スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←遠回りの片恋 序 →「遠回りの片恋」2
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ

もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png はじめに
もくじ  3kaku_s_L.png リンク集
もくじ  3kaku_s_L.png Novel lists
もくじ  3kaku_s_L.png 奇跡の刻
もくじ  3kaku_s_L.png 平行線の恋
もくじ  3kaku_s_L.png 煉獄の恋
総もくじ  3kaku_s_L.png 天空国の守護者
総もくじ  3kaku_s_L.png 巡る季節と恋の順番
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
総もくじ  3kaku_s_L.png 山神の花嫁_昔話
もくじ  3kaku_s_L.png 告白の向こうへ
もくじ  3kaku_s_L.png 空の月を恋う
総もくじ  3kaku_s_L.png おまけ番外編ショート
もくじ  3kaku_s_L.png 遠回りの片恋
もくじ  3kaku_s_L.png 腕の中の迷い猫
総もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い闇の化身
  • 【遠回りの片恋 序】へ
  • 【「遠回りの片恋」2】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

遠回りの片恋

「遠回りの片恋」1

 ←遠回りの片恋 序 →「遠回りの片恋」2
「ほんとにこれでいいわけ?」
上り坂を睨みつけて葵は溜息をついた。指示通り、蓮村入口というバス停でバスを降り、村まで一本道だと言う道を辿り始めて、すでに三十分ほど延々と歩いている。村までの遊歩道というより、完全な山道に、自分の迂闊さと体力のなさを葵は恨んだ。
「こんな不便でどうやって暮らしているんだ」
ぶつぶつ呟くが、答えるものは当然おらず、土の道を葵はどんどん登っていく。
あんなに晴れていい天気だったのに、山の天気は変わりやすいというのは本当らしい。空はどんよりと曇り始め、心なしか気温が下がり始めた。それにともない視界が悪くなる。白い霧が辺り一面漂い始めたと思いきや、気付いた時には足元がやっと見えるくらいの濃い霧があたりを覆っていた。
「やばいな。道は一本道だから、迷わないとは思うけど。このまま遭難なんてしたら」
記事を書くはずが書かれる羽目になるのは避けたいと葵は足を止めた。手にしていた荷物だけ地面に下ろす。無理に動かずに、霧が晴れるのを待った方がいい。
地面を触るとひんやり冷たく、体温を奪われかねないと葵は地面に座るのは諦めた。
「ほんとについてない。出だしからこれじゃあ、先が思いやられる」
心細くて、葵は誰もいなくても声に出して呟く。霧が音をも吸収してあたりはしんと静まり返っていた。
十分ほど待ったが、霧は晴れるどころか益々濃さを増す。その上、ごろごろと雷鳴まで聞こえ始めた。
「どうしよう」
さらに不安が増して、肩から掛けた鞄から携帯電話を取り出す。誰かに連絡して、指示を仰ごうと思ったのだが、見ればアンテナの代わりに圏外の文字が明示されている。
「ダメだ」
画面を消して、携帯電話を鞄に放り込む。
「どうしよう……」
辛い恋を忘れるどころか片桐に二度と会えなくなるかも知れない。こんなことなら、傷つくのを恐れずに片桐に想いを告げておけばよかったかも。
そんな思いがちらりと頭の片隅を過ぎる。
遭難するか、もしくは、落雷で死んでしまうかもという最悪の想像をした葵は、このまま訳もなく叫んで走り出したい衝動に駆られた。
しかし、それでも動くには危ないという理性はかろうじて残っており、ぐっと拳を握ると、その場に立って自身を律しながら霧が晴れるのをただただ待った。
待つ時間は長い。それも恐いから余計だ。目の前にかざした手のひらさえ、ぼんやりするくらいの濃霧のなか、葵は楽な姿勢で立ちながら、じっとその場を動かない。
「大丈夫。大丈夫だから……」
口の中でぶつぶつと呟きを繰り返し、すぐに晴れるし、長くは待たないと己を鼓舞する。
ふと、何かの気配を感じて、葵は顔を上げた。
