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奇跡の刻

弁償

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聖は途方に暮れていた。
ありていに言えば、困っていた。
大通り脇の歩道沿いの植え込みを囲むレンガに腰掛けて、クリーニングから戻ったばかりのシャツを手に溜息をつく。
この一週間、何件もクリーニング店を回り聞いて回った答えは、どこも「できません」だ。
シャツの素材は極上の国産シルクで、有名ブランドが販売しているため、小さいクリーニング店は、「責任をもてないので預かれません」と軒並み言われた。
それも判で押したように同じ答え。
次に専門店をあたった。
「また、派手に汚しましたね。コーヒーは油分も多いので厄介なんですよ」
応対に出た担当者はシャツを見るなり、難しい顔だ。ためつすがめつ、何度も生地を見ながら眉を寄せる。
「やってみてもいいですけど、なにかあっても責任はお客様にあることに同意してください。特別コースになってしまうので、五千円くらいかかりますよ。ただし、落ちる保障もいたしかねます」
告げられた回答はそっけないものだった。
「それでもいいです。やってみていただけませんか?」
駄目でもともとと頼んだが、三日たって戻ってきたシャツは、染みは薄くなっていたものの、使用に耐えうるかといえば、答えは否だ。
眺めていたシャツから顔をあげ、聖は大きな溜息を一つついた。
「どうしよう」
紙袋の上にシャツを置いて、聖は神栖にもらった名刺を取り出した。裏を返して電話番号を見てはまた溜息が洩れる。
「あれから一週間。いい加減どうするか決めないと」
名刺を見て呟いて、また小さく息を吐いた。
相手は聖の連絡先も名前も聞かなかったのだから、このまま何ごともなかったことにして、無視してしまうという選択肢もある。
世界も違う人間だ。彼にとって見たら、このシャツ一枚などどうってことないだろう。それはこの間会ったときに嫌というほど思い知った。
だけど――。
聖はそうしたくはなかった。相手はあの神栖輝なのだ。ゼミの先輩だというのもある。もちろん、先輩をないがしろにはできない。
だが……
「あの人に軽蔑されたくない」
最大の理由を聖は呟く。聖が初めて凄いと感嘆した人物。いまでも、あの講演会で話をした彼を思い出すことができる。耳の底に甦る低くてもよく通る声。完璧な理論。そして、人を惹きつけてやまないあの雰囲気。
二度と係わることなどないと思っていた人にまた出会ってしまった。そして、非は自分にある。
「このまま逃げたら、あの人を裏切ることになる」
名刺を持つ指に力を込めた。紙の端にしわが寄る。
それだけはできないと聖は思った。何をごまかしても自分だけは騙せない。
聖は膝に置いてあった携帯電話を取り上げる。気持ちを落ち着けるために、大きく息を吸って吐き出した。
「よしっ」
小さく呟いて、名刺に記載された神栖の携帯ナンバーを聖は入力し始めた。

