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空の月を恋う

7-3

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広夢の部屋のあるマンションの前に車を停めて、黎二は「着いたぞ」と告げた。
起きたらベッドに一人で、すでに仕度を終えていた黎二に、出かけると言われて車に乗せられた。一人で帰れると言い張ったのに、またもや、黎二の押しの強さに流されて、送ってもらってしまった。
降りようと車のドアに手をかけたまま、広夢は動きを止めた。黎二が助手席へと顔を向けたのを感じる。
「どうした?」
俯いて広夢は、ドアの取っ手をぐっと握る。
「どうして、どうして俺を……抱いたんですか」
ずっと聞きたくて、言えなかった言葉が口から零れた。恥ずかしくて、語尾が小さく消える。
「答えが欲しければ、また、俺のところに来い」
黎二がよこした言葉に広夢は絶句した。前回は礼だと言われ、今回の答えは保留だ。広夢は唇を噛みしめた。
「言っておくが、俺は意に染まないことはしない」
それって、自分の意思で俺を抱いたってこと?だが、その意思の意味は?
ぐるぐると廻る思考はますます広夢を混乱させる。
黎二は目線で車を降りるよう広夢を促している。このままここに座って、問い詰めても黎二は何も言わないだろう。
「送ってくださってありがとうございます」
不機嫌な声で告げて、広夢は車を降りた。
「ああ。じゃあな」
平坦な声で黎二はそう告げて、車を出す。テールランプが見えなくなるまで広夢は見送った。
店へと向かう自転車を走らせて、今朝のことを思い出しながら、広夢は何度目になるかもわからない溜息をついた。
部屋に帰ってシャワーを浴びても、何をしていても消えない黎二の手の感触が身体にまとわりついている。身体の中も充足したあの感覚を覚えている。それを意識するたびに身体の奥が熱くなる。
そういう関係になったらいいなと思っていた。一度でも抱かれたら諦めがつくかもと思ったこともあるが、それが大きな間違いだったことに広夢は溜息を落とす。抱かれたら、あの手の感触を抱き締める腕の強さを知ってしまったら、諦めるどころか、好きという気持ちがさらに膨らんで、ますますコントロールできなくなった。
俺ってバカだ。
黎二に告白してから、繰り返した自身への罵倒を心で呟く。
それでも……。
もう会わない。会いになんていかない。広夢はハンドルをぐっと握りしめた。
「広夢っ!」
物思いに沈んでいた広夢を呼びもどしたのは店長の声だった。気付けば店の前に着いていた。外で待っていたらしい店長の前川は、広夢を見ると駆け寄ってきた。
「店長。何やってるんですか?」
「いいから。こっちへ」
自転車を店先に停めさせられ、事務所に引っ張って行かれた。ばたんと扉が閉まり、目の前に立った前川が広夢を見下ろす。
「前川さん……?」
「大丈夫か」
沈鬱な顔で問われて、まるで腫れものを触るように労わられて、広夢は暗い顔を俯けた。
――忘れてた。
いろいろなことがありすぎて、一昨日の夜の出来事を広夢はすっかり忘れていた。昨夜のことで、黎二のことで頭が一杯で、頭の片隅にも残ってなかった。店にも河野にも連絡を入れていなかったことをいまさらながらに思い出す。
「すみません。俺、すっかり連絡を入れなきゃいけないこと、忘れてて」
「いいよ。そんなことを責めたりしていない」
前川は首を横に振って、溜息を落とす。
「ああそうだ。店長。制服なんですけど」
「先生から聞いてる。新しいのをロッカーに入れておいたからそれ使って。ジャケットとタイはここにあったから、そのままだけど。それより、しばらく休みをとる?」
前川の自分を見る目は柔らかいが、そこに労わりの影が見え隠れして、広夢はいたたまれない。
「それって、暇を出すってことですか?」
「違う。有休もあまっているし、休みをとってもいいって言っているだけ」
広夢は頭を左右に振った。
「大丈夫です。熱があるわけでも、具合が悪いわけでもないですから」
きっぱりと言い切った広夢を前川は見つめて、溜息をついた。
「あのさ……広夢」
言いにくそうに言葉を切って、前川は広夢から目を逸らした。何度も逡巡して、また広夢を見ると口を開く。
「警察に行く気はないのか」
広夢の身体がひくんと揺れた。
「お前は立派な被害者だ。あいつらちゃんと捕まえてもらった方が……」
「前川さん」
声が震えた。身体の脇で握りしめた拳も震えていた。
「その話はもう……終わったことです。俺はもう何も思い出したくない。警察に行ってどうするんですか。何をされたか逐一、説明するんですか。女でもないのに、男にレイプされそうになった詳細を?」
言いながら、悔しさと重い塊が喉の奥にこみ上げて来て、瞼が熱くなった。
「前川さんならよくわかっているでしょう。マイノリティの話なんて、ノーマルの警察官がどういう風に思うか。どういう態度をとるか……」
「広夢……」
前川は腕を伸ばして広夢を抱き締める。
「触らないでください。俺……俺……」
汚れてしまったからという言葉を広夢は呑み込んだ。あまりに黎二も庸介も普段通り、憐憫も不自然な労わりもなく接してくれたから、すっかり忘れていた。自分は汚されてしまったんだということを。誰とも知らない人間に触られて、悦んだ身体が許せない。それなのに、若槻さんにまで抱かれて、おかしくなるまでよがった自分。
若槻さんまで汚してしまったようで、広夢の心が乾いて罅が入る。
「ごめん。広夢。傷つける気はないんだ。ただ、悔しくて。お前を……」
前川が広夢を抱き締める。腕が震えて、声が掠れていた。泣いているのかもしれない。
「俺なら平気です。もう、何もかも忘れますから」
離してと身を捩ると、前川は腕を解いた。
「ごめん。もう言わない。だけど僕が君を心配していることだけは信じて。河野さんもだ。弟みたいだと思っているから」
広夢は頷く。前川が心から言ってくれていることもわかっている。そういう風に思ってもらえることも嬉しい。だけど、素直にそれに従えない自分がいる。ほっといて欲しい。それが一番の望みだ。
何もなかったことにして、ほっといて欲しい。
広夢は一礼すると事務所を後にした。

