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空の月を恋う

5-3

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「広夢。悪いけど、ゴミ捨てしてきて」
フロアの片つけをしていると店長に頼まれた。客は黎二たちが最後で、すでに店は閉店している。了解の意を示し、広夢はゴミをまとめると裏口へ向かう。
「あ。河野さん。それも俺が行きますよ」
フロアででたゴミを持って厨房を通ると、厨房で河野がゴミを纏めていた。
「おい。いいよ。俺が行くから」
「ちょうど、フロアのゴミを捨てに行くところだったんです」
「じゃあ、一緒に」
「大丈夫ですって」
笑って、広夢は河野からゴミ袋を受け取ると、それを提げて歩き出す。裏口を潜ると広夢の顔から笑みが消えた。
ここ二日、ずっと無理している。笑いたくなくても笑うのが仕事だ。仲間にも心配させたくないし、それに河野にこれ以上何かを言われたくなかった。
重い足を引きずって、広夢はゴミを運ぶ。
一昨日の黎二の言動に広夢は深く傷ついていた。そして、今夜の黎二にも……。
今夜は若槻さん、一人じゃなかった。この一年、ずっと一人で来ては二杯だけ飲んで帰るのが通例だったのに。
勝手だと思う。そんなの若槻さんの勝手だと。
だが、この店でのあの時間だけは、自分の中で特別だったんだと思い知る。
あの人誰だろう。やけに親しそうだった。特別な人なのかもしれない。あんなにきれいな人なんだから、相手がいないほうがおかしい。二人はやけに自然だった。
黎二は笑っていた。広夢はいままで無表情か怒った顔しか見たことない。
俺、ああいう風に若槻さんの隣にいたかっただけなんだけどな。
さらに足が重くなった気がした。靴の底が音を立てて、ホントに足を引きずってるんだと思う。
告白なんてしなければよかったと、何度も後悔したことを繰り返す。意味がないのはわかっていても思わずにいられなかった。
路地を左に入り、『クロスロード』専用のフェンス越しに、ゴミを投げ入れる。今日はさっさと帰って寝よう。肩を落とすと大きな溜息が洩れた。
「やっと見つけたぜ」
溜息を消すように声が聞こえた。ドスの効いた声だが、明らかに嬉しそうだ。広夢はのろのろと顔を上げた。
「え?」
その時には胸倉を掴まれて、ゴミ箱を囲むフェンスに押し付けられていた。がしゃんとすごい音がする。
「あの、綺麗な兄ちゃんはどこだ?」
広夢を押さえつけている男の後ろに、にやけた顔の男が立っていた。
やばいととっさに思い、身体を捩る。先週、ここで若槻さんと揉めていた連中だ。一人足りないが、確かに広夢を殴った男たちだ。
「暴れるなよ。落とし前をつけてもらいたいだけだからさ。あの兄ちゃんはどこだって訊いてんだけど」
襟元をさらに捻りあげられて、襟が気管を圧迫した。逃れようと手でそいつの腕を掴むが、まったくびくともしない。つま先だった足が地面を蹴る。息ができずに苦しい。
じりじりと左側に移動させられ、ゴミ置き場のフェンスと路地の壁の境目に身体を押しつけられる。
「痛い目にあいたくないだろう。言えよ」
もう一人の男がフェンスを蹴った。路地中に大きな音が響き渡る。
「くっ……息が……しゃべ……」
唸るように言うと手を離された。身体が壁伝いに崩れ落ちる。いきなり肺に入ってきた空気を喘ぐように吸う。その顎を掬われた。
「言えよ。かわいこちゃん」
いかにもバカにしたようなセリフに広夢は相手を睨みつけ、顔を振って男の手を払いのける。
「いいねえ。そういう顔も。男好きする顔だよな。ヤってんだろう、男とさ」
広夢は暴言を吐く男を強く睨み、壁に背を押しつけて立ちあがる。ここで怯んだら負けだ。
「兄ちゃんの居所を言えよ」
広夢は腹に力を込めた。
「知らねえよ」
思いっきりきつく吐き捨てる。
「この状況でいい度胸じゃないか」