社長室の扉を開き、打ち合わせ用に置いてある部屋の中央のソファに歩み寄ると腰をおろし、吉井は背もたれに身体を預けた。自分の背をしっかり受け止めた冷たい革の感触が心地よい。視線を流して、デスクで書類をめくっている神栖を見るともなしに眺める。日々、外出が多い彼にしては珍しく、神栖は自分のオフィスで仕事をしていた。
窓を背に黒々とした革の背もたれの大きなデスクチェアに座し、重厚な深い茶色の木製のデスクについて、分厚い書類を睨みつけている神栖に視線を止めたまま吉井は、大きく息を吐く。
部屋の中には紙の擦れる音だけが静かに響いていた。神栖の背後の大きな窓からは夏の強い日差しが階下のアスファルトに降り注いでいるのが見える。今日も外はさぞかし暑いだろう。
真剣に書類をめくる神栖に、まだ、しばらくかかりそうかと吉井はぐるりとオフィスを見渡した。
壁際に整然と並ぶ書類棚、入り口の近くのコーナーには、背の高い観葉植物が置いてある。一年中、青い葉を茂らせる植物はかなりの大きさになっていて、先が天井に着きそうだ。
そろそろなんとかしてやらないと、と吉井は思った。
ついでに下の方の葉についた埃もとってやらないといけないと思う。それなら、いっそこの部屋全部をクリーニングにだそうかと考える。
そこで、ふと吉井はあの神栖のシャツを汚して、悄然としていた青年を思い出した。
「そういえば、あの賭けはどうなった?」
静寂を破った吉井の問いに、目を通していた書類から神栖は顔を上げた。睨むような目を吉井に向けて、ばさりと机の上に紙束を投げ出すと神栖は首を横に振った。
「じゃあ、俺の勝ちだな」
にやりと笑うと神栖は片眉を上げた。長年の付き合いでこういう顔をするときは結構落ち込んでいる時と知っている吉井は、ちょっと意外に思った。
そんなに気に入っていたのだろうか。
「あの子の連絡先とか聞いてないのか?」
「名前も聞いてない」
慰めも兼ねて聞いたと言うのに、あまりの返事に呆れ果てる。
「そんなんで、なんで連絡してくるなんて思っているんだ?」
「俺に気があると思ったから」
「はあ??」
吉井は間抜けた返事を返す。しかし、この反応は当たり前だと思う。名前も知らない人間をつかまえて自分に気があるとは、おかしくなったとしか思えない。
「あいつ、俺が誰だか知っていた」
神栖の言葉に、吉井は首を傾げる。誠にもって妙な話だと思う。
確かに神栖はベンチャー企業を急発展させた辣腕家だから、雑誌などには良く取り上げられていた。しかし、毎回、顔写真まで載せるわけではないから、芸能人のように顔見て神栖だとはわからないはずだ。
「知り合いなのか?」
「この間も言ったが、どこかで見たはずなんだ。あれから、何度も思い返しているが、まったく覚えがない」
それも妙だ。
吉井はあの青年を思い返す。バックミラー越しにみた彼は、端正などちらかというと綺麗な顔立ちだが、派手な美人というわけでもなく、おとなしめな感じの青年だった。
神栖の好みそのままみたいな子だったのに。
白いワイシャツにグレーのスラックス、手にはA4サイズほどの鞄を提げていた青年を思い返しながら不思議に思った。そんな好みの人間を見忘れてしまうものだろうか。
神栖はどこであの青年を見たのだろう。
しばし、考えるが全く見当もつかない。首を横に吉井は二、三度振った。気落ちしている神栖は気の毒だが、他人で遊ぼうと思った報いだとも思い返し、吉井は考えを放棄した。確かに奇妙だとは思うが、あんな真面目そうな若い子と神栖では結びつきようがない。
「ま、そういうこともあるさ。で、息抜きはそれくらいにして、そろそろ打ち合わせ始めたいんだが」
お遊びはそれまでと吉井は神栖を促す。
「ああ」
首を捻って考え込んでいた神栖もその声に頷く。
吉井は持参した書類を手にとった。
「まずは、今回のプロジェクトの目的だが……」
書類に従って、吉井が説明を始める。神栖は先ほど投げ出した書類を引き寄せると、めくりながら吉井の言葉に耳を傾ける。現在の市場動向と今回立案した計画の説明に神栖は首をかしげた。
「どうした?」
「これで、どのくらい利益が見込める?」
「ざっと試算して、百億ってところか。純利益にすると七十億くらいになるだろうな」
吉井の答えに神栖は机の表面を人差指でトントンと叩いた。頭の中を数字が躍っているのだろう。
「まだまだ詰めないとだめだな。一回、プロジェクトチームに差し戻せ。工夫次第で売り上げが二十パーセントは伸びる」
書類を睨みながら告げる神栖に吉井が苦く笑った。神栖はいつもこの調子だ。あの優れた頭脳の中では様々な要因と数字がはじき出されているに違いない。
「それは大きく出たな。この案でも悪くないと思うが」
神栖は顔を上げ、吉井と視線が合わせる。にっと口の端を思わせぶりに神栖は持ち上げた。
「冗談だろう」
自信ありげな顔に吉井は溜息をついた。
「わかった。差し戻す。利益の計算はやり直させるが、計画の全容くらいちゃんと聞け」
了解の意を示すように右手を上げる神栖を吉井が睨んだ。だが、それには笑いを返される。
「予想される競合だが……」
吉井が話を再開した途端に、いきなり神栖の携帯電話が軽やかな音をたてた。
「悪い。ちょっと待ってくれ」
片手を上げて吉井の説明を止め、神栖は着信履歴の番号を見た。知らない番号だったのか、非通知だったのか、神栖は一瞬訝しげな顔をしたが、通話ボタンを押し、電話を耳にあてる。
「もしもし」
電話に応答し神栖は、さらに聞こえてきた声にも首を傾げた。妙だなと吉井は眉を寄せた。面倒くさいことではないといいが。
「ああ、どうも」
急に声がはっきりし、神栖は吉井を見るなり、口端を笑みの形に上げて、親指を立てた。
嬉しそうな神栖の表情に吉井は苦笑いを返す。この勝ち誇った顔はどう考えてもさっきの賭けの話に違いないと当たりをつけられるくらいは、吉井はこの男をよく知っている。
「そうだな」
吉井の視線の先で電話を頬と肩で挟んで、神栖は手帳を繰る。何かを思案するような表情で、手帳を睨むとペンでページの一部をとんとんと叩いた。
「じゃあ、今晩、遅くて悪いが、午後八時に食事でもしながらでどうだ」
落ちついた声音の後ろに、隠しきれない喜びを感じとって、吉井はますます苦笑いを深くする。
「わかった。それでは。今晩」
何度かうなずいて神栖は電話を切った。
「俺の勝ちだ」
携帯電話をデスクの上に放るなり、神栖は吉井ににやりと笑いかけた。携帯電話が紙束に落ちて、がさりと音をたてた。
やっぱりと、自分の予想が的中したことを悟って、溜息を一つつく。
「いまどき律儀な子だねえ」
声に苦いものが混じる。それに反して、神栖の喜びようは傍目で見ても明らかだ。吉井は呆れた視線を神栖に流す。神栖は完全に新しいおもちゃを手に入れた子供の顔になっていた。
「というわけで、その立案を取りまとめるのは、お前の仕事な」
神栖はそう答えて面白そうに笑う。
「なんだよ、それ」
「賭けの報償」
吉井は大きく溜め息をついた。
仕事が一つ増えてしまった。ばかばかしいが約束は約束だ。
神栖にやらせるつもりで出した条件だったが、逆効果だった。
「アイデアは出す。纏めてプロジェクトチームを動かせ」
神栖の言葉に吉井は頷いた。
「了解、ボス」
吉井の相槌を合図に二人は、新規事業の打ち合わせを再開した。


