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奇跡の刻

再会は突然に

 ←憧れ →弁償
この日は、やたらとついていなかった。
なんなんだ、こんな日に限って。
いらいらと小走りで先を急ぎながら、聖は心の中で悪態をつく。
今日はやけに電車の接続が悪く、移動に時間がかかった。そのせいで、夕方に受けている国家試験用のセミナーに遅刻寸前だ。電車待ちにと買った珈琲は飲む間もなく持って歩く羽目になり、聖は地下鉄駅の構内から出る通路を急ぎ足に駆けていた。
本格的に間に合わないと思いながら、腕時計にちらりと目をやって、B3と書かれた通路に駆けこむ。垂直に曲がっている通路は先を全く見通せなかった。
「あっ!」
角を曲がり、真正面に人影が見え、とっさに足を止めたがすでに遅く、向こうからやってきていた誰かと勢いよくぶつかった。
その拍子に持っていたコーヒーの蓋がずれて飛び、コンクリートの地面をてんてんと転がっていく。
う、うそだろう……。
ぶつかった衝撃で、派手に宙を舞った珈琲の飛沫がゆっくりと相手のシャツにかかっていくのがまるでコマ送りの映像のように見えて聖は血の気が下がる。胃の底が絞られるような感じを覚えた。相手のワイシャツに茶色の染みがみるみる間にひろがって、その周りにも細かい染みが点々と飛んでいるのを見て、胃の底がジワリと熱を持った。
「す、すみませんっ!」
ジャケットのポケットからハンカチを取り出し、相手の同意を得ないまま、聖は慌てふためいてシャツをトントンと叩いた。許しを求めず他人に触れるなんて普段の聖ならあり得ない。だが、聖は自分でも気がつかないほど動転している。何度も何度もハンカチを押し当てた。珈琲の水分は若干取れたよううだが、染みはほとんど移らない。
……どうしよう。
困った顔でハンカチと相手のシャツを交互に見つめ、聖は深く頭を下げた。
「すみません!クリーニング代弁償しますから」
頭を下げたまま反応を伺うが、相手の反応はない。
普通ならここで怒鳴られるか何かしらの反応があるべきなのにと不安になった聖は恐る恐る聖は頭を上げ、相手の顔を見上げた。
「!」
あまりの驚きに二の句が告げない。
目の前に立っていたのは、聖より頭一つ分背が高い、長めの黒髪に縁取られた面長の顔……。
二度と会うことはないと思っていたのに。
自分の前にいるのは、まぎれもなく二ヶ月経った今でも鮮烈に聖の中に印象を残したままの人物だった。
相手は驚いて硬直した聖の顔を見て訝しげな顔をした。しかし、やっぱり無言だ。
「……神栖さん」
聖が呟くと同時に、神栖は無言のまま片眉をあげた。
戸惑う聖の顔を凝視し、神栖はかすかに首を傾げたかと思うといきなり聖の二の腕を掴み、そのまま歩き出した。
「あの……」
なんだかわからないまま、階段を上り、地下鉄通路の外に連れ出される。
通路では人目を引くと思ったのだろうか。
連れられながら相手の表情を伺い、聖はもう一度その場で謝ろうとした。
しかし、相手は聖の腕を離す気はないらしく、そのまま車道にむけてずんずん歩みを進めた。
「ちょっと、どこへ……」
反論する間も与えられず、聖は地下鉄入り口の前の路上に停められた車まで連れてこられた。どうするつもりかと思う間もなく、相手は躊躇一つせず、車の後部座席の扉を開くと、聖をその後部座席に押し込む。
「何をするんです」
聖の抗議にも答えを返さず、そのまま自分も乗り込むと扉を勢いよく閉めた。
「輝、煙草買えたのか?」
扉がバンっと音を立てた後、のんびりした声が聞こえ、聖は、はっとして声の方を見る。運転席にいた男が、バックミラー越しに後部座席を見ていた。そして、口を開けたまま絶句するのがそのミラー越しにわかる。
いきなり知らない人が増えたのだから無理もない。挨拶と弁解をしようと聖が口を開きかけるより神栖が声を出した方が早かった。
