スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←9-1 →10-1
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ

もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png はじめに
もくじ  3kaku_s_L.png リンク集
もくじ  3kaku_s_L.png Novel lists
もくじ  3kaku_s_L.png 奇跡の刻
もくじ  3kaku_s_L.png 平行線の恋
もくじ  3kaku_s_L.png 煉獄の恋
総もくじ  3kaku_s_L.png 天空国の守護者
総もくじ  3kaku_s_L.png 巡る季節と恋の順番
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
総もくじ  3kaku_s_L.png 山神の花嫁_昔話
もくじ  3kaku_s_L.png 告白の向こうへ
もくじ  3kaku_s_L.png 空の月を恋う
総もくじ  3kaku_s_L.png おまけ番外編ショート
もくじ  3kaku_s_L.png 遠回りの片恋
もくじ  3kaku_s_L.png 腕の中の迷い猫
総もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い闇の化身
  • 【9-1】へ
  • 【10-1】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

空の月を恋う

9-2

 ←9-1 →10-1
「広夢」
「大丈夫なのか」
がらりと扉が開いて、どやどやと人が入ってきた。広夢はベッドの上に置いた荷物をまとめていたが、その物音に振り返った。
「あれ?店長。河野さんまで」
息せききって部屋に飛び込んできたのは、店長の前川と河野だった。
「大丈夫ですって。今日の仕込みに間に合わないから休むって言っただけだし」
そう、なんだかんだと時間をとられたのだ。バタバタと過ぎた午後を思い出す。
午後の検査も無事に済み、警察の事情聴取も思ったより淡々と済んだ。ほとんど記憶がなかったから、警察官はがっかりしたようだが、保険会社が間に入っているから、入院費も保険がおりるし、自転車も弁償してもらえるらしい。だが、バイクの人には悪いことをしたと思う。ただ、貧血で倒れただけかもしれないのに、人身事故扱いになってしまったんだから。
加害者が見舞いに来ると言っていると警官に言われたが、今日にも退院だから、お気持ちだけいただいておきますと伝えて下さいと言付た。そこまでしてもらうわけにもいかない。無事だったんだし、自分も悪かったのだから。
警察が帰って時計を見るとすでに時計は午後四時を過ぎていて、仕事に間に合わないことに広夢は気付く。携帯電話を握りしめて、病室を出た。それで電話で伝えたはずだったのに。見舞いはいらないと。
「無事ならそれでいいんだけど。それより担当の先生は?」
前川店長の質問に広夢は首を傾げる。
「これって、労災にもなるんだ。帰宅途中の事故なんだから。いろいろ先生に訊かないといけないこともあるし」
そうなんだと広夢は思う。
「本当に大丈夫か、広夢。顔色があまりよくない」
河野が横に立って、広夢の顔を覗き込んだ。
「え?大丈夫ですよ。たくさん寝たし」
実際はそうでもない。まだ、頭痛は残っているし、とにかくここ最近よく眠れないし、食べられなかったのだ。その疲れが身体の底に残っている。
原因はわかっている。黎二に抱かれたことだ。そして、聞きたいのに訊けない答え。答えが欲しかったら部屋に来いと言われ、だが、結局、行かなかった。抱かれた理由は慰めとか気まぐれ、もしくは同情に違いないと思ったから、会いになんていかないと決めた。
今も答えなんて欲しくない。自分の望む言葉は返って来ないから。
もう、忘れるんだと何度も決心した。会わずにいればきっと忘れられる。つらいのは今だけだと思ったのに、顔を合わせたら思いがあふれて、どうにもならない。
俺、ほんとにバカだ……。
