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空の月を恋う

10-1

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どうしてこうなるんだか。
広夢はもう何度も後悔したことをくり返す。いつもいつも黎二には振り回されっぱなしだ。鞄に部屋の鍵も財布も入っていたから、それを捨てて一人で帰るわけにもいかずに、薬を受け取ると病院の玄関で待っていた車に乗るしか、広夢には選択肢がなかった。
そして、今、また黎二の部屋のリビングに立ちつくす自分は本当に学習能力が欠如している。
送るっていったくせに、どうして俺を部屋に連れてくるんだろう。大きな溜息をつく。
ついてくる俺も俺か。
確かに一度は黎二は広夢を部屋まで送ってくれた。つい先ほどのやりとりを広夢は思い出す。
三階建ての鉄筋コンクリート作りのマンションの前の道に車が止まった。
「ありがとうございました」
ドアに手を掛けると、いきなり扉をロックされる。
「待っているから、要り様なもの持って降りてこい」
二の腕を掴まれて、広夢は黎二を見た。
「は?」
「答えは欲しくないのか?」
広夢は首を横に振る。聞きたくない。返ってくる答えなんてわかりきっている。
「いりません」
そうかと呟いて、黎二は広夢をまっすぐに見つめる。広夢は落ち着かずに微かに視線を黎二から逸らした。
「峰先生が言ってたろう?安静だって」
少ししてから、黎二が口を開いた。
「だからって、どういう関係が……」
「俺のところで過ごせばいい」
黎二の言葉の意味がわからない。なんで、若槻さんの部屋で過ごさないといけないんだ。
「意味わからないんですけど?俺、大丈夫ですから」
「ほんとに学ばない奴だな。大丈夫かどうか決めるのはおまえじゃない」
「それも意味わかりません。本人が大丈夫って言ってるんだから、大丈夫なんです。もう、ほっといて下さい」
ロックを外して、車から降りた。運転席からも黎二が降りて、広夢の後ろからついてくる。
「若槻さん。帰ってください。どうしてついてくるんです」
くるりと後ろを振り返り、黎二を見上げた。
「俺のところにくるのが嫌なら、俺がここにいる」
この時の自分の表情はさぞかし間抜けだっただろうと広夢は思う。ぽかんとあいた口がふさがらなかった。まったく、黎二の意図が読めない。
相手できないと無視して、三階の自分の部屋へと歩を進めた。後ろから、黎二はついてくる。
玄関でも呆気なく、部屋に侵入されて、広夢に選択肢は無くなってしまった。この調子だと黎二は出て行けと言っても梃子でも動かないだろう。
この部屋で、黎二と二人で過ごすのは無理だ。泊める部屋も布団もないんだから。それに、ここで二人でいたら自分がおかしくなりそうだった。ここは自分のテリトリーで、そこに黎二がいるなんて、広夢は想像したこともない。そんなことになったら、黎二が帰った後、自分の部屋ですら黎二の影を思い出して過ごさなくてはならなくなる。
どれだけこの人に囚われてんだろう。
散らかったリビングに立って、物珍しそうに部屋を見渡している黎二を見ながら、広夢は彼の言う通りにするしか、道がないことを悟る。
待っていて下さいと伝えて、当座必要なものを広夢は鞄につめた。

「そこで何をしているんだ?座るか寝るかすればいいのに」
後ろから声がかかって、広夢は慌てて振り返った。先ほどの自分の部屋でのやりとりに気を取られて、ぼんやりしていたらしい。
「ああ。はい」
バツが悪くて、広夢は慌てて、窓に向かって置かれたソファに座った。夕方の残光はすでにビルの谷間に消え、空は薄墨色から濃紺へとその色を変えつつある。街に灯りがともり始め、まだ、明るさが残る空にぼんやりと瞬いていた。黎二はキッチンへと消えて、すぐに戻ってきた。
手渡されたペットボトルを反射的に受け取る。ミネラルウォーターのボトルだった。
「薬用」
さっき受け取った薬を飲めと言われているんだとソファの脇に置いた鞄から、薬の袋を取り出す。三種類の錠剤のパッケージと湿布薬を並べて、袋に食後に服用と書いてあるのを見つける。
「これって、食後に飲めってことだよな」
独り言が届いたのか、袋をひょいっと取りあげられ、広夢は顔を上げる。黎二が袋を見つめていた。
「ああ。なら、食事が先か」
ちょっと待ってろと黎二が踵を返す。広夢はその後を慌てて追った。どうするつもりだろうと思ったのだ。庸介のことを思い出せば、この人たちが自炊をしているとは思い難い。
だが、キッチンで冷蔵庫を開いた黎二を見て、広夢は動きを止めた。
「料理、するんですか……?」
呟きに黎二が後ろを振り返った。