伸びてきた手のひらが喉を押さえつける。
「吠えるなら相手を見た方がいいぜ」
にやにやと笑って、手のひらが喉仏を圧迫した。喉がぐっと音を立て、もう片方の手で髪の毛を掴まれ後ろに倒される。頭がのけ反った。男が身体を寄せ、両足の間に膝を差し入れる。
「まあいいや。まずはお前から料理してやるよ。メインはあとってことで」
唇をべろりと舐められた。
「やめっ……」
叫ぶと相手の膝が上がって、広夢自身をぐりぐりと圧迫した。その状況のまま唇を合わせられる。舌がぬるりと侵入し、広夢は顔を歪めた。
嫌だ。気持ち悪い。
口を閉じようとすると舌が奥にもぐりこんで、喉の奥を刺激した。喉元にあてられている手は更に強く喉を圧迫する。腕を持ち上げて、喉の手を外そうと両手をかけるがびくともしない。
「くっ苦しい……」
声を上げると下からかちゃかちゃとベルトをはずす音がして、広夢は逃れようと身を捩る。しかし、身体ごと壁に押し付けられていて、それすらも儘ならない。
体格に圧倒的に差があった。相手は広夢より頭一つは大きくて、横幅も一回り半ぐらいある。むき出しの腕も太く筋肉質だ。
あっという間にズボンの前を寛げられて、下着ごと尻の下まで下げられた。外気が足の間にあたり、広夢の足が震えた。
「んっ……やっ……」
口をかき回していた舌がずるりと出て行って、口の端から唾液が垂れた。瞳を開けるともう一人の男はそれを見ながらにやにや笑っている。男が広夢自身を掴んだ。
「ふうん。可愛いじゃん。小さくてさ」
広夢の頬が羞恥と悔しさで紅く染まる。両手を男の肩にかけてぐっと押す。
「離せっ……嫌だ……」
「おっと。活きがいいな。おい」
男は肩越しに後ろの男に顎をしゃくった。にやにや見ていた男は嬉しそうにポケットから何かを出した。近寄ると男の肩を押していた広夢の両手首を掴むと上に持ち上げる。抵抗は全く無意味だ。力の差がありすぎる。上げさせられた両手は男の片手でひとまとめに握られ、男が手に持っていた手錠で拘束される。
「なっ……」
「残念だったな。言ったろう探してたって。俺たちのメンツ潰してただで済むと思ってたのか」
「このフックなんていいじゃね」
広夢に手錠をかけた男はやけに楽しそうに、ゴミ捨て場のフェンスに箒をかけるためにつけられたフックを指さす。
広夢を壁に押し付けていた男は、両手を広夢の襟に移動し、襟をひっつかんで広夢の身体を九十度反転させ、フェンスに押し付けた。手錠の真ん中の鎖をそのフックにひっかける。
広夢は括られた手を前後に振ってみたが、外れない。
「離せ。やめろ。こんなことしてただで済むわけ……」
威勢のいい言葉は、引き攣れた呼吸で途切れる。再び喉を圧迫され、広夢自身を強く掴まれた。痛みに汗が出る。
「ナニされるのはお前なんだよ。可愛がってやるから、もっと可愛い声だせよ」
「いやだ」
叫んで暴れても頭上にあげられた腕は解放されない。すでに男の手のひらで弄ばれている性器が刺激に頭をもたげはじめていた。嫌でも気持ち悪くても触られたら反応する。こればかりはどうにもならない。
「いや……やめて……」
恐怖が背筋をあがってくる。殴った仕返しが、性的暴行か。
シャツの下から手を入れられて、胸の突起を掴まれた。引っ張られて抓られる。痛みに悲鳴が上がった。
「痛いのにも感じるみたいだな」
首を横に振っても下卑た笑い声が返るだけだ。
「こっち俺がやっちゃっていい?」
尻たぶを揉まれて、広夢は目を見開いた。
「いいぜ、指だけな。あとでお前にもやらしてるからさ」
広夢自身を扱く指を休めず、男は広夢と視線を合わせた。
「いいねえ。その大きな瞳、舐めたらどんな味がするのかなあ」
舌を出したまま男の顔が近付いてくる。怖くてどうにもならず、広夢は震えたまま瞳を閉じた。
唇に男の舌を感じ、唇に力を入れるが、合わせ目に舌をおしつけられ、まくれた唇に舌をねじ込まれる。足が震えて立っているのがつらい。持ちあげられて繋がれている手に体重がかかって、手首がすれた。
