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空の月を恋う

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「若槻先生」
廊下で呼びとめられて、黎二は後ろを振り返った。遠江が立っている。今日もにこやかな笑顔を振りまいている。
「どこか調子悪い?」
近くまで寄るとつと身体を寄せて、遠江が囁いた。
「何故だ?」
「さっき、自分に薬を処方したでしょう。睡眠導入剤と痛み止め、あとビタミン剤。風邪?ストレス性の不眠症?」
自分を見上げる遠江の顔はいつにもなく真剣で、きれいな弧を描く眉が心持上がっている。
「怒ってるのか?」
「そう見える?ま、でもそうかも。先週は手を怪我して、今週は風邪とくれば心配にもなるでしょう」
そう言えば先週も食堂で怒っていた。心配して怒っているのかと黎二は目の前の友人に目を見開いて驚いて見せる。
「なにか厄介事?庸介絡み?」
「大丈夫だ。風邪も引いてないし、ストレスもない。先週の怪我は、バカに絡まれてちょっと揉めただけだ」
「バカ?また絡まれたの、変な奴らに?」
大げさに呆れて見せる遠江はまた怒っている。この外見のせいで、いろいろな意味で絡んでくる輩が多くて、すでに黎二本人は慣れっこになってしまっているが、遠江はそうではないらしい。まるで、高級な猫が毛を逆立てているようで、黎二は口元を緩ませる。
「喧嘩強いのは知っているけど、いい加減やめた方がいいよ。そういうの」
余計に怒ったらしい遠江はつっけんどんに言う。だが、口調に心配が混ざっている。遠江には俺に対する欲も何もない。適当な距離にいて、心地のいい相手だ。
「俺がつっかかってんじゃないんだが」
黎二の静かな声に、遠江は溜息をついた。
「そう、それが問題なんだ。黎二は人間に興味がないから、そうやって淡々と相手にするけど、相手はそれをバカにされたと取るからね。そんな風にクールすぎるのも考えものだよね」
黎二は遠江の言葉に首を傾げた。
「どういう意味だ?」
「そのまま。黎二ってできないことないでしょう。一人でなんでもできるし」
遠江の言葉に耳の底からよく聞いた声が被った。
『一人でできるでしょう』
出かける支度をしながら、母がよく言った言葉だ。最初はいつだっただろう。小学校に上がる前だったかもしれない。
『黎二はしっかりしているから、一人でも大丈夫。お金はいつものところに入っているから、夕食はそれで好きなものを買いなさい』
母は黎二を残して、そのまま出かけていく。誰もいない家で一人、黎二はそれこそ何もかもを自分でこなさざるえなかった。
『黎二は手がかからなくて助かるわ。感情で動かないことは大事よ』
顔を合わすたびに、そう褒められた。最初は寂しかったような気もする。だが、一人にも慣れて、欲しがることもなく、何も感じなくなった。一人でも生きていけるし、何も困らない。
遠江の言葉から昔を連想してしまい注意が反れていると思ったのか、下から見上げる遠江が少し目つきをきつくして、こちらをうかがうのが見え、黎二は小さく眉を上げて、先を促した。
「黎二は、何にも熱くならないよね。人は向こうからいくらでも寄ってくるし、ちょっとやると何でも一番で、だから熱中しない。欲しいものもなければ、興味も持続しない。違う?」
感情を表に出さないことが当たり前になっていたから、気にしたこともなかったが、周りからはそんな風に見られていたのかと黎二は少し驚いた。だが、言われている通りだから反論できない。
「違わないな」
「だからさあ、黎二は何事にも動じないから、人が絡んできたり、妬まれたりするんだよ」
何故かまた怒った調子で、遠江は言い諭す。
あまりに自分のことをよくわかっている友人がおかしい。だから側にいるんだろうし、自分もそれを許してきたのかもしれない。この外見に惑わされずに、黎二と付き合う貴重な人間の一人が遠江だ。面白くなって、黎二は口元に笑いを刷いた。
「なんで、笑ってんの。笑い事じゃないでしょうが」
背伸びして、黎二の目の皮膚を下へと引っ張った。まるであかんべえをさせるように。
「なにするんだ」
「いいから、口開けて」
「おい」
無視されてもまったく動じない遠江は手を黎二の首筋に滑らせた。
「確かに、異常はないようだね。疲れているようだけど、まあそれはこの職場の人間はみんなそうだから。で、それなのに痛み止め?横流しとか言わないよね」
さっと診察をしたらしい。さすが内科医だ。だが、遠江の怒りはまだ続いているようで、柳眉を逆立てている。黎二は溜息をついて、遠江の肩をぽんと叩いた。
「物騒なこと言うな。常備薬だよ。何かのために家に常備しているのが切れたんだ」
「本当に?」
