそぶりをする。
「ああ。予定はなかったと思う」
「よかった。この間、お前が執刀した患者の組織検査の結果が出ているから、午後五時から病理のミーティングルームへ来てくれ。ディスカッションしよう」
庸介は黎二の言葉に盛大に溜息をついた。
「仕事の話しかよ」
「他に何があるんだ?」
「飲みの誘いかと思った。珍しいこともあるもんだと思ったのに」
口をとがらせている庸介が面白くて、黎二は珍しく口元に笑みを刷いた。
「そっちは明日の夜にでも付き合ってやるよ」
「まじ?」
笑いながら誘うと、庸介はますます目を丸くした。
「お前と飲みなんて、いつ以来だ。絶対だからな。約束違えるなよ」
うれしそうに念を押す庸介の仕草にも笑いを誘われて、黎二はわかったと首を縦に振る。
「そっちこそ、仕事かたしとけよ」
言ってやると嫌そうに鼻の頭にしわを寄せた。医者の宿命で、どんなに日常業務を片づけても急患が入れば全てアウトだ。予定が未定になるのは日常茶飯事だった。
「うー。急患が入らないように祈っていてくれ」
唸るように告げた庸介に黎二は「了解」と手を上げた。

扉を開けて、店に入る。『クロスロード』はいつもの通り、混んでもいなければ空いてもいない。常連がそれぞれの気に入りの席に着いている。ジャズの低いベース音が耳に心地よかった。
黎二は迷いもなくバーカウンターの奥の席に座る。いつもと違うのは、隣に庸介がいることだ。
どうして庸介をここに連れてくる気になったのかは自分でもよくわからない。なんとはなしにイラついて、腹の底がざわめく。一人で来る気にならなかった。だが、毎週の習慣を崩すのも嫌だった。まったくもって不可解だ。
「へー。いい店だな」
席に着くなり、庸介は店内を見回した。壁にかかるランプが仄暗い影を壁の上に描いている。
「よく来るのか?」
「ああ」
「だが、客も店員もみごとなまでに男ばっかりだな」
顔を寄せて小声で囁いた庸介に黎二は口端を上げた。
「そりゃあそうだ。それが良くて通ってるんだからな」
「お前が男女問わず節操無いのは知っているけど……」
その答えにくっくっと黎二は笑った。それは求められるからだ。断っても断っても後をたたない申し出に時々のってやっているだけ。自分から求めたことは一度もない。それでも女はめんどくさい。プライドの高い女は好みじゃないし、そうでない奴には最後には必ず泣かれて、ひどいと罵られる。だから、この店はちょうどいい。男でもあまり浮ついたのは来ないし、女はほとんど見ない。
「ここってそういう店?」
小声で訊く友人に黎二は意地悪く笑った。
「だったら?」
言ってやると困ったような顔をする。
「俺、男に興味ないぜ」
庸介の返答に黎二はまた笑った。誤解されるように言葉をかけたのは認めるが、こいつはこの界隈の店はどこも出会い系だとでも思っているんだろうか。
「ああ。誘われたりすることはない。相手を探したいなら、店が違うからな」
あからさまに横でほっとした溜息が聞こえる。それにもくっくっと笑う。庸介はからかわれたと思ったらしく、憮然とした表情だ。
「いらっしゃいませ」
目の前に人の気配を感じ、顔を上げると広夢が頭を下げていた。その顔を見遣って眉を上げる。一昨日会った時には元気そうだったのに、今日はやけにやつれた顔だ。目の下に隈が見える。
すっとおしぼりを差し出され、黎二は受け取った。隣で、庸介も受け取っている。
「いつもの」
まったく表情を変えずに告げる。軽く広夢は頭を下げた。
「お連れ様は?」
「どうする?庸介」
隣で庸介はメニューを開いて、悩んでいる。
「お前、何にしたの?」
「ああ、ウイスキーだ」
言いながら、メニューの下段を指さす。
「ふうん。じゃあ同じの。あとさ。こっちの」
言いながら、食事メニューを取り上げた庸介に黎二は呆れた目を向けた。ここへ来る前に食事は済ませてきたというのに、まだ食べるのか。
「ポテト衣の海老フライも」
「かしこまりました」
広夢は頭を下げて、厨房に注文を伝えるのだろう踵を返した。
「女の子かと思った」
広夢の背中が遠ざかると頬杖ついた庸介がぽつりとこぼす。遠くなっていく後ろ姿を目で追っていた黎二は、庸介を見た。
「でかい目だな、顔も小さいし。男装した女の子かと思ったんだ」
女?あれが?
