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遠回りの片恋

「遠回りの片恋」8

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無言で少し足を早めて歩いた。数歩遅れて片桐がついてくる。葵の背中に拒絶を感じとっているのかもしれない。それでも、片桐が踵を返すことはなかった。
前方から、気分とは裏腹な祭囃子が聞こえ、村を練り歩いている花嫁行列がやってくる。輿の上で姿勢よく座っている花嫁姿の娘を見上げて、この役目も大変だと思う。
一日、この恰好で村を回るのは体力もずいぶんいるだろう。
それでも、幸せな結婚というジンクスがあれば耐えられるのだろうか。恋は夢見ているときがいちばんいい。それともノンケならこんな辛くないのだろうか。ささくれ立つ心を持てあます。
行列のために道の端により、輿が行き過ぎるのを葵は待った。行列の後ろには村の人々が行列をなし、それを見るともなしに眺めていると、その中に葵は見知った顔を見つけた。
「武朗さん」
呼びかけると青年団団長は、走り寄ってくる。
「大変ですね。お疲れさまです」
笑いかけてねぎらうと武朗も笑う。
「歩いていると暑くてね」
武朗に身体を寄せて、葵は声を低め「ちょっといいですか」と訊いた。
「何?」
「村から出て行った澄江さんって美人で村中の若者が狙ってたって。親にお膳立てされた婚約者がいたって。武朗さんってもしかして……」
身体を退いて、武朗が葵をまじまじと見る。ふと苦笑を浮かべた。
「どこでそんな話……。まったくさすが記者さんだな。あまりみんな話したくない話題なのに」
口調のわりに目は怒っていない。武朗にしてみれば、もうどうでもいい話なのかもしれない。
「俺は違う。同級生だからよくつるんでいたけど、澄ちゃんに好きな奴がいるって知ってたし。まあ、澄ちゃんきれいだったから、皆の憧れだったけどね。こいつなんていまだに思いきれてないし」
武朗が後ろで話を聞いていた青年団の一人を指さした。あまり背の高くない優しげな顔立ちの青年が困ったように俯いていた。
「す、すみません」
軽率な話題だったかと葵がかるく頭を下げる。
「いいんです。僕の片思いだったし。澄ちゃんも僕が想ってたなんて、きっと知りもしなかったでしょうから。幸せになってくれればそれで、もう、いいんです」
消え入りそうな声が彼がまだ諦めていないことを物語っていた。人ごとに思えなくて、胸が締めつけられる。
何も言えなくて、葵は黙って青年を見つめた。ふと、会話が途切れる。
「あ、行列が遠くなっちゃうんでこれで。夜の御宮入りは見に来て下さいよ。祭りのクライマックスだし、なかなか圧巻ですよ」
武朗が明るい声を出すと、暗くなりそうな空気が一気に払しょくされ、我に返った青年団たちが行列に戻ろうとする。
「あっ、ちょっと待って。武朗さん、澄江さんの写真とかって持ってたりします?」
「えっ?ああ、家にはあるかも。みんなで花火やった時に撮ったやつ。あとで持っていきますよ」
そう、言った武朗を制して、青年団の若者が懐から財布を取り出した。
「これです」
彼が差し出した写真には何人かの男女が映っていた。
「澄ちゃんはこの娘」
隣の女の子に腕を絡められてはにかんで笑っている女性は確かに美人だった。背が高く、華奢だが、凛とした、感じの良さそうな娘だ。
違う。こんな感じじゃなかった。
葵は昨日、見た幽霊を思いだしながら、背格好がこの写真の澄江と全く違ったことに胸をなでおろす。昨日見た娘は、もっと背が低く、もう少しふっくらしていた。
「こっちの腕組んでる子は?」
澄江の腕に腕を絡め、隣でにっこり微笑んでいる少女を葵は指さした。丸顔で笑顔の似合う明るい女性だ。
「ああ、京子ちゃん。一番の仲良しだったからね。今日の花嫁姿も見てもらいたかっただろうな」
武朗の言葉に葵は「ああ」と思う。さっき、同級生だという巫女さんたちも言っていた娘だ。
「みんな、いい顔していますね。仲良しなんですね」
写真を青年団の彼にそう言って返すと、青年は嬉しそうに、はにかんだように微笑んだ。
二人が去っていく背中を見送って、葵は村はずれへと歩みを進める。
昨夜見た幽霊は京子かもしれない。背格好が近いし、顔ははっきり見えなかったから断言できないが、顔の輪郭ももう少し丸みがあった気がする。とにかく、澄江でないことだけは明らかだった。
しかし、そうだとすると京子は生きているのだから、まさに片桐が言った通り、昨夜のことはインチキなのだろう。
でも、何のために?
