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遠回りの片恋

「遠回りの片恋」エピローグ

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無人の駅に葵は降り立った。一両のみの車両の電車が軽やかな音を立てて遠ざかるのを見つめる。その肩にぽんと手がかかって、葵は後ろを振り仰いだ。
目が合うととびきりの笑顔を返す。
去年は一人で降り立った駅だが、今年は隣に片桐がいる。
「ほんとに何もないな」
プラットフォームには屋根もなく、改札も無人の駅を見回しながら片桐は感嘆の声を上げた。
「いいよね。レトロな感じで。田舎の駅って風情だし」
改札口に向かって歩く葵が傍らを歩く片桐に告げる。
「まあな。でも、車の方が良かったんじゃないか?不便だろう」
一時間に一本あるかないかの電車に、この先も村まではバスだ。
「いいの。電車で来たかったんだ。あの日と同じに……」
違うのは一人でないことだけ。
初夏の日差しに葵の栗色の髪が透けて、金色に光って見える。それを眩しそうに愛しそうに目を細める片桐に葵はくすぐったそうな顔をした。
あれから一年。その間も決して平穏無事ではなかったが、二人の関係は今も良好に続いている。
「このバスだ。蓮村行き。終点まで乗るんだからな」
バス停の前で章はバスを確認し、葵に念を押す。
「いやだな。そんなことは覚えてなくていいんだよ」
迷子になったことを揶揄されて、葵は少し拗ねた顔で片桐を睨んだ。
「忘れないさ。お前に関することはなんでも。怖がってしがみついてきた葵も可愛かったし」
バスの座席に座ると誰もいないのをいいことにするりと腰に手をまわして、葵を引き寄せた片桐を、さらにきつい目で葵は睨んだ。
顔の造作が整っているが故に葵がきつく睨むと結構凄味がある。
「それ以上はダメだからね。それに俺をからかうのもやめて」
降参の意味で両手を上げて、片桐は苦笑した。
「こわいな、葵は」
「章が考えなしなの」
バスの階段を上る音がし、運転手が運転台に腰を下ろすのが見えた。いきなりエンジン音が響き渡る。
客は葵と片桐だけだ。祭りの前夜祭は明日からで、観光客も明日にやってくる。
「発車します。閉まる扉にご注意ください」
アナウンスが流れ、扉がプシューと閉るとエンジン音を響かせてバスは動きだした。今年も田植えが終わった田んぼは青々とした稲の苗が風に揺れている。
日差しが田に満たされた水に反射してキラキラと光る。
「いつ見ても綺麗だな」
窓の外に広がるどこまでも続く田んぼを眺めながら、葵は隣の片桐に囁いた。
「そうだな」
章は葵を見つめて返事をした。
窓から入る風が優しく葵の髪を揺らし、気持ちの良い初夏の空気の中をバスはゆっくり走って行く。
決して急がないゆったりとした時間が流れるこの地で、あんな忌わしい事件が起きるなんてそれこそ想像もできなかった。
バスは村へと入り、どんどん村の奥まで進んで、宮の前で止まった。
「終点です。お忘れ物なさいませぬようお降りください」
車内アナウンスに促されるように葵と片桐はバスを降りた。
「ここに着くんだったんだな」
本宮の鳥居を望みながら葵は呟く。まったくあの山道のハイキングは無駄だったのだ。
『本当はあの道で私が扮した幽霊を見てもらうつもりだったんです』
京子が話したことを思いだす。
『でも、霧が出てきて前も見えないくらいだったのでトリックが使えなくて……』
それで延期になったのだと京子はすまなそうに呟いた。
京子の思いが通じたのか、葵の恋心が共鳴したのか、結局は本当の幽霊が現れるとは葵も想像もつかなかったことだ。
「葵。こっちだ」
鳥居を見上げたまま動かない葵に章が声をかける。
「あ、ああ」
視線を片桐に向け、葵は小走りで後に続いて、鳥居をくぐる。
梅雨だというのに、珍しく空は晴れ、日がさんさんと降り注ぐ参道を並んで歩いた。すでに、明日のための屋台が設置され、屋台の周りでは祭りの関係者だろう人々が忙しく働いている。明日の夜にはここはかがり火がたかれ、前夜祭のにぎわいを見せるのだ。
「たった一年なのに、懐かしい気がする」
周りをゆったりと見ながら葵は呟いた。
「そうだな」
片桐は傍らを歩く葵に視線を合わせて、微笑んだ。
恋人になっても普段の章は紳士で優しい。常に葵を守るように行動し、まるで騎士(ナイト)でもあるかのようだ。
それでも、時折、片桐は葵が近付きがたいほどの凄味を見せる。怖いと思うくらいに。
一体、片桐は何をしている男なのか。
事あるごとに知りたいと思ってきたが、はぐらかされて一年が経った。最近は知らなくてもいいことは幾らでもあると半ばあきらめている。
「おい、葵。そっちじゃない」
