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「天空国の守護者」
天空国編

楽園(3)

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テーブルには真っ白なテーブルクロス。その上に薔薇の模様が描かれた繊細なカップを並べていく。同じ図柄のポットの脇には本日の茶葉と熱いお湯が用意されていた。
キリスエールは右手を腰にあててテーブルの上の自分の仕事を満足げに見渡した。
「ケーキはクリームがとけると困るから、後で持ってきてもらうとして」
先ほど焼きあげて飾りつけしたケーキを思い浮かべて、キリスエールは笑み浮かべた。白いクリームをたっぷりと飾ったケーキはシスルがもっとも気に入っているものだ。この時期に取れる赤い小さな果物を乗せた。少し酸味のあるベリーだ。
シスルは喜んでくれるだろうか。
ずいぶんと菓子作りの腕は上達していた。料理もだ。他にやることもないからというのもあったが、喜んでくれる人がいるというのが大きい。
パイもクッキーも焼き菓子もいろいろ作ったが、どれを食べてもシスルはニコニコ笑って、食べてくれた。それでも一番食べっぷりがいいのが、クリーム系のケーキだった。ロールケーキでもデコレーションケーキでもとにかく生クリームがたくさん乗っているのがシスルの好みだった。
窓に歩み寄って外をながめ、そろそろかなとキリスエールは思う。外は午後の柔らかい光に満ちていて、庭の芝生が黄緑色に光っている。このくらいの時刻になるとシスルは執務を終えてまっすぐここに戻ってくる。
光はすっかり春の様子で、キリスエールは窓を開く。さわやかな風が窓をすり抜けて、キリスエールの髪を掬った。
「……スエール……キリスエール」
後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた気がして、キリスエールは振り返った。部屋には誰もいない。扉が開いた様子もなかった。
「?」
もう一度部屋の中を見渡し、キリスエールは首を傾げた。
「キリスエール」
今度ははっきり自分の名が呼ばれるのが聞こえて、キリスエールは声の方向へ顔を上向けた。
「あっ……」
驚いてキリスエールは短く悲鳴をあげ、自分の口を抑える。
天井の側に薄い黒い霧のようなものが見えた。渦を巻いている。霧は濃さを増し、黒々とした渦へと変化した。
どこかで見たことがあるが、どこでだっただろう?
はたとシスルが自分をここへと連れてきた時に見たんだとキリスエールは思いだした。
ということは誰かが現れるのかとキリスエールは身構えた。だが、渦は黒さを増すだけで誰かが現れる気配はない。
「キリスエール、そこにいるのか。俺の声が聞こえるか?」
渦から声がする。聞き覚えのある声だ。低く耳に心地よいこの声は……。久しぶりに訊く声だが、忘れるべくもない。
「タミル様……タミル様なんですか」
「ああ。よかった。いるんだな」
「タミル様、なぜ?どうなっているんです?」
キリスエールには何が起きているかわからない。何故、渦からタミルの声がするんだろう。
キリスエールは渦を見上げて困惑した。
「無事か?助けに来たんだ。遅くなったが……。レイラースもいる」
「キリスエール」
微かにレイラースの声も聞こえた。
「お二人とも!なんで?怒ってらっしゃるんでしょう?だから、俺……」
タミルやレイラースそして、セインがここに来ないのは、何も言ってくれなかったのは、勝手にあそこから移動してしまった自分を怒っているからだと思っていた。
「怒る?」
不思議そうな声が返って、それからなぜか溜息が聞こえた。
「キリスエール、そんなはずがあるか。説明はいくらでもしてやる。だが、いまは時間がない。とりあえず、そこから出るんだ」
事情がまったくのみこめないキリスエールは聞こえてくる声に途方に暮れた。
「どうして姿を現してくださらないんです?ここから出るってどういうことです」
「ここの結界の力が強すぎて、こじ開けて支えるのが精一杯なんだ。それもそう長くは持たない。早くしないと国主気づかれる」
シスルが?