見ているだけで幸せだった恋が、どうしてこんなことになってしまったんだろう。報われないのがわかりきっているのに、あきらめることもできない。
「大丈夫には見えない」
河野の声にかぶるように部屋のドアが開いた。ぎくりと身をこわばらせて、広夢は扉を振り返る。
「あ。峰先生」
ほっとついた溜息は次に凍りつく。庸介の後ろから続いて部屋に入ってきたのは黎二だった。
「あれ。にぎやかだな」
入ってくるなり庸介は部屋を見渡して破顔した。確かに、狭い病室に大きな男が二人と自分、三人もの人間がいると狭い感じがする。
「そちらは、お見舞い?」
「店長、担当の峰先生です」
庸介の問いに、広夢は前川に庸介を紹介した。
「うちの従業員がお世話になりました」
前川が庸介に頭を下げる。ああと言葉を告げて、庸介は前川と話をしだした。前川が広夢の身元引受人が自分だと告げたためだ。黎二も庸介の後ろで話を聞いている。
どうしよう……。
広夢は困ってしまう。本来なら、手続きが終わったら黎二を待たずに帰ってしまうつもりだったのに。もう、これ以上は、いろいろなことに耐えられない。
「広夢。荷物はこれだけか?」
前川が話を聞くからいいと判断したのだろう、河野がベッドの上にある荷物を持ち上げて問う。
「え……あ、はい」
物思いから醒め、広夢はあわててベッドの脇まで行く。
「もってやるよ。車で来たから送ってく。店長にも言われているしな」
荷物を持ち上げるようとする河野の腕を広夢はあわてて抑える。
「いいですって。自分で帰れますから。お店、準備が間に合わなくなっちゃうし」
時計を見上げて、まずいと思う。こんな時間まで、店長も料理長もいなかったら、お店が始められない。
「大丈夫だって。厨房も準備もスタッフに任せてきたから。あいつらだってやるときはやるんだ。みんな心配してたぞ」
腕をするりと抜いて、河野が荷物に腕を伸ばした。
「みんながやるときはやるのは知ってますけど。でも……」
「だろう?だから遠慮するなって」
河野はそういいながら、顔をあげた。何かを見とがめたように、河野の笑みが凍りつき、眉間にしわを寄せる。嫌悪感を隠しもしないその表情に広夢も振り返った。
「若槻先生」
広夢の後ろに黎二が立っていた。整った顔が静かに河野を見、そして広夢に視線を移した。
「帰るんだろう?」
静かな声だった。広夢が当然そうするだろうと疑うこともない声。
「え、えっと……」
「ほら、広夢。行くぞ」
鞄を持ち上げた河野は黎二を無視することにしたらしい。広夢を促して、病室を出ようと誘う。
「河野さん。いいですから。自分で帰りますから、お店に戻ってください」
慌てて広夢は河野から鞄をひったくって、自分の胸の前に抱きしめる。
「なんだよ」
不満そうな声を出して、河野は広夢を見た。ついで、黎二にも視線を向けて、河野の目が鋭くなり、まとう雰囲気が険悪になる。
「まさかと思うが、こいつに送ってもらうって言わないよな」
広夢は首を横に振る。もう、誰もかれも自分をほっといてほしい。これ以上事態をややこしくされてはたまらない。そう思うのに、対する黎二は変わらない。静かにそこに佇んで、広夢を見ている。
「こいつとはもう会うなって……」
「河野さん」
激した河野の声に前川の落ち着いたそれでいて通る声がかぶった。
「帰りましょう。広夢の言うとおり、店に戻らないといけない時間です」
「店長っ」
「広夢」
名を呼んで、前川が広夢の前に立った。
「今日、明日と休みにしとくから、木曜日から出てきてくれればいい」
「なんで。俺、大丈夫です」
「峰先生からもしばらくは安静だと聞いたし、俺もお前には休養が必要だと思う」
静かな前川の声に広夢は唇を噛んだ。家に一人ではいたくない。何かすることがないと自分の心の中の想いに沈んで、這いあがれなくなりそうで怖かった。
眠ったら、また夢を見る。
「お前、丈夫でほとんど休まないから、休み溜まっているし、気にしないでゆっくり休め」
広夢が休みたがらないのは、仕事に対して、店に対して悪いと思っていると判断したらしい前川が微笑んだ。その言葉が前川の好意なのはわかっていた、だが、今は一人でいたくない。
「いえ、俺……」
「すみません。加瀬さん。忘れてました」