どういう目をしているんだと思う。小柄でかわいらしい顔をしているが、あの骨格は男のものだし、動きも男性的だ。女の子というよりは小動物のようだと黎二は思う。あの大きな瞳が揺らめく様は、人の持つ嗜虐心を煽る。
だが、庸介にはそうは映らなかったらしい。妙に感心している庸介に胡乱な目を向ける。
「変な意味じゃないって。驚いただけ。お前は美人だけど、あの坊やは可愛い感じだって……」
手を伸ばして庸介の頭をはたいた。
「って」
「だれが、美人だ」
長い付き合いで黎二がその手の言葉が嫌いなのを知っているくせに、庸介はたまにそういうことを口にする。
「お前なあ。叩くなよ」
痛そうな顔で、庸介は黎二を見る。
「変なこと言うからだろうが」
叩かれたところを擦りながら、庸介は恨めしそうな顔だ。まったく悪びれない友人に何を言っても無駄であることを悟る。
「なあ、黎二」
呼ばれて、庸介を見た。
「あの子狙い?」
いきなり言われた単語の意味がわからず、黎二は庸介の目線の先を追う。庸介は目で広夢を指していた。
「はっ!何を言っているかわからん」
「なんだ。違うのか。じゃあ、逆かな」
「この店はそういうのじゃないって……逆?」
庸介の言葉に引っかかって、黎二は訊き返す。
「なんだ。気付いてなかったのか。この店に入ってからあの子、お前の上から視線を離さないぜ。やけに緊張した感じで、ずっとお前を見てた」
庸介は真剣な目で黎二を見ていた。無言で庸介を見返すと視線があった。何を言っていいかわからなくて、黎二はしばらく庸介の男らしい顔を見ていた。
カウンターの向こうに気配を感じて、顔を振りむけると広夢がグラスを差し出している。
「どうぞ」
コースターの上にグラスを置かれ、その前にチェイサーのロンググラスも並べられた。庸介の前にも同じものを出す。そして、籐の籠に盛られた海老のフライがそっと差し出された。
「どうも」
声に横を向くと庸介が嬉々とした声で返事をし、広夢に笑顔を振りまいていた。
「ふうん。ジャガイモの千切りが衣になってるんだね。初めて見た」
「こっちのたれをつけて召し上がってください」
広夢の声が説明を述べ、口元を笑みの形に上げるのを視界の隅で捉えながら、黎二はまたイライラがひどくなったことに気付く。
「かせ……くん……?」
「はい」
ネームプレートを読んだのか庸介が広夢の名を口にする。
「ふうん。ここ長いの?」
「庸介」
咎める声を出すが、庸介はそんなものは気にしない。黎二は自分には関係ないとグラスに指をかけて持ち上げ、口をつける。
「三年になります」
「じゃあ。なんでも作れる?」
「基本的なものなら」
黎二の横で広夢と庸介の会話が進んでいく。
「なら、次はギムレットを頼もうかな。これがあきそうになったら頼むね」
「はい」
穏やかな顔で広夢が笑う。それを視界から外して、黎二はグラスを口に運ぶ。イラつく気分は益々加速する。何が気に入らないのか自身に問うてみるがわからない。
「ごゆっくりしていってくださいね」
一礼して広夢が離れていく気配を肌で感じて、黎二は喉を焼く酒を多めに含んだ。
「庸介」
「なに?」
こちらを向いた庸介は特に変わったところはない。
「なんで、あんなことを聞いた?」
「え。ああ。普通だろう。バーテンダーと会話するのは。そのためにカウンターに座るんだし」
そんなものかとは思うが、広夢の顔色の悪さも、庸介へ笑いかけた顔も腹の底を蠢く苛立ちを増すだけだ。疲れているのかもしれない。いつもならじっくりと味わうグラスの中身があっという間に空になる。
「黎二、次は?」
訊かれて、同じものをと答える。
「加瀬くん、おなじものをくれる?」と広夢に庸介が注文を伝えるのを黎二はぼんやり聞いていた。
いつもなら自分の前に立っている広夢は今日はカウンターの真ん中辺りにいる。
広夢はなんで、あんなところに立っているのだろう。
どうして……。
おかしくなって、黎二は笑った。広夢に対して自分はいつでも「なぜ、どうして」と問うていることに気付いたからだ。
「どうした、黎二?」
いきなりくつくつ笑いだした黎二に庸介が怪訝そうな目を向けた。
「なんでもない」
疑問を投げかけるくらいには気にかかっているというのか。それとも解のないことがイラつくのか。
またもや笑っていると目の前にグラスを差し出された。
「どうぞ」
ちらりと視線を走らせると瞳がぶつかって、痛そうに広夢は顔を歪めた。
「どうも」
告げると広夢は一礼する。胸の奥がざわざわした。グラスを持ち上げ、口を湿らす。
広夢が離れたところに立つのを視線でとらえながら、黎二は庸介の名を呼んだ。
「ん?」
「好きな人がいたとして、それが目の前で殴られそうになっていたらお前どうする?」
唐突な質問に庸介は面食らった顔をする。話しの流れについて行けないのだろう。当然だ。自分でも脈絡のない会話をしている自覚がある。
「なんだかまったく話が見えないんだが」
「いいから。答えろよ」
「そうだなあ……好きな子が殴られるのは嫌だから。割り込むだろうなあ。その子が怪我するより、自分が痛い方がいいと思うし。その上で、相手はぼこるな。徹底的に殴るかも」
血の気が多いなと黎二は口端を持ち上げて笑んだ。
「何笑ってんだよ。頭くるだろう。自分の好きな人を傷つけられたらさ」
「そうだな」
広夢の行動はいたくまっとうだってわけだ。またおかしくなって、喉の奥で笑う。
「黎二。今日、お前おかしいぞ」
「なんでもないって。それよりお前の杯、あいているぞ」
「ほんとだ。加瀬くん」
グラスを掲げて、広夢を呼ぶ。
「はい。ギムレットですね」
後ろの棚から広夢はドライジンとライムを取り上げた。氷を入れ、メジャーカップで分量を量り、シェーカーに入れる。スプーンでシロップを入れるとシェーカーを閉めて、広夢は身体の左側にシェーカーを構えると姿勢を正した。流れるような動きで、上下にシェーカーを振る。視線は前を見つめ、すっと背を伸ばして、氷がシェーカーにあたり軽やかな音をたてる。その姿勢の美しさに黎二は視線を奪われた。小さい広夢が大きく見えた。
グラスを引き寄せ、トップを外すとゆっくりと注ぎ入れる。
「どうぞ」
目の前に出されたカクテルグラスと広夢を交互に見つめて、庸介はにっこりと笑った。
「すごくきれいな動きをするね」
「ありがとうございます」
一礼して、広夢は道具を手にその場を離れる。それらを片つけるのだろう。
「うん、うまい」
広夢を目で追っていると横から庸介の声がした。そちらに目をやって、黎二は溜息をついた。
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