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空の月を恋う

10-2

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食事が終わって、洗いものを始めようとしたら、キッチンをおいだされた広夢は先ほど薬を広げっぱなしにしていたリビングに戻った。
ソファに腰を下ろし、自分があまりにも満ち足りて幸せな気分なことに微笑む。黎二とは、たわいない話で食事が進んだ。それこそ、今まで食べた一番おいしいものだとか、逆に最悪だった食材だとかの話だ。黎二はずっと穏やかな微笑みを浮かべながら、会話をしてくれた。
まさに夢に見ていたままの黎二の温かい微笑み。
嘘みたいだ。
こういう風になりたいって、ずっと見つめていた一年。思い描いていたことが今、現実にある。いや、もしかしたらまた夢を見ているのかもしれない。自分に都合のいい夢。
どうしてあんなに冷たい態度だった黎二が自分を見て穏やかに微笑むのか広夢にはわからない。
そんなに好物だったのかな?カレイの煮付け。
話の発端が自分が作った料理だったことを思い出し、広夢は彼が微笑んだ理由を考える。また、食べてくれると言っていた。
そう思って広夢は顔を赤らめた。
『また』を作ってしまった。ここに来た時は一刻も早く、うちに逃げ帰りたかったのに。あの笑みを見てしまったから、もうちょっとここにいたいと思う自分がいる。
ゲンキンだな。
フワフワする気分のまま、広夢は錠剤を一つずつプラスチックのシートから出す。指で押して、銀紙を破り左手の手のひらへと錠剤を落とす。
「あれ?」
手のひらに転がり落ちた三つ目の錠剤を広夢は凝視した。この薬のシートはプラスチック部分に青みがかっているので、いままで紫色に見えていたのだ。なのに、出してみたらピンク色で、それもけっこう毒々しい色をしている。
これって……。
瞳を大きく見開いて広夢は思い出す。あの日、あいつらに犯られそうになったあの日、黎二に痛み止めだと渡された錠剤によく似ている……。
慌てて、広夢は病院の薬局で手渡された印刷物を取りあげる。処方された薬の写真と何の薬かとか副作用などが書いてある紙だ。
「……ビタミン剤……」
そういえば、庸介が栄養剤も出しておくからって言っていたことを思い出す。
「じゃあ、あの時の薬は……」
そこまで呟いて、広夢は乾いた笑い声を立てた。身体のどこからか大事なものが欠け落ちるような感覚を味う。その錠剤だけ広夢は口に含む。同じ味だった。僅かに酸味がある。
黎二は「身体が熱いだろう」と訊いた。だから、あれは、そういうヤバい薬だと思いこんだ。でも、実際はただのビタミン剤……。
気まぐれでもなかったってことか。
広夢は拳を握りしめた。右手に持った紙がくしゃくしゃになる。
同情だったんだ。憐れみか。
胸の底からこみあげるような痛みが襲って、目頭が熱くなる。慌てて残りの錠剤も口に放り込み、広夢は水で全てを飲み込む。
やっぱり、若槻さんと俺では無理なんだ……。
広夢は滲む視界に腕で瞳を拭う。心が軋みを上げた。これ以上はもう、無理だ。
最高に幸せな気分だったのに、一気に地獄の底に叩き落とされたような無力感を感じた。
こんなの酷い。ひどすぎる。
居てもたってもいられなくて、広夢は立ちあがった。ソファの脇に置いておいた鞄に薬と薬の袋をぐしゃっと入れて、担ぎあげると扉に向かって一直線に進み、部屋を出た。後ろは振り向かなかった。