村はずれまで来るともう行列は行き過ぎたのだろう、ほとんど人もおらずに閑散としていた。道の先を見て、村に来た時に上って来た道だと思う。
霧に巻かれて片桐が迎えに来てくれた道。
ここで待ち合わせをしたんだろうか。誰にも祝福されなかった恋を追い掛けて、何もかもを捨てる決心をして、澄江はここで恋人と会ったんだ。
葵の恋も誰にも祝福されない。同性同士で、相手はノンケだ。
後ろを振り返ると数歩後ろを片桐がついてきていた。
「どうした」
視線が合って、片桐が葵に声をかける。どういうつもりかわからないが、片桐が葵に親切で紳士的に振る舞っているのは疑いのないことだ。
「こっちの道はバス停への道だよね」
これ以上、意地を張っているのもバカバカしく、せっかくついてきてくれる片桐にも悪くて、葵は声をかける。
「そうだな。そっちは村から出る道で、そっちの上っている方が山の宮に行く道だ」
片桐の指の指す方にも上り道が続いており、道の先は木々へと消えていた。
「山の宮の側に滝がある」
片桐の言葉に葵は目を輝かせた。
「滝!そっちも見たい」
葵の様子に片桐はくすりと笑う。
「そこで何をしている。行列ならもう通り過ぎたぞ」
いきなり違う方向からしゃがれた声がして、葵は慌てて声の方を振り返った。
畑の中に五十代くらいの男性が立ってこちらを見ていた。
「こんにちは」
葵はにっこり笑って挨拶をした。
明るく挨拶されて戸惑ったのか男は頭を軽く下げた。
「そっちに行っても村から出るだけだ。神事は本宮でやってる。もう始まっているぞ」
葵がよそ者で、祭りの仕組みを良くわかっていないと思ったのだろう。男は親切に村の中心を指さす。
「ありがとうございます。でも、もう行列は見たので」
愛想良く答える。
「そっちには何もないぞ。祭りを見に来たんじゃないのか」
男は葵に興味を引かれたのか、畑から上がってくる。
「僕は東京から来た雑誌記者で吉野といいます。祭りの取材をさせていただいています」
「記者?」
男は怪訝そうな胡散臭そうな顔をした。こんな田舎の祭りを取材にと思っているようだ。
「ええ。明日、神輿が上る山の宮を誰もいないうちに見ておこうと思って。神事の間はよく見られないでしょう」
葵のセリフに男が息を飲んだ。顔色が青ざめている。葵はきょとんとした。
「なんか変なこと言いました、俺?」
その言葉にはっとしたように男は首を振った。
「行くなら早い方がいい。日が暮れると降りて来られなくなるから」
男は踵を返し、慌てたように畑へと戻って行く。
「なんだろう」
「さあな」
葵の言葉に片桐はそう言って、行こうと葵の背を押した。しかし、その目線は男の背中を追ったままだ。
「何かあるの」
片桐の視線に、何かが釈然としなくて、葵が問うと「いいや」と片桐は答え、前を向いて歩き出した。

細い山道を登って行く。三十分ほど歩くと小さな祠が見えてきた。
「ほら、あれが山の神の宮だ」
片桐の説明に「これが!」と葵は叫ぶ。高い杉の木々の間にひっそりと三十センチ四方の小さな社が立っている。古い宮のようで、宮に使われている木材は深いこげ茶色をしていた。
葵が想像していたのは村にあったような神社だったから、実際はこんなに小さいのかと驚いた。
「ここに形代を奉納するんだ。紙でつくった人形(ひとがた)だな」
このくらいと手で大きさをしめして片桐が説明する。人形は十五センチくらいのものらしい。
葵は社の前に立つと、両手を合わせて頭を下げる。ひんやりとした空気としんと静かな場の雰囲気が神域であることを強く知らしめる。山神を怒らせないよう、葵は挨拶をした。
「人形をここに収めると、神様はここから自分の家に帰るってことだよね」
しばらく、祈りをささげていたが、葵はくるりと背後の片桐を振りかえった。
「そうだな」
目を細めて優しげに片桐は自分を見おろしていた。あまりに愛しげな視線に、葵の心音が一瞬、高く跳ねた。
なんでそんな瞳で見ているんだろう。この厳粛な雰囲気のせいだろうか。それとも子供っぽいと思われたのか、後者だと結論付けて、葵は視線を反らした。視線一つに勝手に意味を見出そうとする自意識の過剰さに、まともに片桐を見ていられなかった。
「滝は?ここから遠い?」