「失礼な奴だな」
眉を寄せて、黎二は広夢を見る。このところ、黎二はその瞳に惜しげもなく広夢を映す。熱を感じさせない目が、まっすぐに広夢を射る。
ずっとそれを望んでいた。あの瞳に自分が映ったらどんなにいいだろうと。だが、見つめられたら恥ずかしくて、うなじと耳にぱっと赤みが散って、広夢の方がまともに黎二を見られない。
「あっちで待ってろ。ここのところ忙しくて、買い物に行けなかったから、たいしたものはつくれないが、今晩くらい凌げるだろう」
「み、見ててもいいですか?」
小さな声で呟いた。黎二の形の良い眉の端が心持ちあがった。
「変な奴だ。見てても面白いとは思えないが……。そこに座ってろ」
カウンター越しにキッチンが見えるダイニングテーブルを指ささた。黎二の声は相変わらず、冷たい。だが、そこに自分を気づかう色を見つけて、広夢は素直に頷くと言葉に従う。
変な感じだ。
包丁を使う黎二を見ながら、広夢は思う。
店のカウンターで作業をする自分を黎二が見ているのがいつもの光景なのに、今は、彼の部屋でカウンター越しに黎二が料理をするのを広夢が見ている。広夢の好きな黎二の大きな手が包丁を握って、野菜をざくざくと切っていく。出汁を鍋に入れ火に掛けて、沸騰したころを見計らって、切った野菜を端から放りこんでいく。
長い腕、広い胸板に引き締まった腰。俯き加減の顔には睫毛の影が落ちている。何を見ても綺麗だと広夢は思う。自分が欲しかったパーツを全て兼ね備えている黎二。
飽きもせず、広夢は黎二をじっと目で追う。料理に没頭する黎二はその視線が気にならないのか、瞳を上げない。見られ慣れていると庸介も言っていた。
そうだろうと思う。だれもが、見惚れずにはいられない男(ひと)。
だが、その中身は冷たくて、でも優しくて、わけがわからない。
それでも好きだと広夢は思う。何度も何度も想ってきた。自分でも理由なんてわからない。黎二を見るとどきどきするし、あの瞳が自分を捉えると震えるほど恥ずかしい。なのに、あの腕に抱かれたのだ。
ありえない……。
また、黎二の触れた感触を身体が思い出して、うなじが真っ赤に染まった。たった一度、気まぐれに抱かれただけなのに、それを思い返しては、身悶えている自分は滑稽だ。
水音が遠くでする。目の前で、黎二が皿やまな板を洗っている。それが遠く現実味なく見えた。
「おい。目を開けたまま寝てるのか」
だから、目の前に立った黎二が自分を見下ろしていても現実と認識できなかった。手が伸びて、軽く頬をはたかれて、我に返る。
「え?」
何度か瞬きをする。
「変な奴だな。いつもそんな瞳で俺を見ているのか?」
広夢は瞳を大きく見開いた。黎二の言葉が理解できると頬に朱が上った。慌てて俯く。首を何度も横に振った。
相手が気にしていないから見ていた。じっと見つめても気にもとめていないようだったから。だが、それを意識されたら、いたたまれない。自分の瞳は黎二しか映していなかったのだから。
伸びてきた手が広夢の顎を掬った。振り続ける頭を止められる。
「ふうん」
黎二の灰褐色の瞳が広夢の瞳を覗き込む。
「大きくて、やけにくっきりした瞳なのに。そんな煙るような瞳で見ていたとは知らなかった」
面白そうに呟かれ、広夢は身の置き所がない。
「恋人にしてもいい」
広夢は動きを止めた。見開いた瞳で黎二を凝視した。
何を言いだしたんだ。この人は……。
「どういう意味……?」
絞り出した声はしわがれていた。頭が考えることを拒否している。
「そのままだと思うが。違うのか?」
不思議そうな顔で小首を傾げた黎二を見つめた。
恋人って。黎二が自分を好きだってこと?
思った端から、広夢はそれを否定する。黎二の瞳にも雰囲気にも広夢を好きだと欲しいと想う気持ちは見えない。どっちかというと所有物にしてやるって言っているように聞こえる。
「嬉しくないのか?」
困惑が黎二の瞳にある。
「い、意味がわからないから……」
「お前は本当に不可解で、イライラする」
広夢の答えは黎二を怒らせたらしい。前髪をかきあげて、黎二は広夢に更に顔を近づける。黎二の瞳に広夢の揺れる双眸が映っていた。
「抱いてやっても恋人にするって言っても、おまえは喜ばない。どうしたら、嬉しい?」
「だって、若槻さん……お、俺のことなんとも想ってない」
ひどく不思議な単語を聞いたとばかりに黎二は眉を吊り上げた。
「恋人って。意味わからないよ。それは好きになった同士がなるものだ。なのに、若槻さんは俺を好きじゃないんだ。おかしいよ。そんなの変だ」
「お前はその言葉を簡単に口にする。好きだと。好きってなんだ?どんな思いを指す?」
広夢は驚いた。若槻さんは人を好きになったことがないのか?