「出してくれ」
何の説明もなく車を出すよう指示する神栖を聖も運転席の人物も驚いたように見つめた。
「あの……俺……」
なんとか説明しようとするが、運転席の人物は、ちらりと腕時計に視線を走らせ、それから溜息を一つ吐くと車を発進させる。
「どこへ行けばいいんだ?」
「悪いが、銀座へ回ってくれ。シャツを買いたい」
車は銀座方向に向かい走り出す。平日の昼間ともあって、道はわりとすいている。車はスムーズに車線に入ると流れに沿って進んでいく。
一体何がどうなっているんだと混乱する頭で必死に考えるが、何故、車に乗せられているのか聖には皆目見当がつかない。誰も口を開かず、何も言わない。高級車の静かなエンジン音とタイヤが道路を擦る音だけが車内に響いていた。滑るように車は走って行く。
背筋を伸ばし、両手を膝の上に置いた格好で、聖は前方と横に座る神栖を交互に見た。言葉を発する雰囲気はなく、沈黙が続く。
数分後、混乱した頭をなんとか整理する努力を続けた聖は、事の次第は飲み込めないものの自分に非があるのは明白だと思った。
謝らなければ。事故だったとはいえ、シャツを汚したのは自分なのだから。車に乗せられた意図はわからないが、もしかしたら相当に頭に来ているのかもしれない。
ちゃんと謝罪をして、許してもらわないとと決意して、聖はぐっと膝の上で拳を握りしめた。
「本当に申し訳ありませんでした」
神栖に向かって頭を下げた。
しかし、神栖は視線を聖に向けることもせず、口を開く気配もなかった。
やっぱり怒ってるんだ。
いきなり車に乗せられ、どこかへと連れていかれている不可解な行動は、ワイシャツを汚されて神栖が怒っているためだと聖は解釈した。
「クリーニング代、弁償します」
それでも、なんとか許してもらわなければと、頭を下げたまま聖は言葉を付け加えた。
「クリーニングは無理だ」
今度は瞬時に返答があった。聖は頭を上げて神栖を見る。神栖が首をこちらに心持向けて、聖を見ていた。きつい瞳が聖に向けられ、背が震える。
「これから大事な商談があって、時間がない。この商談をパアにしたら、五十億の損失だ」
あまりな金額に聖は言葉を失った。言外にこの金額はお前には弁償できないだろうと言われている気がして、聖は唇を噛みしめる。
「僕をどこへ連れて行くんです」
「人の話を聞かない奴だな」
会話が噛み合っていない。聞いていないのはあんたの方だろうと言いたいのをぐっとこらえる。
「アポの時間まで幾許もない。しかし、このワイシャツでは行けない。だから、シャツを買いに行くんだ。弁償するんだろう。おまえも付き合え」
「クリーニング代をお支払いするといったんです。買って弁償するなんて言ってない」
言ったセリフを鼻で笑われた。
「このワイシャツはクリーニングできないと思うが」
できないと繰り返されて、そんなはずあるかと心の中で怒鳴る。今のクリーニングの技術は進んでいるのだから、染み抜きすれば、元通りだ。
むっとしてそう反論しようと口を開きかけたところで、車が路肩に寄った。
「輝、着いたぞ。時間がないから早くしてくれ」
運転席の人物がバックミラー越しに神栖を急かす。それに頷きを一つ返して、
「了解。悪いな、武流(たける)」
神栖は、後部座席のドアを開け降りて行く。ここはどこだと外を見れば、聖でも名前を知っている高級ブランド店の真ん前だった。
自動車の後方のドアを開け放したまま、神栖は早足で店内へと入っていく。
内心どうしようかと戸惑いつつ、成り行き上、ついて行かないわけにもいかず、神栖の後を聖は追った。
入った店内は広く、冷房がほどよく効いていた。商品ディスプレー用の棚が広めの間隔で中央に並び、壁際にはスーツがハンガーで吊るされている。その下に、鞄や靴が並んでいた。壁や床は白で、そのため、一番多い黒い服が強調されて見えた。