新しい白いシャツに黒のベストとズボン。えんじ色のタイを締めてジャケットを羽織った。髪をきちんと後ろで結う。鏡の中の自分は心持ち青い顔をしていた。
こんな顔をしているから、心配されるんだ。
前川の表情を思い出して、広夢は両頬を平手でパンと叩く。
俺さえしっかりしていれば、皆に心配をかけることもない。
鏡に向かってにっこり笑う。作った笑いでも笑える。大丈夫と、もう一度、鏡に向かって微笑んで、広夢は腹に力を入れた。
更衣室を出て、カウンターに向かう。開店までにしなくてはいけないことはたくさんあった。身体を動かしていれば忘れられるだろう。汚れてしまった自分も、そんな自分が感じた黎二の手の感触も、この身体に籠もってしまった熱さえも。
カウンターを拭きあげ、酒の準備をしていると奥の厨房から河野が顔を出した。
「広夢……」
広夢の姿を見るなり、河野は走り寄ってきた。二の腕を掴まれ、拒む隙もなく抱きしめられた。
「来てたんだな。大丈夫か」
腕にすっぽり包まれて、広夢はやけに冷めている自分に気付く。
「大丈夫ですよ。河野さん。離して下さい」
あんなところを見られて、どういう顔して会えばいいかわからないと思っていたのに、案外、冷静でいられる自分に広夢は自分で驚いた。
「河野さんこそ」
あの場に暴漢とともに置き去りにしたことを思い出し、広夢は顔を上向けて河野を見た。
「俺は別に。あの先生の無茶ぶりに、あいつら即、逃げてったからな」
「そうだったんですか」
「あいつら今度見つけたら、ただじゃ済まさない」
声に怒りが滲んで、広夢は心配をさせたのだと思うと同時に、もう構わないでほしいと思う。
「いいんです。もう、係わりあいになりたくない。俺をほっといてくれればそれでいい。河野さんもです。忘れてください。俺、思い出したくないんです」
「広夢……」
河野の広夢を抱き締める腕に力が入り、広夢は身体を硬くする。
「あれからどうしてた?」
「別に。手当てをしてもらって、それだけです」
「もう……」
河野が辛そうに声を出す。かなり思いつめた口調だ。
「もう……あいつとは会うな。係わりあいにならないほうがいい」
「河野さん……?」
「店にも出入り禁止にしたっていい。あいつが絡むとお前には碌なことがない。やめておけ。住む世界も違う。あいつはお前に本気じゃない」
広夢は河野の腕を振り切った。怒りが腹の底で澱んで、粘性を上げて吹きあげた。
「そんなの河野さんに関係ない。今回のことはあの人のせいじゃない。若槻さんを責めるのは筋が違う」
思っていた以上に大声が出た。怒りで目の前が赤く染まる。何も知らないのに、そんなわかったようなことを言わないでほしかった。子供じみた感情だと広夢にもわかっていた。とても二十歳を過ぎた大人の振る舞いじゃない。だけど、許せなかった。
「広夢。傷つくのはお前なんだ。俺は、お前に笑っていて欲しいんだ。だから、あの先生はやめておけ。お前だってわかっているんだろう」
河野は広夢に腕を伸ばす。その手を広夢は思いっきりはたき落とした。乾いた音が響き渡る。
「触るな。傷ついてもいい。それはあの人と俺の問題だ。河野さんには関係ないって言っているでしょう」
「関係なくない。俺はお前を……」
言葉を切って乱暴に河野は広夢を腕の中に囲いこんだ。河野の胸に頬が触れる。
「言わないでください」
河野のセリフを広夢は遮った。聞きたくなかった。関係が変わってしまう。ここは職場で、河野は仲間だ。
「何も。俺たちは仲間だ。それで十分なんです。河野さんが何を言っても俺は諦められない。傷ついてもいい。もともと叶う想いじゃないのは自分が一番よく知っているんです……だから……」
「広夢……」
背に回された手に力がこもる。
「心配なんだ。俺が……お前を……守りたい」
河野はそれだけを口にした。広夢はのろのろと首を横に振った。河野は離したくないようだったが、渋々、腕を解く。
「心配掛けたことは謝ります。でも、これは俺の問題です。勝手かもしれないけど、放っておいて下さい」
頭を深々と下げて、顔が見えないようにきっぱり言い切った。悪いと思ったし、河野の心配も嬉しかった。だが、これだけは譲れない。黎二と自分の間の問題だけには関与して欲しくない。
「広夢……」
「仕事ありますから」
背を向けるとフロアに出ていく。その背を河野は呆然と見ていた。
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