「俺も混ぜて」
男の背後から暢気な声がして、薄く開いた視線の先にもう一人の男が現れたのに気付く。これで三人とも揃ったというわけだ。
「遅かったな。先にやっちゃってるぜ」
口を広夢の唇から離すと広夢の顎を掴んだまま目の前の男が下卑た笑いを浮かべた。
「駅からこの辺まで歩いてみたけど、見つからねえ。その坊やは何も知らねえの?」
ひょいと男の肩越しに広夢を見て、最後に現れた男はにいっと笑った。その笑みが怖くて広夢はぞっと背を震わせた。残酷なことをなんとも思わない瞳だ。
「口が硬くてな。身体は溶け始めてるけど」
自身と根元の陰嚢をやわやわ揉まれて、その感覚をやり過ごすため広夢は息を吐いた。だが、喘いでいるようにしかきこえなかったのだろう、男たちがにやにやと笑う。
「けっこう、エロいな。楽しそうだし、口を割りたくなるまで、嬲ってやれば。なかなかいい顔しているし、俺ここで見てるわ」
「やんねえの?」
「お前たちの後でいいよ。ぐずぐずになってからの方が面白そうだ」
最後に現れた男はいやらしく酷薄な笑みを浮かべた。
「なんで……こんな……」
「俺らにもメンツってもんがあるからさあ。やられっぱなしっじゃあな」
男の言葉を裏付けるように、広夢の横に立った男が耳をべろりと舐めた。嫌な感触にギュッと目を瞑る。
横に立つ男は広夢の尻の双丘に手をかけると、揉みしだきだす。大きな手のひらで掴み、何度もやわやわと揉む。
「やわらかいな。男の尻じゃないみたいだ」
うっとりとした声が頭上から聞こえて、広夢は背筋を震わせた。谷間に指がかかり、びくんと広夢の身体が跳ねた。
「やっ……」
「可愛い声もでるじゃないか。もっと啼きな」
谷間に滑り込んだ指が蕾の上を行ったり来たりする。
「あっ……やだっ……やあっ……」
円をかくように撫でまわされて、広夢は背を反らす。
「こっちもすごいことになってるな」
男の手でリズミカルに扱かれた広夢自身は先端からじわりと透明な蜜が溢れている。胸の乳頭は爪と指先でこねくり回され、じんじんと痺れていた。
痛いだけでない感覚を覚えて、広夢は身体を捩った。手錠がすれて手首の皮を裂く。自尊心が削られる。無遠慮な手が身体をまさぐるのも、自身を扱きあげる硬い手にも、それに感じ始めている自分は消してしまいたいほど気持ち悪い。
「やだっ……離して……やあぁぁっ」
足の間を潜らせて後ろから手が伸びて、広夢自身の先端を辿られた。人差し指が先端のすべらかな部分を撫でると、濡れた音が立つ。いたぶるためか、先端の切れ目に爪先を入れられて、広夢は腰を引いた。その動きに指がついてきて、濡れた感触を後蕾に感じ、入口の襞を指先でこじ開けられる。ぎくりと広夢は身体を震わせる。
犯られる。こんなところで知らない男たちに。頬を涙が濡らした。
「いやぁぁぁっ」
広夢の口から叫び声が出て、壁に反響した。
「おい。何をやっている」
大通り側から大声が聞こえた。それと同時に数人の足音が路地に響く。
広夢の顔や首を舐めまわしていた男が顔を上げて後ろを振り返った。もう一人の男も身体を起こす。
「来た」
乱れる広夢をにやにや笑って見ていた男が声を上げた。広夢も声のした方を見る。この声を聞き間違えるわけがない。
大通り側から走ってきたのだろう、声の主とその連れが現れた。
「若槻さん……」
掠れた声が口に上る。聞こえたのは声を発した広夢だけだろう。
「加瀬くん」
黎二と庸介はその場の状況を瞬時で判断した。
「お前ら……」
庸介が唸るような声を上げる。
「遅いおいでだったな。兄ちゃん」
「この間の落とし前つけさせてもらおうか」
広夢をいたぶっていた二人が言うなり、黎二に殴りかかる。黎二はそれを軽く避けて、広夢を背にする位置へと移動した。庸介も黎二の隣に並ぶ。
「黎二。こいつら知り合い?」
「知り合いじゃない。この間、襲ってきた連中だ。叩きのめしたんだが」