商品用ディスプレーの棚に陳列されているワイシャツを何気なく手に取ってみて、聖はぎょっとする。
「シャツ一枚、五万円……」
神栖はと視線を向けると、店員が恭しく後ろをついて歩き、何をお求めですかと尋ねている。顔見知りのようだ。
店員に顔を覚えられるくらいの常連かと、聖は手にしたシャツと神栖に交互に視線を向けた。
高級店の常連客で、高価な物を当たり前のように買うことのできる人。その事実に、神栖があまりにも自分とはかけ離れた世界の住人であることを思い知る。当たり前のことなのに、憧れの人物との大きな隔たりに聖は怒りに似た感情を覚えた。拳を身体の横で握りしめる。
若くして成功を収めている神栖は一介の大学生の自分とは違う種類の人のような気さえする。
悔しいのか、哀しいのか、聖にもよくはわからない。ただ、胸の奥がもやもやとする。
視線の先の神栖は店員の勧めに適当に相槌を打ちながら、気に入ったシャツを手に取るとサイズを確認していた。
「試着していいか」
「もちろんでございます。神栖様」
店員の答えに神栖が試着室に消えた。
それを見届けて、彼が出てくるまで手持ち無沙汰になった聖は、店の他のものもいくつか見て回る。だが、小物ですら、聖では手の出ない値段だ。服など触るだに恐ろしい価格に心底驚く。
服一枚に五万も十万もかけるなんてありえない……。
聖は地方のそれも片田舎の一般家庭の出身だ。どこにでもある普通の家庭から一人で上京し、大学生をしているが、その費用は両親にとって小さい負担ではない。それがわかるからこそ、学費は奨学金で賄い、家賃や生活費は自分でバイトして生計を立てていた。かなり遣り繰りしてやっとという生活をしている聖にとってみたら、服一枚に何万もかけるなんて考えられない。
扉が開く音がし、聖はそちらに視線を走らせた。
試着室から出てきた神栖が、そのまま支払いに向かうのを見つめる。サイズもあっていたので、それに決めたようだ。
店員がレジを打つのを衝撃覚めやらぬ顔で眺めていると、神栖の選んだシャツは、消費税込みで、五万七千円。聖の月の稼ぎの優に半分を占める額だ。
先ほど着ていたシャツは畳んで袋に入れられ、神栖はそれを受け取った。
「ありがとうございました」
店員がにこやかに挨拶するのに、神栖は手を上げて店を出る。その神栖を聖は慌てて追いかけた。店を出ると先に店を出た神栖が手にした袋を聖に手渡した。
それに聖は訝しげな顔を向ける。
「クリーニングは無理だと思うが、納得がいかないなら調べてみるんだな」
不敵な顔で笑い、神栖はジャケットの胸ポケットから名刺を取り出し、裏になにやら書き込むとそれも聖に手渡した。
「わかったらこっちに連絡してくれ」
今書いた字を指でとんと叩き、たったそれだけを告げると神栖は歩き出し、車に乗り込む。神栖が車内に消えると車はあっという間に走り去った。
聖は遠ざかる車を見ながら呆然と立ち尽くした。車の影が消えても何をどう考えていいのか、思考がまともに動かない。それでも渡された名刺を恐る恐る覗く。
名刺の裏には、携帯番号が記されていた。
俺の連絡先は要らなかったのだろうか。このままバッくれたらどうするつもりなのだろう。
聖は車の走り去ったほうに再度視線を投げた。途方に暮れる思いに、大きな溜息だけがその口から洩れた。

車は銀座から青山方面に向けて、走行していく。道は都心を抜けるルートにしてはすいているようだ。車はスムーズに目的地に向かって進んでいく。
「輝、からかったらかわいそうだろう」
バックミラーから聖の影が消えて、しばらくしてから運転している武流と呼ばれた男、吉井武流が諭すように口を開いた。窓の外を見ていた神栖はその声に、ミラー越しに吉井と瞳を合わせる。
「弁償するって言ったのはあっちなんだからいいだろう」
神栖は口元に笑みを佩いて、悪びれない。それに、呆れたような馬鹿にしたような視線を吉井が送ってきたが、それも気にならなかった。久しぶりに面白いものを手に入れたかもしれないと思う。
