スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←ちょっと出かけてきます →6-2
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ

もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png はじめに
もくじ  3kaku_s_L.png リンク集
もくじ  3kaku_s_L.png Novel lists
もくじ  3kaku_s_L.png 奇跡の刻
もくじ  3kaku_s_L.png 平行線の恋
もくじ  3kaku_s_L.png 煉獄の恋
総もくじ  3kaku_s_L.png 天空国の守護者
総もくじ  3kaku_s_L.png 巡る季節と恋の順番
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
総もくじ  3kaku_s_L.png 山神の花嫁_昔話
もくじ  3kaku_s_L.png 告白の向こうへ
もくじ  3kaku_s_L.png 空の月を恋う
総もくじ  3kaku_s_L.png おまけ番外編ショート
もくじ  3kaku_s_L.png 遠回りの片恋
もくじ  3kaku_s_L.png 腕の中の迷い猫
総もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い闇の化身
  • 【ちょっと出かけてきます】へ
  • 【6-2】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

空の月を恋う

6-1

 ←ちょっと出かけてきます →6-2
「珈琲飲むか?」
目の前でにっこり笑った男をソファに座ったまま、上目づかいに見上げて、どうしてこんなことになったんだろうと広夢は何回目になるかわからない溜息をこぼした。
「紅茶のほうがいい?それともミルク?」
「いえ、珈琲をください」
それにもさわやかな笑みを返して、庸介がキッチンへと消えていく。床に雑誌が積み上げられていたり、ソファの背にジャケットが掛けられていたりと雑然とした男性らしい部屋。広さは黎二のところほどではないが、それでも平均より広いだろう。二十畳はありそうなリビングはライトブラウンのフローリングで、窓際に置かれたソファもその前のローテーブルも壁際の大きなサイドボードも黒で統一されていた。白のレースのカーテンが日の光を柔らかく通している。
きれいにしているが、几帳面と言うほどではない。峰庸介の部屋で広夢はまた溜息をついた。
肩からずり落ちるシャツを引き上げる。Tシャツに短パンといういたってシンプルな服装をしているが、服は身体にあっていない。それもそのはずで、着ている服は黎二のものだった。ウェストはひもで縛るものだから、いいとしても裾は長いし、半袖のTシャツなのに、肘まで袖がある。
今朝、黎二のベッドで目が覚めるとこの服を着るように言われて、庸介の部屋に置き去りにされ、黎二は仕事に行ってしまった。
「やっぱり、大きいな、服。黎二のだろう?」
庸介が笑いながら、目の前にマグカップを置いてくれた。湯気がほんわりと立っている。
「ありがとうございます」
マグカップを取り上げて、一口すする。
「捨てられちゃったんで、俺の服」
恨めしげに口にすると庸介は広夢を見て笑った。
「黎二らしいな」
「は?」
驚くと思ったのに、庸介の言葉に広夢が面食らった。しかし、庸介は広夢を見ているだけで、説明する気がなさそうだ。
わけがわからない。だが、迷惑を被っているのは庸介のほうだ。広夢はそう思うとカップをテーブルに置いて、姿勢を正した。
「本当にすみません」
広夢は頭を下げた。庸介は広夢の行動に目を丸くしている。
「お休みなのに、俺。すぐに帰りますから」
「それはだめ。黎二が帰ってくるまではここにいてくれないと」
広夢が頭をあげると困ったように庸介は頭をかいていた。
「迎えに来て、君がここにいなかったらあいつ絶対に怒るから」
だから、それまではここにいてくれと続きは目で訴えられた。
「でも……」
「ところで、その手は黎二が手当てしたのか?」
庸介は話題を変えた。広夢を帰す気はさらさらないようだ。
「はい」
広夢は両手首を見た。そこにはきっちり包帯が巻かれている。下には何か薬を塗っていた。この傷だけが昨夜のできごとを思い出させる。
「昨夜はつながってたんですよ。この両手の包帯」
広夢は両手首を内側を上向けて並べて見せた。
まったく信じられない。包帯を巻いてくれたと思ったら、包帯は一本で両手首分だった。自由にならない両手に文句を言っても「早く寝ろ」と冷たく言われただけだ。起きたら、両手は離されていた。
苦笑いを浮かべた後、その手をとってまじまじと庸介は見る。