休みませんと言いかけた広夢を看護師の声が遮った。
「あ。ごめんなさい、お話し中。これ、処方箋。下の薬局で薬受け取ってくださいね」
差し出された紙を広夢は受け取った。
「薬って?」
看護師をみると、先生、説明してないんですか、と庸介が看護師に怒られた。
「三日分だしといたから、ちゃんと飲めよ。睡眠導入剤と栄養剤。あと打ち身用の湿布」
「そんなのいらない」
「頭を打っている可能性も否定できないし、事故によるショックもあるだろう。二、三日はゆっくり寝て、栄養をきちんと取って、それで頭痛も吐き気もなくなったら、大丈夫だから」
困ったように庸介に説明されて、それも全部事故のせいだと言われて、広夢は断る言葉を失った。
「じゃあな。明後日になっても頭痛がするようなら、また診せに来て」
庸介は看護士を引き連れて、病室を後にする。
「俺たちも帰るな。次は木曜だ。そういう風にシフト組んだから、出てきても仕事ないから」
そう告げて、前川は河野に視線を送った。
「河野さん。行きますよ」
前川の言葉に河野は黎二を睨みつけてから、広夢を見た。
「ありがとうございました」
礼を述べた広夢を心配気に見やり、黎二を再度睨んでから河野は前川について病室を出て行った。
あれだけ騒がしかった病室がいきなりしんと静まりかえる。広夢はみんなが出て行った扉を眺め途方に暮れた。黎二と二人になってしまって、どうしていいかわからないのだ。
「薬、もらってこい」
荷物を持ち上げて、黎二も病室を出ようとする。その腕を広夢はつかむ。
「なんだ?」
黎二の顔は見られなかった。あの瞳を見てしまったら、きっと断りきれなくなってしまう。また流されて、後で自己嫌悪にどっぷり落ち込むのは目に見えていた。
「いいです。自分で帰れますから。もうほっといてください」
俯いたまま告げる。声が震えたがそれも仕方がないだろう。何をされても、こんなに悩んでも結局、黎二を嫌いになれない自分をただただ思い知らされて、広夢はひどく惨めだった。
「おまえは不可解で、不愉快だ」
長い沈黙のあと黎二はぽつんと呟いた。
「は?」
何を言われたか、わからず顔をあげると腕をするりと抜いて、黎二は病室を出た。
「若槻先生」
慌てて広夢は黎二を追いかける。エレベーターホールでやっと追い付く。
「薬をとったら、玄関前で待ってろ」
ただ一言そう告げて、黎二はさっさと荷物を持ったままエレベーターに乗り込んでしまった。
「なんでだよ。どうして……」
広夢の呟きは口の中で溶けて消えた。
関連記事


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ

もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png はじめに
もくじ  3kaku_s_L.png リンク集
もくじ  3kaku_s_L.png Novel lists
もくじ  3kaku_s_L.png 奇跡の刻
もくじ  3kaku_s_L.png 平行線の恋
もくじ  3kaku_s_L.png 煉獄の恋
総もくじ  3kaku_s_L.png 天空国の守護者
総もくじ  3kaku_s_L.png 巡る季節と恋の順番
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
総もくじ  3kaku_s_L.png 山神の花嫁_昔話
もくじ  3kaku_s_L.png 告白の向こうへ
もくじ  3kaku_s_L.png 空の月を恋う
総もくじ  3kaku_s_L.png おまけ番外編ショート
もくじ  3kaku_s_L.png 遠回りの片恋
もくじ  3kaku_s_L.png 腕の中の迷い猫
総もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い闇の化身
  • 【9-1】へ
  • 【10-1】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【9-1】へ
  • 【10-1】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。