「逆恨みか」
庸介の言葉が終わると同時に二人の男が殴りかかってくる。その手を黎二は左腕で払いのけて、右の拳を相手の頬に叩きこむ。
庸介は向かってきた男の拳を身体を沈めて避けると懐に飛び込んで、相手のシャツの胸元を掴むと相手に背中を向けるように回転し、そのまま背負って投げた。
同時に二人の男が地面に転がった。
「兄ちゃん達」
声の方へ黎二と庸介は身体を向けた。
「動くなよ。この坊やがどうなってもしらないぜ」
広夢を盾にするように背後に回った三人目の男が腕を広夢の首に絡め、煌めくナイフをちらつかせた。
「やめろ」
庸介が叫ぶ。二人は動きをとめた。後ろで男たちが起きあがる気配がする。
「要求は?」
髪をかきあげて、黎二は男に問うた。何の感情もない声だった。
「あんただ」
「ふざけるなっ」
庸介が怒鳴った。だが、男の言葉に黎二はくつくつと笑う。
「そうならそう言えばいいのに。そんなのを痛めつける必要はないだろう」
ゆっくり黎二は前に歩き出す。
「近づくな」
広夢の喉にナイフがあてられた。広夢はナイフから離れるように顔を上に反らせる。
「ほら取りに来いよ。俺がいいんだろう?」
妖艶に微笑んで黎二は足を進める。男の目をまっすぐに見つめた。男は黎二の瞳から目が離せない。ナイフを持つ手が震えだす。
「そんなの離して、こっちへ」
低く抑揚のない声が唆すように発せられ、男の腕が緩む。
「広夢っ!」
大通りと反対の路地の入口から、広夢の名を呼ぶ大きな声が響いた。男たちが声のする方へ顔を向けた。その隙を黎二は見逃さない。広夢までの数歩を一気につめると腕を伸ばして男の手首を掴んで手前に引く。
「広夢っ!」
叫んで駆けこんできたのは河野だ。その場に乱入すると向かってきた奴を殴り飛ばした。庸介も立ちあがっていたもう一人の男に突進する。後ろで起きている騒ぎに目をくれずに黎二は広夢を盾にした男の手首を掴む腕に力を込めた。
「その物騒なものを離せよ。骨が砕けるぞ」
黎二はなんでもないように力を込める。手首が軋む音がし、ナイフを持った男の顔が歪んだ。筋を親指で握られて、男はナイフから手を離す。からんと地面に落ちたナイフを黎二は足で踏んだ。そのまま手首を投げるように放ち、男の腕が広夢から解かれ、黎二は二人の間に身体を滑り込ませる。
痛む手首を押さえ、男はぎらぎらした瞳で黎二を睨んだ。
残りの二人は河野と庸介に地面に押さえつけられていた。
「形勢不利じゃないか」
「くそっ」
吐き捨てるようにいって、男は一歩後ろへ下がる。黎二はそれを逃さなかった。左手を伸ばし、相手の襟を掴むと身体ごと前に出て、相手を壁へ叩きつける。男の背が壁にあたる音が鈍く響いた。黎二は男の喉に万年筆を突きつけた。冷たい感触に男の顔が引きつった。
「ここには気管がある。息ができない患者に息をさせる時にはここを切って管を通す」
低く語る黎二は右手に力を込めた。ペンの先が皮膚に食いこんだ。
「おい、やめろ」
上ずった声を上げた男を黎二は睨みつけ、切っ先に力を込める。物騒な気配が黎二から上る。
「さて、どうする?」
「や、やめろ」
男の声が震えた。顔が蒼白になり、黎二が手を離すと男は壁伝いにずるずると座り込んだ。興味を失ったように黎二は視線を外し、背を向けると広夢に近づく。広夢はまだ手錠で拘束された上に、両腕をフェンスに繋がれていた。着衣は乱れ、ほとんど着ているとはいえない状態だ。
「若槻……さん」
「いい格好だな」
黎二の冷たい声に広夢は背を震わせた。ふがいなさを嗤われているようで、広夢は唇を噛みしめる。こんな時ですら、黎二には甘さの欠片もなかった。
「どうする?こいつら訴える?」
フェンスから手錠を外すこともせずに、冷徹に見つめたまま問われ、広夢は呆然と黎二を見た。
男が男に暴行されたと訴える?それで、何をされたか全部話すのか、警察に。