タミルの言葉にキリスエールははっとする。タミルは自分がシスルに攫われて閉じ込められていると思っているのだと気づいた。彼は最初に告げたじゃないか「助けに来た」と。
「違う。シスルは俺を閉じ込めたわけでもつかまえているわけでもないんです。ここの中なら自由に動けるし」
そう。シスルは何も酷いことはしていない。この屋敷からは出られないが、それだけだ。それに、これが一番いいと、天空国のためには俺がここにいるのが一番いいとシスルは言った。
「俺……俺があなた方といると迷惑がかかる」
「違う」
毅然としたタミルの声だった。全てを絶ち切ってしまう強さがあった。
「違う。そんなのは詭弁だ。キリスエール。誰が何を言ったか知らないが、お前の存在が俺たちの迷惑になることなんてない」
きっぱりと告げられた言葉にキリスエールは渦を見上げて何度か瞬いた。
「だから、いいな、俺の手を取れ。ここから出よう。俺たちと行こう」
言葉と共に渦から手が出てきた。褐色の肌、いつも剣を握っているたくましい腕が黒い渦から生えている。奇妙な光景だった。罠だと思っても仕方が無いくらいの。だが、キリスエールは少しも疑わなかった。この腕がこの声が別人であるわけがない。
「はやく。国主が戻ってきたら……」
タミルの声が焦りの色を帯びる。レイラースが「時間がない」とタミルに叫ぶのも聞こえた。
選べ!
自分の中から発せられた強い声にキリスエールは、はっとする。
いまが選択の時だ。ということをはっきりと理解した。
ずっと逃げてきた。誰も選べず、何も決められずに。流されるままここまで来た。何をどうしてもどうにもならなかったから。
タミルたちと行くか、シスルと共にあるか。
「キリスエール」
タミルが自分を呼ぶ声が遠くに聞こえる。この手を取ったら、シスルは自分を許さないだろう。彼にはもはや二度と会えない。
キリスエールはシスルの微笑んだ顔を思い出す。優しくて、甘えん坊で、公務のない時には常に側にいてくれた。何度もキリスエールに好きだとくり返した。
だけど、シスルの好きを聞くたびに、キリスエールはその言葉が寂しいと訴えているように思えた。微笑みながら寂しい。この手を離さないでくれと縋りついているように思っていた。
孤独なシスル。彼も何かに囚われている。俺でいいなら。このまま彼の側にいればその孤独を俺が癒せるならと思った。
だが、いま、タミルの手を取らなかったら、タミルにもレイラースにもセインにも二度とは会えない気がした。いままでもシスルは彼らの消息もキリスエールの言葉も伝えてはくれなかった。彼らが自分を怒っていて、連絡がなかったのでないなら、会わせなかったのはシスルだということだ。
それに、彼らの印を身にまとった自分が彼らを拒絶するのか。彼らと生きると一度は決めたはずなのに。自分の望みは、彼ら3人の願いを叶えることだと選んだはずなのに。
それを捨ててシスルといるか、彼らの元へと帰るか。
キリスエールは渦を見上げ、一度瞬くとぎゅっと瞳を閉じた。
どうする?どうしたい?
何度も問うた言葉を心の中でくり返す。
シスルは好きだと思う。このままここで暮らしてもいいと思ったこともある。シスルの隣でずっとだ。彼の孤独を俺が少しでもほどけるなら……。
「あっ……」
声が出た。ぽっかりと目を開ける。
わかってしまった。はっきりと。シスルに対する思いはいまだ同情のままなんだということを。
同情は愛情には変わらない。
キリスエールは強く頭を横に振った。何もかもを振り切るように。栗色の髪が顔の脇で揺れる。
「キリスエール」
「少し待ってください」
叫んで、キリスエールは混乱する頭を鎮めようと努める。
選べ。
自分の声が身の内から再度、聞こえた。大きな声だった。その声に背を押されるかのように、テーブルの向こうの文机にキリスエールは走った。筆とメモ代わりに使っている木の皮を取りだす。
「早く」
切羽詰まった声が頭上から降る。
テーブルに木の皮を拡げ、筆を走らせる。書き終わった木の皮をポットで飛ばないように重石をしてから、キリスエールは机を離れ、渦の下へ戻る。そこで足を止めてぐるりと部屋を見渡した。
1つの季節を暮らした部屋だった。シスルと共に過ごした空間。キリスエールは誰もいない部屋に向かって深々と頭を下げた。
ごめんなさい。俺、行きます。
心で呟くと
「キリスエール!」
タミルの切羽詰まった叫び声が聞こえ、キリスエールははっと顔を上げた。天井に渦巻く黒い領域がさっき見た時より小さく感じた。