「やっぱり、うまいな」
それは広夢も認める。動かしてもずれてこないし、痛みもない。
「さすがお医者さんだけのことはありますよね」
「あいつ、腕いいからな」
庸介の感心した声に広夢ははっとした顔をした。
「手当ては的確だ。精神科医もやれるな」
ぼそっと呟かれた言葉の意味を広夢はとりそこなった。
「え?」
「あいつに任せとけば安心ってことだ」
にっといたずらっぽく笑って、庸介は広夢の隣に腰を下ろした。じっと広夢の顔を見つめる。
「加瀬くんはあいつと付き合ってんの?」
まったく唐突な話題転換に広夢は瞳を大きく見開いた。意味がわかると頬がかっと熱くなり、慌ててぶんぶんと首を横に振る。
「違います。なんでそんなこと……」
呟いて、はっとした。俺と若槻さんの関係を疑っているってことは……。
「あ、安心してください。俺、二人の間に割り込んだりしない……」
語尾が震えた。やっぱり、この人が若槻さんのパートナーなんだ。わかっていたのに、心臓になにか固いものが突き立ったような心地がした。
「ちょっ……加瀬くん、誤解。それ誤解」
うつむいた広夢の肩をがっとつかむと庸介は焦ったように叫んだ。
「あいつは大学時代からの友人。だいたい、俺は男に興味ない」
広夢は顔をあげた。
「恋人じゃないんですか?」
「勘弁してよ。冗談でも性質悪い」
庸介は天井を仰いだ。その様子は嘘を言っているようには見えない。大体、そんな嘘を広夢につく理由もなかった。つめていた息をゆっくりと広夢は吐く。
「大学時代からって……峰さんもお医者さん?」
「そう。外科医」
庸介はそう言うと頭をぽりぽりとかいた。
「庸介って呼んでくれない?」
照れくさそうに笑う。
「普段は先生って呼ばれているんだ。医者だから。でも、加瀬くんの主治医でもないし、先生ってっ呼ばれるのもなんだしさ。だから、庸介でいいよ」
「じゃあ。俺のことも広夢って呼んでください。誰も俺のこと名字で呼んだりしないんで」
にっこり笑った広夢に庸介も笑い返す。
「よろしくな。広夢」
元気に「はい」と返事を広夢は返した。
「若槻さんも外科医ですか?」
「いや、あいつは病理」
「料理?」
広夢の返答に庸介は盛大に溜息をついた。
「それ、黎二の前では絶対に言うなよ。キレるぞ。確かに一般では知名度の低い科だけど。病理だよ。生検って訊いたことない?」
広夢は首を横に振った。
「医者ってあまり行ったことないので」
「そうか。細胞とか臓器の一部とかをとって検査することだ。その細胞や臓器の切片を見て、診断を下すのが病理医。病気があるかとか進行度とかね。間違えが許されない診断なんだ。その結果で手術をするのか、薬で治すのかの治療方針を立てるわけだから。間違ってたら、大変だろう?」
そんな大変で責任の重い仕事をしているんだと広夢はまた黎二に感心した。あのいつでも冷静な判断と態度は、常に緊張を強いられる職だからなのかなあ、と思う。
黎二の冷めた顔を思い出すと広夢はもの思いに沈んでいく。優しいんだか冷たいんだかわからない黎二は、ますます広夢の心を捉えている。
「広夢は、あいつが好きなんだね」
告げられた言葉に我に返った。顔を上げると庸介がやけに真剣な顔で広夢を見ていた。
「な、なんで……」
「見てればわかるよ。ずっと目で黎二を追ってただろう?店で何をしていてもずっと」
平静に告げられた。その表情には軽蔑もからかいも負の感情は見えない。
「若槻さんも……」
「あいつはわかってないだろうな。注目されて当たり前だからな。誰かれかまわず、見つめられているからすっかり慣れっこだ。他人の動向なんてまったく意に介していないだろうな」
で?と庸介は広夢に続きを促した。それがあまりにも自然で、心へとすっと言葉が滑りこんで、広夢は口を開く。
「……好き……です。でも、片思いですけど。ずっと、ずっと見てて。やっと言葉を交わして、不可解な人で、意地悪なことばかり言うし、相手にもされていないんですけど、それでも……」
つい言葉が口をついた。黎二について思うとすぐにこうやって気持が溢れて、言わなくてもいいことを口走る。
「え、えっと。すみません。忘れてください。余計なことを言いました」
自分のバカさ加減が恥ずかしく広夢は俯いた。
若槻さんの友達相手に、何言ってんだ。ほんとおかしい。若槻さんのことになると、おかしいよ……。
腕が伸びて頭を撫でられた。なんでかわからなくて、恥ずかしくて広夢はじっとしていた。
「腹減らない?」
しばらく黙って頭を撫でていたかと思うと庸介は唐突にそう言った。
「え?」
驚いて広夢は顔をあげた。庸介は広夢を見ていなかった。目が合わずにほっとしている広夢を尻目に庸介は
「ピザでもとるか」
そう言って立ち上がる。向けられた背中をぼうっと見つめていた広夢ははっと我に返った。
「庸介さん」
名を呼ぶと庸介が振り返った。何と問うように眉が上がる。
「俺、作ります」
すくっと広夢は立ち上がり、驚く庸介に微笑みを返した。