食器の汚れをざっと落し、食洗機に入れながら黎二は広夢の嬉しそうな顔を思い出していた。
とても些細なことだった。あの日、広夢が作った料理を思い出しただけだ。それだけのことに、広夢は嬉しそうに笑ったのだ。
黎二の前で初めて、広夢は喜んだ。抱いても恋人にしてやるといっても喜ばなかった広夢がだ。
食事の間中、充足感を覚えていた。そのあとのたわいない会話でもずっと広夢は笑んでいた。あの大きな瞳をキラキラさせて。
このところ黎二の心を悩ませ続けた、『なぜ』が一つ解消した。だが、広夢があんな些細なことに喜んだ理由はわからない。ただ、彼が喜んだという事実は、黎二の心を温かくした。
本当に、自分はここのところおかしい。黎二は手をタオルで拭きながら思う。
自分でもよくわからないが、広夢が気になり、常に問いかけている。何故と。
広夢とはあの店で飲んでいた時もよく瞳が合うと思っていた。もしくは、黎二が顔を上げると一瞬早く視線を逸らす。
だが、そういう風に自分を見ている人間はそれこそ暇がないほど存在する。だから、今まで、気にも留めてなかった。広夢の視線には熱も嫌な欲も感じなかったから、それこそ見られているのは知っていたが、放っておいたのだ。
それが、あんな瞳で見ていたとは。
別の世界をのぞき見ているような夢見る瞳。それこそ、一動作も見逃さないと見ていただろう瞳。だが、そこには欲望や熱はない。あるのは憧れか。
広夢の瞳は大きくて、白目と黒目の境目がはっきりとした特徴的なもので、黎二は結構気に入っていた。だから、その瞳を覗き込むことが増えた。真っすぐに見返すと広夢は僅かに視線を逸らす。首まで真っ赤に染めて。
あれはいったいどういう生き物だろうと黎二に思わせるくらいに、広夢は変わっていた。黎二がいままで見てきたどんな人間とも違う。
かたく絞った台ふきんで、テーブルを拭いているとリビングの扉が開閉する音が聞こえた。
黎二は顔を上げた。
広夢……?
寝に行ったのだろうか、それともトイレか、と思っていると玄関の扉が開錠し、扉の開閉音までが届いた。
「あのバカ」
黎二は台ふきんをそのままに後を追う。きっとまた急にここにいたら悪いとか、なんでここにいる必要があると思ったに違いないのだ。
「まったく、目を離しているほうが気が気でないことがどうしてわからないんだ」
呟いて、玄関まで来ると案の定、広夢の靴がない。
黎二は靴を履くと扉を開ける。広夢の姿は見えなかった。ずいぶん、急いでいるものだ。
扉を締めて施錠し、後を追う。エレベーターはすでに下に降りていた。
あの傷んだ足で、無茶をする。
黎二はイライラしながら、やってきたエレベーターに乗り込んだ。エレベーターの階を示す数値が下がるのを今か今かと待ち、一階で扉が開くなり、そこから飛び出した。エントランスを抜け、通りへでる。右手に広夢の背中が見えた。左足をかすかに引きずりながら、歩いている。
小走りで通行人を避けながら、黎二は広夢に追いつくと後ろから腕を掴んだ。
「待てよ。どこに行くんだ」
びくりと身体を大きく震わせて、広夢はゆっくり振り返った。その瞳が昏く染まっている。
「帰るんです」
「何故だ。今夜は俺のところにいるって言っただろう」
「言ってません。離して下さい」
俯いて、広夢は答える。今までに訊いたことのないほど暗い声だ。
「俺なら大丈夫ですから。家でゆっくり休みます」
二の腕を振りほどくと広夢はまた歩き出す。
「その足でどうするつもりだ。世話を掛けるな」
腕を伸ばして、広夢の腕を掴むと広夢が振り返って、きっと睨みつけた。
「若槻さんに迷惑はかけない。だから、帰るんです。離して下さい。もう、同情はまっぴらだ」
広夢は怒りに満ちた瞳で黎二を下から睨みあげる。
「同情……?」
何のことかわからず、黎二は首を傾げる。広夢はなにを怒っているのだろう。
彼は本当に不可解で、理解に苦しむ。さっきまで、あんなに機嫌がよかったのに、どうしてこんなに怒りを湛えているのか、まったく黎二にはわからなかった。
「そうでしょう。もう離して下さい。あなたの気まぐれに振り回されるのも、憐れまれるのも、もうたくさんだ」
だが、黎二は腕を離すどころか掴んだ腕に力を込めた。何を言われているのか黎二には全く理解できない。だが、広夢が怒りに震えていて、怒りの色に染まった瞳が揺れて今にも泣き出しそうなことだけはわかる。
「部屋へ戻ろう」
「離せよっ!」
怒鳴ると広夢は腕を振り払った。鞄に手を突っ込み、くしゃくしゃになった白い袋を黎二の胸に押し付ける。
「これを見ろよ。まだ、気まぐれの方がよかった。憐れまれるなんて……」
袋を押しつけたまま、広夢は俯く。声が震えていた。黎二は袋を手にとって、中を開ける。睡眠導入剤に痛みどめが入っていた。
これは……。
もうひとつの薬の名前を見て、ああと思う。ビタミン剤だ。
そして、そう言えばと思う。あの時、これを広夢に飲ませた。落ちつかせたかったのもある。ストレスからの自傷行為をやめさせたかった。それに、ただ抱こうとしても拒否して、さらに落ち込ませることもわかっていた。広夢には逃げ込める口実が必要だった。
「わかった。とにかく、話は部屋で。こんなところでする話じゃない」
広夢の両手首を握って黎二は言う。
「なんで……なんでだよ……どうして、いつも、いつも……」
涙が溢れて来たのだろう。それ以上言葉にならずに嗚咽が聞こえた。
手を引くとそれ以上、抵抗する気が失せたのか、大人しく広夢が戻り始める。それに安堵しながら、黎二はつないだ手を離さずに部屋へ歩みを進めた。

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