「時間がない」
タミルの叫び声に、キリスエールは黒い渦の範囲が狭まり始めているのに気づいた。
渦から伸びているタミルの腕には何かに抗うように筋が浮き上がり震えている。
「タミル様」
名を呼んで、キリスエールは天井までの距離を測ると身を翻す。テーブルに並んだ椅子に駆け寄り、その一つをとると渦の下に運ぶ。
椅子に乗って、キリスエールは手を伸ばし、その腕に向かってうんと手を伸ばす。
「届かない」
つま先だって腕をいっぱいに伸ばしても指先がかするだけで届かない。指先でキリスエールを捉えようとするタミルの手も宙をかくばかりだ。
「キリスエール」
力が入っているだろうタミルの腕が微かに震えて更に伸ばされる。肩までが渦から見えるが範囲を狭める渦がそれをぎりぎりと締めあげた。くぐもったタミルの呻き声がした。
「タミル様。跳びます。俺をつかまえて」
キリスエールは膝を曲げ、ぎりぎりまで身を低くしてから椅子を思い切り蹴った。身体が宙を舞う。キリスエールの手がタミルの腕を掴むのとタミルがキリスエールの手首を捉えるのが同時だった。ぐっと身体が持ち上がる感覚がし、渦に頭から突っ込んでいく。ぶつかるととっさに目を瞑り、くらりと身体が揺らぎ、そして、足の裏がしっかりとした地面を捉えた。
「キリスエール」
声が頭上から聞こえて、ぐっと抱き締められた。
「よかった」
頬にあたる温もりにキリスエールは目を開いた。懐かしいタミルの香りがする。顔をあげようとすると
「タミル」
怒ったような声が脇から聞こえて、キリスエールを抱き締めていたタミルの腕はぱっと離された。
かわりに横から伸びてきたで腕に肩を抱きよせられて、キリスエールは金色の巻き毛が目の前をふわりと舞うのを見た。
「お帰り。キリスエール」
腕にギュッと抱きこまれて、泣きそうな声が頭上から聞こえた。身じろいで上を見上げると赤と緑の色違いの瞳がじっとのぞきこんでくる。
「キリスエール」
「レイラース様」
キリスエールはレイラースに抱きついた。レイラースもキリスエールを抱き締める。キリスエールの首筋に顔をうずめて、レイラースは何も言わずにキリスエールを腕にすっぽりと包んだ。腕に込められた力にキリスエールはレイラースの心配を知った。
「ごめんなさい。レイラース様。俺……」
「いい。お前が無事なら、それで。それにまた逢えた」
そう言ってレイラースは自分の印をつけた耳の後ろに口づける。安堵のため息をレイラースが落すのをキリスエールは聞いた。
「レイラース」
キリスエールの背後で促すようなタミルの声がした。レイラースの抱擁の腕が緩んで、レイラースが身体を起こしてタミルを見る。
「ああ」
目を合わせただけでわかったのだろう。レイラースがキリスエールを見下ろした。
「ここから離れないといけないんだ、キリスエール」
硬い声に、レイラースの言う『ここ』が単なる場所ではないことにキリスエールは気づいた。
「どこへ?」
「大丈夫。どこへ行っても僕たちがお前を護るよ。アルタイルも連れて行こう」
その声の硬さと緊迫した空気に、キリスエールは彼らの決意と、その理由に、思い至った。身体が震えた。
シスルは国主だ。そして、彼らはキリスエールを保護していた国主の意向に逆らった。
「お……俺……」
目を見開いて声を出すが、舌がもつれて言葉にならない。
「キリスエール。何も気にしなくていい。自分のためにやったんだ。お前がいなければそんな世界は無意味だから。ただ、それだけ」
言いながら屈んだレイラースに膝裏に腕をあてられ、軽々とキリスエールは抱きあげられた。そのままレイラースにアルタイルの背上に押し上げられる。
「レイラース様……」
「とりあえずはパラドースへ。それからは、また考えるさ」
馬上の自分を見上げて、レイラースは艶やかに微笑んだ。その脇にタミルが並び、眩しそうにキリスエールを見上げる。
「行こう。キリスエール」
レイラースの合図に彼の身体が金色に光り出す。そしてタミルも。
キリスエールは二人を交互に見て、それから、両手を差し出した。二人がそれを一つずつ握りしめる。キリスエールの身体にも金の光が纏わり始め、キリスエールは二人を見つめた瞳に力をこめた。
光は輝きを増し、白く光るとふっとかき消える。そして後には、穏やかな春の陽光だけが残った。
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