庸介はずっと側にいた。
別に何かをするわけでもなく、ソファで本を読んだり、新聞を広げたり、音楽を聞いたりしていたが、広夢が目の届くところにずっといた。
お茶を入れると嬉しそうに笑う。
「広夢ってすごいな。料理もうまかったし、このお茶もうまいよ。料理歴も長いの?」
うまそうにお茶をすすって、庸介は広夢に笑いかける。
「裏方も最初のころは結構やらされますからね。今もたまに手伝うし」
「そうか。昼のパスタもすごくよかったよ。カルボナーラって自分でも作れるものなんだな」
庸介の言葉に広夢は笑う。昼をつくると冷蔵庫を開けたら、酒くらいしか入っておらず、唯一見つけたのが、ハムと卵と牛乳だけだったのだ。
「本当は生クリームを使うんですけどね。ないから牛乳になっちゃったけど。まあまあいけましたね」
思い出しながら、広夢は苦笑いした。
「あれをうちの店のシェフに見せたら、なんて言われるか。うーん、怒鳴られるかも……」
河野の怒るだろう顔を思い、広夢はぎくりと身を震わせた。
思い出した。河野にもあの醜態を見られたんだ。繋がれて服を乱されて、喘いだ自分を……。
汚い。河野もそう思ったに違いない。
広夢は目の前のマグに視線を落とした。忌わしい記憶が、身体にまとわりつく感触が、不意に思い出された。腕を反対の手で掴んで、自分の身体を抱き締める。気持ちが悪い。身を前に少し倒す。
だめだ。息を吸って。落ちつけ。庸介さんに心配をかける。
自分に言いきかせながら、広夢は何度も息を大きく吸う。深呼吸をしているつもりで、浅く息を吸い続ける。身体が痺れて、かたかたと震えてくる。
どうしたんだろう。もっと息をしなきゃ。
「広夢?」
自分で自分を抱き締めて、震えはじめた広夢に声を掛けると庸介はがたっと立ちあがった。広夢の肩を抱き起こして、顔色を見る。
「息を吐くんだ。吸っちゃだめだ。吐いて」
だが、言われた通りにしようと思っても呼吸は浅く吸うばかりになる。庸介はすっと立ち上がると走るようにキッチンへと行き、紙袋を持って戻ってくる。それに思い切り息を吐いて、紙袋を膨らませると庸介は紙袋の口を広夢の唇に押し付けた。
「これに息を吐いて吸うんだ。ちゃんと紙袋を膨らますんだぞ。やって」
言われた通りに震える右手で紙袋の口を持って、息を吸い、それから吐く。何度もただ、紙袋が大きくなったり小さくなったりを見つめて息をくり返す。だんだん、身体の痺れが取れてきて、目の前を散っていたちかちかが消えた。身体からも力が抜ける。
「大丈夫か?つらくない?」
上目づかいに庸介を見上げ、広夢はこくんと首を前に倒した。
「過呼吸だ。息を吸ってばかりになると肺の中の酸素量が上がって、眩暈がしたり、身体が痺れたりするんだ。しばらく、それで呼吸して、完全に痺れがとれたら、はずしていいから」
それにも広夢は頷く。
庸介は広夢の横に座って、背を撫でる。ゆったりとした動作で。
広夢も無言で袋に息をした。どのくらいそうしていたのだろう。痺れは去って、だるい感じだけが残った。その間も庸介は背を撫でていてくれた。
紙袋を口から外し、広夢は大きく息を吐いた。
「大丈夫か?」
心配げな庸介に広夢は頷いた。痺れもないし、目の裏を飛んでいた星ももう見えない。
「大丈夫です」
「そうか」
広夢から手を離すと庸介は大きく息をついた。心配させたんだと広夢はうなだれた。
「すみません。俺……」