前方からゆらゆらと橙色の光が近付いてくるのが見える。霧のせいで、ぼおっとしていたが、確かに暖色の円い光がぼんやり揺れている。
近づいているせいかだんだん大きくなっているようだ。それが上下左右にふわりふわりと踊る。
「ひっ…」
葵の喉の奥から悲鳴にならない悲鳴が漏れた。
『この村で目撃された幽霊の情報を取る』
今回の取材目的が葵の脳裏を横切った。
人魂だ?!幽霊って本当!
葵はいきなりしゃがんで目を閉じた。
心霊スポットの取材を引き受けたが、どうせ幽霊なんてデマだろうと高を括ってやってきたから今の今まで気楽にしていたが、実は葵、大のお化け嫌いだ。
「俺を祟っても何もでませんって」
ぶつぶつ言いながら、目を閉じて葵は震える。もう怖くて光の方は向けなかった。
早く行き過ぎてくれ。消えてくれ。
心の中で繰り返す。
「吉野クン」
頭上で声が聞こえ、葵はビクリと身体を震わせた。
「人魂が俺の名前を知ってる」
ますます、小さくなって葵は頭を抱えた。その声が聞き覚えのある甘い低音に思えたのは、葵の願望だろう。すると葵の頭上から笑い声が聞こえた。
「人魂って何?ほんとに吉野クンだ。俺だよ。片桐だ。見つかってよかった……」
「え?」
ゆっくり顔を上げて、葵は頭上を振り仰いだ。
「片桐さん……?」
確かに言葉通り、目の前に立っていたのは片桐で、彼の左手には提灯が握られていた。
「大丈夫?」
葵に右手を差し出し、心配そうに問う。その手を取ると葵はその勢いで立ちあがった。そのまま、彼の胸へと飛び込み、胴周りに腕をまわして抱き締める。
幻覚もここまで願望に忠実だとそれこそ天晴れだと葵は、ギュッと片桐に抱きついた。片桐は提灯を持つのと反対の腕で葵をふわりと抱き締め返す。
夢でもこんないい夢はないと葵は恐怖も忘れてぼおっと思う。しばらく無言で抱き締められる。
「一人で怖かったのか。もう大丈夫だ」
ぽんぽんとやさしく背中をたたかれて、頭上から聞こえる優しい声に葵の身体がぴくりと震えた。そして腕の中の質感のある身体と、何度、瞬きをしても消えない状況に、頭が冷えて、そして、次に真っ青になった。
幻ではなくて現実……。
後ろに葵が身を退くと、片桐はあっさり腕を解いた。
「す、すみません。ありがとうございます」
真っ赤になって俯きながら、葵は礼を告げ、穏やかに微笑む片桐から目をそらした。
血が上った頬に、片桐はなにも言わなかった。怖がっていたことを知られて、バツが悪いんだくらいに思ったのかもしれない。
「で、でもなんで?」
「バス乗ってただろ?」
話が見えないながらも葵は頷く。
「運転手が天気が悪くなってきたけど、村の入り口で観光客風の客が降りたからって宿へ連絡に来たんだ」
「バス?運転手?」
まったく話が飲み込めない。
「吉野クンの乗ってたバスは終点が蓮村だった。『そのまま乗っていれば、村に直接到着したのに、わざわざ村の入り口でおりてハイキングだなんて酔狂だ』と運転手が遭難の心配をしていたわけだ」
「ええっ」
片桐の話に葵は驚愕して、葵は顔をあげて片桐を見た。
「そうだったんですか?蓮村には、あのバス停で降りると聞いてたんですよ」
「誰に?」
「編集部にネタを送ってきた人が」
印刷してきた手紙を見せようと鞄に手を伸ばす。それをやんわり遮って、片桐は地面に落ちていたボストンバックを拾い上げ、歩くよう葵を促す。葵も素直に足を進めた。
「それで、ネタって?」
並んで歩きながら、片桐が先の話の続きを訊く。
「あ、ええ。俺が出版社勤務で雑誌の記者やっているって話は前にしましたよね。今、都市伝説的なオカルトのコラムを担当していて、今回、このあたりで女の子の幽霊が出るっていう手紙が送られてきて、その幽霊、何か恨んでるらしいって話なんです」
別にスクープを追っているわけではないから葵は隠すこともなく、ここへ来た取材の中身を説明する。
「幽霊?」
「そうそう。最近、そういうの受けるんですよ。どこどこが心霊スポットだとか、頻繁に自殺者がでるだとか。果ては、妖怪を見たとかね。あっという間に観光スポットにまで発展するんですから」
葵の話に片桐は眉を寄せる。
「不謹慎だな」
わりと真面目な反応をされて、葵は面食らった。片桐なら架空の産物だと認識して、面白がると思ったからだ。
「明日から、この辺りは祭りが始まる。もともとは山の神を鎮めるために村から神への花嫁を出していたのが起源の祭りだ。まあ、人身御供だな。今はさすがに形だけだが」
片桐の言葉に葵はぞっとした。