不自然にならないように周りを見回して、葵は訊いた。
「もう少し先だ。水音が聞こえないか?」
言われて耳を澄ますと微かに水の音が響いていた。
「ほんとだ。こっち?」
社を回って、さらに山道を奥へと進む。
坂を上りきった先で、いきなり視界が開けて、目の前にかなり大きな滝が出現した。見上げるほどの高みから豊富な水量の流れが白く落ちている。
山道はここで右に折れていて、滝に向かう方は、数歩先で急斜面になっており、滝側に落ち込んでいた。
どうどうと大きな音があたり一面に響きわたる。
急斜面の落ち込んだ先、滝の真下は大きな池になっており、それが脇の川へと流れ込んで山肌を下っていた。
「すごい」
急斜面ぎりぎりまで、歩み寄りながら、葵は滝に見入る。見つめていると吸いこまれそうな滝に一瞬眩暈がする。
視界が霞み、まるで霧の中にいるような錯覚を覚え、葵は目を凝らす。
これは滝からの水しぶき?それともいきなり霧が出たのか……。
白く霞む視界に目を見開く。と、視界の隅にオレンジ色が見えた。
「百合?それも鬼百合」
そこに一輪だけ見えた百合の色彩に目を奪われ、葵は前に足を踏み出した。
「おい。葵」
いきなり、腰に回った腕で後ろに引かれ、我に返る。
「え?」
肩越しに振りかえると片桐が自分を片腕で抱いていた。
何が起こったのかわからず、葵は身体をこわばらせた。
「大丈夫か。貧血?」
訊かれていることがわからず、葵は不思議そうな顔で片桐を見上げた。
「いきなりふらついて、滝に向かって身体を傾ぐなんて危ないだろう」
ふらついて身体が傾ぐ?
自分のことなのに、何を言われているか良くわからない。しかし、確かに世界がくらりと歪んだ気もする。
「霧が……視界が悪くて」
「しっかりしろ、葵クン。霧は出てないし、視界も悪くない。水しぶきは飛んでいるが、ちゃんと周りは見えるだろう」
抱きとめたまま片桐は言う。声に心配気な響きがある。腰に回った腕から、密着した背中から、片桐の体温を感じて、葵は身を強ばらせた。
霧は出ていない?でも、視界が白くて……。それも、眩暈のせいか。
昨夜、あまりよく眠れなかったからか、それも片桐のせいで。走る鼓動が聞こえてしまわないようにと、葵は片桐の腕の中から抜け出す。
「すいません、片桐さん。やっぱり貧血だったみたいで」
「謝ることはない。そろそろ戻ろう。歩けるか?」
真顔で訊かれ、葵は頷く。
「大丈夫ですよ。山登りなんて久しぶりだったんで、そのせいですから。ちゃんと歩いて帰れます」
震えそうになる声を押さえつけて、にっこり笑った葵をまた目を眇めて片桐は見て、「それならいいが」と呟いた。まだ、声に心配そうな響きを残して。

帰り道は何事もなくゆっくり山を下るとすでに時刻は午後三時を回っていた。
「これからどうする」と片桐に問われ、少し宿で休みたいからと葵は一人で宿に戻ってきた。片桐は宮の方に行かなければならない用事があると言って二人は宿の前で別れた。
ごろりと畳に寝転がり、天井を見ながら葵は先ほどの滝を思いだす。
水しぶきで霞んだ視界に確かに見たオレンジ色。一輪だけさいていた鬼百合。
あれは現実だったんだろうか。確認すればよかったな。でも……。
後ろから自分を抱き締めた片桐の腕を思いだして、葵は赤くなる。
片腕だけで腰を抱かれ、葵は背を片桐の胸に預けた。しなやかな腕と背中に感じたしっかりした胸板に葵の鼓動が早くなった。
あの胸に抱き締められたらどんなにいいだろうと思う。
抱き締められて、片桐の低めの声で名前を呼ばれ、キスしてくれたらと想像するだけで葵の身体が熱くなった。
「片桐さん……」
名を呟いて右腕で瞳を覆う。
こんな思いをするのはもうたくさんだ。近くにいるのに遠くて、決して手に入らない人。側にいられたらと思ったが、側にいると辛い。自分の気持ちを抑えて何もなかったかのように振る舞えなくなってきている。
この旅が終わったら、もう片桐さんとは会いたくない。知人として好意を持たれたまま離れていたい。
喫茶店の手伝いも辞めないとかな。
葵は一つ溜息をつき、瞳を閉じた。目尻を涙の滴が滑り落ちた。
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