「信用ないな。本当だ。大体、具合が悪かったら、ちゃんとお前の診察を受けに行っている。前にも勝手に自分で診察して、薬を処方するなって怒られたしな。今は、元気だから、薬は出してもらえないだろう?」
昔から遠江がよく口にすることを黎二は先に言った。具合が悪くなると勝手に処方箋書いて、自分のために薬を出してしまう友人を見るにみかねた遠江が告げたことだった。
「まったく。わかった。信じるよ。あんまり心配かけないでよね」
ほっと息を吐いて遠江は黎二を睨んだ瞳を緩めた。納得はしていないが、見逃すつもりらしい。
ここまで自分に対して本気で付き合ってくる人は、遠江と庸介だけだ。これはこれで悪くないと黎二は思う。
「そうだ」
下からのぞきこまれて、遠江は口端を上げた。ヤバいと思った。この笑いはくせものだ。
「庸介と飲みに行ったんだって。今度、俺も連れてってよ、飲みに。庸介だけずるいよ。今度は俺とね。非番の時でいいから」
打って変わった笑顔でねだられて、黎二は一歩後ろに下がった。遠江がにっこり笑う時には裏がある。もしくは本気で怒っているのを知っているからだ。
「わかった。今度な。三人で行こう」
「二人で。庸介が留守番でね」
ますます、満面の笑みを向けられて、さすがの黎二も遠江の本気を知る。
「わ、わかった。今度な」
珍しく動揺した黎二に満足したのか遠江は「絶対だよ」と言いながら、黎二の横をすり抜けて行った。向かう先は内科病棟だろう。
遠江の背中を見送りながら、黎二は肺に溜めていたらしい空気を溜息に変えた。

ノックの音に黎二は読んでいた論文から顔を上げた。かなり熱中していたようだ。珍しく面白かったのもある。ある一連の肝癌組織から抽出した遺伝子の解析について論じてあった。これが応用できれば、事前に癌化しそうな細胞を感知できるかもしれない。
「どうぞ」
論文のコピーをぱさりとデスクに置いて、ノックした相手に声をかけた。
「邪魔するぞ」
入ってきたのは庸介だった。時刻はすでに午後十時をかるく回っている。さすがの病理科も残っているのは黎二だけだ。
目線で何の用だと黎二は庸介に問いかける。庸介は部屋に誰もいないことを首を巡らせて確認してから、口を開いた。
「広夢はあれからどうだ?」
さすがに気になるのだろう。自傷行為を止めるためにどうしたのか訊きたいらしい。
「大丈夫だと思う。昨夜は自分を傷つけることはしなかった」
「すごいな。どうやったんだ。薬で眠らせたのか?説得した……わけないか」
「ノーコメントだ。訊くな、答えられない。一般的な治療じゃない上に、他に応用が効かない」
わくわくと尋ねられて、黎二はさすがに昨夜のことは説明できずに回答を拒否した。
「なんだよ。それ」
むっとする庸介に黎二は苦笑を返す。まさか、余計なことを考えなくていいように、無理やり抱きましたとは言えない。それも相手が自分を好きだと言ったから、どうでもいい相手に抱かれるより気分的にましかと思ったとは。
「それに朝もまだ落ち込んでいたようだからな。これからどうなるかはわからない」
黎二の言葉に庸介は眉をひそめた。
「こういうのは長期戦だからな。精神安定剤と睡眠導入薬を処方した方がよくないか。だめなら、入院させてもいいんだし。目を離すとやばいだろう」
医者の顔になって庸介は、意見を述べる。
「そう思って、とりあえず、薬は処方した。本当はきちんと病院に掛かってもらいたいが、精神科にいくのも嫌だろうしな」
「そうだろうな。何があったか話さなければいけないしな……」
庸介は考える顔になって、それからやけに不思議そうに黎二を見る。
「だが、理論で考えるお前にしたらめずらしいな。相手の感情を思いやるなんて」
「思いやっているわけじゃない。病んでいるのが精神なのに、症状を悪化させることをしたくないだけだ。理屈で考えてもわかるだろう」
また、腹の底にイライラが溜っていく。どうして広夢に関することを考えるとこう気分が平静でいられないんだろう。
「薬、どうやって渡すんだ?」
帰り道なら届けようかと提案した庸介に黎二は首を振った。
「今晩も来るように言ってあるから、うちで渡す」
「なら、早く帰ってやった方がいい。もう、こんな時間だから、行き違いになるのはよくない」
安心したような顔の庸介を見、それから時計に目を落とした。
「今日は仕事みたいだからな。閉店は午前零時だったはずだから、それからだろう」
答えが知りたければ来いと告げた。あいつの性格なら来るだろう。来ても答えはやれないし、好きだと思っている人間に抱かれれば、襲われたときの傷が軽くなるだろうと思ったなど告げる気もない。
「まあ、そうか。それでも、早く帰ってやれよ」
庸介の言葉に黎二はそうだなと呟いた。
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