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「天空国の守護者」
トレジャ編

潜入

 ←クアールの影 →戦闘(1)
ドドス国北部トラル。自然信仰を基本とするエト教の本部のある都だ。高さの低い石の家々が連立する街の中心に幾本もの尖塔をもつ壮麗な寺院がその威容を誇っている。街のどこからでも見ることのできる石造りの飾り彫刻の美しい建物。
エト教の中心神は冬をつかさどる男神カグルだ。もともとエト教はこの神の機嫌を損ねず冬に備え、豊かな北の大森林からの恵みで暮らすことを願う純朴な信仰だった。人々は日々、カグル神へ詣でては、恵みの一部を供物として捧げる。しかし、人々の純朴な思いは月日を経るごとに変化する。
小さな建物だった寺院は、華美で壮麗な建造物へと変わり、寺院を司る僧侶たちに大きな権力が集中していく。
トラルは寺院のための街と化し、政治にまで宗教が影を落とす。権力欲にとり憑かれたら最後、人はその命を差し出してすら人の上に立とうとするのだろうか。
エト寺院の巨大な門前には今日も信者の列が長く伸びていた。ここは聖地なのだ。エト教信者の念願、聖地詣で。一生に一度は聖地を訪れ、カグル神へ感謝を捧げることを願わないものはない。
その列のあちらこちらに、何故かどこから見ても武人にしか見えない者たちが何人も混ざっている。屈強な体つきに鋭い瞳はどう見ても信者には見えないし、中には武器を携えている者もいた。だが、それを気にする人間はだれもいない。
「次」
門を入ったところに木の机が置かれ、その前に立つ濃緑の僧服に短く刈り込んだ髪の僧侶が並んで順番を待つ人に叫ぶ。
「カグル神詣でか?」
進み出た先頭の夫婦に僧侶が尋ねる。
二人は首を縦に振った。
「それでは右の道をまっすぐ行け。付きあたりが神殿だ」
僧侶の指示に2人は頭を下げるとその道へと進んで行った。それを見送って、僧侶はふたたび声を張り上げる。
「次。カグル神詣でか?」
次に進み出た白い巡礼服の男は首を横に振った。
「入門希望か」
その問いに巡礼者は頷いた。
入門とはこの寺院でカグル神を祭りながら暮らすことを選ぶ人々のことだ。修行を積んで僧侶となる。
「それなら左の道へ。突き当たりの建物へ行け。身元を確認し、簡単な試験がある」
巡礼者は頷き、左の道へと進んだ。
「次。カグル神詣でか?」
「いいや」
初めて身振りではなく言葉で答えた男に僧侶は視線を向けた。黒髪に茶色の瞳、スラリとした体つきの男だ。
見かけは商人の次男坊のように見える。裕福な家に育ったのに、自由に生きてきた気配がした。優しげな顔立ち、掴みどころのないのにどこか隙のない態度だ。僧侶は首を傾げた。どう見ても入門希望には見えなかったからだ。
「これを見た」
僧侶の仕草に苦笑を浮かべた男は手にした小さなビラを僧侶に渡す。小さな紙には、『僧兵の募集』と題打ってあり、『腕に自信がありカグル神に仕えたい者は、寺院へ』と記されていた。
僧侶は紙と男を見比べた。ああと思ったが、目の前の人物はあまり武人に見えない。
「獲物は?」
不思議そうな顔で問うた。
「弓だ」
右肩を持ち上げる仕草に、初めてその男が肩にひっかけた袋に気付いた。その中に弓が入っているのだろう。確かに大きさ的には弓が入っていそうだ。
一つ頷いて、僧侶は手元の紙に『弓』と記載し、男に返す。
「それなら、寺院の裏手にまわれ。あの細い道だ。そちらに道場がある」
指示された道を視線で男は確認した。
「どうも」
そう答えると男は指示された方へと足を向けた。僧侶はその男の背中を見送った。嫌な世の中になったものだ。寺院で僧兵を募るなんて。
僧侶は胸の内で呟く。
寺院が大きくなり、寄付の額が増えてくると、寺院を襲うという不埒なことを考える者が出てきた。それに対抗するためにカグル寺院では僧兵を常に募集していた。特に弓の腕に覚えのあるものは重宝される。
このところの天候不順で、作物の出来があまりよくないことから、山賊や盗賊に身を落とす輩も出始め、寺院といえども身を守るすべが必要なのは確かだ。ただでさえ、トランは北に位置し、特に冬の気候が厳しい。食うに困ると犯罪に手を染める者は後をたたない。