まっすぐ参道を進んでいた葵の背後で片桐の声が聞こえ、葵は「え?」と振り返った。
「いろいろ考えて歩くのは結構だが、一応、状況判断だけはして欲しいんだが……」
呆れたように可笑しそうに笑われ、葵は瞳を伏せた。
物思いに沈むと周りが見えなくなるのは葵の悪い癖だ。いつもそれで片桐に怒られているのだが、一向に改善する気配はない。
「今日は特にひどいな。やっぱり、まだ無理だったんじゃないか?」
「違う。そのことを考えていたんじゃ……」
片桐の言葉を否定したが、では何を考えていたんだと問われるとそれも答えられない。
「ごめん。気をつける」
反論しかけた言葉を途中で止めて、葵は片桐に謝った。
「別に俺が側にいる時は構わない。だが、一人の時には危ない癖だぞ」
頭をぽんぽんと叩いて片桐は真顔で告げた。
確かに、片桐の言う通りで、この癖のせいでヤバいことになったのは一度や二度ではすまない。
殊勝に頷いて、葵は再度「ごめん」と謝った。
「で、どうする?やめておくか?」
顔を覗きこまれて尋ねられた言葉に葵は首を横に振った。
「そうか。じゃあ、こっちだ」
手をとって、本宮への道ではなく、脇へそれる道へと片桐は歩みを進める。
「ちょっと、章……」
手をつなぐ片桐に慌てたように葵は声を掛けた。今は昼間でここは天下の往来で、ついでに神の社だ。
「大丈夫。日の本の八百万の神は気にしない」
何を根拠にそんなことを言うのだろうと葵は片桐を睨みつけたが、まったく気にもされない。確かにすぐに考えに没頭して、変な所へふらふら行ってしまうのは葵の悪い癖だが、だからといって、子供みたいに手を引いてもらわなくても歩ける。
大体、とても恥ずかしい。大の大人の男が同性に手を引いてもらっているなんて。
「それに葵は俺と手をつないでいると考え事をやめるだろう」
悪戯っぽい顔で告げられ、葵はがくりと首を前に倒した。
そういう理由もあったのか。
ムッとしたので、そのまま黙って片桐について行く。側道は緩やかに下っており、途中に金属製の門があった。
そこもくぐると目の前には墓石が整然と並んでいた。この村には寺はない。昔から神社だけが人々の信仰の対象だった。村人は先祖代々の墓を神社の敷地内に持っており、この世を去るとそこに祀られてきたのだ。
入り口で片桐は桶に水を汲み、持ってきた花束の包み紙をとるとその中に入れた。もうひとつ桶と柄杓を手渡され、葵も水を汲んだ。
二人は並んで、よく手入れをされている墓石の前を通り過ぎる。村の人々が先祖を大事にしているのがわかるようで、葵は暗い墓参りにならないことにほっと安堵の息を吐いた。
ふと顔を上げると目的の墓石の前で誰かが手を合わせているのが見えた。
「……京子さんと武朗さん」
名を呼びながらそこへと近づくと二人が顔を上げた。
「吉野さん。片桐さんまで」
立ちあがった二人が驚きながらも挨拶をくれた。
「ありがとうございます。わざわざ来て下さるなんて。澄ちゃんも喜ぶと思います」
「命日は明日ですよね?」
こんにちはと頭を下げながら、葵は尋ねた。こういう風に関係者と顔を合わすのが嫌だからわざわざ一日前に来たのに。
「そうです。でも、明日は祭りの前夜祭で、青年団はそれどころじゃないので、澄ちゃんには悪いけど、今日、お参りにきたんですよ」
さわやかに武朗が笑った。
「今年は早くから旅館も満員になったので、青年団の家を祭りの間だけ宿屋にしてさらに遠方からのお客さんを受け入れているので大忙しですよ」
「吉野さんの記事のおかげです」
二人から口々にお礼を言われ、葵は困ったように嬉しそうに微笑んだ。
「いいお祭りですから、これからもお祭りに参加した人たちからさらに輪が広がってどんどん有名になるでしょうね」
それは心より嬉しいことなので、葵は本心からそう答えた。
「そうなると村も活気づきますから、ありがたいですよ」
武朗はそう言いながら墓石の前をあけてくれた。
「僕たちは準備があるので、そろそろ戻ります。お参りがすんだら本宮にも寄ってください」
にこやかに告げられた誘いの言葉に葵は首を横に振った。
「せっかくですが、今日中に東京へ戻らないといけないんです」
葵の言葉に武朗はひどくがっかりした顔をした。
「そうですか。今年も祭りを見ていただけると思ったのに残念です。それなら、来年、また、ぜひ来てください。その頃には、俺たちの家族が一人増えていると思いますから」
横にいた京子の肩を抱きよせて、武朗は葵達に深々と頭を下げた。京子もそれに倣う。
そうして、二人は並んで入り口に向けて歩いて行った。
「山神のお嫁さん役をやるとすぐ結婚できるジンクスがあるらしいっていうのは本当のようだ」
何度も振り返りながら、去って行く二人を見送りながら、傍らの片桐に言う。