「そんなの説明できることじゃない。俺はあなたが好きだし、側にいたいし、できたらずっと見ていたい。あなたが楽しそうなら楽しいし、あなたが喜んでくれればと思ってる。あなたを見ていると幸せで、それでちょっとだけ優しくしてもらえたら……俺は、それでいい……」
嘘だと思う。本当は黎二にも自分を好きだと言ってもらいたいし、抱きあいたいし、愛しあいたい。薬で乱されてとかではなく、黎二の腕に抱かれたい。だが、それは叶わない夢。だから、広夢は口にしない。
「お前の言うことはよくわからない。俺が欲しくないのか?」
欲しい。
広夢は出かかった言葉を飲み込んだ。言っても伝わらないだろう。彼の言うことと広夢の望みは一致しない。さらに黎二の顔が近付いて、唇に彼の吐息を感じた。瞳を閉じることも抵抗することもできない。
「どうしたらおまえは嬉しい?」
囁かれた言葉の後、黎二の唇が広夢の唇に触れた。
ぴぴぴぴぴ……
鳴り響く電子音に黎二は身体を離した。舌打ちして、踵を返す。黎二はそのままキッチンに戻り、火を止めた。
「食事にしよう」
なにごともなかったかのように黎二は置いておいた器を手に取った。それを広夢は見ている。黎二の吐息の触れた唇が熱い。黎二は何と言っただろう。
『どうしたら嬉しいか?』
なんでそんなことを訊くんだろう。
黎二が鍋の中身を器に盛り付け、その上に三つ葉を散らした。盆に器とレンゲを乗せて運ぶのを広夢は見ていた。すっと盆ごと目の前に差し出される。
「これを食べて薬を飲んだら、もう休め」
広夢は黎二の声を遠くに聞きながら、差し出された食事を見つめる。野菜がたくさん入った雑炊だった。かき混ぜた卵がきれいに散っている。
じっと見ていると肩に手を置かれた。どくんと鼓動が胸を打った。
「食べろ」
促されて、レンゲを取り上げ掬う。ご飯が食卓の明かりをうけてきらきらと光った。
湯気のたつそれに息を吹きかけ冷ましながらそっと口に含んだ。味付けは薄めで、ご飯は程よく柔らかかった。野菜はきちんと煮込まれて、口に含むとほろっと崩れた。
「あ。おいしい」
広夢が口にするのを後ろから眺めていた黎二は、その言葉を聞くとキッチンへと戻る。
身体を後ろにひねって広夢は黎二を見た。
「なんでもできるんですね」
広夢の体調を気にして作ってくれたであろう食事。味付けも病人向きだ。
「簡単なものならな」
自分の器にも雑炊を盛って、黎二は広夢の正面の椅子に座った。一口含んで、眉をひそめると食卓塩の容器を取り上げ、振りかける。病人用にしたので味が足りなかったらしい。
「おまえがこの間作ったような本格的なものは無理だけどな」
雑炊をかき混ぜる黎二の手を見ていた広夢は顔をあげた。
「え?」
「店でも出せそうだったな」
かき混ぜながら、黎二は口元にうっすら笑みを刷く。無意識なのか、いつものように冷めた笑いではなく、温かい微笑み。広夢の鼓動が大きく跳ねた。
「もしかして、おいしかったですか?」
「ああ」
即答されて、広夢は大きく目を見開いた。あのときは何も言ってくれなかったから、おいしかったんだかどうだか自信がなかったのだ。
「じゃあ……ま、また」
広夢の問いかけに黎二が顔をあげた。何を言い出したのかという顔だ。
「また作ったら、食べてもらえます?」
「ああ」
すぐに返った黎二の言葉に広夢は破顔した。大きな瞳が柔らかく弧を描き、口元から歯がこぼれた。黎二の瞳が見開かれた。ひどく驚いている。
「じゃあ、また作ります」
笑ったまま広夢は答える。嬉しかった。なぜだかとても。
「だから、好みを教えてください。嫌いな食べ物とか」
にこにこと答える広夢を見つめたまま黎二は何も答えない。ただただ、広夢を見ている。
「……若槻さん?」
急にまた口を閉ざした黎二に広夢は首をかしげた。何か悪いことを言っただろうか。
「そうだな。嫌いなものは、ない。セロリくらいか」
「セロリ……」
また、ずいぶんと意外な食べ物だった。筋張っているから嫌なのかなとか思ったりする。そこで広夢は黎二と会話が成立していることに気付いた。庸介がいるならともかく、二人でいてまともに会話が成り立ったためしがないのだ。それも、黎二は穏やかに微笑んでいる。
なんだかさらに嬉しくなって、広夢も笑顔になった。
若槻さんとこんな風に過ごせるなんて。
そう思いながらも広夢はとりとめない会話を大切に続けた。
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