こういう取材をやっているとたまに本物に当たってしまうこともなくはない。記者の霊感が強かったり、同行した霊能力者を名乗る人が見たり、お祓いをする羽目になったケースもあるとは前任者から聞いた話だ。しかし、葵は怖いのは苦手である。しかも、幸運なことにまだお目にかかったことはないのだ。
「祭り?じゃあ、片桐さんはそのためにここに?」
一人より二人の方が気がまぎれるからか、たいして歩いた気もしないが、すでに村に入ったようだ。道の両脇の風景が森から田畑に代わり、ぽつぽつと民家が見え出す。霧も晴れてきたが、あたりは夕闇に沈み始めていた。
「そう、この間、君に頼んだアシスタントもこの件だったんだが。まさか、吉野クンの仕事と同じ場所とは。偶然でもすごいな」
にこりと微笑まれて、葵はその笑みにドキッとした。そしてバツが悪くて視線を逸らす。
頼まれていたアシスタントの件は断っていたからだ。
片桐は調査・コンサルタント会社に勤務している。
二週間ほど前、遠方に調査に行くからアシスタントとして同行してくれないかと頼まれた。どうも片桐は、葵をフリーターだと思っていたらしい。出会いが手伝っていた喫茶店だったから仕方がないのだが、あれは、取材の一環で正規の仕事だった。バイト代もはずむからと言われたが、雑誌社勤めの葵には勤務時間中のバイトは受けられない。
片桐と一緒にいられる点は相当魅力的だったが、恋愛のために仕事を犠牲にするタイプではない葵は、その話はきっぱり断っていた。残念そうだった片桐も納得してくれていた。
「バスの運転手さんが心配だと言いに来て、宿の人がどうするか相談しているところに出くわしてね。来るはずになっている客はあと一人だっていうから、探すのを手伝おうかってことになって。名前を聞いた時には、同姓同名とは珍しいくらいに思ってたけど、驚いたよ」
葵だって驚いた。濃霧の中、片桐が提灯下げてきてくれるなんて誰が想像しただろう。大体、助けてもらったのに、礼を言う前に、夢かと思ってとっさに抱きついてしまったのだ。あの時の片桐のしなやかな肢体の感触を突然思い出し、葵は顔が火照って、それを見られないようにそっぽを向いた。
「俺だってびっくりしました。こんなところで片桐さんに会うなんて、全く想像もしてなかったんですから」
葵のその言葉にも片桐は微笑った。その顔をちらりと盗み見て、優しい笑みが、かっこいいと葵はさらに頬に血が上る。
「ああ、ここだ」
宿の前で立ち止まった片桐に倣って足を止め、葵は建物を見上げた。古い民家のような作りで、屋根は茅葺だった。
『連華香庵(れんげこうあん)』という風流だか、なんだかわかりにくい宿名の看板が軒下に見えた。
「ほんと助かりました。ありがとうございました」
葵はぺこりと片桐に頭を下げる。
それにも微笑み返して、片桐は宿へと葵を促した。
関連記事


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ

もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png はじめに
もくじ  3kaku_s_L.png リンク集
もくじ  3kaku_s_L.png Novel lists
もくじ  3kaku_s_L.png 奇跡の刻
もくじ  3kaku_s_L.png 平行線の恋
もくじ  3kaku_s_L.png 煉獄の恋
総もくじ  3kaku_s_L.png 天空国の守護者
総もくじ  3kaku_s_L.png 巡る季節と恋の順番
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
総もくじ  3kaku_s_L.png 山神の花嫁_昔話
もくじ  3kaku_s_L.png 告白の向こうへ
もくじ  3kaku_s_L.png 空の月を恋う
総もくじ  3kaku_s_L.png おまけ番外編ショート
もくじ  3kaku_s_L.png 遠回りの片恋
もくじ  3kaku_s_L.png 腕の中の迷い猫
総もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い闇の化身
  • 【遠回りの片恋 序】へ
  • 【「遠回りの片恋」2】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【遠回りの片恋 序】へ
  • 【「遠回りの片恋」2】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。