しかし、それなら弓より剣だと思われるのだが、街に寄せ付けない為にもより遠くへ飛ぶ弓が必要だと教団は説明をし、人々は特に疑問をもたないまま暮らしている。もちろん弓を操る者以外にも剣や槍に長けた者も力自慢の人も雇い入れられており、ドドル国軍より教団傭兵集団の方が強いとまことしやかに囁かれるほどだった。
だが、数がまだ二千ほどと少ないため、国はこれをあまり脅威とみていないようだ。政治の中心にいる先輩僧侶たちが説得したんだろう。すでに、政治と宗教は切っても切れない関係になっていた。
黒髪の男の背中が小さくなるのを見送りながら、僧侶は溜息をついた。
嫌な世の中だし、寺院が僧兵を募るのもおかしい気がするが、今の目の前の仕事には関係がない。まだ、門前には百人を超える人が列をなしていた。
僧侶は前を向くと、大きく息を吸いこんで「次!」と叫んだ。

黒髪の男は飄々と道場を目指す。言われた通りに細い道を辿り壮麗な寺院の建物の裏にまわると、平屋の別の石造りの建物が見えた。寺院に比べるとかなりシンプルなつくりの飾り一つない建物だ。これが、道場だろうと男は足をそちらに向けた。
道場と当たりをつけた建物の入り口にも人がいた。黒髪の男が先ほど受け取った紙を見せると、こちらはどこから見ても傭兵然とした男が重く頷く。
「弓は持っているか」
「ああ」
「それなら、そこから入って中で待て。次の試験は昼前だ」
それに頷き返し、黒髪の男は建物に入る。入り口をくぐるとすぐに広めの部屋になっていた。ぐるりと見渡すと部屋の壁に沿って椅子が並び、何人もの男たちが思い思いに座ったり、身体をほぐしたりしている。
黒髪の男は入口に近い壁に背を預け、両腕を胸の前で組んで立つと、部屋にいる男たちをそれとなく観察する。
ここは弓のみの道場なのか、そこにいる男たちの中には、あまり筋骨たくましい大柄なものは少なかった。弓は腕力とバランスがものをいう。だが、格闘と違って、あまり太めの筋肉は必要でないため、細身が多い。
そういえば、奥にもさらにいくつか建物があったから、そちらが格闘専門なのかもしれないな。
そう思いながら、黒髪の男は見回した中に何人か見知った顔がいることを認めた。目を合わせないように注意し、その数を確認すると、誰にもわからないように薄く笑んだ。
計画は順調のようだ。
部屋に先にいた男たちの幾人かが入ってきた人物にちらりと視線を走らせたものの、目も合わせず、まるで全くの他人のように振る舞うのにも黒髪の男は満足した。
壁に背を預けたまま男は、微かに俯いて瞳を閉じ、意識を建物の外へと広げる。できるだけ薄く広く。
黒髪の男の感覚にひっかかるものは何もない。
能力者の結界も対策もなし。クアールの気配もなしか。クアールの奴ら、能力者探知用の結界も張らなかったのか。
瞳を閉じたまま、男は思う。
あいつらここに俺たちが侵入するなんて考えもしなかったんだな。人間に化けての潜入捜査はプライドが許さないってところか。まあ、そのおかげで、大きい力を使わない限り、俺たちの身元もわからないってことだ。
黒軍副隊長ルシードは心中で、にやりと笑った。
彼の感覚には部下の気配が寺院のここかしこに感じられた。
部下たちはそれぞれ傭兵部隊と僧侶の中に潜り込ませてある。僧侶の方は、記憶操作で他の僧侶にすでに何年もここに入るように思いこませ、同じように暗示を掛けて、かなり上位の僧侶に部下がなりすましているはずだ。
街からはなれた旧街道沿いの森には後方部隊がすでに陣を敷いているはずである。事実そちらの方から、大勢の守護者の気配も感じられる。
ルシードは自隊の隊長であるタミルを思い浮かべた。彼の気配も森の方に視える。
タミル隊長、お願いですから静かにしていてくださいよ。
隊を離れて、潜入の役を引き受けたはいいが、ルシードは気が気ではなった。黒軍の隊長は、気の長い方じゃない。側を離れての任務もほとんどなかったルシードにしてみれば、お目付役を自認する自分が側にいないことで、タミルが暴走しやしないかとひやひやしていた。森に陣を張るタミルに思いを馳せ、ルシードはわれ知らず溜息をついた。

旧街道沿いの森ではすでに、タミル率いる黒軍5百が陣を敷き待機していた。
ここからは街は見えない。トラスの街は荒れ地の真ん中にあり、新街道は荒れ地を抜けるように敷かれた道で、街から丸見えだった。さすがに、そちらでは陣を置けず、仕方なく、森に隠れるように陣を敷き、情報待ちに入っている。