だめだ。どう考えても嫌な思いをするのは広夢だった。大体、たいした罪にも問われないだろう。広夢は、顔を俯けて、ゆっくり首を横に振った。
「そうか」
静かな声で呟き、手錠の鎖をフックから黎二が外す。広夢はそのまましゃがみこんだ。腕を下ろすと、血液がまわりだしてじんじん痺れた。右腕で左腕を擦った。肩の上にふわりと温かいものを感じた。肩に視線を流して、黎二が着ていたジャケットだと気付き、思わず広夢は頭上を振り仰ぐ。
「鍵は?」
黎二の冷静な問いに、広夢は男の一人を見た。庸介が捕まえている男だ。黎二は足元に落ちているナイフを拾って、後ろからはがいじめにされている男に近づく。
「鍵だせよ」
「けっ。だれが」
身体を揺らして、男は拘束を取ろうともがく。
「庸介。手元が狂わないように押さえとけ」
「了解」
何をするか悟ったらしい庸介は押さえこむ腕に力を込めた。黎二は男の足首を掴むと引っ張って伸ばし、裾からナイフを入れた。
「何をする」
「動くと足が切れるぞ」
ズボンの縫い目に刃があてられ、ざくざくと切られていく。救急搬送された意識不明の患者の手当てをする際に邪魔な衣服を剥ぐのと同じ要領だ。手慣れた様子で黎二は衣服を裂いて行く。
「よく切れるナイフだ。手入れがいいのか」
「やめろ」
下で男が青ざめながら怒鳴る。だが、黎二の手は止まらない。ナイフは足の付け根に向かって進んでいく。縫い目の果てにあるのは……。
「ポ……ポケットだ。右のポケット」
片足を腿のあたりまで裂いて黎二は手を止めた。ポケットの内側を手で探る。硬い感触に、表から手を入れると、鍵束ともうひと組の手錠が出てきた。鍵束には車や住居の鍵のほかに小さな鍵が2本ついていた。それをはずすと黎二は他の鍵を男の前に放った。
がたがたと震える男から庸介も手を離す。男は裂けてしまったズボンを手で押さえながら震えている。刃の先が大事なところにあたったのかもしれない。
黎二は立ちあがった。河野が押さえる男に目をやる。
「ああ。そうだ。そっちも実行犯だったな」
黎二のやることを呆然とみていた河野ははっと顔を自分が膝で押さえつけている男に向けた。
河野の怒りが再燃したらしい。背中に乗せた膝に更に力を入れた。
ぐっと男が呻く声がした。
黎二はナイフを持ったままそいつにも近づく。髪をひっつかむと頭を上げさせた。鼻の下にナイフの刃を突き付けた。
「鼻は根元まで硬い骨がない。鼻を削ぐっていうが、実は結構簡単……」
「ひっ」
刃に力を入れると男は喉で悲鳴を上げた。
「他にもある。骨のない器官。下の方に」
黎二の事務的な物言いに男が震えあがった。確かにある。骨がない突起物。性器だ。
「や、やめてくれ……」
刃は鼻の下にあるのに、男は身体をさらに丸めた。黎二が別の男のズボンを慣れた手つきで切ったように、このままだと自分の一物も危ないと思ったのだろう。
「それはお前次第だな」
さらに刃先に力を入れる。
「も、もうしない……お前達には手を出さない……」
頭を後ろに引きながら男は恐怖に喘ぐ。黎二はナイフを鼻先から離した。くるりと手の中でナイフを回転させると、河野にそのナイフを差し出す。とっさに河野がそれを受け取るが、あまりの事態に河野は呆然とし、立ちあがって背中を向けた黎二から視線が離せなかった。
「立てるか」
その場に座り込んでいた広夢に黎二が近づく。まだ、手錠に繋がれたままの手を地面について、腰を浮かそうともがくが、一向に足に力が入らないらしい。
腕を伸ばして、黎二は広夢を肩に担ぎあげた。
「うわあ」
「暴れるな。落ちる」
広夢を抱えたまま黎二はその場を離れるべく歩き始めた。
「庸介、行くぞ」
歩きながら声をかけられて、庸介は慌てて黎二の後を追う。
「おい」
「こいつは俺が送ってく。そいつらはほっといていい」
呼びとめた河野に振り返ると黎二はそれだけ告げ、踵を返した。
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