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空の月を恋う

5-2

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フードのオーダーを受けて、広夢が厨房に入ると厨房とフロアの間に河野が立っていた。
「なにやってんですか、河野さん。オーダー入りましたよ。今日のお造り一つ」
告げると河野が腕を伸ばして、広夢の上腕を掴むとぐっと手前に引き寄せた。
「わっ」
たたらを踏むと背中から抱きこまれる。
「何するんですか、河野さん」
抗議するものの、フロアが見渡せるところに引き込まれて、耳の後ろに唇をつけて河野が囁いた。向こうからこちらは見えない。
「どいつ?」
「何?」
低く怖いくらいの声は河野らしくない。
「だから、広夢が惚れてる男ってどれ?」
離してもらおうとあがくが、がっちり腰と胸に腕がまわっていて、身動きもままならない。見かけどおりの筋力で、痛いくらいに腕が胴に食い込んでいた。
「河野さん。なんで。離してくださいって」
「あのカウンターの端に座っている奴?それともその隣?」
確かに美丈夫といえば、今の時間帯だとあの二人だが、何故に河野はこんなに怒ったような声なのだろう。
「……河野さん……?」
「広夢。言えよ」
言うまで離さないとの決意を示すように、腕に力を込められた。河野の高めの体温が服越しに染みて、広夢は怖くなる。
「は……端の人……」
やっぱりという声が耳を打って、広夢は解放された。
「河野さん、なにするんですか」
「別に。普通に聞いても教えてくれないだろう」
すたすたと河野は厨房の奥に入っていく。腕が当たっていたところを広夢は手でさする。
「お造りだったけ」
「そうですけど」
広夢もそれについて厨房へと入っていく。河野の態度が解せない。
「確かに美人だな。冷たい系の」
冷蔵庫から鯛の切り身を取り出して、まな板におくと河野は刺身包丁ですっと薄切りにする。
ガラスの器に盛られたつまとシソの上に、鯛の刺身を並べていく。薄く下の青シソの色が透けて綺麗だと頭の片隅で広夢は思った。
「やめとけ」
マグロのさくを取り出して、切り始めると河野はぽつりと言った。
「え?」
「やめとけっていったんだ。ああいうのに惚れてもいいことはない。お前が傷つくだけだ」
広夢は言葉を返せない。
「横に座ってた兄ちゃんだったら応援してもよかったんだが、あの男はだめだ」
「河野さん」
「現にお前、昨日から変だ。鏡見たことあるか?ひどい顔しているぞ」
確かにこのところ良く眠れていない。特に日曜の夜からは、うとうとしただけだ。自分を襲おうとした黎二を思い出しては飛び起きることをくり返しているせいで。
「わかってます。報われないのも。だけど……」
それで諦められるなら、一年間もただ見つめて来なかった。求められたのかと思ったら、ただの礼だと告げられ、それでもあの人を嫌いになれない自分がいる。呆れているし、怒りもあるのに、あの人を自分の中から追い出せないのだ。
やめようとやめた方がいいと自分でも自分に言い聞かせたのに。
「広夢」
怖い声音だった。自分を心配しているんだと思った。心配のあまり怒りを覚える河野の気持ちは嬉しいと思う。ただ、そんなに簡単な想いではないのだ。自分でもコントロール不能な熱病。
「わかってます。わかっているんです。でも……でも……」
拳を握って奥歯を噛みしめた。泣いてしまいそうだった。俯いてしまった広夢に河野は何も言わない。包丁が刺身の上を通る微かな気配がするだけ。
「お造りできたぞ。持ってけ」
ガラスの器を広夢の方へ押しやって、河野は背中を向けた。そのまま裏口へ向かう。
「一服してくる。なんかあったら外に呼びに来い」
河野は扉を開くと出ていった。広夢はその場にしゃがみこむ。もうぼろぼろだった。

「もう一軒行こうぜ」
しきりと黎二に声をかける庸介をそのままに、黎二はレジで精算を済ませた。
「ありがとうございました」
レシートを渡しながら、深々とお辞儀を返す広夢をちらりとも見てから、黎二は踵を返した。
今夜も黎二は二杯だけグラスをあけて席を立った。庸介はさらに二杯ほど広夢にシェーカーを振らしていた。
確かに、あの姿は一見の価値があるが、とシェーカーを振る姿を思い出してちらりと黎二は思う。だが、次の瞬間にはあっさりその感情を捨てて黎二は店を出た。広夢のことはもう、見もしなかった。
「なあ、黎二、おまえんち行っていい?」
「だめに決まってんだろう。明日も仕事だ」
「ばーか。明日は休みだよ」
庸介はそう返す。
「そうだったな」
「お前と飲めるなんてめったにないからな。もうちょっと付き合えよ」
駅へ向かって歩きながら、庸介は珍しく引かない。
「い……」
嫌だといいかけて、黎二は溜息をついた。庸介と言い争う気力がなかった。なんだかとても疲れている。こんなことは珍しい。
今日はずっと珍しいこと続きだ。庸介と飲むのも、あの店に一人でいかなかったのも。
「仕方ないな。買い出し付き合え。うちには何もない」
「やりい。俺がおごる」
嬉しそうな庸介を連れて、大通りを駅に向かう一本隣の道に入った。向かう先は、この先のスーパーだ。二十四時間、開いている都心のスーパーはこういう時には便利だった。
大通り沿いを黎二は庸介と並びながら歩いて行く。庸介は両手にスーパーの袋を提げていた。ビールとつまみが入ってる。やめとけと言ったのに、かなり買いこんでいたから重そうだ。ワインにするかビールにするか、庸介はやけに悩んでいた。おかげで買い物には思った以上に時間がかかってしまった。
終電も近いからか、道の上の人影はそう多くもない。足早に駅に向かう人の波は駅に向かっていた。左手の大通りは関係なく車が溢れていたが。
「この間、投稿した論文どうだった?」
そういえばと思いだした黎二の質問に庸介は嫌そうな顔をし、その後、落胆した表情を見せた。
「なんで訊くかな。忘れたかったのに」
庸介が飲みたかった原因の一つはそれだったのか。
あの論文は症例そのものが少なく、論理を立てるのもデータを集めるのも苦労し、黎二も一端を手伝っていた。
「俺も著者なんだから訊くだろう」
庸介は溜息をついた。
「それがさ。症例だけじゃ駄目だって、遺伝子レベルの実験足せってレビューでさ」
どうすんだよと、庸介は大きく息を吐く。
「基礎医学の研究室と組めばいいじゃないか」
「それができれば苦労しない……」
庸介の言葉は半分しか耳に入らなかった。視線の先、大通りから路地へと入る人影が見えた。なんとはなしに記憶にひっかかった。そちらを凝視する。
「聞いてるか?黎二」
「ああ」
「どうした?」
「いや、なんでもない」
ひどく気持ちがざわついた。だが、それが何かわからない。わからないことがまた苛立ちを誘う。
だが、黎二はその感情を呑み込むように庸介を促して、足を速めた。
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