極度の緊張からか電話が切れるなり、聖は大きく息を吐き出した。携帯を持った手がまだ少し震えている。小刻みに揺れる自分の手を見下ろすと、握りしめた力が強すぎて、電話を握ったところが白くなっていた。
問題はなかっただろうかと思いながら、今の会話を反芻してみる。
名前を名乗って、クリーニングが無理だったこと、どう弁償するか相談させて欲しい旨を伝えた。神栖は怒っている様子でもなかったし、望み通り話し合いの時間をもらうことはできた。
どういうわけか、食事することになったことだけが予想外だ。
もう一度大きく溜息をつく。驚きで早まった鼓動はまだ、聖の胸を叩いている。
「神栖さんと食事……。それも個人的に……」
あの神栖さんと個別で会うことがあるとは、それも食事をすることがあるとは思っていなかった。世界の違う人で、交わるはずのなかった道。
忙しいから、食事をとる手間と一緒に済ませてしまいたかったんだと思う。プライベートの面倒くさいことに時間を割いている暇はないんだろう。
会社を率いるというのは、やりがいもさることながら、想像以上に忙しいに違いない。
どんな生活をしているんだろうかと、聖は神栖の日常を思い描こうとして、何も浮かばないことに苦笑する。
社会に出ていない聖は、社長の仕事などまったくわからない。この間、車の中で商談がどうとか言っていたことを思い出す。
いろんな人と会って、会社と製品を売り込むんだろうか。それも社長自ら?
未知の世界で自在に生きている神栖に思いを馳せる。あのプレゼン力なら、誰でも感銘を受けるに違いない。そうやって、会社の運営をしているのだろうか。
「だけど、また、神栖さんに会える」
われ知らず呟きが漏れ、緊張のために早鐘のように打っていた鼓動が、大きく跳ね上がった。
用件については、気が重いが、二度と会うことも話すこともないと思っていた人物との思いもよらない再会に聖は淡い期待を覚え、心が高揚する。
俺が悪いんだから誠意を見せたい。神栖さんはわかってくれるだろうか。
腕時計に目をやる。午後八時まで、あと四時間。
「一度帰って着替えている時間はあるよな」
時計に語りかけて聖は立ち上がると、紙袋を抱え、駅へと向かう道へ足を進めた。

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