「そうみたいだな。きっとその報告にも来たんだろう」
片桐も彼らを見送る。
「電車の時間もあるからな。目的を果たそう」
促されて、葵は澄江の眠る墓の前に立った。
持ってきた花を墓の前の水差しに差し、線香に火を点けてから消し、供える。神道式はよく知らなかったので、知っている方法での墓参りだ。
墓の前にしゃがむと葵は両手を合わせた。
いつかお参りにと思って一年が過ぎた。本当だったら、あの後のお彼岸にでも墓参りに来なくてはいけなかったのに。葵にとって事件そのものを思いだすのも向き合えるようになるのにも時間が必要だった。傍らに片桐がいてくれたから、パニックにも神経を病むこともなかったが、本来ならあってはならないような奇怪な事件だ。
(ごめんなさい。澄江さん。こうしてくるのが遅くなって……)
心の中で葵は詫びた。
(約束通り、澄江さんの哀しい恋心だけ俺がずっと覚えているから。犯人は捕まったし、事実は関係者だけが知っている。もう、眠りを妨げるものはいないから)
澄江が見つかってから、葵は一度も澄江の姿を夢ですら見ることはなかった。それに、別の幽霊を見ることもない。
(これからはゆっくりと眠って。いつかこの世にまた生まれ出るまで)
葵が目をあけて立ちあがると横でも片桐が合わせた手を下ろすのが見えた。彼も澄江さんに言いたいことがあったのだろうか。
「いいのか?」
横目でちらりと視線を流すと片桐が訊いた。
お参りも気もすんだのかという意味の短い言葉に葵は頷き返し、持ってきた桶を持ち上げ歩き出した。
入り口で桶を返していると男性が一人、片桐を驚いた顔で見た。そして頭を下げる。
章もかるく会釈を返す。
「ほら、行くぞ」
促されて道を歩き出したが、片桐と墓地に入って行く男性の背中を交互に見て、葵は不思議そうな顔をした。
「澄江さんの婚約者だ」
葵の手をとると片桐は葵にだけ聞こえる声で囁く。葵は再度振りかえって、澄江の眠る墓の前に佇む男性を見つめた。
遠目ではわからないが、門の向こうに見えるその静かな佇まいがあまりにも寂しそうで、哀しく思えた。
恋人を殺されたら俺はあんなに落ち着いていられないだろう。
それでも彼が錯乱するのを澄江はきっと望んでいないだろうこともわかる。
ああ。だから早く見つけて欲しかったのかもしれない。ずっと行方不明の自分を気にかけないでいいように。
葵はそっと頭を左右に振る。
あまりに哀しい恋の結末にそっと溜息を落とす。
「行くぞ」
再度告げて、手を引く恋人を見上げて、葵は泣き笑いのような表情を向けた。
「どうした?」
頭を横に振って、なんでもないと意思表示をする。
「ばか。なんでもないって顔じゃない。葵。事件は終わったんだ。お前の気が済めばと思って連れてきたが、やっぱり失敗だったな」
「違う。遺される恋人にはなれないと思っただけ」
ぐっと唇を引き結んで、葵は歩き出し、片桐の肩に手を掛けると少し背伸びをして、耳に唇を近づけた。
「俺を正気でいさせたいなら、俺を置いて勝手に逝かないで」
耳元で囁くとそのまま片桐を追い越して歩き出す。
「……葵……」
後ろから自分の名を呟く声と駆ける足音が聞こえたと思ったら、ぐっと腰を攫われ、道の脇に植えられた木の陰に身を滑り込ませるとあっという間に抱き締められていた。
「章」
「誰も見てない」
それだけを告げ、片桐は葵をすっぽり腕の中に抱きこんだ。
頭上の木が初夏の風にそよいで、さわさわと音を立てる。ずっと抱き締めたまま片桐は口を閉ざす。
約束すると即答は返って来なかった。何度も口を開いては、躊躇する気配が伝わってくる。何と言っていいかわからないのだろう。
やっぱり、片桐の仕事は危険なのかもしれない。
そんなことが頭の中をぐるぐる巡り、もういいよと告げて身体を引こうと片桐の胸を両手で葵は押した。
しかし、身体を離すなとばかり更に強く抱き締められて、
「俺はそう簡単にくたばらないと思う」
片桐の低い掠れた声がゆっくり身体を伝わって聞こえた。
だれしもが明日のことはわからない。安易な約束はしたくない。
そういうことだろう片桐の精一杯の誠意を葵は心で受け止めて、瞳を閉じた。
「章。俺、あなたが思っている以上にあなたのことが好きだ。だから……」
いつか全ての真実を告げて。
続ける言葉を胸の中だけで囁いて、葵は両手を片桐の背中に回すと抱き締めた。
「葵……」
切なげに囁く甘い声と規則正しい片桐の強い鼓動が聞こえた。
成就した葵の恋。ずっと欲しくて欲しくて、手に入れて、続けていくのはもっと大変だと知った。それでも、この手はなにがあっても離さない。抱きしめた腕に力を込めると、片桐がさらに強く抱きしめた。

―完―
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