「何言ってるんだ。大事にならなくてよかったよ。だいたい、俺は医者なんだから、いいんだよ。それよりさ、夕飯もなんか作ってくれない?」
軽い口調と唐突な内容に広夢は顔を上げた。庸介の瞳と目が合い、広夢はなんでと視線で問う。
「昼ごはん、うまかったし。夜もどうせ、黎二は遅いからな。もう一回、広夢が作った飯を食いたいんだけど、だめ?」
しばし、広夢は庸介をじっと見つめた。
気を使っているんだろうか。何かしていた方が気が紛れるとか思っているのかも。
「いいですよ。いいですけど……。庸介さん、そんな、俺、大丈夫ですから。自分のことなら、自分でちゃんとできますから」
「広夢?」
ひどく怪訝そうな顔をされた。
「あのさ、何言ってるかわかんないんだけど……。夕飯作ってくれるかって訊いただけだ。広夢が子供じゃないって、そんな当たり前なことわかっているけど……?」
不思議そうな、変だろうという顔をされて、広夢はぐっと言葉につまった。
俺の考えすぎ?みんなが俺を可哀想に思っていると自分で思いこんでるだけなんだろうか。
「いいですよ。夕飯作ります。だけど……」
「だけど、何?」
「夕飯作るなら買い物に行かないと。冷蔵庫、ビールしか入ってなかったし」
冷蔵庫の中身を思い出して提案すると、庸介はああそうかという顔をし、いきなり笑いだした。
「そうだよな。俺、料理しないからな。ここんとこ買ったものといえばビールだけだわ。よし。それなら、買いに行こう。スーパーが隣にあるから」
声を立てて笑った庸介は、広夢ににっこり笑いかけた。
関連記事


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ

もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png はじめに
もくじ  3kaku_s_L.png リンク集
もくじ  3kaku_s_L.png Novel lists
もくじ  3kaku_s_L.png 奇跡の刻
もくじ  3kaku_s_L.png 平行線の恋
もくじ  3kaku_s_L.png 煉獄の恋
総もくじ  3kaku_s_L.png 天空国の守護者
総もくじ  3kaku_s_L.png 巡る季節と恋の順番
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
総もくじ  3kaku_s_L.png 山神の花嫁_昔話
もくじ  3kaku_s_L.png 告白の向こうへ
もくじ  3kaku_s_L.png 空の月を恋う
総もくじ  3kaku_s_L.png おまけ番外編ショート
もくじ  3kaku_s_L.png 遠回りの片恋
もくじ  3kaku_s_L.png 腕の中の迷い猫
総もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い闇の化身
  • 【ちょっと出かけてきます】へ
  • 【6-2】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【ちょっと出かけてきます】へ
  • 【6-2】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。