森に隠れるといっても当然、旧街道を通れば陣は見えるが、陣の周りには結界が張ってあり、人間の目に見えても見えた気がしないようにさせてある。これで、旧街道を通ってくるものがあっても守護者がここにいるとはわからない。
彼らの任務は、対守護者の人間部隊の殲滅と裏で糸を引いているクアールの抹殺だ。ついでにクアールの実働部隊も倒せればいいが、そこまでは望みすぎかもしれない。
待機はタミルにとってあまり好ましい任務ではない。待つということが不慣れなのだ。しかし、任務は任務で、一日に一度ある報告を受けて、決断の時を待たなければならない。
「今日の報告か?」
一番大きな天幕で、タミルは外から入ってきた部下に訊く。
「はい。すでに、寺院への潜入に成功との連絡が、修行僧へ化けさせた者から入っています」
「クアールについては」
「それは、まだ」
そうだろうと思う。まだ、始めたばかりだ。奴らも痕跡を残すほど馬鹿じゃない。
「ルシードからは?」
「そちらもまだです」
そうかと返事をすると、部下は一礼し天幕を出て行った。
大きくため息をつく。
「やっぱり、待つのは向いてないな」
つい独り言が口をつき、苦く笑う。いつもなら、常に横に控えている副隊長が何かと突っ込んでくれるが、今回、彼は潜入しに出ている。
「何が向いていないんですか」
天幕の入り口をくぐってきた者が独り言を聞きとめて、そう言った。
副隊長のルシードが戻ってきたのかと顔を上げたタミルは天幕の入り口でにやにや笑っている男を睨みつける。茶色の髪を後ろで括り、細めの目はまるで猫のようで、その瞳を面白そうに瞬かせている。
「お前か」
「ルシードかと思いました?」
副隊長が一人カルアが訊く。黒軍には副隊長が3人おり、そのうちの一人だ。当然、功績や実力でタミルが選んだ副隊長なのだが、実はタミルはこの男が苦手だ。
そこもわかっていてルシードはカルアをお目付け役に残していった。
「まあな。あいつと別任務は珍しいから」
「そうですね。隊長はルシードがいないと暴走しまくりですからねえ」
仮にも上司にこの歯に裳着せぬ物言いはなんだろう。しかし、カルア相手に反論しようものなら、3倍以上になって返ってくることしかりだ。
「今回は駄目ですからね。ルシードからも絶対に(・・・)って念押されてますし。勝手なことしないでください」
「わかってるよ」
溜息とともにタミルは答えた。
そんなタミルを嬉しそうにカルアは見遣った。タミルは知らないが、黒軍では隊長は絶対的人気を誇っている。この立っているだけで絵になり、その強さと優しさは半端でない自軍の長をだれしもが尊敬していた。もちろん、このカルアも然りだ。しかし、口が裂けてもそんなことは本人には言わない。
「しかし、面倒ですね。人間に化けてまで首謀者探して。どうせなら街ごと壊滅させた方が早いのに」
カルアのセリフにタミルが困った笑みを浮かべる。
「おいおい、物騒だな。人間皆殺ししてもしょうがないだろう」
カルアはちっと舌打ちした。前ならタミルも同じことを言っただろうに。
「人間をかばうんですか。あんなのどうでもいいってのがあなたの持論だったのに」
『黒軍隊長が人間に入れこんでいる』とまことしやかな噂は本当なのかもしれない。カルアは苛々する。
「どうでもいいさ。それでも皆殺しはまずいだろう。第一それだとクアールのネズミが焙り出せない」
「正論ですね」
いつになくまともな答えを返す隊長にカルアは冷たく返答した。
人間なんて居なくなってしまえばいいのに。
守る意義をまるで感じないカルアは、人間を殺さずにクアールをあぶり出す作戦に苛立ちを隠せない。
「おい、なんか怒ってないか」
「怒ってませんよ」
机の上に散乱した書類を束ねながら、カルアは言った。
「言いたいことがあれば言えよ。それが作戦完遂に支障が出ると困るからな」
タミルの言葉にカルアが睨むようにタミルを見たとき、天幕の入口が開き、兵士が入ってくる。
「副隊長も潜入成功との報告。僧兵の弓部隊長になったそうです」
「何?!」
カルアがたまらずに吹き出した。
「目立つなって言ったのに」
タミルの言葉にもカルアは腹を抱えて笑った。ルシードもさぞかし不本意だろう。笑いながら、タミルが自分を睨んで、大きな溜息をつくのをカルアは聞いた。
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