「高校生には、弁償できないだろう」
吉井の言葉に神栖は首をかしげる。確かにかなり若くは見えたが、あれは、さすがに高校生ではないだろう。
「未成年じゃないと思ったが。どこかでみたことある顔なんだよな」
そう、あの顔には見覚えがあった。長めの癖のない前髪が白い肌に映え、清楚で美形な青年だ。通った鼻筋も薄く形のよい唇も、すらりとした体つきも神栖の好みだった。
どこで見たんだろう。
必死に思い出そうとしながら告げたためか、訝しげになった口調に吉井は何度か目を瞬いて、驚きを示す。
「おいおい。どこでだ。遊び先か?」
「まったく思い出せない。遊んでるようには見えないし。どっかの取引先ってこともないだろうしな」
記憶を探るもどこの誰だったかわからない。だが、好みど真ん中の青年だった。忘れるはずもないのだが。
吉井が溜息をついた。
「でも、どうするかな?逃げちゃうんじゃないのか」
悪趣味な神栖のお遊びに吉井はあまり気が乗らないらしい。そもそも、吉井は神栖と違って、男には全く興味がない。きっとまたバカな遊びを思いついたと思っているんだろう。
「どうかな」
だが、理屈ではなく、彼とはこれっきりにならない予感があった。不思議なことだが。
結構、気も強そうだったしな。
ゆったりと後部座席の背もたれに身を預け、バックミラー越しに吉井と視線を合わせると神栖は、唐突に浮かんだ自分の思いつきに、にやりと笑う。
「なんなら賭けるか?駄目でもそれならそれで楽しめそうだ」
乗り気でない吉井を煽るつもりもあって、神栖はわざとにやにやと笑って見せる。口にしてみれば、ずいぶん楽しそうな遊びのような気もしてきた。
吉井が鏡越しにあきれた視線とため息を投げた。
どう言われても、こういう面白そうなことがあるから人生やめられないのだ。楽しみは最大限利用したほうが、生活が豊かになる。いまいち、のってこない長年の友人にさらに神栖は嘯いた。
「最近、刺激がないからな。ちょっとは暇つぶしになるだろう」
この言葉は吉井には寛容されなかったようだ。特に、「暇つぶし」との言葉に吉井が顕著な反応を示す。
「おいおい、これからいく商談をまとめなかったら、暇なんて言ってる場合じゃないんだぞ、わかってるのか」
吉井の言うことはもっともだ。五十億の契約なのだから。
だが、その吉井のセリフに神栖は絶対の自信に満ちた笑みを浮かべる。
「まとめるさ。誰にものを言っている?俺が、出向いているんだ。決まらないはずはない」
きっぱりと言い切った。
あまりの言い草に、吉井があっけにとられ、ぽかんと口を開いたのがミラー越しに見えた。だが、次の瞬間に、口元に笑みを刷く。
小気味よさそうに微笑う吉井に、神栖も不敵に笑い返した。
大言壮語と思うなら思えばいい。自信のないことは口にしないし、神栖にはそれだけの経験も実績もある。常に前を見て、攻撃あるのみ、それが自分だと思っているし、これでこそ、成功へつながると思う。
攻撃だけではすまない細かいフォローは、吉井がきっちりしてくれるだろう。
ずっと一緒にやってきた。俺たちは二人で、そうやってうまくやっている。今後も俺達の歩みは留まることを知らないだろう。
吉井をミラー越しに見つめながら、神栖はそう思った。
「そろそろ、到着だ」
笑みを佩いたまま、吉井は神栖に告げた。
言葉通り、車は大きなビルのエントランスに入っていき、ゆっくり停止する。
車が完全に停まると、一瞬、獰猛な笑みを神栖は口元に浮かべ、後部座席から身体を起こした。そのまま、運転席のシートに片手を置いて、吉井を覗き込む。
「さて、戦闘開始だ」
吉井が、その言葉に親指を立て、笑い声で応えるのに、神栖もまた声を立てて笑った。
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